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七章

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 屋上に繋がる扉の施錠は、不自然な壊れ方をしていた。ゴクリと覚悟をして、音をたてずに開ける。

「あ、遅かったじゃ~~ん」

 手すりに背を預けながら肘を置いている傲岸不遜な態度。でもどこか似合っている。髪の毛を染めていて派手で濃いめの化粧。着崩した制服と短いスカート。ぞくにギャルと呼ばれる類いの生徒だ。

「もちっとこっち来なって。別にとって食べたりしないんだし~~。んなオークかドラゴンみたいなことウチができるわけないっしょ?」
「お前は誰だ?」

 一定の距離を保ちつつ、油断しないで対峙する。女神フローラ、元・魔王。そして俺。三人とは違う異世界から来た存在を前にしてなんの警戒もなしにいられるわけがない。

「ん~~? ウチがわかんない? ま、そりゃそっかぁ~。お互い全然変っちゃってっしね~~」

 あははは、と馬鹿笑いをしている。この世界に慣れきっているからこその素の性格なのか。それとも演技なのか皆目見当がつかない。それこそ魔王側だったのか、勇者側だったのか。

「手紙書いたのって、お前か? 勇者ジンとか変な文字で書かれてて意味不明だったぞ」
「昨日、聖剣使ってたっしょ? 工事現場で」

 瞬時で。相手の出方を探ろうとしたこちらの意図を看破されたのか。身に覚えのありすぎる俺は次の一手に出られなくなった。

「つぅかじゃあなんでウチが屋上で待ってるってわかったわけ~~? エルフ文字だったのに~~」
「・・・・・・」
「それに、その手紙呪いかけてあっから。もうすぐ燃えちゃうぞ?」
「っ」
「ぎゃははは! 嘘嘘~~! 下手なごまかしかたはやめなって~~! 今手紙捨てたのがなによりの証っしょ?」
「く・・・・・・」
「まぁ昔は敵同士だったわけだし? そんな反応しちゃうのもしょうがないけど?」

 完全に手玉にとられている。まぁいい。これから態勢を立て直してできるだけ優位に情報を――――

「ハァ・・・・・・まぁいっかぁ~~。ウチはエルフだよエルフ。ダークエルフの」

 ・・・・・・・・・。

「魔王軍四天王のダークエルフ、ラサウェルか!?」 
「うん、そそ。今は新藤 白亜って名前だけど」

 こいつ、ノリが軽い! というかなんで自分から正体ばらす!?

「いやぁ、こんな形で再会すんとはねぇ~~。マジヤバ。鬼テンションだわ。元気してた?」

 なに昔の級友に久しぶりにあったテンション。俺達敵同士だったんだぞ? 俺お前の主殺してるんだぞ?

「まぁ昔はいろいろあったけど? お互い様ってことで。つぅかあんたのせいで魔界崩壊したし? ウチも人間に追われたりしてたけど。マジ反省してるってかんじ?」

 口調のせいで悲惨さも反省も微塵もかんじられねぇよ。

 ラサウェルといえば強欲。傲慢。策謀と知略を駆使して呪いと魔法の罠を駆使していた。魔王の参謀的役割を担って俺達を散々苦しめていた、闇に落ちたエルフだ。

 何度も戦い、嫌というほどこいつを知り尽くしている。なのに。

「つかここ風強くね~? マジまんじすぎるわ~~」
 
 ラサウェルだったときのこいつと今目の前にいるギャルが結びつかねぇよ!

「お前本当にラサウェルか?」
「お? 疑ってるかんじ~~? なら証拠見せるっしょ」

 ポケットから取りだしたのは飲みかけのペットボトル。蓋を開けて、地面に零す。ブツブツとなにか呟いたとおもったら水の色が変った。ヘドロとは違う自然食とはかけ離れた黒ずんだ紫。シュウウウウ・・・・・・と緑色の煙をもくもくと発生させてボコ、ボコ、と泡が。

「ほい、毒沼の完成っしょ」
「すぐに消せええええ!」

 匂いを嗅いだだけで窒息する毒の瘴気が風に吹かれてこっちにくるだろ!

「ええ~~? じゃあ迷宮の呪いにすっか~」
「こんなところで遭難させる気かああああ!」
「じゃあ無限の太陽の魔法でい?」
「干からびるわ! カハラの砂漠で何人死んだとおもってんだああ!」
「じゃあなんなら納得するわけ~~? まじムかチャッカインフェルノオオオゥすんぜんなんだけど~~」
「とりあえず死なない魔法って選択肢をとれやああ!」

 不平を垂れるラサウェルにツッコみ疲れた俺はもういい、と座りこむ。

「それで、ラサウェル。お前なにが目的だってんだ?」
「古っ! いつの時代!? 縄文人かっての! マジウケる! ウチはもう新藤白亜だし! あっはっははは!」
 
 どうしよう。こいつのこのノリついていけない。

「まぁ? たしかめたかっただけだし? あんたになんかするつもりないっしょ。それほど暇人じゃないし」
「本当か?」
「そそ。現代のギャル舐めんなっつの。このメイクと髪整えんのに何時間かかってるんだっつの」

 かつての仇敵である俺はお前のメイクと髪にすら劣るのか? 

 別にいいけど。別にいいけどちょっとショック。

「まぁ~~、最初は魔王様とか探してたけどもう諦めてんし? 魔法もあんま使えんし? それに遊んだりダチとメイク盛ったりファッション追ったりタピったりするほうが楽しいし?」

 かわいそう。かつての部下に諦められてる委員長かわいそう。今度お菓子あげよう。

 というか。なんでどいつもこいつも転生してやがんだよ。なに? 異世界人の転生流行ってんの? それとも異世界人って転生するものなの?

「お前は他に誰か知ってんのか? 俺達みたいに転生してるやつは」
「ん~~? シラネ。まぁウチが死んだあとはどうなったかなんて。まだ研究途中の魔法を咄嗟に魔王様に使うのに精一杯だったし?」
「そうか」

 ん?

「まぁウチが自分にかけるときも文書も記録も残す余裕なかったし」
「なぁ。ラサウェル。いや新藤白亜」
「あ? どしたべ?」
「まさか転生の魔法ってお前が創ったのか?」
「そそ。そんとおり。すごくね? まじやばくね?」

 あ~~~。なるほど・・・・・・

「ってなるかああああああああああああ!!」
「うわ。どしたし?」
「お前のせいで! お前のせいでええええ!!」

  すべての元凶である存在を前にして、荒ぶることを抑えるなんてこと無理だ。
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