魔道士(予定)と奴隷ちゃん

マサタカ

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六章

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 それから三日後の朝。一歩外に出れば雲一つない快晴で気分が朗らかになる。先に部屋を出たはずのルウがいなかったため、きょろきょろと辺りを探すことに。周辺にはいない。

 まさか、誰かに攫われたのか? あり得る。ルウはそんじょそこらにいないくらい可愛いから。だとすれば遺跡調査なんてしている暇はない。すぐに犯人を捕まえて報いを受けさせなければ。


「申し訳ありませんご主人様」
 誘拐犯をどうやって見つけるか方法を考えていた矢先、ルウが現れた。走って来たのだろうか、息が乱れていて少し疲れている。

「どこへ行っていたんだ?」
「少し所用がございまして」
「なんの用なんだ?」

 遺跡調査に出掛けるって直前なんだから、よっぽど大切なことなんじゃないだろうか。

「やめてくださいセクハラですか訴えますよ」
「なんでそうなる!?」
「女の子が消えた理由を聞くなんて、デリカシーの欠片もない無神経な人か、あえてわざと知らないフリをして羞恥に染まった私を楽しみたい変態でしかありえないではありませんか」
「いやいやいや! 普通気になるだろ! それとも朝から人に言ったら恥ずかしいことをしてたのか!?」
「・・・・・・・・・最低ですね」
「だからなんでそうなるんだああああああ! あ――わかったもういい! この話はもうおしまい! 」
「・・・・・・本当に聞かれないのと、それはそれで乙女心を踏みにじられたかんじがして不愉快です」
「どうしろってんだああ!」

 朝からツッコんで疲れたけど、魔導具に跨がって、待つ。ルウはおずおずと躊躇いがちに、ゆっくりと後ろに腰をかけた。

「・・・・・・なかなか座り心地がへんですね。違和感が・・・・・・。それに安定していません」
「慣れるさ。二人乗りだと危ないから、もっとくっついたほうがいい。なんだったらローブも掴んでくれ」
「かしこまりました」

 むにゅっ。


 ルウの柔らかい身体、主に二つの膨らみが背中に当たる。

「上昇するから、少し揺れる。しっかりとな」
「はい」

 ぎゅううううっ。更に強くしっかりと密着する。尻尾を俺の腰に巻きつけるくらいの念の入れようだ。よほど不安なんだろう。少し震えているし。潰れている感触とか匂いとか。色々ヤバいけど。

「それと、風とか衣服とかの音で、慣れるまでうるさいだろうから高度が安定するまで耳はしっっっかりと塞いでいたほうがいい。鼓膜が破れるかもしれない」
「そうなのですね、わかりました」


 ゆっくりと上昇させる。足が地面から離れた拍子に、「きゃっ」と小さい悲鳴とともに強い力で俺にしがみついてくる。ルウがしっかりと耳を折りたたんで塞いでいるのを目で見て、息を大きく吸い込む。



「うわあああああああああああああああああああああああああああ!!」


ルウが!! こんなに近くにいいいい!! 心臓がああああああああああああ!! やばい!! やっぱり好きだああああああああ!! ルウのことがやっぱり好きだああああああああああ!!


 できるだけゆっくりと上昇して、感触と幸せを味わいつつ、喉が枯れてしまうまで叫んだ。そうしないと耐えられる自信がなかった。

「ゲッホゲフォ・・・・・・・・・ルウ・・・・・・もう大丈夫だ。耳は大丈夫か?」
「しっっっっかりふさいでいたので。空を飛ぶというのはそれほど負担がかかることなのですか? 声がお辛そうですが」
「心配ない、気圧差にやられた。それよりなにか聞こえなかったか?」
「いえなにも」

 ならばよし。強く掴まれていた手が、少し緩んだのは十秒くらい経ってからだろうか。そして、「ひゃっ」「うわぁ・・・・・・」とかわいく呟いたきり、なにも発しない。目を開けて驚いて、そして感動しているんだろう。だって、俺もこの景色を初めて見たときはそうだったから。

「あれは、帝都なのですか? あんな広かったのに、あんな豆粒ほど小さくなるなんて・・・・・・」

 自分が暮らしている場所を、空から眺めたときの衝撃。周りには見渡す限りの青い空と雲、そして地面から仰いでいた太陽の果てしない大きさ。目線を下げればどこまでも続く地平線。自分が暮らしている帝都を眼下におさめられる万能間。風景が一変している。今まで見ていた物、自分ですらちっぽけな存在になってしまうほどに。

