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十一章
Ⅰ
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どうも、ルウです。今私はシエナ様と二人で行動しています。ある目的を持って二手に別れて外にいるのです。私たちは全員指名手配されているので、あちこちに手配書が出回っています。皆で話し合った結果、こうするしか打開できない結論に至りました。
全員別々に行動すればそれだけ捕まる可能性が高くなる、いざというとき他の人たちへの連絡係になれるとシエナ様が主張され、二人組になることが決定しました。ユーグ様はネフェシュ様と二人組に決まったとき、血の涙を流していたのでドン引きしました。まぁ今の状況なら仕方ないことなのかなぁ、と今ではおもっていますが。
私とシエナ様はそれぞれ男性、女性と性別を変えた服装をしています。シエナ様は本当の性別の格好に戻っただけなのですが、本当に似合っています。キロ氏はなぜか女性用の服をたくさん所持していたので、選ぶのに困りましたがどれを選んでいても似合っていたでしょう。
普段と違ってお化粧と付け睫毛、口紅も薄くしているのでどこからどう見ても女の子です。騎士であったシエナ様の面影がありません。歩き方と振る舞いはややぎこちないものの、誰も疑わないでしょう。そんなシエナ様を見て、ユーグ様と一緒にしないでよかったと改めて安堵します。
女の子であると知ってから、ユーグ様と距離が近いのを見るともやもやします。二人が仲良くしているとイライラします。もしユーグ様がシエナ様の性別を知ったときどうなるのか。ユーグ様は私にぞっこんラブすぎるのですが、不安になってしまいます。なので、ユーグ様とシエナ様を一緒にさせてはいけない、危険であるとウェアウルフの第六感が囁いたのです。
いえ、私はユーグ様のこと好きというわけではないのですが。その一点についてははっきりと強調させてもらいます。二人組になったのも、厳正なる話し合いの結果です。なので一緒に行動しているわけです。はい。
ですが、シエナ様と私の間に会話はありません。私に性別を知られてからよそよそしいです。今も気まずげにチラチラ私を窺っています。私としては、まぁ行動に支障がないのでかまいませんが。
目的地に到着するまで、道すがら情報収集をしていますが私たちの所在は敵にバレていないようです。スパイ容疑も加わっているので早々に帝国を脱出したと考えられているようです。とはいえ帝都は封鎖されたままなのですが。
シエナ様の悪口も、聞こえてきます。本当のことかどうかわかりませんが、そのたびにシエナ様の顔が曇ります。女好きのスケコマシ、節操なし、騎士道に背く最低なやつ。ちび、ガキ、前々から気に入らなかった、調子にのっていた等々。最後のほうは涙目になっていました。
「ちょっと・・・・・・・・・休んでもいいかな」
青ざめたシエナ様に、私はノーと言えずに頷きました。
「はああああああ・・・・・・・・・」
噴水の縁に腰をかけて、肩をがっくりと落としている姿は他人からどのように映っているのでしょう。女性らしからぬ哀愁と疲れ切った雰囲気は、ともすれば怪しまれないかと不安になるほど深刻です。ユーグ様のおかげで立ち直ったとはいえ、まだ万全ではなかったのかもしれません。私は喉が渇いたので飲み物を買いに離れました。
戻ってきたとき、シエナ様は男の人たちに囲まれていました。
「やぁお嬢ちゃん。そんなに落ち込んでどうしたの~?」「僕たちと遊ばない?」「奢るよ?」どうやらナンパのようです。シエナ様なら上手くあしらってくれるでしょう。
「ごめんなさ~い、私ぃ、今恋人と一緒にいるんですぅ~。だからあなたたちのお誘いは受けられません♪ だからとっとと諦めてドブ底に帰ってください、キャハ♫」
・・・・・・・・・・・・なんでしょう。同性の私でもおもわずイッラアァッときました。シエナ様のところに行くのをやめようかとおもうくらい。
