魔道士(予定)と奴隷ちゃん

マサタカ

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四章

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 夕食後、すぐに俺は作業に取りかかった。難しいことじゃない。シエナから預かった証拠の調査はあっという間に終わらせるほどあっけないものだった。

「材料は火蜥蜴の肝、ウシガエルの炙られた舌、乾燥させたクスノキの木。それからいくつかの薬草で作られている。やろうとおもえばどこででもそろえられる。けど、どこもあるのがバラバラだから短期間でそろえるには専門店で買いに行ったほうが早い。残りのやつには生き物幻覚系の植物が使われている。理性を失わせて暴走させる薬だ。材料のアレンジが加えられていて、驚いた」
「普通、そんな薬が作れるものなのかい? 植物を暴走させるなんて魔法薬、僕は聞いたことがない」
「俺も初めてだ。正直どうしてこの材料でこんな効果が出るのか不思議なくらいだよ。きっとこれを作ったやつは、すご腕だな」
「ふぅん。じゃあ相当絞り込めるな。ありがとう。参考にさせてもらうよ」

 魔法士。魔法薬に相当詳しい。自然とこの前再会したあいつ、エドガーを想像してしまう。頭を振ってイメージを打ち消していると、シエナが小瓶を持って帰ろうとしていた。とっさに肩を押してひき止めた。シエナは目をぱちくりさせている。

「どうしたんだい?」
「この証拠、もらっちゃ駄目か?」
「は?」
「全部が駄目だったら半分、いや三分の一くらいでもいい。俺の研究に使いたいんだ」

 正直、最初は面白くなかった。友達の頼みだから仕方なくと引き受けたが、調べていくうちにワクワクしてきた。どうしてこんな魔法薬を作れるのか。この材料を組み合わせたらどうしてこんな効果が出るのか。こんな気分は久しぶりだった。この証拠を調べて、徹底的に調べたい。あわよくば、自分の研究に役立てたい。

「そんな子供みたいに目をキラキラさせて鼻息荒くしているところ悪いありけど、それはできないよ。これは騎士団が預かっている証拠の一部だ。上司に許可をもらって特別に持ち出したから、僕の判断だけで君にあげられない。すまないね」
「そうか・・・・・・」
「けど、君はやっぱり魔道士気質なんだなぁ。僕は仕事で現役の魔道士に会う機会が多いけど、皆変人だ。君と似てるし共通点もある」
「なんだ?」
「欲求さ。知りたい、調べたい、作りたい。そういう欲求を魔道士は全員あるんだ。知識欲っていうのかな。さっきまでの君みたいに楽しそうに研究している。心の底から魔法の研究が好きだからなんだろうね」
「楽しそうだった? 俺がか?」
「僕からはそう見えた。それに、熱中しすぎてたからか様子を見に来たルウちゃんと、それを口説いてた僕にも気づかなかっただろう?」
「人がせっかく頼みをきいてやってたのになんてことしてやがったんだ!」
「もっといえば、僕が君のズボンを脱がせようとしたことも、ベルトを外したことも気づいていないだろう」
「本当になんてことしてやがる!」

 どうりでさっきからなんか腰周りが緩いとおもったら! 確認したら本当になくなってるし! 真剣に協力してる友達を使って遊んでんじゃねぇ!

「単純だなぁ。ところでどう? 研究のほうは」

 つま先立ちで俺の目元を覗き込んでこられて、のけぞった。シエナみたいな美少年だから流せるが、普通男友達にこんなことしない。そういうところが無邪気って言うか子供っぽいというか、変なやつ。

「なぁ、シエナ。前言ってたよな? 兵士とか軍人が戦争のせいで日常生活に支障をきたしてるって」
「うん。それがどうしたんだい?」
「どうやって改善してるんだ?」
「・・・・・・正直、全員改善の気配がないんだ。昔からあるものらしいんだけど、絶対にこれをすればよくなるっていう治療法は確立されていない。原因もさまざまだしね」