「あ、きゃ、わわ」

 強い風が吹いたことでバランスを崩したらしいルウが、わたわた慌てながらしがみついてきた。またつい叫んでしまいそうになったが、胸を叩いてなんとか和らげて防げた。

「ご主人様はいつもこのような景色を堪能できるのですね」

 いつもとは違って、興奮してるみたいで、どこなく弾んでいる声が微笑ましい。やはり少し寒いんだろう。身体が震えている。魔法で熱を操作して、上昇気流を周囲に発生させる。身体を温めるだけじゃなくて、風を避けられる。俺は慣れているが、初めてのルウには少し酷だろう。上空での風は、とてつもなく強い。それに、こうすれば魔導具の操作もしやすい。

「じゃあ、進ませるぞ」

 ずっとこうして二人で空を飛んでいたいが、そうもしていられない。一応、これから仕事に行かなければならないのだ。
「ずっと・・・・・・ずっとこうしていられればいいのに。ずっとご主人様と二人で、ここで見ていられればいいのに」

 心臓が、痛いくらい鼓動する。どっどっどっどっ、といつまで経ってもやまない。自然と熱くなる体温と顔。ルウに聞こえていないか、伝わっていないか。

それとは別に、泣きだしたくなるほどの悲しみも襲ってくる。だって、きっとルウに深い意図はないんだから。期待してはいけない。

「ちょっと予定より遅くなりそうだ。急ぐぞ。もう一回耳を塞いでくれ。気圧と風で鼓膜がやばいから」
「かしこまりました」

 よし。今度もちゃんと塞いでくれたのを目で見て確認する。宣言通り、魔導具に魔力を多めに注いで、スピードを強める。それと同時に声をさっきより大きく吸い込んで、



「勘違いしちゃうだろおおおおおおおおおおおおおおおおお!」



 喉が切れて出血するくらい激しい魂の叫びが、虚空に響いて消えていった。

 遺跡があるのは国境近く。断崖絶壁に囲まれた岩山だった。幸い、魔物の影はない。空中からも、地面に降りて探してみてもそれらしい建造物はない。古代の魔道士が研究施設に使っていた場所は、大抵洞穴もしくは岩に穴を開けて魔法で内部を拡張して作られる。だから、入り口がどこかにあるかもしれない。それを、こんなだだっ広い岩山で見つけるなんて、何日かかっても不可能なんだ。普通は。

「ご主人様、ひとまず休息なさいませんか?」

 入り口を探すための準備をしようとした矢先にルウが提案してきた。どうやらお弁当を持ってきたらしい。用意がいいのか、手軽なシートと水筒まで。もしかして、ピクニックかお出かけと勘違いされてないだろうか。

 なにはともあれ腹が減っては戦ができぬ。先人はそう言い残していることだし、一旦休憩することになった。食べやすいことに配慮したためだろうか、シンプルなサンドイッチがメインで様々な具材が挟まれている。

 天気がよく、場所がこんなでなければまさしくお出かけ日和であったであろう気候。本当に遺跡調査でなければ純粋に楽しめたかもしれない。早速ルウがすすめてきた分厚いチキンのを食べたんだが、味が苦く、お世辞にも美味しくはない。胡椒どころの味じゃない。一体なんの調味料が使われているのか不思議なほどで、自然と顔に力が入ってしまった。

「いかがされましたか?」
「いや、ちょっと味がな」
「あ、申し訳ございません。少し失敗してしまいました」
「珍しいな、ルウが失敗って」

 告白後も、ルウは家事とか味つけは失敗していなかったから珍しい。これだけじゃなく、他のサンドイッチやおかずもそうだった。生焼けだったり卵の殻入りだったり、成功しているものがない。

「その、遠くに出掛けるのが初めてだったので、少し集中していなかったのかもしれません」
「そんなもんか」

 しゅん、と落ち込んでいるが、別に食べられないというレベルではない。それに、この子の仕草から落ち込んでいるってのが伝わってきたし、責めるつもりはない。それにしても、ワクワクしていたのか? だとしたら、子供子供みたいにそわそわしながら調理しているルウを想像してつい笑ってしまった。ふふ・・・・・・いとおしい。

