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本編
責任と謎と約束と-1
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夕食後、嵐が除霊に行った先で起きたことを説明してくれた。
紗綾の視界の隅には正座をさせられているリアムが映る。
その反対側にはひどく疲れた様子の十夜がいる。
いつ倒れても不思議ではないと心配になるほどだ。
「いや、幽霊を殴るとか投げ飛ばすとか不穏なこと言ってたけどさ、あそこまでひどいとは思わなかったよ」
嵐も疲れているのがわかる。
普段は十夜に振り回されがちだが、今日はその十夜もすっかりリアムに振り回されたようだ。
「キレて、強制除霊しようとしたり、昔の黒羽より酷いよ。いや、ほんとにあの頃の黒羽が可愛く思えてきて涙出ちゃうよ」
ちらりと視線を投げかけられた十夜がさっと視線を逸らす。
この二人の関係は単なる教師と生徒ではない。それ以前からの関係がある。
親戚のお兄ちゃんのようなものだと嵐は言うが、そんな明るい関係でないことは二人のやり取りから滲み出ている。
「黒羽も結構って言うか、かなり強引で過激なところあるけどさ、あれは明らかに暴力だって。霊の方が可愛そうだよ。いくら悪いことする霊だからってさ。霊は安らかに導いてあげるべきだよ。ここは日本なんだよ?」
サイキックと一言で言い、同じ霊能者の枠内に収まっても十夜と嵐ではタイプが違い、リアムもまた違うようだった。
「まあ、御愁傷様ってことで」
未だサイキックであることを隠す圭斗が他人事のように笑う。
「何かこっちに霊が引き寄せられていったと思って、慌てて帰ったら妙にすっきりしてるし、何なんだろうね」
おそらく圭斗が眷属によって霊を退けたのだろうが、そのことは嵐達には秘密である。
隠すことに心は痛むが、目に見えていないことはなかったことと同じなのかもしれない。
「薄々、魔女が帰るんじゃないかとは思ってたけどさ、本当にいきなり帰ってるとはね。ビックリだよ。何でも許されちゃうけどさ」
嵐は溜息を吐く。
少し落ち着かない様子で電話をしているのを見ればそう思うだろう。
「ああなること、聞いてなかったんスか?」
可能性としてそういうことがあるとは話しておくべきだろう。仮にも彼女は主催者である。
そして、嵐は監督という立場にある。
「うん、全然、黒羽は別のところで聞いてたかもだけど」
「俺には関係のないことだ」
紗綾には嵐の言葉の意味がわかったが、同時に十夜が関係ないと言うこともわかる。
深く関わりながら、彼はいつだって受け入れることを拒んでいるのだから。
「でも、本当に何もなかったとは思えないんだよね」
嵐の疑いの眼差しを向けられた圭斗は肩を竦めた。
「あれじゃないっスか? 紗綾先輩があんまりに気付かないんでショック受けたとか」
それは些か無理があるのではないかと紗綾は思う。
嵐と十夜の前でそんなごまかしが通用するとは思えない。
「来たことは認めるんだ?」
「一人だけ脅えてた奴いたんで。まあ、ちょっと何かが倒れたとか、変な音がしたとか、すぐ霊のせいにしちゃいけないと思うんスよね。先輩を見習うべきっスよ。全然動じないんスから」
「何かさ、月舘と善美ちゃんに口止めしてない?」
善美は圭斗の眷属を見たようだが、約束通り黙っている。
「センセーが胡散臭いから話したくないだけじゃないっスかね」
「うわっ、ひどい! 教師いじめだよ! この不良め!」
圭斗は容赦なく、嵐が嘆く。
クッキーとして親しまれる彼のキャラはそういうものである。
こういう姿を見た女子生徒達が『可哀想』と言うのだが、香澄は『全然、可哀想じゃない!』と言う。
彼がある意味オカ研の黒幕であり、決して噂されるような被害者でないことを彼女は知っているからだ。
「月舘、可愛そうな俺を癒して!」
「えっと、あの……」
紗綾は戸惑う。いつもどう返したら良いかわからなくなるのだ。
さすがに一年も経てば慣れそうなものなのだが、悪化しているような気もする。
「ロリコンの変態は黙れ」
うんざりした様子で十夜が言い放てば、圭斗が驚きの表情を見せる。
「部長でもそういうこと言うんスね」
「前、『消えろ、ペド野郎』って言われたことあるよ」
「うわ、過激……」
「十夜君も丸くなったんですよ、これでも」
「そうなんスか?」
「昔は、割れたガラスみたいな感じに荒んでたからねぇ」
