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十四章
Ⅲ
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遠回りをして帰ろうという問いに、こくんと力なく頷いたルウと辿りついたのは、件の池だ。井戸を掘っても水を確保できなかったための措置だった。水路はそこかしこに引かれている。城壁の一部をくり抜いて閂と鉄柵で水量は制限されていても、すぐに水路へ流れていくわけじゃない。一際広く深い場所に溜めておく必要があった。
苔が蒸し、表面が滑らかになった岩に囲われて自然さながらの水面は、景色と同化してしまって底もしれない闇を映しだしている。昼間と打って変わってどこか不気味さがある。
昔は、ここがこわかった。ダグや他の友達と遊んでいたせいで気づくのが遅れた。ビクビクしながら帰宅していたっけ。今は違う。どこか余裕を持っていられる。それは大人になったからか。魔法を学んだからか。
ともかく、時間を潰すにはもってこいの場所。しかも最近死体があったとあれば簡単には誰も近づかない。
「ご主人様?」
「ちょっと休もうか」
水を汲みやすいように設置された段差に腰掛けながら手招きする。
「かしこまりました」
答えたものの、ルウはやってこない。ごそごそと衣擦れの音がしたのもあって振り返った。
喀血、鼻血、目眩が同時におこった。ルウが服を脱ごうそしていた。というか半分脱げている。
「なにやってるんだ!」
「だって、お休みになりたいのでしょう? 性的に」
「性的に休むってなにごと!?」
「帝都でもあるではありませんか。男性が女性にちょっと休んでいこうぜ、大丈夫先っぽだけだからって誘って」
「そういう意味じゃねぇよ!? というかだとしても外だから!」
「もしかしたらご主人様は外で、それも故郷の思い出深いところでやりたいのかと」
「どんな特殊な性癖してるとおもってるんだ! そんなことに拘ってねぇよ!」
「遠回りをしていこうとおっしゃられたとき、まさかと覚悟していたので大丈夫です」
「ごめん! 俺がちゃんと前もって説明してなかったからだ! 謝るから服着てお願い!」
「ここまで覚悟した私に恥をかかせるおつもりですか? 奴隷をなんだとおもってらっしゃるので?」
「なんで怒ってるの! ちょっと話がしたかったんだよ!」
不機嫌な素振りで着直したルウが、ようやく隣へ。はぁ、なんか疲れた。好きだからいいけど。
「ダグの店出たときからおかしかっただろ? どうしたんだ?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
膝をぎゅっと抱えているルウは、口をくっつけて隠してしまう。ただでさえ体が小さいのに、そうやって身を縮こませるものだから心許ないという様子だ。
「ご主人様が変態で、変人で、頭のおかしい人だと再認識できたのです」
「はぁ? 俺のどこが?」
「実の母親に対して、焼き殺そうとしたことです。私のことを悪く言われると烈火のごとく怒ることです」
「・・・・・・・・・・・・・・・うん」
「自分のことは無関心なのに、私をとにかく優先しようとすることです。私のために大切な魔導書を犠牲にできることです。私のために脱獄できてしまうことです」
なに一つとして反論できない。
「それは、だって、好きだししょうがないよ」
「好きと理由にするには度がすぎています。仮にご主人様が人殺しをして罪を犯しても好きだからしょうがないと、理由にするのも容易に想像できます」
唯一の苦し紛れの反論さえねじ伏せられた。
「そして、異種族婚と奴隷を愛するのが普通じゃないと認識しているのにそれでも私と一緒になりたいとおもっていることです」
「それは・・・・・・・・・・・・・・・」
「私は誰かを好きになったことがないのでわかりません。ですが、もし仮に。仮にですよ? 世界が滅びて消滅してしまうくらいの確率で私がご主人様と結ばれたとします」
それくらいありえないことなの? ショックなんだけど。