「あ、ルウ男さぁ~ん♪ どこに行ってたのぉ~??? 私を一人にしちゃダメなんだぞ~??? 一人になっちゃうと寂しくてえ~んえ~んって泣き死んじゃう兎人なんだって覚えてぇ~」
き、気持ち悪い。え、この人本当にシエナ様ですか? 私の腕に抱きついてきて、甘えてくる女の子は普段と違いすぎて、普段を知っているからこその違和感と恐怖でゾワゾワしちゃいます。男たちから離れてもシエナ様は放してくれません。おかげで靴を履いているのと相まって非常に歩きづらいです。
「恋人のほうが自然で怪しまれないだろ?」
そう言われると返す術がありません。しかし、私は男性ではありませんしどのように扱っていいか困ってしまいます。頻りにシエナ様がぶりっ子もといどこにでもいる女の子として接してきますが、私はいつもどおりに振る舞うことしかできません。
「シエナ様は、そのような話し方や振る舞いを覚えたのですか?」
「・・・・・・・・・知り合いの女の子とか街にいる子たちを参考にして」
「そうですか」
「笑いたければ笑っていいよ」
フッ、と自嘲げに笑うとなんともいえない表情に。
「僕も自覚しているさ。僕みたいなやつは、こんなこと似合っていないってね」
「いえ、そんなことは」
「お世辞はいらないよ」
「本音です。たしかにいつものシエナ様を知っているとキモいですし鳥肌たちまくっていますし元に戻ったとき接し方と見方が変わってしまいますが」
「容赦ないね君は。ユーグはもっと自然だったけど」
・・・・・・・・・・・・それはあのときのことをおっしゃっているのですか?
「彼は変装だってわかっていたから接し方も変わらなかったけど。でもそうか。親友以外の人からはそうとしかおもえないよね、うん」
無自覚なんでしょう。自慢しているつもりもないのでしょう。私より先に出会っていて、そして私より付き合いの長いがゆえの理解ある二人の関係性を示されてるにすぎません。男性同士だったらよろしいでしょう。男性同士だったら。ですが、どうしてももやもやしてしまいます。こんな気持ちになるのは初めてです。いやな気持ちです。
「あのときご主人様は、シエナ様を私だとイメージしていたとおっしゃっていました」
「そうなのか。どうりで。はは、ユーグらしいね。君のことがよっぽど好きなんだ。羨ましい」
「なにゆえですか?」
「僕は好きな人に、人前で愛を告げたりなんて絶対にできないし」
「仲のよろしい女の人といつもしているみたいになされればよろしいのでは?」
「それは男としての僕が得意だからさ。女の子と遊ぶのは好きだし楽しい。モテるのも嬉しい。けど、それはあくまで割り切っているからできるだけで、本当に愛している人にはできない」
ふぅむ、難しいです。
「好きな人がいらっしゃるのですか?」
「ああ。いるさ。僕にも。僕もユーグが君を愛しているみたいに愛されたいし、相手を愛したい」
好きな人は、どうやらユーグ様のことではないみたいです。そこは安心できますが。
・・・・・・・・・安心? どうして安心したのでしょうか。
「四六時中ずっと好き好き言われ続けたり悶えられたり発狂されたらたまりません。嬉しいとか恥ずかしい以前の問題です」
「僕だったら嬉しいけどな」
「そもそも、私は奴隷ですし」
「それなら僕は女で騎士だよ。元だけど」
そこから、急に沈黙になってしまいます。周りに人気が少なくなってきたので、離れました。もしも、ユーグ様がシエナ様が女の子だと知ったらどうするでしょうか。驚くでしょうか。距離をとるでしょうか。唐突におもいました。
「僕は君の主に助けられた。君の主が親友でよかったって、素直におもっているよ」
「さようですか。ありがとうぞんじます」
「そんな彼を、僕は裏切っている。騙している」
唐突に、話題が変わってしまいました。罪悪感からでしょうか。声も落ち込んでいます。
「昔の私と同じですね」
「うん、そうだね・・・・・・・・・」
