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四章
Ⅹ
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すっきりとした目覚めだった。こんなに気持ちがいいのは何年ぶりだろう。身体を伸ばして軽くストレッチをしていると、すぐ隣にルウがいた。どうやら二人で寝てしまったらしい。寝顔のルウは超キュートで超いとおしかったが、いつものように苦しくなったりうろたえたりはしない、穏やかな気分だった。
夢を見た。ルウが奴隷じゃなくて普通の女の子で、俺は魔道士でもなんでもないただの男。仕事が終わった夜。もしくは休日の昼間。二人で待ち合わせをして、デートをする。笑いあう。ちょっとしたことでルウが不機嫌になって、それでも俺は幸せで、そんな日々を送っている。
もし魔道士の夢を諦めても、魔道士になってもこんな日々だったら。ルウがいてくれる。それだけで幸せになれる。そんな夢だった。
今思い出しても、あんな未来がもし来るなら、それはそれでいいかな。
頭をそ~っと撫でながら昨夜のことを振り返る。なんだか柄にもなく弱音を吐いてしまった。あんな本音をルウに喋るのは恥ずかしかった。ルウは呆れていないだろうか。好きな子に弱い部分を晒してしまうとは。
けど、誰にも打ち明けていられなかったからか、吐き出したあとはすっきりとしている。俺に必要なのはああやって誰かに弱さを曝け出すところだったんだろうか。今までついぞ、本音を吐き出せたことはなかった。シエナに対してもそうだった。
そういえば昨夜は工房をそのままにして寝てしまった。片付けておかないと。おもわず笑ってしまいそうになるほど雑だった。羊皮紙とか魔導書とか、机も床も乱雑なまま。
片付けながら、昔の魔法の設計図を眺める。懐かしいな。学生時代になんとなくのおもいつきで作ってみた魔法の理論、設計図がのっている。魔法で動物を創って操る。子供だからか、理論も構築方法もむちゃくちゃ。けど、楽しかったな。魔法を考えるだけで満足していた。今はどんな材料で方法ならどんな魔法を作れるかって考えが先に浮かんでしまって、こんなのびのびとした魔法おもいつけない。
・・・・・・けど、今この魔法を作ろうとしたらどうなるんだ?
そんな疑問が浮かんだ。喉元にこびりついていて、なにかすっきりせず、イメージが形となって定まらない。なんだかじれったくなって、もう一度羊皮紙を見直してみる。
この魔法の設計図なら、俺の『紫炎』を応用すればできるんじゃないか? 動物そのものでは無理でも、例えば・・・・・・作れるかどうかは問題じゃない。まずは試してみよう。昔の設計図を基にして、新たに魔法を構築してみる。不思議と、ワクワクしていた。
楽しくて羽根ペンが進みまくる。何度か失敗して羊皮紙を丸めて捨てて、新しく書き直す。いつの間にか、新しい設計図の基礎ができあがった。達成感と、実際に作りたいという欲求がムラムラと。最近は、ついぞ味わえなかったことだ。
この魔法を完成させることを今は目標にしようか。もしかしたら、うまくいくかもしれない。
・・・・・・そういえば手足を失った兵士達がたくさんいたな。彼らは今どうしているだろうか。現在義肢はあるが、粗末で精密性がない。義手は鉤爪のようなもので物を引き寄せるものが普通で義足は荒く削った木を足に嵌めて、つえのように粗末で精密性がない。それでは日常生活にも困るのではないか。
なら、失った体そのものの動きができる義肢を魔導具で創れないだろうか? 俺の右の眼孔にある義眼は、魔力と材料、なにより魔法的助効果によって、頭の中になる脳と視神経と密接につながっている。そのおかげである程度視力を補うことができていた。
だから、もし義眼を作ったレシピや技術、経験を応用できれば。本物と同様な機能を持つ義肢を作れるのではないだろうか。
羊皮紙に羽根ペンを走らせる。途中何回も丸めて書き直す。懐かしい。昔はこうだった。ずっとこうしていられた。これ以外なにもいらないという満ち足りたなににも交換できない楽しさ。久しぶりだ。
魔導具の設計図ができあがった。さっき完成させたばかりの魔法とどちらを優先するか。正直難しい。どちらもすぐにでも創りたい。同時進行で作っていけばなんとかなるんじゃないか? それだけじゃなくて、昔おもいついてそのままの魔法も、全部作り直せるんじゃないか?
