180 / 192
二十七章
Ⅰ
しおりを挟む
地表を割って現われた魔獣が見境なく暴れている。森を蹂躙し、黒く淀んだ瘴気を撒き散らしている。魔獣の内部から溢れた黒いヘドロ状のなにかが草木を溶かし、ズブズブに腐らせていく。
魔獣がのたうつ度に地面が揺れ、あちこちの地面が断裂し、崩れていく。魔獣の咆哮がビリビリと大気を震わせ木々に罅がはいる。
「なんなのだあれは・・・・・・・・・」
グレフレッドは見上げていた。仮初めの復活を遂げた魔獣がおそろしい姿で、この世を終わらせる古の神のごとく
蹂躙している様を。魔力もなく、魔法が使えなかった彼がなんとか乱暴な手段で脱し、ユーグを追っている最中異変があった。
遺跡が崩れていく間際、あちこちから流れこみ溜めこまれていた地底湖が決壊した。泥も岩も押し流すほどの濁流となった水の勢いに、事情を把握しきれず身体的にもダメージを負いすぎているグレフレッドは抗うことはできなかった。
遺跡の崩壊と魔獣の影響が功を奏し、地盤のあちこちが脆く緩くなっていたのがあって間欠泉のようにあちこちで水は吹きでた。グレフレッドは運よく間欠泉から地上へと生還したのだ。
命からがら生き残ったグレフレッドは、遺産とユーグのことしか頭になかった。魔獣、グレフレッドにとっては骨を纏った黒いヘドロの化け物がなんであれ最優先事項は遺産の確保、試験を合格することだ。
「くそ、これも遺跡の試練か!?」
だとすれば、放置しておくことなぞできない。魔法士ユーグがどうなっているかなんてもう関係ない。自らの魔法を補助する付き人達の安否すら不明な状況に陥っても、グレフレッドは探そうとはしない。もし彼ら付き人が死んだのならば、魔法の関係性でグレフレッドにも感じとれる。
どこまでも己に忠実だったグレフレッドは、命よりも安全よりも、今の自分がどうやってあの化け物に対処するか、遺産はどこにあるのかを考えはじめていた。
例え既にもう戦うことが難しい体となっていたとしても。
「あなた、誰?」
「っ!?」
音もなく気配もなく、いきなり背後に現われた少女に、意識のすべてを奪われる。実に怪しげな少女だ。見つめ続けているとゾクリとする。抜き身の剣を前にしてもこれほど恐怖は覚えない。人間の姿をしているが、作り物めいていて、少女の影がにゅるんと伸びで少女の周りでうねっている。
「お前も・・・・・・・・・遺跡の罠か!?」
「?」
少女が体ごと傾けた首に連動するように、影が動いた。少女が手にしている魔道具に気づくと、グレフレッドは目を瞠った。
「これ、ほしい? あげる」
「なっ!?」
ぽいっと雑に放り捨てた魔道具が地面に落ちる寸前で受止める。その拍子に、体のバランスが崩れて倒れた。
「貴様、どういうつもりだ?」
「?」
「これがどういうものかわかっているのか!?」
「わかって、る。誰よりも。でも、もういらない」
「い、いらないだと!? 貴様は一体なんなのだ!?」
「取りにきた。それだけ。あの子、の力になった」
どうも要領がえない。この少女は、試験とは無関係なんだろうか? だとすれば、少女があの子と指し示したあの化け物は?
「空っぽ、になった。だから、いらない。でも、また溜まる。ご主人様、また創れる。だから、いらない」
いや。この少女が誰であろうがどうでもいい。これが魔道具で、遺産なのはたしかだ。魔力の波動も、魔道具の特徴も触れているだけで現代の魔道具とは一線を画している。
「それ、に。魔法士ユーグ、も終わった。ご主人様、警戒、してた」
「紫炎? がだと?」
「そう。義眼、警戒してた。危ない、言ってた。だから、終わらせた」
「お前は・・・・・・・・・」
終わらせたとはどういうことだ。義眼? 危ない?