「周りから私たちはどう見られますか? きっとお義母様のような反応なんてかわいいでしょう。誰からも避けられて怪訝におもわれます。魔道士になれたとしたら尚更です。ただでさえご主人様は変人だと帝都では認識されてはいても明らかに生活に影響するでしょう」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「万が一、子供が産まれたらどうされますか? 子供も虐められるでしょう。この街の人が流民を避けているのと同じです。ご主人様が捕まっていたときの、街の人達と同じです。きっと生活できません」
「・・・・・・・・・・・・・・・」
「私とご主人様がダグ様のところで一緒に座ったとき、怪訝がったのも同じです。通常、主とともに座ることなどありません。慣れきっていましたが。きっとダグ様の反応が正しいのです」
「ずっと、そう考えていたのか?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「『念話』使うよ?」
「きっかけはお義母様がおっしゃていたことです」
黙りそうになったルウを脅す形になったけど、仕方ない。こうでもしないと本当に使ってしまうから。まだルウは話の核心を喋っていない。それはきっと『念話』でも尻尾と耳の動きでも悟っちゃいけないことだ。ルウの口からじかに聞かなきゃいけないことだ。
「恋愛経験がないからのぼせているだ。恋に恋してるだけ。私じゃなくても誰でもよかったんだと」
「あれはお袋が勝手にほざいているだけだ」
「わかっていますっ。けど、このまま奴隷のままでいていいのか。ご主人様に想ってもらう資格が私にあるのかと。ご主人様にとっての正しい奴隷でいたいのに。このまま期待をさせ続けるだけさせてはっきり答えを出さないでいていいのかと悩んでしまうのです」
「答え?」
それは、俺の想いに応えてくれるのかどうか。俺は一生ルウを好きでいる自信がある。いつか振り向くそのときまで、いやその先も。一生。
「ご主人様の奴隷で、いたいとおもいます。ですが、もし一生ご主人様の強すぎる好きを受止めきれなかったら。私のせいでご主人様の時間を無駄に消費させることになります。だったら――――」
「だったら?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
だったら、離れる? 奴隷をやめる? 苦しむより安易な道を選ぶ? 無理やり答えをだす? それとも別なこと? どんなことを言おうとしたのか、なんにしろ。
「もしそんな理由で断られるんなら、絶対俺は納得しないぞ」
たとえ地の果てだろうと追いかける。探しだす。
「そうでしょうね。ですから悩んでいるのです」
「もし、なんらかの答えを出すとしても、本音で決めてほしい。無理やりとか嫌々とかじゃなくて。俺を好きなのに我慢してじゃなくて」
「ご自分でおっしゃっていて気持ち悪くないですか? ちなみに私は鳥肌ものです。このように」
「例え話だよ・・・・・・・・・・・・・・・」
「ですが、ありがとうございます。今すぐ、急に、ではなくて。いずれ決めなければいけないことだと再認識できた、というだけでございます」
きっと、この街にいる間に決められることじゃない。でも、いずれ必ず訪れる。いつまでもくるな、せめて俺が死ぬまで、と願っても無駄なんだろう。俺にできることは――――
「え?」
お袋に認めさせること。この街の問題。もっと大切で、なによりも優先するべきこと。くそ、結ばれるだけじゃない。結ばれた後のことまでなんて考えたことなかった。脳天気な俺とは対照的に、先を考えているルウ。比べてしまって情けなくなる。
「なにか、聞こえます。誰か呼んでいる?」
ちょっと寒くなってきたな。
「ルウ、寒くないか? よかったらローブを・・・・・・・・・・・・・・・ってルウ?」
すぐ隣にいたルウに被せようとしたローブが、バサッと地面に落ちた。ルウが消えている。きょろきょろと辺りを探すけど、バシャン! と水が大きく跳ねる音がして池を見た。まさか、どうして、いやそんなこと、と言い聞かせるけど『紫炎』を発動して、いくつかに分裂させる。『炎球』に照らされて、明らかになって息を呑んだ。
「ルウ!? どうして!?」
溺れている。ほぼ池の中心。石に滑ったのか。そもそもどうしていきなり池に入ったのか。ともかく、ここは奥に進むほどに底が深くなっていて、子供はおろか大人さえ。駈けながら、そのまま一気に飛びこんだ。