「けど、ルウって後ろめたいとき、そうする癖があるよな」
「・・・・・・・・・え?」
 指でさし示した。自分でもなんのことかわかっていないルウは、示された方向を目で追って、そして固まった。両手を開いて、掌をゆっくり擦り合わせている、自分の癖を初めて知って驚いているからだろう。

「私は、今までこのようなことをしていたんでしょうか?」
「たまにな」
「・・・・・・・・・そうですか」

 ルウは自分の尻尾を前に出して、ぎゅっと胸で強く抱いている。陽気なほどぽかぽか暖かいのに、震えているみたいだ。表情も強ばっている。尋常じゃない。まるで怯えている。

「どうした? 変だぞ」
「いえお気になさらず。自分でも気付かなかった癖をご主人様が知っていたという事実がおそろしく気持ち悪いだけですので」
「なんかごめんなあ!?」

 そんなに駄目だった? そんなにおかしいことだった? 俺のことやっぱり嫌い? いや受け入れるよ? 受け入れるけど・・・・・・! 

 ひとしきり食べながら落ち込んで、昼食休憩を終えた。そして本格的な調査を開始する。小指ほどの『紫炎』を百個ほど作り、眼球に形にする。左目の視覚と繋げ、そうやって擬似的に作り出した多くの視覚、『眼』で探るが、見つからない。となればなんらかの結界が張られていて、隠しているのか。

 直接魔法で結界自体を破壊しようにも、相手は大魔道士。きっと簡単にはいかない。ワクワクするぜ。
 意気込んで捜索していたら、拍子抜けするほどあっさりとルウが見つけてくれた。なんの変哲も罠もない。がっかりしながら破壊すると、近くの岩がおもむろに崩れ、わかりやすく人が通れる穴が出現した。

 入ろうとするルウを掴んで、とめる。

「待ってくれ」
 違和感がした。相手はあの大魔道士だ。こんな簡単に自分の研究施設への侵入を許すだろうか? 不審げに首を傾げるルウは一旦放置して、拾った小枝を穴のほうへ投げ入れた。見えない壁に阻まれたように穴の一歩手前で見えない壁に遮られるようにぴたっと空中でとまる。そのままゆっくりと黒焦げになって塵とも灰ともしれないほど無残に分解して、風に吹かれて消えていく。

「やっぱり囮、フェイクか」

 きっと、気が緩んだ発見者をああやって排除する罠だったんだろう。二重の罠。あれを発動している本命の魔法陣は、別にあるに違いない。

「なにゆえにわかったのですか?」

「俺だったらこんな簡単に魔法陣を発見されたりしない。もっと工夫して隠す」
 今まで調査してきた普通の古代の遺跡、もしくは魔道士だったらこれで終わりだろう。しかし、相手は伝説的な大魔道士だ。二重三重の罠があっても不思議じゃない。なら本命の魔法陣は簡単には見つけられないだろう。さてどうするか。

「おい、どうかしたのか?」 

思案していたけど、頻りに肩を摩っているルウが気になった。
「いえ、少し寒くて」

 ? 確かに場所のせいか、太陽の光は充分届いてはいない。俺が魔法を使った反動で体温が上がっているせいかもしれないが、それでもまだ気温は暖かいほうのはず。けど、現に寒そうな仕草をしているし、それに吐く息も白くなっている。

 何かが引っかかった俺は、ある閃きが走る。二人で周囲を歩き回って、ある確認をする。そして、地図に印を付けて確信した。

「ルウ、ここからここまでちょっと歩いてみてくれ」
 自分でも歩いてたしかめて、そして地図に印を加えた。ある地点から地点まで温度に大きな差がある。日の当たり具合があるにも関わらず、場所によっては鳥肌がたってしまう。これは明らかにおかしい。
 決して広くはない印を線で結んで浮び上がった箇所。そこへ赴くと真冬のような寒さ。慌てて『紫炎』で暖をとりつつ思案する。