「あなたも、終わらせる」
少女が、突如姿を消した。影にどぷんと身を浸すように潜めると、あちこちから影が伸びてきて攻撃を開始する。
「目撃者、殺せ。ご主人様のご命令」
木の影から少女の頭が。目玉が。唇が。浮きでている。影に斬り刻まれる。グレフレッド自らの影が足裏を捉える。雲を纏い、雷を発する。引火した雑草が燃えあがりあちこちから火の手が。
「ぐおおおおお!?」
「しぶとい。めんどう」
「えええええええええいっ!!!」
影に囲まれたグレフレッドは、つい両腕で立ち上がろうとして倒れた。背中に、槍のように鋭い影が殺到する。
「俺は魔道士になるんだ・・・・・・・・・こんなところでぇぇぇっっっ・・・・・・・・・」
グレフレッドは、うつ伏せからゴロゴロと転がり膝と唯一残っている片腕で立った。
グレフレッドは、岩盤に圧し潰されていた右腕を、肩から斬り落としていた。傷口を熱した鉱石で焼き塞ぎ、ユーグを追うつもりだった。
常人にはできない無謀をやってのけたのは、グレフレッドもユーグと同じく魔道士に焦がれていたからだ。片腕を犠牲にしてでも、他人を蹴落としてでも魔道士になる理由があった。
それでも、少女はグレフレッド渾身の攻撃をあざ笑うように避けてしまう。眠そうに欠伸をする始末で、
「しぶとい。めんどう、あの子、やって、もらう」
ごろんと寝転んですうすうと寝始めた。そして、少女が影に沈むと、入れ替わりに魔獣が。
「ふざけるな・・・・・・・・・」
諦めて逃げるという選択肢は、グレフレッドにはなかった。そもそもそんな選択ができるのなら、魔道士を目指すことも最終試験を受けることなんてしなかった。
グレフレッドも、ユーグも、お互い反目していた。しかし、根っこの部分では同じだった。魔法への情熱、魔道士になりたいという願望は。
「俺を舐めるなあああああああ!!」
グレフレッドは、魔獣へとむかっていった。
魔獣がのたうつ度に地面が揺れ、あちこちの地面が断裂し、崩れていく。魔獣の咆哮がビリビリと大気を震わせ木々に罅がはいる。
「なんなのだあれは・・・・・・・・・」
グレフレッドは見上げていた。仮初めの復活を遂げた魔獣がおそろしい姿で、この世を終わらせる古の神のごとく
蹂躙している様を。魔力もなく、魔法が使えなかった彼がなんとか乱暴な手段で脱し、ユーグを追っている最中異変があった。
遺跡が崩れていく間際、あちこちから流れこみ溜めこまれていた地底湖が決壊した。泥も岩も押し流すほどの濁流となった水の勢いに、事情を把握しきれず身体的にもダメージを負いすぎているグレフレッドは抗うことはできなかった。
遺跡の崩壊と魔獣の影響が功を奏し、地盤のあちこちが脆く緩くなっていたのがあって間欠泉のようにあちこちで水は吹きでた。グレフレッドは運よく間欠泉から地上へと生還したのだ。
命からがら生き残ったグレフレッドは、遺産とユーグのことしか頭になかった。魔獣、グレフレッドにとっては骨を纏った黒いヘドロの化け物がなんであれ最優先事項は遺産の確保、試験を合格することだ。
「くそ、これも遺跡の試練か!?」
だとすれば、放置しておくことなぞできない。魔法士ユーグがどうなっているかなんてもう関係ない。自らの魔法を補助する付き人達の安否すら不明な状況に陥っても、グレフレッドは探そうとはしない。もし彼ら付き人が死んだのならば、魔法の関係性でグレフレッドにも感じとれる。
どこまでも己に忠実だったグレフレッドは、命よりも安全よりも、今の自分がどうやってあの化け物に対処するか、遺産はどこにあるのかを考えはじめていた。
例え既にもう戦うことが難しい体となっていたとしても。
「あなた、誰?」
「っ!?」
音もなく気配もなく、いきなり背後に現われた少女に、意識のすべてを奪われる。実に怪しげな少女だ。見つめ続けているとゾクリとする。抜き身の剣を前にしてもこれほど恐怖は覚えない。人間の姿をしているが、作り物めいていて、少女の影がにゅるんと伸びで少女の周りでうねっている。
「お前も・・・・・・・・・遺跡の罠か!?」
「?」
少女が体ごと傾けた首に連動するように、影が動いた。少女が手にしている魔道具に気づくと、グレフレッドは目を瞠った。
「これ、ほしい? あげる」
「なっ!?」
ぽいっと雑に放り捨てた魔道具が地面に落ちる寸前で受止める。その拍子に、体のバランスが崩れて倒れた。
「貴様、どういうつもりだ?」
「?」
「これがどういうものかわかっているのか!?」
「わかって、る。誰よりも。でも、もういらない」
「い、いらないだと!? 貴様は一体なんなのだ!?」
「取りにきた。それだけ。あの子、の力になった」
どうも要領がえない。この少女は、試験とは無関係なんだろうか? だとすれば、少女があの子と指し示したあの化け物は?
「空っぽ、になった。だから、いらない。でも、また溜まる。ご主人様、また創れる。だから、いらない」
いや。この少女が誰であろうがどうでもいい。これが魔道具で、遺産なのはたしかだ。魔力の波動も、魔道具の特徴も触れているだけで現代の魔道具とは一線を画している。
「それ、に。魔法士ユーグ、も終わった。ご主人様、警戒、してた」
「紫炎? がだと?」
「そう。義眼、警戒してた。危ない、言ってた。だから、終わらせた」
「お前は・・・・・・・・・」
終わらせたとはどういうことだ。義眼? 危ない?
「あなたも、終わらせる」
少女が、突如姿を消した。影にどぷんと身を浸すように潜めると、あちこちから影が伸びてきて攻撃を開始する。
「目撃者、殺せ。ご主人様のご命令」
木の影から少女の頭が。目玉が。唇が。浮きでている。影に斬り刻まれる。グレフレッド自らの影が足裏を捉える。雲を纏い、雷を発する。引火した雑草が燃えあがりあちこちから火の手が。
「ぐおおおおお!?」
「しぶとい。めんどう」
「えええええええええいっ!!!」
影に囲まれたグレフレッドは、つい両腕で立ち上がろうとして倒れた。背中に、槍のように鋭い影が殺到する。
「俺は魔道士になるんだ・・・・・・・・・こんなところでぇぇぇっっっ・・・・・・・・・」
グレフレッドは、うつ伏せからゴロゴロと転がり膝と唯一残っている片腕で立った。
グレフレッドは、岩盤に圧し潰されていた右腕を、肩から斬り落としていた。傷口を熱した鉱石で焼き塞ぎ、ユーグを追うつもりだった。
常人にはできない無謀をやってのけたのは、グレフレッドもユーグと同じく魔道士に焦がれていたからだ。片腕を犠牲にしてでも、他人を蹴落としてでも魔道士になる理由があった。
それでも、少女はグレフレッド渾身の攻撃をあざ笑うように避けてしまう。眠そうに欠伸をする始末で、
「しぶとい。めんどう、あの子、やって、もらう」
ごろんと寝転んですうすうと寝始めた。そして、少女が影に沈むと、入れ替わりに魔獣が。
「ふざけるな・・・・・・・・・」
諦めて逃げるという選択肢は、グレフレッドにはなかった。そもそもそんな選択ができるのなら、魔道士を目指すことも最終試験を受けることなんてしなかった。
グレフレッドも、ユーグも、お互い反目していた。しかし、根っこの部分では同じだった。魔法への情熱、魔道士になりたいという願望は。
「俺を舐めるなあああああああ!!」
グレフレッドは、魔獣へとむかっていった。
0
あなたにおすすめの小説
セーブポイント転生 ~寿命が無い石なので千年修行したらレベル上限突破してしまった~
空色蜻蛉
ファンタジー
枢は目覚めるとクリスタルの中で魂だけの状態になっていた。どうやらダンジョンのセーブポイントに転生してしまったらしい。身動きできない状態に悲嘆に暮れた枢だが、やがて開き直ってレベルアップ作業に明け暮れることにした。百年経ち、二百年経ち……やがて国の礎である「聖なるクリスタル」として崇められるまでになる。
もう元の世界に戻れないと腹をくくって自分の国を見守る枢だが、千年経った時、衝撃のどんでん返しが待ち受けていて……。
【お知らせ】6/22 完結しました!
レベルアップは異世界がおすすめ!
まったりー
ファンタジー
レベルの上がらない世界にダンジョンが出現し、誰もが装備や技術を鍛えて攻略していました。
そんな中、異世界ではレベルが上がることを記憶で知っていた主人公は、手芸スキルと言う生産スキルで異世界に行ける手段を作り、自分たちだけレベルを上げてダンジョンに挑むお話です。
異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~
宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。
転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。
良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。
例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。
けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。
同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。
彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!?
※小説家になろう様にも掲載しています。
大学生活を謳歌しようとしたら、女神の勝手で異世界に転送させられたので、復讐したいと思います
町島航太
ファンタジー
2022年2月20日。日本に住む善良な青年である泉幸助は大学合格と同時期に末期癌だという事が判明し、短い人生に幕を下ろした。死後、愛の女神アモーラに見初められた幸助は魔族と人間が争っている魔法の世界へと転生させられる事になる。命令が嫌いな幸助は使命そっちのけで魔法の世界を生きていたが、ひょんな事から自分の死因である末期癌はアモーラによるものであり、魔族討伐はアモーラの私情だという事が判明。自ら手を下すのは面倒だからという理由で夢のキャンパスライフを失った幸助はアモーラへの復讐を誓うのだった。
能力値カンストで異世界転生したので…のんびり生きちゃダメですか?
火産霊神
ファンタジー
私の異世界転生、思ってたのとちょっと違う…?
24歳OLの立花由芽は、ある日異世界転生し「ユメ」という名前の16歳の魔女として生きることに。その世界は魔王の脅威に怯え…ているわけでもなく、レベルアップは…能力値がカンストしているのでする必要もなく、能力を持て余した彼女はスローライフをおくることに。そう決めた矢先から何やらイベントが発生し…!?
SSSレア・スライムに転生した魚屋さん ~戦うつもりはないけど、どんどん強くなる~
草笛あたる(乱暴)
ファンタジー
転生したらスライムの突然変異だった。
レアらしくて、成長が異常に早いよ。
せっかくだから、自分の特技を活かして、日本の魚屋技術を異世界に広めたいな。
出刃包丁がない世界だったので、スライムの体内で作ったら、名刀に仕上がっちゃった。
異世界転生~チート魔法でスローライフ
玲央
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。
43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。
その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」
大型連休を利用して、
穴場スポットへやってきた!
テントを建て、BBQコンロに
テーブル等用意して……。
近くの川まで散歩しに来たら、
何やら動物か?の気配が……
木の影からこっそり覗くとそこには……
キラキラと光注ぐように発光した
「え!オオカミ!」
3メートルはありそうな巨大なオオカミが!!
急いでテントまで戻ってくると
「え!ここどこだ??」
都会の生活に疲れた主人公が、
異世界へ転生して 冒険者になって
魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。
恋愛は多分ありません。
基本スローライフを目指してます(笑)
※挿絵有りますが、自作です。
無断転載はしてません。
イラストは、あくまで私のイメージです
※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが
少し趣向を変えて、
若干ですが恋愛有りになります。
※カクヨム、なろうでも公開しています
ジャングリラ~悪魔に屠られ魔王転生。死の森を楽園に変える物語~
とんがり頭のカモノハシ
ファンタジー
「別の世界から勇者を召喚する卑怯な手口」に業を煮やした堕天使・ルシファーにより、異世界へ魔王として転生させられた大学生・左丹龍之介。
先代・魔王が勇者により討伐されて100年――。
龍之介が見たものは、人魔戦争に敗れた魔族が、辺境の森で厳しい生活を余儀なくされている姿だった。
魔族の生活向上を目指し、龍之介は元魔王軍の四天王、悪魔公のリリス、フェンリルのロキア、妖狐の緋魅狐、古代龍のアモンを次々に配下に収めていく。
バラバラだった魔族を再び一つにした龍之介は、転生前の知識と異世界の人間の暮らしを参考に、森の中へ楽園を作るべく奔走するのだが……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる