太陽と月

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朔也の葛藤

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麻生により開けられたリアシートへのドアの向こうには既に吾妻がタブレット端末と何やら書類とを交互に眺めている。
2人揃っての入店だったのだ。朔也ですら1時間程で店を出てきているのに、吾妻はそれよりも早くに出たことになる。

まさか、早漏か、それとも俺と同じで…

『随分と早いな』

吾妻も同じようなことを考えていたのだろう。朔也が今考えていたような言葉をかけられた。
フロントシートとリアシートが完全に隔絶されているのをいいことに、吾妻の言葉には容赦がない。

『で、どうだった?』

書類をしまいタブレット端末のディスプレイを暗くした吾妻が右側の口端だけをあげて朔也を見遣る。付き合いの長い吾妻には朧気ながら結末が見えていたのだろう。

『勃たなかった』

短く答える朔也に、吾妻も短く答える。

『だろうな』

そう言われてしまうと己が性的に不能みたいではないかと若干苛立ちの色を見せた朔也だが事実なのだから仕方ない。

陽が相手ならいつでも痛いぐらいに勃ち上がるそれが豊満で艶やかで性的な対象として100点満点の女相手に全く反応しないのは朔也にとっては想定外のことだったのだ。

『最近の朔也を見てれば、その程度のことは予想がつく』

言い切る吾妻に返す言葉が見つからない。

『なんか色々諦めついたわ』

覚悟もできた、と言う朔也は少し疲れたような安心したような顔を吾妻にだけ見せた。

話はこれまで、と言うように吾妻が黒と焦げ茶の小さなペーパーバックを掲げ見せた。

『今、相手してくれた嬢が土産でくれた』

と言うペーパーバックの中には黒く小さな缶が入っている。
今日は吾妻の発情期ではなかったらしく、予約の際にその旨を話しておいたのだと言う。そう言ったサービスを受けない代わりにと用意されたのが紅茶マイスターなる資格を持つ嬢だったのだ。
本部の離れで桐島により点てられるお茶にも、嬢が淹れる紅茶にも然して興味はなかったのだが

『騙されたと思って召し上がってみてください』

妹の菜々子と同じような年格好の娘から言われれば、無下にすることなどできず、ソープランドの個室でガラス張りの浴室を見ながらスコーンと紅茶を楽しんだと言うのだ。

それが思いの外美味であり、それを嬢に伝えたところ淹れ方のコツを長々と、いや、丁寧に語り土産に同じ茶葉を持たせてくれたらしい。

『今から俺が淹れてやるから』

早々にインターコムで麻生に指示を出している。行き先は組事務から朔也の自宅へと変更された。

普段はバーボンを好む吾妻が紅茶を嗜むなど少々滑稽な気もするが、飲んでみるのも悪くない。

それに何だかんだと言い訳をつけて吾妻も陽の顔を見たいのだろう。
今朝も午後のスケジュールの話を向けた朔也が言い淀むのを見て真っ先に陽の心配をしたぐらいなのだ。

今夜は吾妻も食卓を共にすればいい。その旨、早速楠瀬へメッセージを送る朔也だった。
鹿島は更に腕によりをかけることだろう。
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