「ご主人様、お食事の用意ができました」
「ん? ああ」
結局、同時進行で作成に取りかかることにした。過去の設計図を読み直している最中、でルウが入ってきた。腹が減っている。
「すごく集中されていましたね」
「ルウのおかげかな。久しぶりに面白かったよ」
「私のおかげですか?」
自覚がないのか、ルウは小首をかしげながら頭に疑問符を浮かべる。ふふ、いとおしい。
「今日の昼食はなんなんだ?」
「いえ、朝食ですが」
「え?」
結構時間経過しているはずだけど、勘違いだったんだろうか?
「ご主人様が工房に入られて一日たっております。なので、ご主人様は二十四時間工房で研究しておられたことになります」
「・・・・・・まじで?」
ルウは黙ってうなずく。うそをつく理由がないから本当なんだろう。乾いた笑いしかでない。昨日が休日で助かった。
「久しぶりだなぁ、こんなこと」
「以前に何度かこんなことがあったのですか?」
「ああ。正直食事とか風呂とか寝るのとかおざなりにしちまうくらい。ひどいときは二日くらい寝ないで研究してたときもあったっけ」
そのせいで日付とか勘違いして研究所に遅刻したりも何度かあった。いやぁ懐かしい。
ルウはあんぐりとした顔をしているけどどうしたんだろう。
「いえ、ご主人様が満足であられるのなら私はなにも。研究しているときの横顔もいきいきとしていましたし」
引っかかる言い方だけど、それより早く食事だ。ルウの手料理が楽しみだし。食べ終わったら魔法と義肢を作ってみよう。こうしている今も、早く作りたくてうずうずしている。
「ご主人様なら、絶対魔道士になれます」
いきなりルウは言ってきたけど、目の前に並んでいる朝食の香りに、どうでもよくなってしまった。ベーコンエッグと焼き色がついたソーセージ、トマトを中心とした野菜のサラダ。コーンスープとパン。正直、眺めているだけで口の中が涎まみれになりそう。
「よろしいのでしょうか」
「? なにが?」
「いえ。別に」
なにかおかしさをかんじつつも、食べ始める。味はまだ薄いし、火の通り加減も弱いが、それでも十分すぎる上達ぶりだ。
「ちょっとそこのジャムとってくれ」
ルウの手元近くにある小瓶をさした。ルウはそれに手を伸ばしかけて、はたと止めた。少し逡するように目をぎゅっと閉じた。開いて、俺をじっと見つめる。不意打ちに目が合ってどきっとした。
「それはご命令でしょうか。ご命令であればそのように命じてください。私は、ご主人様の奴隷ですから。ご命令でないことには従いかねます」
「・・・・・・なんで?」
「今日はこのスタンスでいきます」
う~ん、最近ルウの態度や言動が普通になってきたから忘れていたけど・・・・・・また『例のあれ』か。理由は判明しているからどっしりとしていられるけど突然すぎて苦笑してしまう。
そのまま食事を続けていたが、、ふと懐中時計を確認した。そして、驚愕した。眼球が飛び出したみたいだった。懐中時計の針は、とっくに出なければいけない時刻だった。
「ちょ、これぇ! まじこれえええ!」
つい机をたたいて立ち上がってしまう。慌てふためいて持っている時計とルウ、朝食。視線を右往左往させる。
「なんですか。食事中に叫ばないでください。マナーがなっていないのでは?」
「あ、ごめん。じゃねええええええ!」
つい謝ったけど、それどころじゃねぇ。え? だっておかしいだろ。
「ですから、さきほど尋ねました。よろしいのでしょうか、と。いつもなら、ご主人様はお仕事に出掛けられているお時間になっているのですが、それでも朝食を召しあがられる余裕があるのでしょうか、と」
「よろしいのですかだけじゃそこまでの意図はくめねぇよ!」
「ご命令になかったものですから」
「己の立場と身分にストイックすぎる!」
「それにご主人様は魔法士ですから、魔法で人の心も読み取れると」
「そんな魔法もあるっちゃあるけど会得してねぇし四六時中発動できる魔力ねぇよ! 会議に遅れる!」
食事の残りを、一息に口にかっ込む。最後にコーンスープで無理やり喉に流していく。詰まりかけて窒息しかけたが、胸をたたいたのとルウが背中を摩ってくれたおかげで、なんとか飲みこむことができた。着替える時間も身だしなみを整える時間もない。必要な物だけ持って簡単なあいさつのやりとりを交わして、一目散で外に出る。
まだ移動用の箒は直せていないから、全力で街を駈けていく。それでも、不思議と焦りはない。スランプを脱せられたことと、やりたいことがある。それが、俺の不安を打ち消してくれていた。走っている今だって、罰則だとかじゃなくて、家に帰ってからの研究について思考を巡らせてしまってる。