 魔法陣らしきものはどこにもない。隠し方と気温が関係しているのかもしれない。

「だとすれば・・・・・・水と風の複合・・・・・・氷魔法を応用した隠蔽か? それとも幻覚か・・・・・・?」

 ブツブツと呟きながら羊皮紙に浮び上がった考えをメモとして記していく。仮説を組み上げて、一番可能性が高い方法を探りあてる。

 すぐに行動に移した。大きめの魔法陣を描いて、魔力を注ぎ込む。しばらく続けるとパキ、と破壊音がした。

「ご主人様、あれを」

 空中に魔法陣が出現していた。間違いない、あれが本命だ。更に魔力を注ぎ込んで別の魔法を操作する。尋常ではなく疲労していく。それに加えて体が熱くなってきてる。それだけじゃない。魔法陣を守るための防衛として働いたのか、季節外れの雪が降り出した。すぐに激しさを増して吹雪となって襲いかかってくる。

 しかし、確実に成果はでている。パキ、バキと魔法陣に破壊痕ができて、形を失っていく。比例するように吹雪が強くなる。手がかじかんで、全身が冷えていく。凍りつくほどで意識が飛びそうだ。今俺は二つの魔法を操作している。吹雪のせいで無効化された『紫炎』を新たに発動させるだけの余裕もない。

 それでも、、妙な快感があった。魔力を急速に失っていく疲労と魔法操作の集中力で体の内側は燃えるように熱い。しかし、ルウは大丈夫だろうか。保たないのではないか。

 ええい、ままよ! とどめとばかりに一気に大量の魔力を流し込んだ。


 ばきいぃぃぃぃん!!


 成功したことは、魔法陣がガラスのように弾け飛んだことでわかった。途端に吹雪は消え、辺りは元の景色と気候を取り戻した。ルウが小石を投げ入れて、安全を確認、サムズアップをして知らせてくれた。尻餅をついたまま手足を投げだすほど疲弊してしまった俺は、ぎこちない笑顔で返すしかできなかった。

汗が滴となって流れ、喉がひりひりする。目に入った汗を拭うことも水分補給もできないほどバテてしまった。なにより同時に二つの魔法を操作・維持しなきゃいけなかった。

「お疲れ様でございます」 

ルウが盛んに汗を拭いたり、手を扇いで風を送ったり水筒を持って直接飲ましてくれる。気遣いが嬉しくて、それだけで疲労が消えてしまう。

「けれど、なにがどうなったのでしょうか?」
「ルウのおかげで、気温が関係しているんじゃないかって推測をたてたんだ。それが当たった。きっと風と水魔法を組み合わせた氷系統の二重属性魔法の結界だ」
「はぁ・・・・・・?」
「氷の系統結界魔法だったから、周囲が影響を受けて冷気を帯びていた。だから炎魔法の魔法陣で地面と周囲に影響を与えて結界と魔法陣を炙りだした。利用してそれから別の魔法で結界に侵入して――」
「なるほどつまり魔法の専門分野的なお話ですねありがとうございます」

 できるだけ噛み砕いて説明するが、途中で早口で即座にお礼を述べて終わらせられた。ここからが本題なのに。

「まぁとにかくルウがいてくれたおかげで、助かった」
「専門用語が多すぎて意味不明ですけど、これで遺跡に入れますね」
「これからが本番だからな」

 こんなことは序の口。きっと内部に入ればこんなことが笑えるほどの罠や仕掛けがある。それこそなにかの判断ミスがそのまま死に直結するレベルの。

「いいか、ルウ。内部に入ったら俺の指示に絶対従ってくれ。なにがあっても、疑問を抱くようなことでもだ」

 重々しく、肯定してくれた。それから少し経って侵入していく。まだ充分休んだとはいえない。魔力を大きく消耗していることもあって正直疲れている。けど、時間はない。

 内部は暗く、一寸先すら闇に包まれている。『炎獣』を先に進ませる。おかげで今進んでいる場所が巨大な螺旋階段になっているのも判明、それも周囲の岩壁に沿うようになっているから、階段の中心部から底が見えないほどの暗闇がどこまでも続いている。

 ごくり。自然と喉を鳴らしていた。ここから先、どんなものがあるのか。

「ご主人様、お顔が笑っていますけど?」
 しょうがないじゃないか。だってあの大魔道士だぞ? これから遭遇する罠だって、きっと常人じゃ計り知れないもの。それだけできっと研究対象にできる。

 例え自分の命の危機に直面することだとしても、ワクワクはおさえられないだろう。
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