いつかの欠片

カザミQ

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「あ」

声が出た。
いつもの帰り道、ふと見上げると、桜の蕾が膨らんでいたのに気付いたからだ。

感慨にふけることも、愛でることもなく、じ、と見つめたまま。
ただ思う。

(そうか、また歳をとるのか)

別に悲しいわけではない。ひとつの事実として思うのだ。
この蕾が咲ききるころ、自分はまた歳を重ねる。

「・・・おっと、ご飯が冷めてしまう」

夕飯は、仕事終わりに立ち寄った、いつもの弁当屋。いつもの生姜焼き弁当ひとつ。

半透明の袋越しにある弁当を見つめると、慣れ親しんだ味を想像して、食欲がかきたてられる。

(ああ、お腹がすいた。帰ろう)

そうして、止めていた足を帰路に向けて進める。


男ひとりと弁当ひとつ。
寂しくなんかない。
これが、自分の人生。

ずっと変わらない
敷かれた長くまっすぐなレールが目の前にあるだけ。

これから死ぬまで、その平坦な道を進み続けるのだ。












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みんなの感想(1件)

花雨
2021.08.05 花雨

何かわびしい感じでこの作品なんか好きです。続き気になったのでお気に入り登録しました。
文章もわかりやすいし、他にはない作品になる予感がします♪♪
良かった私の作品も見てくださいね(^^)/

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