魔道士(予定)と奴隷ちゃん

マサタカ

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二十七章

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 地表を割って現われた魔獣が見境なく暴れている。森を蹂躙し、黒く淀んだ瘴気を撒き散らしている。魔獣の内部から溢れた黒いヘドロ状のなにかが草木を溶かし、ズブズブに腐らせていく。

 魔獣がのたうつ度に地面が揺れ、あちこちの地面が断裂し、崩れていく。魔獣の咆哮がビリビリと大気を震わせ木々に罅がはいる。

「なんなのだあれは・・・・・・・・・」

 グレフレッドは見上げていた。仮初めの復活を遂げた魔獣がおそろしい姿で、この世を終わらせる古の神のごとく
蹂躙している様を。魔力もなく、魔法が使えなかった彼がなんとか乱暴な手段で脱し、ユーグを追っている最中異変があった。

 遺跡が崩れていく間際、あちこちから流れこみ溜めこまれていた地底湖が決壊した。泥も岩も押し流すほどの濁流となった水の勢いに、事情を把握しきれず身体的にもダメージを負いすぎているグレフレッドは抗うことはできなかった。

 遺跡の崩壊と魔獣の影響が功を奏し、地盤のあちこちが脆く緩くなっていたのがあって間欠泉のようにあちこちで水は吹きでた。グレフレッドは運よく間欠泉から地上へと生還したのだ。

 命からがら生き残ったグレフレッドは、遺産とユーグのことしか頭になかった。魔獣、グレフレッドにとっては骨を纏った黒いヘドロの化け物がなんであれ最優先事項は遺産の確保、試験を合格することだ。

「くそ、これも遺跡の試練か!?」

 だとすれば、放置しておくことなぞできない。魔法士ユーグがどうなっているかなんてもう関係ない。自らの魔法を補助する付き人達の安否すら不明な状況に陥っても、グレフレッドは探そうとはしない。もし彼ら付き人が死んだのならば、魔法の関係性でグレフレッドにも感じとれる。

 どこまでも己に忠実だったグレフレッドは、命よりも安全よりも、今の自分がどうやってあの化け物に対処するか、遺産はどこにあるのかを考えはじめていた。
 
 例え既にもう戦うことが難しい体となっていたとしても。

「あなた、誰?」
「っ!?」

 音もなく気配もなく、いきなり背後に現われた少女に、意識のすべてを奪われる。実に怪しげな少女だ。見つめ続けているとゾクリとする。抜き身の剣を前にしてもこれほど恐怖は覚えない。人間の姿をしているが、作り物めいていて、少女の影がにゅるんと伸びで少女の周りでうねっている。

「お前も・・・・・・・・・遺跡の罠か!?」
「?」

 少女が体ごと傾けた首に連動するように、影が動いた。少女が手にしている魔道具に気づくと、グレフレッドは目を瞠った。

「これ、ほしい? あげる」
「なっ!?」

 ぽいっと雑に放り捨てた魔道具が地面に落ちる寸前で受止める。その拍子に、体のバランスが崩れて倒れた。

「貴様、どういうつもりだ?」
「?」
「これがどういうものかわかっているのか!?」
「わかって、る。誰よりも。でも、もういらない」
「い、いらないだと!? 貴様は一体なんなのだ!?」
「取りにきた。それだけ。あの子、の力になった」

 どうも要領がえない。この少女は、試験とは無関係なんだろうか? だとすれば、少女があの子と指し示したあの化け物は?

「空っぽ、になった。だから、いらない。でも、また溜まる。ご主人様、また創れる。だから、いらない」

 いや。この少女が誰であろうがどうでもいい。これが魔道具で、遺産なのはたしかだ。魔力の波動も、魔道具の特徴も触れているだけで現代の魔道具とは一線を画している。

「それ、に。魔法士ユーグ、も終わった。ご主人様、警戒、してた」
「紫炎? がだと?」
「そう。義眼、警戒してた。危ない、言ってた。だから、終わらせた」
「お前は・・・・・・・・・」

 終わらせたとはどういうことだ。義眼? 危ない? 

「あなたも、終わらせる」

 少女が、突如姿を消した。影にどぷんと身を浸すように潜めると、あちこちから影が伸びてきて攻撃を開始する。

「目撃者、殺せ。ご主人様のご命令」

 木の影から少女の頭が。目玉が。唇が。浮きでている。影に斬り刻まれる。グレフレッド自らの影が足裏を捉える。雲を纏い、雷を発する。引火した雑草が燃えあがりあちこちから火の手が。

「ぐおおおおお!?」
「しぶとい。めんどう」
「えええええええええいっ!!!」

 影に囲まれたグレフレッドは、つい両腕で立ち上がろうとして倒れた。背中に、槍のように鋭い影が殺到する。

「俺は魔道士になるんだ・・・・・・・・・こんなところでぇぇぇっっっ・・・・・・・・・」

 グレフレッドは、うつ伏せからゴロゴロと転がり膝と唯一残っている片腕で立った。

 グレフレッドは、岩盤に圧し潰されていた右腕を、肩から斬り落としていた。傷口を熱した鉱石で焼き塞ぎ、ユーグを追うつもりだった。

 常人にはできない無謀をやってのけたのは、グレフレッドもユーグと同じく魔道士に焦がれていたからだ。片腕を犠牲にしてでも、他人を蹴落としてでも魔道士になる理由があった。

 それでも、少女はグレフレッド渾身の攻撃をあざ笑うように避けてしまう。眠そうに欠伸をする始末で、

「しぶとい。めんどう、あの子、やって、もらう」

 ごろんと寝転んですうすうと寝始めた。そして、少女が影に沈むと、入れ替わりに魔獣が。

「ふざけるな・・・・・・・・・」

 諦めて逃げるという選択肢は、グレフレッドにはなかった。そもそもそんな選択ができるのなら、魔道士を目指すことも最終試験を受けることなんてしなかった。

 グレフレッドも、ユーグも、お互い反目していた。しかし、根っこの部分では同じだった。魔法への情熱、魔道士になりたいという願望は。

「俺を舐めるなあああああああ!!」

 グレフレッドは、魔獣へとむかっていった。
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