魔道士(予定)と奴隷ちゃん

マサタカ

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二十八章

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 アンナは腰を抜かした。アコーロンは一息漏らした。ユーグがどのようにしてしたのか彼らはわかっていない。それでも、魔獣の姿が徐々に小さくなっていって、オスティンも元に戻った。そしてしんと静まり返ったから終わったのだと察した。

「ああ、ユーグ様の愛がルウさんに通じたのですね神よ………」
「いや。きっとあいつが『念話』を発動したんだろう」
「はて。『念話』とは?」
「魔法士ユーグの魔法だ」
「そうなのでございますね。そのような力があるとは魔法とは奥深いものでございます」

 修道女であるアンナが、実に魔法士らしいことを口にしたのでアコーロンは首を捻った。たしかこの子は魔導士にさほど執着していたわけではないのに。

「オスティン様は、大丈夫でございましょうか?」
「放っておいていい。きっと今頃は自分の魔法の反動で全身の血という血があちこちの穴から噴出してあらゆる病が併発して死にかけているだけだ」
「なんという! こうしてはおられません!」
 
 ピュー! と走りだしたアンナが転んだ。アコーロンは改めて周囲を見まわたした。

 木々も草花はすべて消えている。地はあちこち長くぐにゃぐにゃの割れ目が入るか崩れているか地層が断裂しているか陥没かしていて数時間前にここが森であったなんて誰も信じられないだろう。どう見ても荒野だ。

 オスティンはこの惨状をどうするのだろうか。まさかまた自分が無茶ぶりをされるのだろうか。どうか勘弁してほしい。

「むうぅぅぅ………」

 いや、この荒野の原因となった少女がいるのがせめてもの救いか。ユーグの魔法により、操っていた影に体の半分ほど沈んでいるところでとまっている彼女は、恨めしそうに睨んでいる。念のためアコーロンは急ごしらえのロープで手足を拘束してはいるが。

「それで? 貴様は誰だ?」

 できるだけ今のうちに終わらせておきたかったアコーロンは、無駄だとわかってはいても少女に尋ねていた。

「むぅぅぅ、お腹すいた………」
「素直に喋れば食事くらいはやれるが」
「帝国の、まずいごはんいらな、い」

 こいつは………。どうしてくれよう。

「きゃあああ!!」

 アンナのすぐ真下から黒い鎌が生えている。アンナの頭上から鋭利な刃先を傾けさせている。あのまま振り下ろされればアンナは両断されてしまうだろう。アンナの影を、少女が操ったのだ。

「くそ、あのやろう気を抜きやがったか!?」

 少女の影を操る魔法は、ユーグによって制御を奪われているはず。

「モーガン、は。私達のところに、いる」
「………は?」
「あなたの、ある、じ。モーガン。私、の。ご主人様のところ、いる」
「なんだと!?」

 一瞬の逡巡がアコーロンの中で激しく惑わせた。アンナ目がけて勢いよく落下していく鎌を眺めているしかなかった。

「あら??」

 黒い影の鎌が、地面にめり込んだ。

「あ、あらまぁ?」

 見覚えのある、小さな雲。ずももももも、と纏わりくっついているアンナはそれに気づかずに宙をふわふわと漂っている。バランスを崩して左右前後に回転してしまっている。
 
「貴様は、グレフレッドか?」
「………外したか」

 アンナの影が更に二本の槍と剣を形成し、アンナを攻撃しているが届いていない。上空へと昇っていくにつれて小さくなっていく影の面積に比例して影の鎌らが小さくなっていく。

「………もう、いい………」

 ブチっと、。アコーロンが持っているロープが崩れたのを感じた。少女の体が残像さながらに影に消えた。


「とっくに逃げたとおもってたが」

 少女の姿と気配、なによりアコーロンたちへの危害がないところをみると撤退したらしい。惜しいことをしたとアコーロンはおもい、邪魔をしたグレフレッドに感情を隠して尋ねた。

「魔法に必要な付き人を探しにきただけだ。一々新しい者に刻むのが面倒になっただけだ」

 と言いながらも、グレフレッドはアンナを忌々し気に、そしてどこか熱を帯びた瞳で睨んでいる。

「ところで、紫炎の死体は?」
「生きている。あいつは」
「は?」
「なんだったらあっちに行ってみればいい。今頃は奴隷と愛を深め合っているんじゃないのか」
「………くそ」

「あの、お助けを~~~~」
 
 ともあれ、今後どうなろうとこれですべて終わったとアコーロンはおもった。
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