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第2章 完全自己中、2年D組
第6話 『2年D組』
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「...」
目を覚ますと、いつもの見慣れた天井がそこにあった。
「ぐっ...!」
少し遅れて僕の頭に鈍い痛みが走る。
「夢...じゃないよな」
先ほどまで見ていた景色は、夢にしては余りにもリアルすぎた。 目を覚ました今でも、地震によって倒壊した建物の数々を鮮明に思い出せる。
「...学校行くか」
何はともあれ、学校には行かなければならない。 怠いからサボる、という行為が平然とできるほど僕は不良ではないのだ。
一人暮らしだから、飯の準備はすべて自分でやる必要がある。 とはいえ料理が上手いのかと言われるとそうでもなく、『あっち』でも上方に手厳しいことを言われてしまった。
「行ってきます」
支度を済ませ、誰もいない部屋に向かってぽつりと呟く。 こういう時に返事がないのは一人暮らしのデメリットの一つだな。
「行ってらっしゃい」
「おう....ってちょっと待ったぁ!!!!」
「なんだよ、朝からうるさいな君は」
慌てて玄関の方を振り返ると、そこには見覚えのある美少女の姿があった。
その姿は、間違いなく上方 敷紙で。
...幻覚かな?
「幻覚じゃないよ。私は今日から君の家に住むことにしたんだ。君は一人暮らしだし問題ないだろ?」
「勝手に決めんじゃねぇ!!」
「そう怒るなよ、近所迷惑だろ?」
「ど、ど...」
興奮のあまり吃ってしまった。肝心な時にうまく言葉が出てこないのがディスコミュニケーションの辛いところだ。
「童貞?」
「どどど童貞ちゃうわ! ...ってそうじゃなくてだな、高校生の分際で同棲とかやばいだろ! 下手したら退学だっつーの!」
僕の必死の叫びを聞き、上方はやれやれ、と言わんばかりに肩をすくめる。
「大丈夫だよ、バレないって。こう見えても隠密行動が趣味なんだ私」
「隠密行動!? 忍者なのかお前は!?」
...だめだ、ツッコミ役1人ではこいつのボケは抑え込めない。
「...このままだと遅刻だ。...くっ、わぁーったよ!! いいな! 僕が帰ってくるまで大人しくしてるんだぞ!」
「何言ってるんだい? 一緒に学校行くんだろ?」
「は!?」
衝撃の発言が飛び出てきたが、よく見ると上方は僕の学校の制服を着ていた。『あっち』の世界で見た制服からいつのまに着替えたのか。
「ほら、行くよ」
「...なんかもうどうでもいいや」
人生、諦めが肝心である。僕は目の前の現実を受け入れることを諦めて、いつも通りに学校へと向かうのだった。
「着いたな、ここか」
結局、僕は上方と共に登校した。女子と登校するなんてなんとも素敵イベントな気がするが、微塵もそうは思えないのは何故だろうか。
「...あん? お前ここの生徒じゃなかったのか?」
「転校生だよ。今日からよろしくね」
「...? そりゃまた、微妙な時期の転校だな」
別に今日は始業式でも入学式でもない。転校生って、普通学期の始まりに来るもんじゃないのか...?