とてつもなく暗い水中のせいでルウがどこにいるか。くそ。おもいながら魔法を発動させる。『紫炎』は水中でも消えることなくあり続ける。池の水をすべて蒸発させないように魔力を調整して泳ぐ。
が、『紫炎』は発動しなかった。何度も試してみるもののなにも変化はない。魔法が使えないことに、いささかパニックになる。
そして、息ができなくなる。体にある酸素がいきなり抜き取られる心地を味わう。急いで呼吸をするために水面めがけて泳ごうとしたけど、それだけじゃなかった。魔力と、そして魔力を産みだす源、生命力が根こそぎ奪いとられていく感覚。体力、気力どころじゃない。生命を維持するのに必要な根っこがなくなっていくのだ。
思考が真っ白になる。ルウを助けるどころか自分の身すら危うい状況だという認識が、意識そのものが遠くなっていく。
「『風盾』!」
体が、池の水が、とてつもない力に翻弄される。巨大な渦巻きでも発生しているのかってくらい。そして、いきなり体が水底に激突する。
「やっぱり人がいましたね。ふぅ。危ないところでした」
呼吸を整えながら周囲の様子をたしかめると、ありきたりな魔法、『風盾』がそこかしこで発動していた。そのために水が風の防護壁によって押し返され、または押し止められていて、さながら池が割れて通り道がいくつもできているみたいだ。
「ルウ、ルウ・・・・・・・・・」
ぐったりと倒れているルウの元へ、這っていく。意識はないようだが、急いで気道を確保して心臓マッサージを。大きく咳きこんで水を吐きだしたあとに、胸の動きと脈をはかって、安心して抱きしめる。
「ご、ご主人様・・・・・・・・・?」
「ああ、ルウ。よかった・・・・・・。本当に」
「およよ、あなたは? ああ!」
「ちょ、ルナ殿!?」
ぴょん、と軽快に誰かが飛んできた。吹きすさぶ風を身に纏ったおかげで衣服をはためかせながら滑るようにゆっくりと着地した。
「こんにちはユーグさん! こんなところで会うとは奇遇ですね!」
馴れ馴れしい喋り方に、元気はつらつな魔法士。おそらく風魔法の使い手。俺は、魔法士の知り合いなんてそれほど多くない。親しみがある相手だとしたら尚更数が限られる。
「・・・・・・・・・・・・・・・誰?」
だから、まったく知らない魔法士に対してそう尋ねるのが、精一杯だった。
苔が蒸し、表面が滑らかになった岩に囲われて自然さながらの水面は、景色と同化してしまって底もしれない闇を映しだしている。昼間と打って変わってどこか不気味さがある。
昔は、ここがこわかった。ダグや他の友達と遊んでいたせいで気づくのが遅れた。ビクビクしながら帰宅していたっけ。今は違う。どこか余裕を持っていられる。それは大人になったからか。魔法を学んだからか。
ともかく、時間を潰すにはもってこいの場所。しかも最近死体があったとあれば簡単には誰も近づかない。
「ご主人様?」
「ちょっと休もうか」
水を汲みやすいように設置された段差に腰掛けながら手招きする。
「かしこまりました」
答えたものの、ルウはやってこない。ごそごそと衣擦れの音がしたのもあって振り返った。
喀血、鼻血、目眩が同時におこった。ルウが服を脱ごうそしていた。というか半分脱げている。
「なにやってるんだ!」
「だって、お休みになりたいのでしょう? 性的に」
「性的に休むってなにごと!?」
「帝都でもあるではありませんか。男性が女性にちょっと休んでいこうぜ、大丈夫先っぽだけだからって誘って」
「そういう意味じゃねぇよ!? というかだとしても外だから!」
「もしかしたらご主人様は外で、それも故郷の思い出深いところでやりたいのかと」
「どんな特殊な性癖してるとおもってるんだ! そんなことに拘ってねぇよ!」
「遠回りをしていこうとおっしゃられたとき、まさかと覚悟していたので大丈夫です」
「ごめん! 俺がちゃんと前もって説明してなかったからだ! 謝るから服着てお願い!」
「ここまで覚悟した私に恥をかかせるおつもりですか? 奴隷をなんだとおもってらっしゃるので?」
「なんで怒ってるの! ちょっと話がしたかったんだよ!」
不機嫌な素振りで着直したルウが、ようやく隣へ。はぁ、なんか疲れた。好きだからいいけど。
