魔道士(予定)と奴隷ちゃん

マサタカ

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二十五章

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「私は産まれて間もない頃、修道院に預けられたそうであります」

 アンナが語りはじめたのは、魔法ではなくまず己の境遇だった。

「修道院ではときとして、子供を育てられぬ人がこっそりと預けるそうでございます。もしくは貴族や王族が事情によっては」

 預けられた側は、預ける側の事情なんてわかるわけがない。往々にして権力者が子供を預けるときというのは、碌でもないことであると経験則で知っているのみだから、知ろうともしない。ただ、慈しみ育てるはずの親と子供を哀れむだけ。

 だから、修道院で暮している子達は自分の出自や家についてもわからないまま成長する。それは、己の中にある魔法士の才能も同じ。自分の魔力と魔法を扱える才能に気づかず、埋もれさせたまま一生を終える。

 アンナも、そうだった。そのはずだった。

「私は動物や魔物という存在は物語の中でしか知り得ないものでした。おそろしく、人を襲うと聞いておりましたのですが、主が言われたように魔物達とも動物達とも仲良くなれれば、と願ったのでございます。どうすれば魔物とお話ができるか一晩中思案したこともございました」

 修道院にいる人は、皆そんなに呑気なんだろうか。普通の学校に通っていれば、普通の暮らしをしていれば魔物のおそろしさは嫌でも聞かされる。外の世界を知らず、限られた場所でしか暮したことのない人々にとっては、むしろそちらのほうが当たり前なのか。

 なんとなく、魔道士試験日のアンナの、初めてお店で食事をしていた姿をおもいだした。あれも、アンナにとっては未知の体験、初めての外の世界だったのか。

「まだ五つか六つか。もっと小さいときかは定かではございませぬが。修道院の近くにある森に出掛けたときがございます。いつも季節ごとの山菜や木の実を修道院総出で一月に一度採りに行くのでございます。そのとき、初めて魔物と出会いました」

「こんにちは。私は挨拶をしました。そして、魔物も挨拶を返してくれました。私はそれが嬉しくてもっとお話をいたしました。修道院の皆は驚いておりましたが、私は神が与えてくれた奇跡であると信じております。それから、瞬く間にお友達が増え、今日に至るのでございます」
「「・・・・・・・・・・・・」」

 懐かしんでいるのか、魔物達が興奮した様子で嘶く。鼻の横を、頭を、アンナが撫でると目を細めてうっとりと喜んでいるのが手に取るようで。

「ってちょっと待て。肝心な部分があやふやじゃねぇか」
「はい?」
「どうやって、魔物と言葉と心を通わせられたのか、どうやってその魔法を完成させたのかわからないままだ」
「ですから、奇跡であると」
「いやいやいやいや。現に魔導書あるんだろ? その魔法を魔導書にしたんだろ?」

 具体的に、どんな魔法なのか理解できていなきゃ魔導書は創れない。いや、そもそも順番が逆か。

「ああ、魔導書は修道院に泊まられた魔法士の方に教えられたのでございます。私とこの子が一緒にいるときをお見かけしたとかで。いくつか質問をされて、それから検査をされまして。私には魔力がある、魔法であると。それ以来、修道院に何度か来られて資料や魔導書を参考にして創ってみてくれと」
「一介の魔法士が、そのようなことをなさったのですか?」
「はぁ。なんでも魔法学院の教員をしていたと。なので、編入してはどうか、魔法についてもっと学んでみてはどうかと乞われたのですが、断りました」

 魔法の才能が、どれだけ大切か。教える側であるからこのままではもったいないと考えたのか。なんにしても熱意が凄い。そんなことよりも、断ったというのが解せない。

「私は信仰に身を捧げる身でございますれば。学院に通っていては修道院の仕事ができませぬし、修道女としての役目もはたせませぬゆえ」
「なんてことを・・・・・・・・・」

 もし俺だったら。迷うことなく受けていた。

「いや、ちょっと待て。結局魔法がどんなものかわからないまま魔導書を創ったってことか? 普通の魔法を使ったことも、まさかないのに?」
「はい。そのとおりでございますよ」
「アンナ様は具体的にどうやって魔導書を完成させたのでございますか? ただ資料を参考にして魔法士に教えられただけではできない代物なのでは?」