圭斗は興味深そうにしていたが、自分の話をされて十夜はひどく不快そうな顔をしていた。
そして、その殺気を感じたのか、嵐は話を戻す。
紗綾の視界の隅には正座をさせられているリアムが映る。
その反対側にはひどく疲れた様子の十夜がいる。
いつ倒れても不思議ではないと心配になるほどだ。
「いや、幽霊を殴るとか投げ飛ばすとか不穏なこと言ってたけどさ、あそこまでひどいとは思わなかったよ」
嵐も疲れているのがわかる。
普段は十夜に振り回されがちだが、今日はその十夜もすっかりリアムに振り回されたようだ。
「キレて、強制除霊しようとしたり、昔の黒羽より酷いよ。いや、ほんとにあの頃の黒羽が可愛く思えてきて涙出ちゃうよ」
ちらりと視線を投げかけられた十夜がさっと視線を逸らす。
この二人の関係は単なる教師と生徒ではない。それ以前からの関係がある。
親戚のお兄ちゃんのようなものだと嵐は言うが、そんな明るい関係でないことは二人のやり取りから滲み出ている。
「黒羽も結構って言うか、かなり強引で過激なところあるけどさ、あれは明らかに暴力だって。霊の方が可愛そうだよ。いくら悪いことする霊だからってさ。霊は安らかに導いてあげるべきだよ。ここは日本なんだよ?」
サイキックと一言で言い、同じ霊能者の枠内に収まっても十夜と嵐ではタイプが違い、リアムもまた違うようだった。
「まあ、御愁傷様ってことで」
未だサイキックであることを隠す圭斗が他人事のように笑う。
「何かこっちに霊が引き寄せられていったと思って、慌てて帰ったら妙にすっきりしてるし、何なんだろうね」
おそらく圭斗が眷属によって霊を退けたのだろうが、そのことは嵐達には秘密である。
隠すことに心は痛むが、目に見えていないことはなかったことと同じなのかもしれない。
「薄々、魔女が帰るんじゃないかとは思ってたけどさ、本当にいきなり帰ってるとはね。ビックリだよ。何でも許されちゃうけどさ」
嵐は溜息を吐く。
少し落ち着かない様子で電話をしているのを見ればそう思うだろう。
「ああなること、聞いてなかったんスか?」
可能性としてそういうことがあるとは話しておくべきだろう。仮にも彼女は主催者である。
そして、嵐は監督という立場にある。
「うん、全然、黒羽は別のところで聞いてたかもだけど」
「俺には関係のないことだ」
紗綾には嵐の言葉の意味がわかったが、同時に十夜が関係ないと言うこともわかる。
深く関わりながら、彼はいつだって受け入れることを拒んでいるのだから。
「でも、本当に何もなかったとは思えないんだよね」
嵐の疑いの眼差しを向けられた圭斗は肩を竦めた。
「あれじゃないっスか? 紗綾先輩があんまりに気付かないんでショック受けたとか」
それは些か無理があるのではないかと紗綾は思う。
嵐と十夜の前でそんなごまかしが通用するとは思えない。
「来たことは認めるんだ?」
「一人だけ脅えてた奴いたんで。まあ、ちょっと何かが倒れたとか、変な音がしたとか、すぐ霊のせいにしちゃいけないと思うんスよね。先輩を見習うべきっスよ。全然動じないんスから」
「何かさ、月舘と善美ちゃんに口止めしてない?」
善美は圭斗の眷属を見たようだが、約束通り黙っている。
「センセーが胡散臭いから話したくないだけじゃないっスかね」
「うわっ、ひどい! 教師いじめだよ! この不良め!」
圭斗は容赦なく、嵐が嘆く。
クッキーとして親しまれる彼のキャラはそういうものである。
こういう姿を見た女子生徒達が『可哀想』と言うのだが、香澄は『全然、可哀想じゃない!』と言う。
彼がある意味オカ研の黒幕であり、決して噂されるような被害者でないことを彼女は知っているからだ。
「月舘、可愛そうな俺を癒して!」
「えっと、あの……」
紗綾は戸惑う。いつもどう返したら良いかわからなくなるのだ。
さすがに一年も経てば慣れそうなものなのだが、悪化しているような気もする。
「ロリコンの変態は黙れ」
うんざりした様子で十夜が言い放てば、圭斗が驚きの表情を見せる。
「部長でもそういうこと言うんスね」
「前、『消えろ、ペド野郎』って言われたことあるよ」
「うわ、過激……」
「十夜君も丸くなったんですよ、これでも」
「そうなんスか?」
「昔は、割れたガラスみたいな感じに荒んでたからねぇ」
圭斗は興味深そうにしていたが、自分の話をされて十夜はひどく不快そうな顔をしていた。
そして、その殺気を感じたのか、嵐は話を戻す。
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