今、ユーグ様への復讐心は微塵もありません。罪悪感も。それらはすべてきっちり無にするのは、都合がいいみたいですけど。忘れたわけではありません。一生忘れられないし、忘れてはいけないこととして、奴隷である自分を改めて享受しています。
「ユーグを裏切った君を責める資格なんてなかった。君とどう接していいかわからなくて困っていたくらいだ。以前と同じように接していいのか、とかね」
え? 最近までの私への態度は、私を許せなかったからではないのですか? 軽く驚きですよそれ。まぁ私は奴隷ですから、こう接してほしい、こうやってほしいというのは憚られますし、性格的に要望がないのでできませんし。
「今は、けっこう楽だな。君に女の子だって知られてしまったし。それにユーグにも秘密にしてくれているんだろう?」
「秘密にしているわけではありません。だってめんどうくさかったですし。私にメリットありませんし。ご主人様を裏切っているという認識もありません。今後も私から誰かに教えることはありません」
「正直だね。そして君は絶対そうするんだろうな」
「それに、ご主人様も私が秘密にしていることを責めないでしょう」
「だろうね。君のことが好きすぎるから。信頼しあっているんだね」
「信・・・・・・・・・頼・・・・・・?」
「そこで不思議がるのはユーグがかわいそうだよ」
「ユーグ様も、きっとシエナ様のことを責めませんよ。関係性が変わったりなんてしません。ずっと親友のままでいてくださるはずです」
「うん、そうだといいな」
「私も、シエナ様と関係性を変えるつもりは毛頭ございません」
いつの間にか、私たちにあった微妙なわだかまりは、消えています。以前のような主の親友とその奴隷よりもだいぶ近くなっている気がするので、なんとも不思議です。秘密を共有している同性であることが影響しているのでしょう。ユーグ様に復讐しようとしていた私と同じだとおっしゃってくれたからでしょうか。ユーグ様にはない親近感があります。
「彼には、僕が忘れていたことをおもいださせてもらったからね。彼がいなかったら、僕はこうしてここにいない。生きる屍になっていただろうね」
「おおげさすぎるのではないでしょうか。あの研究バカに対してそこまで言わなくてもよろしいですよ」
「いや。仮にも君の主なんだから研究バカて・・・・・・・・・。まぁ合ってるけど。僕には持っていないものを持っているし。尊敬できる人だよ。君の主は」
「尊・・・・・・・・・敬・・・・・・・・・・・?」
「そこは喜ぼうよ主を褒められているんだから」
和やかな、穏やかな会話。普段のシエナ様にはない本音を喋っている。昔の私だったらきっとどうでもよかったでしょう。けど、シエナ様とこんな風に話せているのが嬉しくて、昔の私と同じだと行ってくれたまるで・・・・・・。
「先程の、私と恋人のフリをしていたときの。女の子として本当は生きたいのですか?」
そんなことも、呑気に聞いてしまいました。
「そういうわけじゃないよ。ただ、考えることはあるんだ。もしも普通に女の子として育てられて生きていたら。どんな風だったかって。今男として生きているのは自分で決めたことだけどね」
「けれどそうしたらユーグ様と出会えていなかったし、騎士にもなれていませんよ」
「そう。そしてネフェシュと君にも会えてなかった」
使い魔であるネフェシュ様と私を同じように扱っているのはそれだけネフェシュ様を特別視しているからかでしょうか。なんとも複雑です。とはいえ、ネフェシュ様は女の子であることを知っているのでしょうか。シエナ様の好きな人というのは。こんな風にシエナ様のことを気にかけるとは。
「あ、見えてきた」
長々と話していたから半ば忘れていましたけど、目的地にやっと到着しました。まだまだ話していたくて残念ですが、早いうちに目的を終えましょう。そうしたら、全部元通りです。
「もしも、すべてが終わって生きていられたら」
「?」
「いや、なんでもない。さぁ行こうか」