 チラッと、俺を窺った。何年も魔導書を、研究をしていた俺と一緒にいるのだから苦労もわかっている。

「それは魔法士の方と使った資料が良かったのでございましょう。拙く学のない私でも創ることができたのは」
「「いやいやいやいや」」
「?」

 きっと、魔導書に描かれている設計図の説明、構築法をこの少女は自ら説明できないだろう。できたとしても、ざっくばらんで、壊滅的に下手なものでしかない。

 なんかもう・・・・・・・・・この子でたらめ。自分が使っている魔法を魔法と認識すらせず、無意識で。それがどれだけ困難で貴重でおかしいことか。常識で計ることさえおこがましいのか。

いうなれば産まれたときから授かった天賦の才。理屈ではなく感覚。頭で考えるのではなくただ本能のままに、身を任せる。大魔導師にさえ敵わないんじゃないか?

 ただ、自分とは違いすぎるのがいるんだなって。少し途方に暮れた。

「ご主人様・・・・・・・・・」

 そして、

「凄いなアンナは」

 グレフレッドに対抗する意志とは違う、敵対心と親しみを覚えた。

 自分より凄い。けど、俺も負けたくない。そういう明確な強敵の登場に、不覚にもワクワクしてしまう。

「はい。そうですね」

 それでこそご主人様です、とルウが安心したように錯覚した。

「私は修道院で暮して今までと同様に生きられればそれでよかったのでございます。信仰と神への祈り。そして教えを広めることができれば。魔法や魔道士など考えてもみませんでした」
「いいじゃないか。面白いし楽しいぜ? なんだったら一緒に研究しようぜ?」
「ご主人様・・・・・・・・・」

 本当にだめだこいつ、と今度は呆れられた気がした。

「いえ。せっかくですが私は信仰以外の無駄な時間は使いたくないのでございます」
「・・・・・・・・・・・・無駄?」
「あ」
「はい。失礼かもしれませぬが。魔法なんていくつあっても創っても、魔道士になっても信仰には役には立ちませぬゆえ。私の生き方には不要なので」
「ほう・・・・・・・・・ほうほう・・・・・・・・・」
「ちょ、アンナ様」

 どうやら徹底的にアンナに魔法とはなんたるか、どれだけ大切で必要で世のために役立つか教えなければいけないようだな。いいだろう。

「修道院の皆様もおっしゃっておりました。魔導書なんかより洗濯や掃除、炊事に役だつ物創れないかと」
「今度その修道院の場所教えてくれ」

 修道院には信仰とか教典だけじゃなく、魔法や一般的な学問もさせたほうがいいんじゃないか? そうじゃないからアンナ達みたいに偏った人間ができあがってしまう。

「フゥ・・・・・・」
「ん”っ」
「ではアンナ様はなにゆえ魔道士試験に?」
「ん”ん”ん”ん”あ”あ”あ”・・・・・・・・・!」

 なにかを察したのか、ぎゅうう、と手を強く、それでいて柔らかく圧し包んでくるルウ。耳に生温かい吐息を吹きかけた直後に、手の甲を尻尾でさわさわしてきた。

 ああ、力が抜けるぅ・・・・・・・・・!

「もしも私が魔道士になれれば国から支給される研究費用が、修道院への寄附金になるそうでございますので」
「もったいない。そんなことに使うお金があるんなら魔法学院に通いなお―――」
「フゥ・・・・・・・・・・・・」
「んぐぁ・・・・・・・・!」
「コショコショコショ(耳で顎と喉を食擽る音)」
「ア”、ア”ア”ア”い”い”い”い”い”い”い”」
「もしそうなれば野菜を食べずともお肉を食べられるのですから楽しみですね」
「いえ。恵まれぬ子供達や使い古された食器、教典と像を直したいのでございますが」
「そうだ俺が学院時代に使ってた教科書も―――」
「サワサワサワサワ・・・・・・(人差し指で手の甲をくるくると円を描くように弄る音)。モフモフモフモフ・・・・・・・・・(ローブの中に尻尾を入れて弄る音)」
「んんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんあああああああああああああああああああああああああいいいいいいいいいい!!」
「ユーグ様は先程からどうされたのでございますか?」
「これは我が主にしか罹らない、魔法と奴隷にしか興味がない変態病の発作です」
「まぁ、お気の毒に」
「ええ、本当にすみません。見苦しく」


 なんか、悶え快感に酔いしれるたびに、俺の評価がとんでもないことになってる気がするけど。


 けど、気持ちがいいからいっか。
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