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本編
魔女のお仕事体験-1
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歓迎会という名のサイキック研修は始まってしまった。
鈴子が受けた依頼を遂行するのが部員の役目となる。
生贄はその中でサイキックとしての能力を試されることになり、部員も力が衰えていないか審査される。
今回は生贄が二名になってしまったがために、そのどちらかを切り捨てるための試験でもある。
しかし、一方的に試されるだけであって、指導はないのだから、やはり洗礼だと紗綾は思う。
敢えて言うならば、この歓迎会は魔女にとって都合良くできているわけだ。
今回の依頼人は田中善博、美和子夫妻である。
彼らが直接霊障に悩んでいると言うよりは近隣住民を代表してのことのようだった。
依頼内容は森の中の廃屋に巣くっているらしい悪霊を退治してほしいとのことだ。
取り壊しに際して奇妙な事件が続いたことだった。解体にあたった人間が相次いで体調を崩したり、怪我をしたりしたということらしい。
偶然だと言う者もいたが、元々、その森は自殺者が多発していたため、鈴子の元に連絡があったのだ。
そして、田中夫妻はアシスタントとしての部員の同行を快く承諾し、多少遠出になることを考えて寝床まで提供してくれたというわけだ。
夫妻の間には、中学三年生になった娘があり、歳の近い紗綾達を歓迎した。外から客が来ることも珍しいのだと言う。
その様は歓迎会というのも強ち間違いでもないかもしれないと思うほどだ。少なくとも田中家には歓迎されていると言える。
用意された部屋で、紗綾は制服から私服に着替えた。
圭斗はどうせ着替えさえられるなら最初から私服にすればいいと言ったが、これには意味がある。
制服を着るのも、学校から出発するのも、あくまで学校行事であることを強調しようとしているわけだ。
強いて言うならば、魔女の使いではなく、学校の使いなのだ。
魔女が窓口になって、任されているだけで、厳密には彼女のビジネスではない。
着いたのは昼前、一行はまず田中親子が用意した昼食を御馳走になった。
美和子が張り切って作ったと言う料理は決して豪華な食材を使ったものではないが、全てが美味しく、これがおふくろの味と言うものだと紗綾は思った。
実の母が作ってくれないような定番の和食メニューが並んでいた。
今は詳しい話を鈴子と嵐と十夜が聞いている。
報告義務のある人間と指揮する必要のある人間、そして、その後継者になる人間だ。彼らにはそれぞれ責任というものがある。
ふと、圭斗とリアムと休憩をしていた紗綾が視線を感じて振り返れば、善美が手招きをしていた。田中夫妻の娘である。
「ねぇ、あんた、名前、何て言うんだっけ?」
「月舘紗綾だよ」
「紗綾って呼んでもいい?」
無邪気な善美に紗綾は頷く。
食事の席ではあまり話さなかったが、今は興味津々といった眼差しを向けてくる。
夫妻が本当は明るい娘だと言っていた通りである。
「全然それっぽくないけど、紗綾も霊能者なの?」
「私は違うよ」
「ふぅん、そういう集団だって聞いてたけどさ、ただの人もいるんだ。まあ、確かに平凡ですって顔してるけど」
善美は遠慮がなかった。
けれど、紗綾はそういうものを気にする質ではない。畏まられても困るのだ。
それに学校ではもっと酷いことを散々言われている。
どちらかと言えば、香澄に通じるものを感じるくらいだ。
「平凡じゃ、悪いわけ? 俺もただの人なんだけど」
その声に振り返れば、圭斗がすぐ後ろに立っていて、紗綾はドキリとした。
圭斗がただの人でないと知っているのは、紗綾だけだ。
ここへ来ても彼の気持ちは変わらないらしい。どうしようもなくなるまで足掻く、つまり回避できることは回避しようと言うのだろう。
残るならば彼の方がいいと紗綾は思う。決定権があるのだからそれも可能だ。
だが、自分が苦手だというだけでリアムを弾くこともできない。圭斗との秘密を暴く勇気もない。
ばれてしまえば、彼も観念するのだろうが、そういう状況を作り出せるはずもない。そうやって追い込んでしまえば、きっと後悔するとも思うのだ。