 う~ん、と腕を組みながら唸るシエナは、申し訳なさそうにそれだけ教えてくれた。

「そうかぁ」

 研究は再開しようとすればすぐにでもできる。けど、スランプが治らなければ意味がない。もしかしたら戦争のせいかもしれない。だったらシエナの話を聞けば参考にできるんじゃないかって。

「まぁそのせいで騎士団でも欠員とか休んだりする人とか多くて僕に仕事が集中してるんだけどね・・・・・・はは」

 死んだ顔のシエナが、力なく笑った。

「ただ、よくなったっていうたちに、共通のことがあったらしんだけど、それはまだ未確定のことだから」
「なんだ? それは」
「癒やされることさ」

 ・・・・・・ざっくばらんすぎて参考にできねぇ。

「誰かと一緒に過ごしたり、静かな時間を過ごしたり。あとペットと一緒に過ごすことで改善されたとか誰かと一緒に寝るとか。あとは好きな人と過ごしたり好きな人と一緒に出かけたり好きな人と一緒にお風呂に入ったり」
「まったく参考にできねぇじゃねぇか!」

 好きな子はいるけど、その子とまだそんな関係になれてないんだぞ! いつかそんな関係になりたいっておもっているけどそのせいで四苦八苦してるんだぞ!

「ねぇねぇ、ルウちゃんとどこまで進んだ? 一緒に食事をするくらいになってるんだから相当進んでいるんだろう?」
「一緒に食事をするって、普通なことじゃねぇか! 馬鹿にしてんのか!」
「・・・・・・え?」
「なんでそこで不思議な顔するんだ! というかさっさと返しやがれ!」

 ひらひらベルトを振っているシエナから乱暴に取り戻したはいいものの、やはり面白くなくて雑な言い方になる。

「そうすることにするよ。もう二時すぎだし、まだ帰ってやらなきゃいけないこともあるし」

 もうそんな時間になっていたのかと軽く驚いたが見送るつもりにはなれず、そのまま工房に残る。まだ眠気もないから、今のうちに研究再開の準備ににとりかかろう。

「あまり無理をするなよ、ユーグ。根をつめすぎると体に障る。時間をかけてちょっとずつやってもいいんだ。君なら魔道士になれるよ」
「・・・・・・そうはいかねぇよ」

 魔導書を作るのに、通常なら十年以上かかる。魔道士になれるのはほんの一握り。それなのに魔導書作りは遅々として進まない。熱意もやる気も、楽しいという熱もない。焦ってしまう。多少の無理なんてしなきゃ、大魔道士をこえるなんて夢のまた夢だ。

「さっきおおまえは、俺が魔道士気質とか魔道士になれるとか言ってくれたけど、俺は特別な才能なんてない。昔の魔道士や今の魔道士達と比べて、作れた物のレベルも低くて種類も少ない」
「過去の人や周りと比べても仕方ないだろう? 君は君だ。それに、現にその義眼の魔法だって今までにないものだし」
「失敗作だ。今の魔導書にも載せられないくらい最低な魔法なんだよ。意味のないものだ」

 それきり黙りこんでしまう。慰めようとしたシエナの優しさを無下にした。あの魔法のことだったからむきになったのはあるけど。自分の情けなさを振り払うかのように、準備に集中する。

「・・・・・・今何時かわかるかい? 君が魔法薬を調べ始めてからどれくらいの時間がたっているのか」

 ? いきなりなに意味不明ありなことを。

「才能というのはなにかを産み出し続ける力だけじゃないってことさ。それに、君のルウちゃんへの感情と順番がいろいろ歪んでしまっていることもよく考えて。じゃあおやすみ」

 なんなんだあいつ・・・・・・意味深に語って、足早に去っていきやがった。頭を捻りながら、シエナの言葉を考える。

 けど、すぐにどうでもよくなった。
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