なにゆえでしょうか。シエナ様は笑っているのに。その笑顔がどこか作り物みたいで、無理しているみたいで、いやな予感がしました。縁起でもない、と自分を制しますが不安でなりません。
全員別々に行動すればそれだけ捕まる可能性が高くなる、いざというとき他の人たちへの連絡係になれるとシエナ様が主張され、二人組になることが決定しました。ユーグ様はネフェシュ様と二人組に決まったとき、血の涙を流していたのでドン引きしました。まぁ今の状況なら仕方ないことなのかなぁ、と今ではおもっていますが。
私とシエナ様はそれぞれ男性、女性と性別を変えた服装をしています。シエナ様は本当の性別の格好に戻っただけなのですが、本当に似合っています。キロ氏はなぜか女性用の服をたくさん所持していたので、選ぶのに困りましたがどれを選んでいても似合っていたでしょう。
普段と違ってお化粧と付け睫毛、口紅も薄くしているのでどこからどう見ても女の子です。騎士であったシエナ様の面影がありません。歩き方と振る舞いはややぎこちないものの、誰も疑わないでしょう。そんなシエナ様を見て、ユーグ様と一緒にしないでよかったと改めて安堵します。
女の子であると知ってから、ユーグ様と距離が近いのを見るともやもやします。二人が仲良くしているとイライラします。もしユーグ様がシエナ様の性別を知ったときどうなるのか。ユーグ様は私にぞっこんラブすぎるのですが、不安になってしまいます。なので、ユーグ様とシエナ様を一緒にさせてはいけない、危険であるとウェアウルフの第六感が囁いたのです。
いえ、私はユーグ様のこと好きというわけではないのですが。その一点についてははっきりと強調させてもらいます。二人組になったのも、厳正なる話し合いの結果です。なので一緒に行動しているわけです。はい。
ですが、シエナ様と私の間に会話はありません。私に性別を知られてからよそよそしいです。今も気まずげにチラチラ私を窺っています。私としては、まぁ行動に支障がないのでかまいませんが。
目的地に到着するまで、道すがら情報収集をしていますが私たちの所在は敵にバレていないようです。スパイ容疑も加わっているので早々に帝国を脱出したと考えられているようです。とはいえ帝都は封鎖されたままなのですが。
シエナ様の悪口も、聞こえてきます。本当のことかどうかわかりませんが、そのたびにシエナ様の顔が曇ります。女好きのスケコマシ、節操なし、騎士道に背く最低なやつ。ちび、ガキ、前々から気に入らなかった、調子にのっていた等々。最後のほうは涙目になっていました。
「ちょっと・・・・・・・・・休んでもいいかな」
青ざめたシエナ様に、私はノーと言えずに頷きました。
「はああああああ・・・・・・・・・」
噴水の縁に腰をかけて、肩をがっくりと落としている姿は他人からどのように映っているのでしょう。女性らしからぬ哀愁と疲れ切った雰囲気は、ともすれば怪しまれないかと不安になるほど深刻です。ユーグ様のおかげで立ち直ったとはいえ、まだ万全ではなかったのかもしれません。私は喉が渇いたので飲み物を買いに離れました。
戻ってきたとき、シエナ様は男の人たちに囲まれていました。
「やぁお嬢ちゃん。そんなに落ち込んでどうしたの~?」「僕たちと遊ばない?」「奢るよ?」どうやらナンパのようです。シエナ様なら上手くあしらってくれるでしょう。
「ごめんなさ~い、私ぃ、今恋人と一緒にいるんですぅ~。だからあなたたちのお誘いは受けられません♪ だからとっとと諦めてドブ底に帰ってください、キャハ♫」
・・・・・・・・・・・・なんでしょう。同性の私でもおもわずイッラアァッときました。シエナ様のところに行くのをやめようかとおもうくらい。
「あ、ルウ男さぁ~ん♪ どこに行ってたのぉ~??? 私を一人にしちゃダメなんだぞ~??? 一人になっちゃうと寂しくてえ~んえ~んって泣き死んじゃう兎人なんだって覚えてぇ~」