どこからやろうか。材料集めからか。それともできるところから既に創りだしてしまおうか。そうだ、箒も直さないと。
懐かしい。不思議と口元が緩んで笑っているのを自覚する。ずっとこうだった。そして、これからもずっとこうだという自信があった。
ルウのおかげだ。絶対。
夢を見た。ルウが奴隷じゃなくて普通の女の子で、俺は魔道士でもなんでもないただの男。仕事が終わった夜。もしくは休日の昼間。二人で待ち合わせをして、デートをする。笑いあう。ちょっとしたことでルウが不機嫌になって、それでも俺は幸せで、そんな日々を送っている。
もし魔道士の夢を諦めても、魔道士になってもこんな日々だったら。ルウがいてくれる。それだけで幸せになれる。そんな夢だった。
今思い出しても、あんな未来がもし来るなら、それはそれでいいかな。
頭をそ~っと撫でながら昨夜のことを振り返る。なんだか柄にもなく弱音を吐いてしまった。あんな本音をルウに喋るのは恥ずかしかった。ルウは呆れていないだろうか。好きな子に弱い部分を晒してしまうとは。
けど、誰にも打ち明けていられなかったからか、吐き出したあとはすっきりとしている。俺に必要なのはああやって誰かに弱さを曝け出すところだったんだろうか。今までついぞ、本音を吐き出せたことはなかった。シエナに対してもそうだった。
そういえば昨夜は工房をそのままにして寝てしまった。片付けておかないと。おもわず笑ってしまいそうになるほど雑だった。羊皮紙とか魔導書とか、机も床も乱雑なまま。
片付けながら、昔の魔法の設計図を眺める。懐かしいな。学生時代になんとなくのおもいつきで作ってみた魔法の理論、設計図がのっている。魔法で動物を創って操る。子供だからか、理論も構築方法もむちゃくちゃ。けど、楽しかったな。魔法を考えるだけで満足していた。今はどんな材料で方法ならどんな魔法を作れるかって考えが先に浮かんでしまって、こんなのびのびとした魔法おもいつけない。
・・・・・・けど、今この魔法を作ろうとしたらどうなるんだ?
そんな疑問が浮かんだ。喉元にこびりついていて、なにかすっきりせず、イメージが形となって定まらない。なんだかじれったくなって、もう一度羊皮紙を見直してみる。
この魔法の設計図なら、俺の『紫炎』を応用すればできるんじゃないか? 動物そのものでは無理でも、例えば・・・・・・作れるかどうかは問題じゃない。まずは試してみよう。昔の設計図を基にして、新たに魔法を構築してみる。不思議と、ワクワクしていた。
楽しくて羽根ペンが進みまくる。何度か失敗して羊皮紙を丸めて捨てて、新しく書き直す。いつの間にか、新しい設計図の基礎ができあがった。達成感と、実際に作りたいという欲求がムラムラと。最近は、ついぞ味わえなかったことだ。
この魔法を完成させることを今は目標にしようか。もしかしたら、うまくいくかもしれない。
・・・・・・そういえば手足を失った兵士達がたくさんいたな。彼らは今どうしているだろうか。現在義肢はあるが、粗末で精密性がない。義手は鉤爪のようなもので物を引き寄せるものが普通で義足は荒く削った木を足に嵌めて、つえのように粗末で精密性がない。それでは日常生活にも困るのではないか。
なら、失った体そのものの動きができる義肢を魔導具で創れないだろうか? 俺の右の眼孔にある義眼は、魔力と材料、なにより魔法的助効果によって、頭の中になる脳と視神経と密接につながっている。そのおかげである程度視力を補うことができていた。
だから、もし義眼を作ったレシピや技術、経験を応用できれば。本物と同様な機能を持つ義肢を作れるのではないだろうか。
羊皮紙に羽根ペンを走らせる。途中何回も丸めて書き直す。懐かしい。昔はこうだった。ずっとこうしていられた。これ以外なにもいらないという満ち足りたなににも交換できない楽しさ。久しぶりだ。
魔導具の設計図ができあがった。さっき完成させたばかりの魔法とどちらを優先するか。正直難しい。どちらもすぐにでも創りたい。同時進行で作っていけばなんとかなるんじゃないか? それだけじゃなくて、昔おもいついてそのままの魔法も、全部作り直せるんじゃないか?
「ご主人様、お食事の用意ができました」
「ん? ああ」
結局、同時進行で作成に取りかかることにした。過去の設計図を読み直している最中、でルウが入ってきた。腹が減っている。
「すごく集中されていましたね」
「ルウのおかげかな。久しぶりに面白かったよ」
「私のおかげですか?」
自覚がないのか、ルウは小首をかしげながら頭に疑問符を浮かべる。ふふ、いとおしい。
「今日の昼食はなんなんだ?」
「いえ、朝食ですが」
「え?」
結構時間経過しているはずだけど、勘違いだったんだろうか?
