魔道士(予定)と奴隷ちゃん

マサタカ

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過去編

シエナの友情

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 ユーグの住んでいるところは、普通の場所だった。あの騒動のあと、ユーグの安全を確認した。けど、魔法のせいで黒焦げになっていたし、足下をふらついていた。そのまま一人で放置するのが憚られ、仕方なく送った。肩を担いで運んでいる最中、ユーグは落ち着きを取り戻していた。雷魔法に興奮しきっていた彼は微塵もない。

 この人はいったいどんな人なんだろう。今はこのユーグという変人に興味がある。研究者としての性分なのか。それともただ単に頭がおかしいのか。凄く楽しそうだった。雷魔法に質問しているとき、分析しているとき。子供の瞳そのものの輝きと純粋さがあった。どうしてそこまで楽しめるのか。

 魔法が好きで研究者になったのなら、僕と一緒だ。僕は楽しさよりも辛さのほうが大きい。ユーグだってそうじゃないのか? 研究所での仕事ぶりは、楽しそうじゃなかった。ただ黙々とこなしていただけ。あの輝きはどこから来るのか。別の理由があるのか。

「うわぁ・・・・・・・・・」

 室内は、どうしてここまでできるんだってくらい放置されている。食器は机の上にそのまま放置されているし暖炉は使っていない季節なのに灰が溜まりきっている。あちこちに脱ぎ散らかした衣服。だらしないことこのうえない。

「こんなんじゃあ好きな女の子できても連れてこれないよ?」
「どうでもいい。好きな子なんていないし見つけるつもりもない」
「好きな女の子はいなくても、女友達くらいは?」
「いない。つくるつもりもない」

 僕以上にストイックな生活じゃないか。仕事と家の往復。日々の癒やしもなく、誰と一緒に過ごすこともなく、家事すらする余裕がない。一生そうやって生きるのか、と同情を禁じ得ない。

 けど、だからこそ興味が強くなった。こんな風にいろいろなことを犠牲にするののは、やはりなにか理由があると。知りたい。知れば、僕の今の状況を変えられるかもしれない。

「さっき発動した魔法って普通のじゃないよね? もしかして君のオリジナル魔法?」
「・・・・・・・・・」
 
 ぴくり、と小さく反応を示すけど、それ以上答える気はないらしい。

「世話になった。もう一人でなんとかなる」
「ああ、うん」

 まだ核心に迫れていないけど、今日は帰ったほうがいいだろう。僕も明日に備えて寝ておかないと。
 
「それじゃあえ~っと? し、し、?」
「シエナだ。ユーグ」

 とりあえず、こいつが僕のことをとことん覚えるつもりがないっていうのがむかついた。覚えさせてやるって気持ちと、それから絶対正体を掴んでやるって意志が固まった。

「それじゃあまたね、ユーグ」
「ああ、また?」

 それから、僕はユーグに会うようになった。まずは名前を覚えてもらおうってことで。人当たりのいい少年、騎士として接して。仕事のお礼と、それから騎士団からの依頼を僕が引き受けてユーグの元へ。

「なんで毎回俺のところに来るんだ」
「だって研究所なんて君しか知り合いしかいないし」

 その後、お礼と称して食事に。時々お酒も誘うように。

「なぁ、お前の使い魔いつ一緒に来るんだ?」
「はははは・・・・・・・・・まぁそのうちね」

 そして、いつしかユーグとそうやって会うのが当たり前になって。普通に楽しくって。別の仕事をしている人だからっていうのもあるんだろうけど、騎士団の人や女の子と一緒に過ごすのとはまた違う。騎士団の人たちは同僚。女の子たちはエスコートする人たち。そして、ネフェシュとも違う。ときめいたりしない。

「シエナって俺以外に友達いないの?」
「君ほどじゃない」

 仲間はいる。仲のいい子たちもいる。好きな人がいる。けど、僕には友達がいない。だからユーグと一緒にいると友達ってこういうかんじなのかなって嬉しくなる。

「俺な、魔道士になりたいんだ」

 ある日、酔った勢いでユーグが神妙な顔で告白してきた。そのときにはもう当初の目的を忘れていた僕はあれ? って。なんか忘れてるような? って。

「へぇ。初めて知ったよ」
「そうだろうな。誰にも言ったことなかった」

 ぽつりぽつりと過去を語ってくれる。かつての友とのこと。復讐。こいつは、そんな過去があったのかって軽く驚いた。そして、話を聞いているうちに身震いが。

「じゃああの紫のやつも?」
「ああ。俺のオリジナルだ」
「へぇ。すごいじゃない」

 仕事とは別にある夢。それを糧にユーグは生きている。叶えてしまった僕にはない熱意、情熱。そして楽しいって言う心底明るい感情。今の僕にはもう手に入れられないものだらけ。それを、ユーグは持っている。

 ずるい。

「けど、もし魔道士になったら?」
「それで終わりじゃない。そこから始まるんだ。いろんな魔法の研究をしたり、あとは旅にでてみたいし、やりたいことはまだ山のようにある」