「ダグの店出たときからおかしかっただろ? どうしたんだ?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
膝をぎゅっと抱えているルウは、口をくっつけて隠してしまう。ただでさえ体が小さいのに、そうやって身を縮こませるものだから心許ないという様子だ。
「ご主人様が変態で、変人で、頭のおかしい人だと再認識できたのです」
「はぁ? 俺のどこが?」
「実の母親に対して、焼き殺そうとしたことです。私のことを悪く言われると烈火のごとく怒ることです」
「・・・・・・・・・・・・・・・うん」
「自分のことは無関心なのに、私をとにかく優先しようとすることです。私のために大切な魔導書を犠牲にできることです。私のために脱獄できてしまうことです」
なに一つとして反論できない。
「それは、だって、好きだししょうがないよ」
「好きと理由にするには度がすぎています。仮にご主人様が人殺しをして罪を犯しても好きだからしょうがないと、理由にするのも容易に想像できます」
唯一の苦し紛れの反論さえねじ伏せられた。
「そして、異種族婚と奴隷を愛するのが普通じゃないと認識しているのにそれでも私と一緒になりたいとおもっていることです」
「それは・・・・・・・・・・・・・・・」
「私は誰かを好きになったことがないのでわかりません。ですが、もし仮に。仮にですよ? 世界が滅びて消滅してしまうくらいの確率で私がご主人様と結ばれたとします」
それくらいありえないことなの? ショックなんだけど。
「周りから私たちはどう見られますか? きっとお義母様のような反応なんてかわいいでしょう。誰からも避けられて怪訝におもわれます。魔道士になれたとしたら尚更です。ただでさえご主人様は変人だと帝都では認識されてはいても明らかに生活に影響するでしょう」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「万が一、子供が産まれたらどうされますか? 子供も虐められるでしょう。この街の人が流民を避けているのと同じです。ご主人様が捕まっていたときの、街の人達と同じです。きっと生活できません」
「・・・・・・・・・・・・・・・」
「私とご主人様がダグ様のところで一緒に座ったとき、怪訝がったのも同じです。通常、主とともに座ることなどありません。慣れきっていましたが。きっとダグ様の反応が正しいのです」
「ずっと、そう考えていたのか?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「『念話』使うよ?」
「きっかけはお義母様がおっしゃていたことです」
黙りそうになったルウを脅す形になったけど、仕方ない。こうでもしないと本当に使ってしまうから。まだルウは話の核心を喋っていない。それはきっと『念話』でも尻尾と耳の動きでも悟っちゃいけないことだ。ルウの口からじかに聞かなきゃいけないことだ。
「恋愛経験がないからのぼせているだ。恋に恋してるだけ。私じゃなくても誰でもよかったんだと」
「あれはお袋が勝手にほざいているだけだ」
「わかっていますっ。けど、このまま奴隷のままでいていいのか。ご主人様に想ってもらう資格が私にあるのかと。ご主人様にとっての正しい奴隷でいたいのに。このまま期待をさせ続けるだけさせてはっきり答えを出さないでいていいのかと悩んでしまうのです」
「答え?」
それは、俺の想いに応えてくれるのかどうか。俺は一生ルウを好きでいる自信がある。いつか振り向くそのときまで、いやその先も。一生。
「ご主人様の奴隷で、いたいとおもいます。ですが、もし一生ご主人様の強すぎる好きを受止めきれなかったら。私のせいでご主人様の時間を無駄に消費させることになります。だったら――――」
「だったら?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
だったら、離れる? 奴隷をやめる? 苦しむより安易な道を選ぶ? 無理やり答えをだす? それとも別なこと? どんなことを言おうとしたのか、なんにしろ。
「もしそんな理由で断られるんなら、絶対俺は納得しないぞ」
たとえ地の果てだろうと追いかける。探しだす。
