Catch-22 ~悪魔は生贄がお好き?~

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本編

生贄娘は魔窟がお似合い-1

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 グラウンドは活気に満ちている。
 色々な声が響き、紗綾は圭斗が一緒で良かったと思った。
 一人であれば辿り着く前に引き返していたかもしれないが、物怖じしない彼がいれば心強いものだ。

 一応、陸上部の面々とは面識がある。皆、気さくでいい人ばかりだと紗綾は知っている。
 順調に入部希望者が集まったようでもあった。人数が多く、いつも楽しそうな彼らを紗綾も少し羨ましく思っていた。
 だが、それはオカ研が嫌だということではない。圭斗も入ってくれたのだ。


 邪魔にならなそうな、けれども、よく見える場所に紗綾は立ってみる。
 目立たないようにと思っていたのに、すぐにその視線とぶつかった。
 思わず紗綾はぺこりと頭を下げる。
 すると、その人物は隣に立っていた人物に何事かを言い、駆け寄ってくる。

「どうしたの? 紗綾ちゃん」
「こんにちは、将也先輩」

 穏やかな笑みを浮かべるその男こそ陸上部の部長、司馬しば将也まさやである。

「まさか、また黒羽にいじめられた? それとも、まさか、セクハラ?」

 将也とは香澄を通して交流があり、十夜とクラスが同じということでオカ研の事情にも多少通じているところがあり、相談に乗ってくれる相手でもある。
 しかし、わざわざ助けを求めるために部活中に押しかける勇気を紗綾は持ち合わせていなかった。
 部活中でも何かあればすぐに駆け付けると将也に言われたこともあるが、紗綾は本気にしていなかった。

「あ、あの、そうじゃなくて……今日は帰ってもいいって言われたんです。だから、見学してもいいですか? 少しだけ……すぐに帰りますから」
「全然いいよ。むしろ、大歓迎。一部の士気が物凄く上がりそうだし」
「ありがとうございます!」

 にっこりと微笑まれれば、拒まれないことにほっとする。

「うちには呪いとか馬鹿なこと信じている人間はいないしね。新入部員もその辺りはちゃんと躾けておくから、安心していいよ」

 そして、将也は圭斗へと視線を向ける。

「お隣の子は、もしかして……田端君の敵、なのかな?」
「どうも。まあ、一方的に敵視されてる感じっス」

 敵という言葉に嫌そうにするわけでもなく、圭斗は肩を竦めて笑った。
 早速、香澄が相談したのだろうと紗綾は察する。何と言ったかはおおよそ予想が付く。
 あれから香澄はよくぼやいているのだ。

「田端君も悪い子じゃないんだけど、ね。ちょっと気が強いっていうか、過保護っていうか……僕にもちょいちょい冷たいしね」

 将也は苦笑混じりに言う。
 紗綾にとって将也は香澄の保護者という見方もある。
 保護者の保護者、本当に困ってしまった時に行き着くところである。

「僕もあんまり心配しないようには言ってるんだよ?」

 言っても全然聞いてくれないんだけどね、と将也は肩を竦めて笑う。
 香澄は将也をイケメンなどと表現する割にはあまり好意的でないように感じられる部分もある。

「私が香澄に頼り過ぎちゃうからいけないんです」

 元々人付き合いは得意ではなかったが、高校に入ってからはそれもひどくなり、香澄がいなければ息もできないと思うことがある。
 それではいけないとわかっているのに抜け出せないまま、諦めたいのかもしれない。
 オカ研の生贄になってしまったことが人生最大の不幸、転落したまま這い上がれないのだと。

「まあ、君の運の悪さを田端君が少し持っていってくれればいいんだけどね」
「でも、香澄には貧乏くじは寄り付かないと思います」
「確かにそうだね。君の分まで吹き飛ばしてくれれば良かったのにね」

 紗綾がいかに不運かは将也も知っている。
 そして、香澄が不運を弾き飛ばし、運を引き寄せるタイプだということも知っている。
 けれど、二人が一緒にいたところでうまくいくわけでもない。
 不運が香澄にうつらないのは紗綾としても良いことなのだが、幸運も決してうつってはくれないのだ。
 まるで不運は紗綾のもの、幸運は香澄のものと決まっているかのように。尤も、紗綾はそれで香澄を羨ましく思っても恨めしく思ったことはない。感謝しているのだ。

「じゃあ、ゆっくり見学していって。もっと近くに来ても構わないから」

 ニコリと優しい笑みを見せられ、紗綾はほっとしながら頷いた。
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