太陽と月

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煌めく太陽 満ちる月

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ルーティンとなった朝の修行を終えた朔也が、いつもと同じ時間に組事務所に顔を出すと、既に吾妻が仕事を始めている。朔也の執務室でだ。

吾妻が見いっているパソコンの画面を覗けば、風俗店の売上帳簿のようだ。つまり、朔也の執務室でなければできない類いの業務ではない。

『昨日はご馳走さま』

付き合い初めのカップルのような会話だが、昨日のパーティーの事を言っているに過ぎない。

『なぁ朔也』

陽くんの印象が変わったと言う。長谷美由紀との薄倖な生活を送っていた狭いアパートから連れ出した頃からは想像もつかない程に煌めいている。そして随分と大人びてきた、と。
陽が以前よりも健康的で幸せそうに見えるのは今の環境から当然だろう。

しかし

朔也以外の人間が見ても陽の艶っぽさは増している。それを吾妻は「大人びてきた」と表現したのだろう。
無自覚な陽から漏れ出る色気は抑えようがない。
正しく、その色気にあてられて夕べは朔也の方が抑えられなくなってしまったのだから。

『で、朔也』

今朝は何故そんなに満ち足りた顔をしているのかと問われる。

吾妻に隠し事をするつもりはないし隠し通せるとも思ってはいない。
しかし、昨晩の風呂での行為のことを言ったのなら、呆れられるのか、叱責されるのか。

よくやったと誉められることは、まずない。

言い淀む朔也に顔色を変えた吾妻から、やや食い気味の詰問だ。

『お前…まさか』

堪え性のない朔也が、陽に己の欲をぶつけたのではないかと憂慮している。
恐らく吾妻が想像している程にイケナイことはしていない。

しかし、イケナイことをしていないとも言いきれない。拒否の手段を持たない陽にあのようなことをしたのだから。

『いや…』

行為が行為なのだ。いくら言葉を選んでも所謂下品なそれしか見つからない。

『陽のと俺の2本纏めて擦って出した』

言葉にしてみれば、これだけのことなのだが、16歳の少年に対する淫行だ。
吾妻の眉間の皺がマリアナ海溝ほどに深くなる。
それでも、朔也の汚れた欲望で陽の体を傷つけたわけではないと知り安堵したのだろう。
それでも朔也に対しては釘を刺す。

『今はまだ、それで我慢しろよ』

そう遠くはない未来、朔也が陽に何をするのか吾妻にも容易に想像がつく。
どちらかと言えば淡白な朔也が衝動を抑えられないほどに想いを募らせている。しかも、これまでの朔也からは考えられないほどに純粋な想いを。

夕べの行為だけが朔也に満足げな表情をさせているわけではないのだろう。陽を想うことで朔也は満たされている。一見独りよがりなそれだが、陽も朔也との生活で光を得た。

太陽が煌めいて、月も満ちる。

森羅万象の道理は、2人の関係性にも通じているようだ。
2人がこのまま穏やかに過ごせるようにと願わずにはいられない吾妻だった。
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