魔道士(予定)と奴隷ちゃん

マサタカ

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二十三章

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 帰宅後、夕食までの短い間を有効活用できずにいる。暖炉の薪で火力を調整したり、温くなったお茶をちびちびと啜ったり。本来なら工房で義眼と呪いについての研究をしたかった。

 シエナの言葉が頭を離れない。モーガンの脱獄だ。別れ際、モーガンは、一人で脱獄できる状態ではなかったそうだ。怪我の治療はあえてせず、魔法を封じていた。火傷の後遺症のおかげで一人で歩くことも食事もできないまま最下層に閉じ込められていた。

 シエナは明言こそしなかったが、俺がいた牢獄よりも遙かに出ることが難しい場所だというのは想像に難くない。しかもモーガンは元・魔道士だ。危険人物だと認識されて徹底的に行動を封じられていたあいつが、そんなところから単独で脱獄できるものだろうか? 

 モーガンは共和国に協力をしていた。であるなら共和国による犯行と考えるのは自然。

「ご主人様、お食事ができました」

 気がつけば、いつの間にやら食卓が完成していた。これだけの豪勢なメニューが並んでいたのに、俺の五感が働かなかったのが不思議なくらい。

 小さめの鳥の丸焼き。生ハムのサラダ。ブイヤベースのサイコロ状の牛肉が入ったスープ。大きめのグラタンとそれからパスタ。いつもより豪華な気がするのは、試験を終えた俺への労いなのか。だとしたら、嬉しいな。

「今日はお肉成分を強くしました。グラタンの中にもお肉がぎっしり入っています」
「徹底してるな」
「野菜だけでなくお肉でもこれだけバリエーションが多いのだと証明したいので」

 苦笑いしながら、アンナとのやりとりを振り返る。最後の最後まで、ルウとアンナの討論は平行線だったことを。

 肉にこだわりを持つルウと、野菜中心の食生活を送るアンナ。二人の話し合いは互いに譲らないまま望まぬ結果に終わった。食後、カフェオレのカップとコースターに指を挟んで、熱さに驚いた拍子に中身を被って机にダイブするというミラクルをおこしたため、中断されたタイミングの流れで、そのままお開きとなった。

 あれがルウ的には不本意で、夕食という場で発散させたかったのか。かわいい。

「あのアンナ様は、また会う機会があるのでしょうか?」
「最後の試験にお互い残っていれば、もしかしたらかな」
「そうですか。楽しみですね」

 それには、はっきりすれば同意できない。アンナの魔法には興味が尽きない。一体どんな方法であれだけの魔物を従わせられるのか。けど、それとは正反対の、できればご遠慮したいかな~~って気持ちも少なからずある。

 もうわざとやってるんじゃないかってくらいのそそっかしさ、注意力不足のドジに巻きこまれたら命が危ないんじゃ? というか絶対めんどうなことになる。ルナとは違うベクトルで関わったらだめなタイプとイメージが強い。

「私は勝ってはいませんので」
「・・・・・・どゆこと?」
「まだあの方にお肉を食べてもらっていませんので」
「それって勝ち負けなのかなぁ?」

 育った環境や食生活で考えや食べる物、好みが違うのは致し方ないことなんじゃ?

「ご主人様には失望しましたがっかりです話しかけないでください」
「ええ!?」

 何故に?! 失望される要素どこ!?

「よいですか。例えばご主人様は魔道士になれず、ご主人様とは魔法に関する熱意、情熱、志したきっかけが全然違う魔法士が魔道士になったとします」
「う、うん」

 食事を中断して、前のめりで話はじめたルウの本気具合。おもわず呑まれそうになる。

「ご主人様はその人のことが認められません。ご主人様の魔法を徹底的に否定し、それとは正反対の魔法を創りました。性格も真逆です。ある意味ご主人様の天敵です」

 自分とアンナのことを例えているんだろうけど、過激すぎない?