き、気持ち悪い。え、この人本当にシエナ様ですか? 私の腕に抱きついてきて、甘えてくる女の子は普段と違いすぎて、普段を知っているからこその違和感と恐怖でゾワゾワしちゃいます。男たちから離れてもシエナ様は放してくれません。おかげで靴を履いているのと相まって非常に歩きづらいです。
「恋人のほうが自然で怪しまれないだろ?」
そう言われると返す術がありません。しかし、私は男性ではありませんしどのように扱っていいか困ってしまいます。頻りにシエナ様がぶりっ子もといどこにでもいる女の子として接してきますが、私はいつもどおりに振る舞うことしかできません。
「シエナ様は、そのような話し方や振る舞いを覚えたのですか?」
「・・・・・・・・・知り合いの女の子とか街にいる子たちを参考にして」
「そうですか」
「笑いたければ笑っていいよ」
フッ、と自嘲げに笑うとなんともいえない表情に。
「僕も自覚しているさ。僕みたいなやつは、こんなこと似合っていないってね」
「いえ、そんなことは」
「お世辞はいらないよ」
「本音です。たしかにいつものシエナ様を知っているとキモいですし鳥肌たちまくっていますし元に戻ったとき接し方と見方が変わってしまいますが」
「容赦ないね君は。ユーグはもっと自然だったけど」
・・・・・・・・・・・・それはあのときのことをおっしゃっているのですか?
「彼は変装だってわかっていたから接し方も変わらなかったけど。でもそうか。親友以外の人からはそうとしかおもえないよね、うん」
無自覚なんでしょう。自慢しているつもりもないのでしょう。私より先に出会っていて、そして私より付き合いの長いがゆえの理解ある二人の関係性を示されてるにすぎません。男性同士だったらよろしいでしょう。男性同士だったら。ですが、どうしてももやもやしてしまいます。こんな気持ちになるのは初めてです。いやな気持ちです。
「あのときご主人様は、シエナ様を私だとイメージしていたとおっしゃっていました」
「そうなのか。どうりで。はは、ユーグらしいね。君のことがよっぽど好きなんだ。羨ましい」
「なにゆえですか?」
「僕は好きな人に、人前で愛を告げたりなんて絶対にできないし」
「仲のよろしい女の人といつもしているみたいになされればよろしいのでは?」
「それは男としての僕が得意だからさ。女の子と遊ぶのは好きだし楽しい。モテるのも嬉しい。けど、それはあくまで割り切っているからできるだけで、本当に愛している人にはできない」
ふぅむ、難しいです。
「好きな人がいらっしゃるのですか?」
「ああ。いるさ。僕にも。僕もユーグが君を愛しているみたいに愛されたいし、相手を愛したい」
好きな人は、どうやらユーグ様のことではないみたいです。そこは安心できますが。
・・・・・・・・・安心? どうして安心したのでしょうか。
「四六時中ずっと好き好き言われ続けたり悶えられたり発狂されたらたまりません。嬉しいとか恥ずかしい以前の問題です」
「僕だったら嬉しいけどな」
「そもそも、私は奴隷ですし」
「それなら僕は女で騎士だよ。元だけど」
そこから、急に沈黙になってしまいます。周りに人気が少なくなってきたので、離れました。もしも、ユーグ様がシエナ様が女の子だと知ったらどうするでしょうか。驚くでしょうか。距離をとるでしょうか。唐突におもいました。
「僕は君の主に助けられた。君の主が親友でよかったって、素直におもっているよ」
「さようですか。ありがとうぞんじます」
「そんな彼を、僕は裏切っている。騙している」
唐突に、話題が変わってしまいました。罪悪感からでしょうか。声も落ち込んでいます。
「昔の私と同じですね」
「うん、そうだね・・・・・・・・・」
今、ユーグ様への復讐心は微塵もありません。罪悪感も。それらはすべてきっちり無にするのは、都合がいいみたいですけど。忘れたわけではありません。一生忘れられないし、忘れてはいけないこととして、奴隷である自分を改めて享受しています。