だからこそ、複雑な気分になる。
鈴子が受けた依頼を遂行するのが部員の役目となる。
生贄はその中でサイキックとしての能力を試されることになり、部員も力が衰えていないか審査される。
今回は生贄が二名になってしまったがために、そのどちらかを切り捨てるための試験でもある。
しかし、一方的に試されるだけであって、指導はないのだから、やはり洗礼だと紗綾は思う。
敢えて言うならば、この歓迎会は魔女にとって都合良くできているわけだ。
今回の依頼人は田中善博、美和子夫妻である。
彼らが直接霊障に悩んでいると言うよりは近隣住民を代表してのことのようだった。
依頼内容は森の中の廃屋に巣くっているらしい悪霊を退治してほしいとのことだ。
取り壊しに際して奇妙な事件が続いたことだった。解体にあたった人間が相次いで体調を崩したり、怪我をしたりしたということらしい。
偶然だと言う者もいたが、元々、その森は自殺者が多発していたため、鈴子の元に連絡があったのだ。
そして、田中夫妻はアシスタントとしての部員の同行を快く承諾し、多少遠出になることを考えて寝床まで提供してくれたというわけだ。
夫妻の間には、中学三年生になった娘があり、歳の近い紗綾達を歓迎した。外から客が来ることも珍しいのだと言う。
その様は歓迎会というのも強ち間違いでもないかもしれないと思うほどだ。少なくとも田中家には歓迎されていると言える。
用意された部屋で、紗綾は制服から私服に着替えた。
圭斗はどうせ着替えさえられるなら最初から私服にすればいいと言ったが、これには意味がある。
制服を着るのも、学校から出発するのも、あくまで学校行事であることを強調しようとしているわけだ。
強いて言うならば、魔女の使いではなく、学校の使いなのだ。
魔女が窓口になって、任されているだけで、厳密には彼女のビジネスではない。
着いたのは昼前、一行はまず田中親子が用意した昼食を御馳走になった。
美和子が張り切って作ったと言う料理は決して豪華な食材を使ったものではないが、全てが美味しく、これがおふくろの味と言うものだと紗綾は思った。
実の母が作ってくれないような定番の和食メニューが並んでいた。
今は詳しい話を鈴子と嵐と十夜が聞いている。
報告義務のある人間と指揮する必要のある人間、そして、その後継者になる人間だ。彼らにはそれぞれ責任というものがある。
ふと、圭斗とリアムと休憩をしていた紗綾が視線を感じて振り返れば、善美が手招きをしていた。田中夫妻の娘である。
「ねぇ、あんた、名前、何て言うんだっけ?」
「月舘紗綾だよ」
「紗綾って呼んでもいい?」
無邪気な善美に紗綾は頷く。
食事の席ではあまり話さなかったが、今は興味津々といった眼差しを向けてくる。
夫妻が本当は明るい娘だと言っていた通りである。
「全然それっぽくないけど、紗綾も霊能者なの?」
「私は違うよ」
「ふぅん、そういう集団だって聞いてたけどさ、ただの人もいるんだ。まあ、確かに平凡ですって顔してるけど」
善美は遠慮がなかった。
けれど、紗綾はそういうものを気にする質ではない。畏まられても困るのだ。
それに学校ではもっと酷いことを散々言われている。
どちらかと言えば、香澄に通じるものを感じるくらいだ。
「平凡じゃ、悪いわけ? 俺もただの人なんだけど」
その声に振り返れば、圭斗がすぐ後ろに立っていて、紗綾はドキリとした。
圭斗がただの人でないと知っているのは、紗綾だけだ。
ここへ来ても彼の気持ちは変わらないらしい。どうしようもなくなるまで足掻く、つまり回避できることは回避しようと言うのだろう。
残るならば彼の方がいいと紗綾は思う。決定権があるのだからそれも可能だ。
だが、自分が苦手だというだけでリアムを弾くこともできない。圭斗との秘密を暴く勇気もない。
ばれてしまえば、彼も観念するのだろうが、そういう状況を作り出せるはずもない。そうやって追い込んでしまえば、きっと後悔するとも思うのだ。
だからこそ、複雑な気分になる。
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