「そのような相手のことは不意打ちでも闇討ちでもして徹底的に潰したい屈服させたいと願うでしょう?」
「願わねぇよ?! そこまで極端じゃねぇよ?!」
「つまりはそういうことです」
「ルウはアンナを徹底的に屈服させたいって意志が強いってのがかろうじてわかったよ・・・・・・」
「それだけではございません。相手の口から自ら負けという言葉をはかせたいのです。より厳密には地面に這いつくばって許しを乞うて恥辱に塗れた鼻水と涙で汚れまくった顔で。それを見下ろしたいのです」
「やりすぎだろ! 明らかに!」
「ご主人様の教育の賜物です」
「なに俺のせいにしようとしてんだ! 教えてねぇよ! 見せたことすらねぇよそんな場面!」
「あ、間違えました。両親が喧嘩したときによく見た光景でした」

 お父さんかお母さんのどっちだったんだろう。少し気になる。

「つまりご主人様は私のことなどどうでもよろしいのですか? だから、私にツッコんだりお認めにならないのですか?」
「大好きだよ! 決まってるだろ!」
「では私がアンナ様に無理やりお肉を食べさせて屈服させるときは?」
「喜んで協力するよ! 当たり前じゃないか!」
「よくできました。あとで尻尾をもふもふしてもよいですよ」
「よっっっっっっっしゃああああああああああああああ!!」
「まったくご主人様は。私のために女の子を抵抗できないようにするなんて。しょうがないお人です」

 なんか自発的に俺がアンナに酷いするって流れになってるけど、誘導したの君だからね? とワンアクション置いてツッコんだ。

 そんなやりとりをしつつ、夕食を食べ終わって落ち着こうとした。洗い物を終えてルウが戻ってきたとき、いつもとは違う物を持ってきた。

「それは?」
「簡単なものですが、食後のデザートです」

 カットされた幾種類かの果物の隣に、ふんわりとした白いクリームが載っている。満腹だというのに、感嘆が漏れた。

「どうせご主人様のことですからまた工房にいかれるとおもいました。その前に食べていただこうと」
「ありがとう。でも工房でも食べられるんじゃ?」
「ぶっ殺しますよ?」
 
 どこにぶっ殺される要素が?

「それでは落ち着いて食べられないではないですか」
「あ、そういうことか」

 ルウは研究の手伝いをするから、そのせいで自分がゆっくり味わって食べられないってことだ。それでこうして二人の時間を名目にすれば、と。つまりはそういうことなのだろう。

「上下の唇剥ぎますよ?」
「ええ、なんで拷問?」
「それでは私が一人だけで食べたいみたいではないですか。乳首爪でちょっとずつ削りますよ?」
「でもそれだとルウが俺と一緒にゆっくり食べたいみたいじゃないか」

 ぐっ、と噛み締める仕草をして俯いて沈黙。チラッと目線だけ上げて、

「・・・・・・・・・いけませんか?」
「ぐっっっっ!!」

 キュンッッッ!!! とした。恥ずかしげに赤らめて、潤んだ瞳のルウがかわいすぎる。

「ご主人様は根を詰めすぎです。新しい研究目標や創りたい魔法をポンポンポンポンポンポンポンポンおもいつきすぎです。魔道士試験は一段落して、最後の試験を受けられるか受けられないかわからないのにそのようなことをされるよりも、一旦ゆっくり過ごす時間を持とうとなさらなすぎです」
「うん・・・・・・」
「ご自分の夢や目標に一生懸命すぎてもいけない、息抜きや休む時間を持ってほしいという奇特で優しすぎる奴隷なりの心配りです。奴隷にわざわざそのような心配をさせるほどご主人様は突き進みすぎているのです。変人なのです。頭がおかしいのです。ついでに変態です」
「うん・・・・・・」 
「ですから――――」

 そこで一旦、ルウは話を中断させた。

「いけませんか?」
「ん”ん”ん”~~~っっ!!」

 キュンキュンッッッ!! とした。さっきよりもかわいさの破壊力が凄まじい。

 はぁ・・・・・・産まれてきてよかった・・・・・・。
 
「ありがとうルウ。さすがは婚約者だな」
「は?」
「よし、じゃあ食べようか」

 考えてみればルウとこうして穏やかな時間を過ごしたことってあまりない。婚約者としても相思相愛としても、それはだめだろう。反省しなければいけないな。これから末永く年老いてもずっとずっと一緒になるんだから、今から変えないといけない。