「ユーグを裏切った君を責める資格なんてなかった。君とどう接していいかわからなくて困っていたくらいだ。以前と同じように接していいのか、とかね」
え? 最近までの私への態度は、私を許せなかったからではないのですか? 軽く驚きですよそれ。まぁ私は奴隷ですから、こう接してほしい、こうやってほしいというのは憚られますし、性格的に要望がないのでできませんし。
「今は、けっこう楽だな。君に女の子だって知られてしまったし。それにユーグにも秘密にしてくれているんだろう?」
「秘密にしているわけではありません。だってめんどうくさかったですし。私にメリットありませんし。ご主人様を裏切っているという認識もありません。今後も私から誰かに教えることはありません」
「正直だね。そして君は絶対そうするんだろうな」
「それに、ご主人様も私が秘密にしていることを責めないでしょう」
「だろうね。君のことが好きすぎるから。信頼しあっているんだね」
「信・・・・・・・・・頼・・・・・・?」
「そこで不思議がるのはユーグがかわいそうだよ」
「ユーグ様も、きっとシエナ様のことを責めませんよ。関係性が変わったりなんてしません。ずっと親友のままでいてくださるはずです」
「うん、そうだといいな」
「私も、シエナ様と関係性を変えるつもりは毛頭ございません」
いつの間にか、私たちにあった微妙なわだかまりは、消えています。以前のような主の親友とその奴隷よりもだいぶ近くなっている気がするので、なんとも不思議です。秘密を共有している同性であることが影響しているのでしょう。ユーグ様に復讐しようとしていた私と同じだとおっしゃってくれたからでしょうか。ユーグ様にはない親近感があります。
「彼には、僕が忘れていたことをおもいださせてもらったからね。彼がいなかったら、僕はこうしてここにいない。生きる屍になっていただろうね」
「おおげさすぎるのではないでしょうか。あの研究バカに対してそこまで言わなくてもよろしいですよ」
「いや。仮にも君の主なんだから研究バカて・・・・・・・・・。まぁ合ってるけど。僕には持っていないものを持っているし。尊敬できる人だよ。君の主は」
「尊・・・・・・・・・敬・・・・・・・・・・・?」
「そこは喜ぼうよ主を褒められているんだから」
和やかな、穏やかな会話。普段のシエナ様にはない本音を喋っている。昔の私だったらきっとどうでもよかったでしょう。けど、シエナ様とこんな風に話せているのが嬉しくて、昔の私と同じだと行ってくれたまるで・・・・・・。
「先程の、私と恋人のフリをしていたときの。女の子として本当は生きたいのですか?」
そんなことも、呑気に聞いてしまいました。
「そういうわけじゃないよ。ただ、考えることはあるんだ。もしも普通に女の子として育てられて生きていたら。どんな風だったかって。今男として生きているのは自分で決めたことだけどね」
「けれどそうしたらユーグ様と出会えていなかったし、騎士にもなれていませんよ」
「そう。そしてネフェシュと君にも会えてなかった」
使い魔であるネフェシュ様と私を同じように扱っているのはそれだけネフェシュ様を特別視しているからかでしょうか。なんとも複雑です。とはいえ、ネフェシュ様は女の子であることを知っているのでしょうか。シエナ様の好きな人というのは。こんな風にシエナ様のことを気にかけるとは。
「あ、見えてきた」
長々と話していたから半ば忘れていましたけど、目的地にやっと到着しました。まだまだ話していたくて残念ですが、早いうちに目的を終えましょう。そうしたら、全部元通りです。
「もしも、すべてが終わって生きていられたら」
「?」
「いや、なんでもない。さぁ行こうか」
なにゆえでしょうか。シエナ様は笑っているのに。その笑顔がどこか作り物みたいで、無理しているみたいで、いやな予感がしました。縁起でもない、と自分を制しますが不安でなりません。
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