59 / 78
本編
真夜中の訪問者-1
しおりを挟む
夜、並べられた布団には夕方のことも忘れて心が躍った。
修学旅行のような、お泊まり会のような気持ちだ。
「まあ、何か長かったような短かったような……でも、明日には帰っちゃうのんだよね」
「うん……」
ほんの一日の付き合いだったが、別れを思えば寂しくなる。
憂鬱なだけであるはずの歓迎会に彼女がいてくれたのは良かったと思っている。
「いつかまた遊びに来て、なんて言ってもさ、紗綾だけでいいからね? あの人達は来ない方がいいことだと思うし、来てほしい理由もないっていうか」
善美の言うことは間違っていない。
オカ研が行くところには何かがある。ない方がいい何かが必ず存在する。
そして、オカ研が行けば何かが起こってしまうということもある。
結局、そうこう話している内に彼女の方が先に眠ってしまった。紗綾の方が先に寝そうなどと言っていたのは誰だっただろうか。
疲れていても紗綾は眠れなかった。
思えば、いつもそうだ。いつだって誰かが先に眠って、自分が眠れなくなる。
修学旅行の時などは、イビキの大合唱の中で眠れず、睡眠不足になるほどだった。
不眠症というほどではないが、睡魔に嫌われているらしい。
あるいは、それも貧乏くじ体質のせいなのかもしれないと思ってしまう。それも悪い癖だとはわかっているつもりだった。
善美が寝て暫く、豆電球が照らす部屋の中で紗綾は考えた。
『これで終わりならいいんスけどね……』
まだ終わっていないとでも言うかのような圭斗の言葉の意味を。
なぜ、霊が引き寄せられてきたのか。
自分の体質は霊を引き寄せるようなものではないはずだった。
圭斗が大丈夫だと言ったのだから違うのだろう。今まで、そういったこともなかった。
彼は力を隠し、本人の言葉を信じて推察するならば守られているはずだ。
だとしたら、善美なのだろうか。
異変が起きたのはその時だった。
「い……や……」
静かに眠っていた善美が声を漏らす。
単なる寝言だと紗綾は思ったが、苦しげな呻きは続く。
「やだ……こない、で……」
恐い夢でも見ているのだろうか。
どうしてやるのが、一番いいのだろうか。紗綾は迷う。
「なんで……なんでなのよ!」
今度は急に叫び始める。
心配になって起き上がった紗綾はそっと声をかけてみることにした。
「善美ちゃん……?」
瞬間、ガバリと抱き着かれて、紗綾はドキッとした。
彼女は起きていたが、様子がおかしい。
「ねぇ、いるの! なんかいるの!」
また夕方のように、彼女は何かに脅えていた。
だが、彼女が指し示す方向には何もない。
「信じて、信じてよ! ねぇ!」
「信じるよ」
紗綾には見えない。けれど、信じないわけではない。
しかし、見えないからこそ、対処できないのだ。
緊急事態だと助けを呼びに行こうとしたが、その腕が掴まれる。
「やだっ……行かないでよ!」
「でも、誰か呼ばないと……」
「一人にしないで!」
このままでは、このままではいけない。
そう思うのに、動けない。
いっそ、誰かに電話しようかと思うものの、肝心の携帯電話に届かない。
「怖い、怖いよ!」
「大丈夫、大丈夫だから」
何が大丈夫なのかわからないまま、紗綾はただその背中を撫でる。
自分が八千草のような霊媒体質であれば状況は悪化したかもしれないが、そうでないらしいことが幸いだ。
しかし、十夜のように力を持っていれば彼女を救うことができたかもしれないのに、それもまたありえない。
やはり、オカ研に凡人はいてはいけない。
考えても仕方がないことを考えた時、静寂に支配されていた部屋の扉を叩く音がやけに大きく響いた。
ビクリと震えた善美に痛いほど強く抱き着かれ、戸惑いながら紗綾は扉を見詰めた。
修学旅行のような、お泊まり会のような気持ちだ。
「まあ、何か長かったような短かったような……でも、明日には帰っちゃうのんだよね」
「うん……」
ほんの一日の付き合いだったが、別れを思えば寂しくなる。
憂鬱なだけであるはずの歓迎会に彼女がいてくれたのは良かったと思っている。
「いつかまた遊びに来て、なんて言ってもさ、紗綾だけでいいからね? あの人達は来ない方がいいことだと思うし、来てほしい理由もないっていうか」
善美の言うことは間違っていない。
オカ研が行くところには何かがある。ない方がいい何かが必ず存在する。
そして、オカ研が行けば何かが起こってしまうということもある。
結局、そうこう話している内に彼女の方が先に眠ってしまった。紗綾の方が先に寝そうなどと言っていたのは誰だっただろうか。
疲れていても紗綾は眠れなかった。
思えば、いつもそうだ。いつだって誰かが先に眠って、自分が眠れなくなる。
修学旅行の時などは、イビキの大合唱の中で眠れず、睡眠不足になるほどだった。
不眠症というほどではないが、睡魔に嫌われているらしい。
あるいは、それも貧乏くじ体質のせいなのかもしれないと思ってしまう。それも悪い癖だとはわかっているつもりだった。
善美が寝て暫く、豆電球が照らす部屋の中で紗綾は考えた。
『これで終わりならいいんスけどね……』
まだ終わっていないとでも言うかのような圭斗の言葉の意味を。
なぜ、霊が引き寄せられてきたのか。
自分の体質は霊を引き寄せるようなものではないはずだった。
圭斗が大丈夫だと言ったのだから違うのだろう。今まで、そういったこともなかった。
彼は力を隠し、本人の言葉を信じて推察するならば守られているはずだ。
だとしたら、善美なのだろうか。
異変が起きたのはその時だった。
「い……や……」
静かに眠っていた善美が声を漏らす。
単なる寝言だと紗綾は思ったが、苦しげな呻きは続く。
「やだ……こない、で……」
恐い夢でも見ているのだろうか。
どうしてやるのが、一番いいのだろうか。紗綾は迷う。
「なんで……なんでなのよ!」
今度は急に叫び始める。
心配になって起き上がった紗綾はそっと声をかけてみることにした。
「善美ちゃん……?」
瞬間、ガバリと抱き着かれて、紗綾はドキッとした。
彼女は起きていたが、様子がおかしい。
「ねぇ、いるの! なんかいるの!」
また夕方のように、彼女は何かに脅えていた。
だが、彼女が指し示す方向には何もない。
「信じて、信じてよ! ねぇ!」
「信じるよ」
紗綾には見えない。けれど、信じないわけではない。
しかし、見えないからこそ、対処できないのだ。
緊急事態だと助けを呼びに行こうとしたが、その腕が掴まれる。
「やだっ……行かないでよ!」
「でも、誰か呼ばないと……」
「一人にしないで!」
このままでは、このままではいけない。
そう思うのに、動けない。
いっそ、誰かに電話しようかと思うものの、肝心の携帯電話に届かない。
「怖い、怖いよ!」
「大丈夫、大丈夫だから」
何が大丈夫なのかわからないまま、紗綾はただその背中を撫でる。
自分が八千草のような霊媒体質であれば状況は悪化したかもしれないが、そうでないらしいことが幸いだ。
しかし、十夜のように力を持っていれば彼女を救うことができたかもしれないのに、それもまたありえない。
やはり、オカ研に凡人はいてはいけない。
考えても仕方がないことを考えた時、静寂に支配されていた部屋の扉を叩く音がやけに大きく響いた。
ビクリと震えた善美に痛いほど強く抱き着かれ、戸惑いながら紗綾は扉を見詰めた。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
12
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる