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二十八章
Ⅲ
しおりを挟む激痛と、誰かの叫び声。俺自身が発しているのだと自覚していながらもとめることができない。目の奥が尋常ならざる悲鳴をあげ、脳がひりつくようだ。
「があああ………ああ………! はぁ、はぁ………」
「ユーグ様?」
「あ、はぁはぁ………アンナ?」
両方のまなこが、しっかりとアンナの顔を捉えた。まだ疼く痛みがマシになることはなく、義眼と左目で映っている景色の差に吐き気すらしてしまう。
「呆れたぞ。まさか本当に生き返るとは」
「あ、アコーロン?」
「ああ、ようございました………」
状況がうまく読み取れない。俺はたしか遺跡の奥で遺産を。それで少女が。魔獣の骨が。
「貴様は、仮死状態に陥っていた。それで義眼を嵌めこんだら生き返ったのだ」
「生き返った? 俺が?」
「そうだ。心臓も呼吸も脈も完全に停止していたにも関わらずだ」
「……………………………………どうして?」
「知るか。貴様の体で魔法だろうが」
おかしい。だって俺の義眼は摘出したらそれだけで死んでしまうほど密接に複雑に俺と繋がっていた。なのにそんな簡単に生き返れるほど取り外しができるんだったら苦労なんてしていなかった。
「まだ俺にも解明できていない謎があるのか………? だったら………」
「あの、ユーグ様?」
義眼の研究について深い思考の奥に落ちようとしていたけど、鼓膜を破り肌にびりびりとした狼の遠吠えによって強制的に中断された。なんだと振り向くと魔獣と同じほどの大きさの狼と、そして巨人が戦っていた。
「なにあれ?」
「オスティン様だ」
「は?」
「そして片方は貴様の奴隷だ」
「………は?」
意味がわからない。
「ルウがなんであんな筋肉ダルマの巨人になってるんだ!? まさか呪いか!?」
「逆だっっっ!!」
「ルウさんはユーグ様が死んだとき、とても悲しんでおられました。ですが、そのあとあのようなお姿に」
「え、えええええ?」
どういうこと? なんでルウがあんな大きな狼になって、筋肉の巨人になったオスティンと戦ってるんだ? というかここどこだ? 森でも遺跡でもなくて、なんだか戦場跡みたいだ。
「これ、がご主人様がおそれていた、魔法士ユーグ。なんだ、か。残念」
ふと気がつくと、魔獣を復活させた少女が影に半分身を浸すようにして、こちらを眺めていた。
「自分、の。奴隷のことすら把握、してない。判断力、分析力、劣ってる」
「つまり、私、のご主人様、が上」
えへん、と胸を少し逸らし、どや顔をしている。
「あいつのことはこちらでする。早くなんとかしろ。貴様の奴隷だろうが」
「な、なんとかって。ええ~~~?」
「このままでは貴様の奴隷を殺すことにもなりかねんぞ。オスティン様は躊躇っておられるが」
「………なんだと?」
「貴様の奴隷は、世界を滅ぼす力を秘めている種族だった。できるだけ殺したくはないだろうが、あの人も最後には自分を優先する。ならば仕方ないだろうよ」
「………………………」
「あ、ユーグ様?」
まだ義眼がきちんと正常に戻っていないのか。ただ立っただけでとんでもなく激痛がはしる。
「アンナ、アコーロン。少し手伝ってくれ」
一人では、ルウの元へ行くなんてできないかもしれない。
「わ、私でよければ。ですが大丈夫でございますか?」
肩を貸してくれるアンナと、少女を見張るつもりらしいアコーロンに視線を。
「いいか、アンナ。一つ覚えておいてくれ」
世界が滅ぶ? どうでもいい。
力を秘めている種族? どうでもいい。
ルウは俺にとってただの大切な女の子だ。
その子を殺す羽目になるだなんて、見過ごすことなんてできるわけがない。
「俺はルウのためだったらなんでもできるんだよ。死ぬことさえ惜しくない」
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