「じゃあ、私は職員室に行ってくるから、先に教室に入ってていいよ」
「...あぁ、わかった」
妙な言い方には引っかかったが、僕は大人しく上方を見送ってから階段を登る。
僕のクラスは2年D組だ。
...(お嬢などの癖が強い生徒が多少在籍すること以外は)別に何の変哲もない普通の学級なのだが、なぜか今日は変な胸騒ぎがする。
そして、僕の嫌な予感は結構当たるのだ。
「おはよう」
朝の挨拶と共に教室のドアを開けると、待ってましたと言わんばかりにお嬢が僕のもとにやってきた。
「不動、例のこと、覚えてるわよね?」
「...あぁ。やっぱり夢じゃなかったみたいだな」
「実は私、さっきからクラスの子たちに話を聞いてたんだけど...」
「え?」
お嬢がおかしなことを言っている。だって、あの世界を認識できるのは、確か...。
「おい、上方によるととんでもない自己中しかあっちでは意識を保てないはずだろ?」
「自分で言ってて悲しくならない?」
全くもって、遺憾である。
「いや、まだ上方の推測が間違ってる可能性だってあるだろ」
「まぁそれはこの際どうでもいいのよ。問題は、このクラスの連中が全員同じ夢を見ているということよ」
「え...?」
「同じ夢、というより同じシチュエーションの夢を見た、と言った感じかしらね。つまり、嫌に鮮明で違和感のある夢のこと」
「おい、まさか...」
「そう。このクラス、全員昨日の私たちと同じ状況に立たされていた可能性があるわ」
...頭がクラクラしてきた。
もしかして、先ほどからクラスメートたちが変にざわついているのもそのせいか。
「転校生...男子か女子どっちだと思う?」
「...決まってる、可愛い女子だ」
全然違った。むしろ夢のことなんかよりもっと不穏なことを言っていた。
「転校生...」
「あ、それも気になるのよね。個人的には、話の合う女の子が来てくれると嬉しいけど」
「悪いけどお嬢、それは無理な相談かもな」
「え?」
僕の言葉にお嬢が眉をひそめたところで、ドアが一際大きく音を立てて開いた。
「静粛に。ホームルーム始めますよ」
その声の主はもちろん、僕たちの担任の教師だ。ちなみに、彼は謎の威圧感を放っているせいで僕たち生徒はおろか、他の先生でさえも頭が上がらないらしい。
(ピシッとしたスーツに眼鏡、ワックスで固められた髪の毛。真面目というよりかはくたびれたという印象が強いな、相変わらず)
「不動君」
「!!」
「ボタン、外れてますよ」
「す、すみません!」
...このように、時折僕たちの心を見透かしたような言動をするのも、恐れられている所以か。
「皆さんもうご存知だと思いますが、今日このクラスに転校生がやってきます」
「あぁ...夢であってくれ...」
「どうしたんですか不動君。今にも死にそうな顔をしていますよ」
騒ぐクラスメート達をよそに、僕の顔は青ざめていた。やはり、僕の嫌な予感は結構当たる。
そんな僕の心情と裏腹に、先生は淡々と話を進めていく。
「それでは入って来てください」
その声と、ほぼ同時に教室のドアが開いた。転校生は、軽々とした足取りで教卓の前に立ち_______。
「やぁやぁ諸君。私の名前は上方敷紙だ、今日からよろしくね」
「ちくしょう、わかってたよ!!」
悪い予感は思い切り当たっていた。素早く教室のドアを開け、白い髪を靡かせて颯爽と登場したのは件の上方敷紙だ。
僕の心中とは裏腹に、彼女はひらひらと手を振っている。
色めき立つ男子連中、ざわざわし出す女子連中、あんぐりと口を開けて固まるお嬢と、一気に現場は混沌と化した。
(ちょっと!どういうことなのよ!)
(どうもこうも、このざまだよ)
(自分だけ逃げようとするんじゃないわよ!)
先生に悟られないように、声をひそめて会話をする僕とお嬢。ちなみに、僕の席とお嬢の席は隣である。
「...では上方さん。あちらの空いてる席に...」
「おっと先生、ちょっと待ってほしい」
先生の言葉が上方に遮られる。
「私は、不動君の隣が」
「ちょっと待ったぁ!!!!!!」
次に上方の言葉を遮ったのは言うまでもなく僕である。こいつ、一体今何を言おうとしていやがった!
(不動の隣...。やっぱり2人はそういう仲だったの...?)
(最悪の事態だ!!!)
「何でもいいですが、早くするように」
...くっ、クラス中の視線が僕に集まっている。これは早く何とかしないと命に関わるぞ...。
「...か、カミガタさん?お願いですから、先生の言う通りにしてくれません?」
「...」
クラスメイトの懐疑の視線が痛い。当然だ。客観的に見れば、この美少女転校生と僕の間に接点があるとは誰も思わないだろう。
僕の言葉を受け、上方は少し黙った後、静かに口を開いた。
「ま、不動君がそこまで言うなら仕方ないか。わかったよ、言う通りにしよう」
よかった、思ったより素直だ。
すたすたと歩いて席に座る上方を見て、僕は安心して息を吐く。これでひとまずは解決だろう。
「......」
しかしながら、この時の僕は全く気がついていなかった。クラスメイトに僕と上方の関係を上手く説明するまで、事態が解決することはないということに。
目を覚ますと、いつもの見慣れた天井がそこにあった。
「ぐっ...!」
少し遅れて僕の頭に鈍い痛みが走る。
「夢...じゃないよな」
先ほどまで見ていた景色は、夢にしては余りにもリアルすぎた。 目を覚ました今でも、地震によって倒壊した建物の数々を鮮明に思い出せる。
「...学校行くか」
何はともあれ、学校には行かなければならない。 怠いからサボる、という行為が平然とできるほど僕は不良ではないのだ。
一人暮らしだから、飯の準備はすべて自分でやる必要がある。 とはいえ料理が上手いのかと言われるとそうでもなく、『あっち』でも上方に手厳しいことを言われてしまった。
「行ってきます」
支度を済ませ、誰もいない部屋に向かってぽつりと呟く。 こういう時に返事がないのは一人暮らしのデメリットの一つだな。
「行ってらっしゃい」
「おう....ってちょっと待ったぁ!!!!」
「なんだよ、朝からうるさいな君は」
慌てて玄関の方を振り返ると、そこには見覚えのある美少女の姿があった。
その姿は、間違いなく上方 敷紙で。
...幻覚かな?
「幻覚じゃないよ。私は今日から君の家に住むことにしたんだ。君は一人暮らしだし問題ないだろ?」
「勝手に決めんじゃねぇ!!」
「そう怒るなよ、近所迷惑だろ?」
「ど、ど...」
興奮のあまり吃ってしまった。肝心な時にうまく言葉が出てこないのがディスコミュニケーションの辛いところだ。
「童貞?」
「どどど童貞ちゃうわ! ...ってそうじゃなくてだな、高校生の分際で同棲とかやばいだろ! 下手したら退学だっつーの!」
僕の必死の叫びを聞き、上方はやれやれ、と言わんばかりに肩をすくめる。
「大丈夫だよ、バレないって。こう見えても隠密行動が趣味なんだ私」
「隠密行動!? 忍者なのかお前は!?」
...だめだ、ツッコミ役1人ではこいつのボケは抑え込めない。
「...このままだと遅刻だ。...くっ、わぁーったよ!! いいな! 僕が帰ってくるまで大人しくしてるんだぞ!」
「何言ってるんだい? 一緒に学校行くんだろ?」
「は!?」
衝撃の発言が飛び出てきたが、よく見ると上方は僕の学校の制服を着ていた。『あっち』の世界で見た制服からいつのまに着替えたのか。
「ほら、行くよ」
「...なんかもうどうでもいいや」
人生、諦めが肝心である。僕は目の前の現実を受け入れることを諦めて、いつも通りに学校へと向かうのだった。
「着いたな、ここか」
結局、僕は上方と共に登校した。女子と登校するなんてなんとも素敵イベントな気がするが、微塵もそうは思えないのは何故だろうか。
「...あん? お前ここの生徒じゃなかったのか?」
「転校生だよ。今日からよろしくね」
「...? そりゃまた、微妙な時期の転校だな」
別に今日は始業式でも入学式でもない。転校生って、普通学期の始まりに来るもんじゃないのか...?
「じゃあ、私は職員室に行ってくるから、先に教室に入ってていいよ」
「...あぁ、わかった」
妙な言い方には引っかかったが、僕は大人しく上方を見送ってから階段を登る。
僕のクラスは2年D組だ。
...(お嬢などの癖が強い生徒が多少在籍すること以外は)別に何の変哲もない普通の学級なのだが、なぜか今日は変な胸騒ぎがする。
そして、僕の嫌な予感は結構当たるのだ。
「おはよう」
朝の挨拶と共に教室のドアを開けると、待ってましたと言わんばかりにお嬢が僕のもとにやってきた。
「不動、例のこと、覚えてるわよね?」
「...あぁ。やっぱり夢じゃなかったみたいだな」
「実は私、さっきからクラスの子たちに話を聞いてたんだけど...」
「え?」
お嬢がおかしなことを言っている。だって、あの世界を認識できるのは、確か...。
「おい、上方によるととんでもない自己中しかあっちでは意識を保てないはずだろ?」
「自分で言ってて悲しくならない?」
全くもって、遺憾である。
「いや、まだ上方の推測が間違ってる可能性だってあるだろ」
「まぁそれはこの際どうでもいいのよ。問題は、このクラスの連中が全員同じ夢を見ているということよ」
「え...?」
「同じ夢、というより同じシチュエーションの夢を見た、と言った感じかしらね。つまり、嫌に鮮明で違和感のある夢のこと」
「おい、まさか...」
「そう。このクラス、全員昨日の私たちと同じ状況に立たされていた可能性があるわ」
...頭がクラクラしてきた。
もしかして、先ほどからクラスメートたちが変にざわついているのもそのせいか。
「転校生...男子か女子どっちだと思う?」
「...決まってる、可愛い女子だ」
全然違った。むしろ夢のことなんかよりもっと不穏なことを言っていた。
「転校生...」
「あ、それも気になるのよね。個人的には、話の合う女の子が来てくれると嬉しいけど」
「悪いけどお嬢、それは無理な相談かもな」
「え?」
僕の言葉にお嬢が眉をひそめたところで、ドアが一際大きく音を立てて開いた。
「静粛に。ホームルーム始めますよ」
その声の主はもちろん、僕たちの担任の教師だ。ちなみに、彼は謎の威圧感を放っているせいで僕たち生徒はおろか、他の先生でさえも頭が上がらないらしい。
(ピシッとしたスーツに眼鏡、ワックスで固められた髪の毛。真面目というよりかはくたびれたという印象が強いな、相変わらず)
「不動君」
「!!」
「ボタン、外れてますよ」
「す、すみません!」
...このように、時折僕たちの心を見透かしたような言動をするのも、恐れられている所以か。
「皆さんもうご存知だと思いますが、今日このクラスに転校生がやってきます」
「あぁ...夢であってくれ...」
「どうしたんですか不動君。今にも死にそうな顔をしていますよ」
騒ぐクラスメート達をよそに、僕の顔は青ざめていた。やはり、僕の嫌な予感は結構当たる。
そんな僕の心情と裏腹に、先生は淡々と話を進めていく。
「それでは入って来てください」
その声と、ほぼ同時に教室のドアが開いた。転校生は、軽々とした足取りで教卓の前に立ち_______。
「やぁやぁ諸君。私の名前は上方敷紙だ、今日からよろしくね」
「ちくしょう、わかってたよ!!」
悪い予感は思い切り当たっていた。素早く教室のドアを開け、白い髪を靡かせて颯爽と登場したのは件の上方敷紙だ。
僕の心中とは裏腹に、彼女はひらひらと手を振っている。
色めき立つ男子連中、ざわざわし出す女子連中、あんぐりと口を開けて固まるお嬢と、一気に現場は混沌と化した。
(ちょっと!どういうことなのよ!)
(どうもこうも、このざまだよ)
(自分だけ逃げようとするんじゃないわよ!)
先生に悟られないように、声をひそめて会話をする僕とお嬢。ちなみに、僕の席とお嬢の席は隣である。
「...では上方さん。あちらの空いてる席に...」
「おっと先生、ちょっと待ってほしい」
先生の言葉が上方に遮られる。
「私は、不動君の隣が」
「ちょっと待ったぁ!!!!!!」
次に上方の言葉を遮ったのは言うまでもなく僕である。こいつ、一体今何を言おうとしていやがった!
(不動の隣...。やっぱり2人はそういう仲だったの...?)
(最悪の事態だ!!!)
「何でもいいですが、早くするように」
...くっ、クラス中の視線が僕に集まっている。これは早く何とかしないと命に関わるぞ...。
「...か、カミガタさん?お願いですから、先生の言う通りにしてくれません?」
「...」
クラスメイトの懐疑の視線が痛い。当然だ。客観的に見れば、この美少女転校生と僕の間に接点があるとは誰も思わないだろう。
僕の言葉を受け、上方は少し黙った後、静かに口を開いた。
「ま、不動君がそこまで言うなら仕方ないか。わかったよ、言う通りにしよう」
よかった、思ったより素直だ。
すたすたと歩いて席に座る上方を見て、僕は安心して息を吐く。これでひとまずは解決だろう。
「......」
しかしながら、この時の僕は全く気がついていなかった。クラスメイトに僕と上方の関係を上手く説明するまで、事態が解決することはないということに。
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