「そうでしょうね。ですから悩んでいるのです」
「もし、なんらかの答えを出すとしても、本音で決めてほしい。無理やりとか嫌々とかじゃなくて。俺を好きなのに我慢してじゃなくて」
「ご自分でおっしゃっていて気持ち悪くないですか? ちなみに私は鳥肌ものです。このように」
「例え話だよ・・・・・・・・・・・・・・・」
「ですが、ありがとうございます。今すぐ、急に、ではなくて。いずれ決めなければいけないことだと再認識できた、というだけでございます」
きっと、この街にいる間に決められることじゃない。でも、いずれ必ず訪れる。いつまでもくるな、せめて俺が死ぬまで、と願っても無駄なんだろう。俺にできることは――――
「え?」
お袋に認めさせること。この街の問題。もっと大切で、なによりも優先するべきこと。くそ、結ばれるだけじゃない。結ばれた後のことまでなんて考えたことなかった。脳天気な俺とは対照的に、先を考えているルウ。比べてしまって情けなくなる。
「なにか、聞こえます。誰か呼んでいる?」
ちょっと寒くなってきたな。
「ルウ、寒くないか? よかったらローブを・・・・・・・・・・・・・・・ってルウ?」
すぐ隣にいたルウに被せようとしたローブが、バサッと地面に落ちた。ルウが消えている。きょろきょろと辺りを探すけど、バシャン! と水が大きく跳ねる音がして池を見た。まさか、どうして、いやそんなこと、と言い聞かせるけど『紫炎』を発動して、いくつかに分裂させる。『炎球』に照らされて、明らかになって息を呑んだ。
「ルウ!? どうして!?」
溺れている。ほぼ池の中心。石に滑ったのか。そもそもどうしていきなり池に入ったのか。ともかく、ここは奥に進むほどに底が深くなっていて、子供はおろか大人さえ。駈けながら、そのまま一気に飛びこんだ。
とてつもなく暗い水中のせいでルウがどこにいるか。くそ。おもいながら魔法を発動させる。『紫炎』は水中でも消えることなくあり続ける。池の水をすべて蒸発させないように魔力を調整して泳ぐ。
が、『紫炎』は発動しなかった。何度も試してみるもののなにも変化はない。魔法が使えないことに、いささかパニックになる。
そして、息ができなくなる。体にある酸素がいきなり抜き取られる心地を味わう。急いで呼吸をするために水面めがけて泳ごうとしたけど、それだけじゃなかった。魔力と、そして魔力を産みだす源、生命力が根こそぎ奪いとられていく感覚。体力、気力どころじゃない。生命を維持するのに必要な根っこがなくなっていくのだ。
思考が真っ白になる。ルウを助けるどころか自分の身すら危うい状況だという認識が、意識そのものが遠くなっていく。
「『風盾』!」
体が、池の水が、とてつもない力に翻弄される。巨大な渦巻きでも発生しているのかってくらい。そして、いきなり体が水底に激突する。
「やっぱり人がいましたね。ふぅ。危ないところでした」
呼吸を整えながら周囲の様子をたしかめると、ありきたりな魔法、『風盾』がそこかしこで発動していた。そのために水が風の防護壁によって押し返され、または押し止められていて、さながら池が割れて通り道がいくつもできているみたいだ。
「ルウ、ルウ・・・・・・・・・」
ぐったりと倒れているルウの元へ、這っていく。意識はないようだが、急いで気道を確保して心臓マッサージを。大きく咳きこんで水を吐きだしたあとに、胸の動きと脈をはかって、安心して抱きしめる。
「ご、ご主人様・・・・・・・・・?」
「ああ、ルウ。よかった・・・・・・。本当に」
「およよ、あなたは? ああ!」
「ちょ、ルナ殿!?」
ぴょん、と軽快に誰かが飛んできた。吹きすさぶ風を身に纏ったおかげで衣服をはためかせながら滑るようにゆっくりと着地した。
「こんにちはユーグさん! こんなところで会うとは奇遇ですね!」
馴れ馴れしい喋り方に、元気はつらつな魔法士。おそらく風魔法の使い手。俺は、魔法士の知り合いなんてそれほど多くない。親しみがある相手だとしたら尚更数が限られる。
「・・・・・・・・・・・・・・・誰?」
だから、まったく知らない魔法士に対してそう尋ねるのが、精一杯だった。
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