「ご主人様が工房に入られて一日たっております。なので、ご主人様は二十四時間工房で研究しておられたことになります」
「・・・・・・まじで?」
ルウは黙ってうなずく。うそをつく理由がないから本当なんだろう。乾いた笑いしかでない。昨日が休日で助かった。
「久しぶりだなぁ、こんなこと」
「以前に何度かこんなことがあったのですか?」
「ああ。正直食事とか風呂とか寝るのとかおざなりにしちまうくらい。ひどいときは二日くらい寝ないで研究してたときもあったっけ」
そのせいで日付とか勘違いして研究所に遅刻したりも何度かあった。いやぁ懐かしい。
ルウはあんぐりとした顔をしているけどどうしたんだろう。
「いえ、ご主人様が満足であられるのなら私はなにも。研究しているときの横顔もいきいきとしていましたし」
引っかかる言い方だけど、それより早く食事だ。ルウの手料理が楽しみだし。食べ終わったら魔法と義肢を作ってみよう。こうしている今も、早く作りたくてうずうずしている。
「ご主人様なら、絶対魔道士になれます」
いきなりルウは言ってきたけど、目の前に並んでいる朝食の香りに、どうでもよくなってしまった。ベーコンエッグと焼き色がついたソーセージ、トマトを中心とした野菜のサラダ。コーンスープとパン。正直、眺めているだけで口の中が涎まみれになりそう。
「よろしいのでしょうか」
「? なにが?」
「いえ。別に」
なにかおかしさをかんじつつも、食べ始める。味はまだ薄いし、火の通り加減も弱いが、それでも十分すぎる上達ぶりだ。
「ちょっとそこのジャムとってくれ」
ルウの手元近くにある小瓶をさした。ルウはそれに手を伸ばしかけて、はたと止めた。少し逡するように目をぎゅっと閉じた。開いて、俺をじっと見つめる。不意打ちに目が合ってどきっとした。
「それはご命令でしょうか。ご命令であればそのように命じてください。私は、ご主人様の奴隷ですから。ご命令でないことには従いかねます」
「・・・・・・なんで?」
「今日はこのスタンスでいきます」
う~ん、最近ルウの態度や言動が普通になってきたから忘れていたけど・・・・・・また『例のあれ』か。理由は判明しているからどっしりとしていられるけど突然すぎて苦笑してしまう。
そのまま食事を続けていたが、、ふと懐中時計を確認した。そして、驚愕した。眼球が飛び出したみたいだった。懐中時計の針は、とっくに出なければいけない時刻だった。
「ちょ、これぇ! まじこれえええ!」
つい机をたたいて立ち上がってしまう。慌てふためいて持っている時計とルウ、朝食。視線を右往左往させる。
「なんですか。食事中に叫ばないでください。マナーがなっていないのでは?」
「あ、ごめん。じゃねええええええ!」
つい謝ったけど、それどころじゃねぇ。え? だっておかしいだろ。
「ですから、さきほど尋ねました。よろしいのでしょうか、と。いつもなら、ご主人様はお仕事に出掛けられているお時間になっているのですが、それでも朝食を召しあがられる余裕があるのでしょうか、と」
「よろしいのですかだけじゃそこまでの意図はくめねぇよ!」
「ご命令になかったものですから」
「己の立場と身分にストイックすぎる!」
「それにご主人様は魔法士ですから、魔法で人の心も読み取れると」
「そんな魔法もあるっちゃあるけど会得してねぇし四六時中発動できる魔力ねぇよ! 会議に遅れる!」
食事の残りを、一息に口にかっ込む。最後にコーンスープで無理やり喉に流していく。詰まりかけて窒息しかけたが、胸をたたいたのとルウが背中を摩ってくれたおかげで、なんとか飲みこむことができた。着替える時間も身だしなみを整える時間もない。必要な物だけ持って簡単なあいさつのやりとりを交わして、一目散で外に出る。
まだ移動用の箒は直せていないから、全力で街を駈けていく。それでも、不思議と焦りはない。スランプを脱せられたことと、やりたいことがある。それが、俺の不安を打ち消してくれていた。走っている今だって、罰則だとかじゃなくて、家に帰ってからの研究について思考を巡らせてしまってる。
どこからやろうか。材料集めからか。それともできるところから既に創りだしてしまおうか。そうだ、箒も直さないと。
懐かしい。不思議と口元が緩んで笑っているのを自覚する。ずっとこうだった。そして、これからもずっとこうだという自信があった。
ルウのおかげだ。絶対。
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