 先を見ている。終わりを定めていない。きっと彼は本当に死ぬまで魔法の研究を続けるんだろう。

 くやしい。

「そうか。応援させてくれよ友達として」
「友達か。照れるな。けどありがとうよ」

 ねたましい。

 僕にこんな汚い感情があったのかってくらいユーグが許せなくなってくる。いけないってわかってるのに。ユーグが悪いわけじゃないのに。けど、僕にはない。

 和やかなかんじで別れて、営舎に戻る。留守番していたネフェシュと放す間もなく、ベッドにダイブする。ネフェシュを抱きしめたままベッドを転がり回る。悲鳴なんてどうでもいいくらい、強く強く抱きしめる。

「どうしたんだよ」

 少しマシになってから、優しい声音のネフェシュに事情を説明する。

「そいつは・・・・・・・・・・」
 
 なんて言ったらいいか迷っているのがひしひしと伝わってくる。自分が情けなくって申し訳なくなって。

「ユーグってやつとお前は、違う」
「わかってる・・・・・・・・・・・・」

 なにがあっても、僕は彼にはなれない。夢を叶えた身が、夢を叶えようとしている立場に戻れるわけがない。別の夢があるわけじゃない。ただ、自分とユーグを比べてしまう。勝手だけど、みじめにすらある。

「君が言っていたのって、こういうことだったんだね」

 昔の僕と似ている。夢をみて、毎日楽しく生きていた過去の僕。今のユーグに、ネフェシュは過去の僕を見たんだろう。

「あいつと会うのやめたらどうだ?」
「それは――――」

 きっと僕がユーグと仲良くしていたら。今以上に辛い気持ちになる。心配してのことだろう。縁をきるのは簡単だ。けど、絶対忘れられない。それに、ユーグは言っていた。魔道士になりたいと夢を話したのは僕が初めて。そんな相手と会えなくなったら。きっと孤独になる。僕はネフェシュがいる。けど、ユーグは僕以外にいるのだろうか。

「いやだ」

 もうユーグは他人じゃない。友達だ。それに――――。

「負けたくない」
「ん?」

 あれ。今僕なんて? 自然と出た言葉が不思議で、ネフェシュと見つめ合ってしまう。負けたくない。ユーグに? 勝ち負けの問題じゃないはずなのに。対抗できるような夢なんてないのに。第一、友達に負けたくないなんて。

「もう寝ちまえ。明日も早いんだろ」
「うん、おやすみ」

 答えがはっきりしないまま、その日は眠りに落ちる。もやもやとしたままだったから、寝入るのに時間がかかった。もやもやが解消されたのに時間はかからなかった。

  何度か任務があった。いつもみたいに、心が削られて、部屋から出て行きたくないって毎日がある。ネフェシュに八つ当たりをして、癒やしてもらって。

 そんなとき必ずユーグがおもいうかぶ。夢。顔。楽しそうな瞳。そのたびに、やる気に漲る。負けてたまるかって。ユーグみたいになりたい。ユーグだって耐えている。ユーグ以上になりたい。ユーグに僕と同じような気持ちになりたい。憧れとも違う。夢でもなくて。ただ、意地を張っているのに似ている。それだけで、耐えられた。毎日が楽しく嬉しくなった。騎士を目指していたときとも、騎士団に入ったばかりのきらきらした情熱じゃない、別の火が燃え始めている。

「ずいぶんと変わったな主様」
「そう?」
「あのユーグってやつのおかげなのか」
「そうなのかな」
「いいなぁ、友達ってやつは」

 友達。これが友達なのか? おもえばこんな関係の相手がいなかった。これが、友達なのか。ただ仲がいいだけじゃない。負けたくないって意地を張って、それを秘密にして憧れて。ユーグを励みにして、彼の目標を一番側で見て。嫉妬して悔しがって。相手も同じ気持ちにさせてやろうって。

 なんか違う気がする。

「ん~。生ぬるいなぁ。それじゃあその他大勢の友達と一緒のくくりに入るでしょ?」
「どうでもいいことにこだわりやがって」
「あ、じゃあ親友ってどうかな」
「好きにしろ」

 親友。ただの友達より上。一番近く、そして自然。僕がユーグに対して抱いているすべてが、その親友に凝縮されているようでしっくりくる。うん、いいな。嬉しくもあり、照れくさい。

「お前のそんな楽しそうな顔がまた拝めるとはな」
「嫉妬かい? ん~? 嫉妬なのかい?」

 つんつんと指でのいたずらが不快だったのか、ネフェシュは尻尾で拒絶して、そのまま背をむける。

「触るな。誰が嫉妬なんかするか。ただ俺をこんな姿にしておきながら、呑気なものだなって言いたいんだよ」
「・・・・・・・・・・・・お前は僕のものだからな。そして、僕はお前のものじゃない」
「・・・・・・・・・いつか殺してやる」

 僕とユーグの関係は、これで解決した。けど、こいつとの関係は、今後一生解決しないだろう。解決させてはいけない問題なんだ。親友であるユーグに、ネフェシュの正体を教えたら。関係を教えたら。どんな顔をするかな。僕の秘密、夢、実家の問題。けど、話せる日が来るのだろうか。
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