「あの、ご主人様。この前からおっしゃっている婚約者とは?」

 はは、ルウはおかしなことを聞くなぁ。

「婚約者っていうのは、結婚を約束した人のことだよ。まさに俺とルウのことじゃないか」
「え?」
「求婚をしてそれを受け入れて夫婦になる約束をした男女は婚約したとか婚約状態なんだ」
「え?」

 そうだ。これを機に将来のことを二人で話しておかないと。式はいつにするかとかどんな家庭にしたいかとか。子供のこととか。だとするなら住む場所も引っ越さないと。
 
 認識の違いを摺り合わせるのがどれだけ大切か。さっきのルウとアンナの話が証明してくれたし。そのせいで衝突や問題も発生するだろうし。今このときから備えておかないと。

 でも、そんな風に

「ご主人様。つまりどういう――――」

 ドンドンドンッ! と荒々しすぎる玄関からのノック。幸せ夢見心地の時間を邪魔する来訪者が恨めしくなる。

「失礼いたします」

 ルウが誰かたしかめに行ったけど、誰だ。こんな夜に。イチゴを一つまみ口に放り込みながら来訪者の可能性がイメージとして次々と浮かぶけど、どれも理由がおもいいたらない。

「あなたは――ー」

 ルウがすぐに帰ってこない。もしかして、知り人だったのだろうか? シエナか? でも、あいつは帝都の外に行くって言ってたし。

「ルウ、誰なんだ?」

 訝しんでいると、人の気配が近づいてくる。ルウが家に招き入れたのか。だとしたらますます誰なのかがわからない。

「ここが魔道士を志す者の住処か」

 姿を現した男は、予想だにしなかった相手すぎて言葉を失った。

「お前がどうしてここに!?」

 アコーロン。魔道士オスティンに従っている。

「ご、ご主人様・・・・・・うう・・・・・・」

 ずりずりと這ってきたルウは体の自由だけでなく意識も失いかけているのか。頭がもたれそうになる度に抗い、普段以上に閉じられている瞼に逆らっている。

「安心しろ。ただの魔法薬だ」 
「なにしにきやがった!」

 どうあっても、穏便な目的ではない。『紫炎』を発動したと同時になにかを取り出し、投げつけられた。ハンカチと一緒になってなにかの粉末が散らばる。
 
「本意ではない。だが仕方ないだろう。命令なのだから」

 粉末が、ポポポポポと即座に姿を変えた。種、花びら、蔓、枝。きっと種類はバラバラ。『復元』で元に戻された植物の特徴に、ある魔法薬を連想する。効果と製造法におもいいたり、そして自らの浅慮を後悔した。

 まずい、とおもったときには掌から放出してしまった『紫炎』が直撃、燃え尽きる前に生じた煙が鼻と口、目から侵入し、想像どおりの症状に襲われた。 

 抵抗できないほどの眠気と体中の痺れ。通常なら治療に使われる魔法薬。今まさに意識を失いかけている魔法薬の製造を、俺自らしてしまった。

 アコーロンは最初から俺の魔法込みで、気絶させる手段を用意していた。周到なやり方に、そしてまんまと引っかかってしまった。

「ご、ごしゅ、・・・・・・」

 ルウが力尽きた。そちらのほうへ意識をむけることさえできず、体の自由が奪われていく。

「荒っぽくなっているのは認めよう。だが起きたときには、意味を理解できているだろう。これから連れて行く場所が場所なのでな」
「て、めぇ・・・・・・なにが目的だ・・・・・・どこへ・・・・・・」
「試験だ」

 試験? なんのことだ。 舌がもつれ、疑問はアコーロンに届きはしない。
 
「魔道士になるための最終試験。今日説明していただろう?」 

 失いつつある意識の最後に、とりあえずアコーロンは絶対ぶん殴る。それだけ自分に言い聞かせた。
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