Catch-22 ~悪魔は生贄がお好き?~

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本編

生贄、誕生-2

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 既に十夜は仏頂面でソファーに座り、光は菓子をつまみながら漫画を読んでいた。

「さて、黒羽、お前は別の方法を試してくれたかな?」

 十夜が文句を言う前に嵐は問うた。

「結果は同じだ」
「ってか、クロちゃん顔色悪くない? 何かあった?」
「貴様には関係ない」

 十夜は撥ね退けたが、確かに彼の表情は良くなかった。
 自分が正しいことを証明するために徹夜でもしたのだろうか。
 いや、まさか。紗綾は思うが、真相を聞けるはずもない。

「うわっ、冷たい! 聞いた? 同じ部の仲間なのに、部長なのに、先輩なのに、ひどいと思わない? 思うよね? ひどいひどーいっ!」

 光は大袈裟なリアクションをするが、誰も気にしない。
 彼のオカ研での位置付けとはそういうものらしい。オカ研に限らないかもしれないが。

「卑怯だとは思わないんですか?」
「卑怯? じゃあ、田端はさ、俺達が悪いと思うの? 何もしていないのに」
「でも、紗綾だって何もしてません!」

 彼らが悪くないなら誰が悪いと言うのか。
 否、誰も悪くないとしても香澄は怒りをぶつける先がほしいのだろう。

「彼らは魔女狩りをしたいんだよ」
「魔女狩り……?」

 あまりに現実的でない言葉、いつの話をしているのだと紗綾は思う。
 それは、やはり香澄も同じだったらしい。
 わけがわからないとその顔に書かれているようでもある。

「異能者を認めたくないの。君と同じで信じないの。だから、異端者と忌避する。俺たちも別にそれでいいし、恨みもしない」
「私は大丈夫です」

 意を決して紗綾は言う。
 もう怖くはなかった。
 ずっと考えてみたが、違う誰かが自分の代わりになる姿を見ることの方がきっと怖いのだ。

「じゃあ、契約成立ってことで、付添い人にはそろそろ出て行ってもらおうかな? あとのことは俺たちに任せてほしいし、君にだって行くところがあるよね?」

 話を纏めるためだけの、それだけの時間だった。
 ついてきたのは香澄の意思だが、彼女には用があった。
 陸上部に行くはずが、妙なことに巻き込まれているのである。そう考えると彼女にも不幸がふりかかってしまっているとも言えるのかもしれない。

「変なことしたら承知しませんからね!」

 香澄は納得しているとは言い難い様子だったが、もう何も言うまいと思ったようだった。

「あ、陸上部入るなら、副部長の二年の司馬ってやつと仲良くしておくといいと思うよ」
「ご親切にどうも」

 その司馬も関係者なのか。けれど、それを香澄は聞こうとはしなかった。
 だから、紗綾も聞かない。

「私は味方ですから。そこのところお忘れなく。いえ、紗綾の、紗綾だけの味方ですけどね! 紗綾、何かあったらすぐに呼んでよね、絶対に全速力で駆け付けるからね!」

 立ち上がり、威勢よく香澄は言った。まるで捨て台詞である。

「何かあった時にはサービスしてあげるよ」

 嵐はひらひらと手を振って香澄を見送る。
 何か、というのは聞くまでもないだろう。


 結局、何かの間違いだったと言われるわけでもなく、紗綾は正式に生贄になった。
 最初の頃こそ、十夜は自分の力に間違いがないことを証明しようとしていたが、すぐにそれも止めた。無駄だと気付いたのだ。
 歓迎会で魔女――毒島鈴子に散々罵倒されながら、彼女が後に認めた理由を説き明かそうとして、できなかった。
 だから、未だに誰もわかっていないのだ。オカ研にとっての最大の謎を解き明かす者はいない。
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