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本編
生贄の証-3
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「だ、大丈夫……?」
あまり綺麗ではないが、何とか締めることができた。
苦しくはないかと紗綾は圭斗を見上げる。
「いやあ、いいっスね。新婚みたいで。毎日こうだと嬉しいんスけど」
なんてことを言い出すのだろうか。
圭斗との話を思い出して、紗綾は困惑した。
決して笑える状況ではないのだ。
これから先、この黒ネクタイを締めて、明日から正式な生贄として晒し者にならなければならないのだから。
「なんか、背中刺されそうな気分っスけど」
「まあ、君の周りには敵しかいないからね。夜道には気を付けた方がいいかもしれないよ」
紗綾にはどういうことなのかわからなかったが、嵐は笑っている。
「これ、緩めちゃダメなんスか? 苦しいって言うか、俺のキャラ的に」
はっきり言ってしまえば、きっちりと締められたネクタイは彼には似合わない。
初めて会った時は、そうしていたが、あの時は髪も黒かったし、アクセサリーの類もしていなかった。今とは違うのだ。
「ダメ。これから行くところ的にNG」
それでもまだダメなのではないかと紗綾は思う。
「どっか行くんスか?」
「本当はその頭もあんまりよろしくないんだけど、今更取り繕っても仕方がないし、どうせ知られてるし」
髪を染めてくるように言わなかったのは嵐だ。アクセサリーの類を外させるわけでもない。
いくら自由な校風だと言っても、抵抗を持つような場所に行かなければならない。
あの場所に着いてしまったら、彼はどう思うのだろうかと紗綾は何となく考えてみた。しかし、考えてみても仕方のないことだった。
「ささっ、十夜君、重い腰をあげるんだ! どうせ、やる意味があるのか怪しいほどあっさり終わるんだし」
圭斗の準備ができたら次は十夜だ。だが、彼は体を起こそうとはしなかった。
「……俺はあのジジイには会いたくない」
一年前から十夜は変わっていない、と紗綾は思う。
言っていることが全く同じなのだ。十夜らしからぬセリフだが、確かに一年前にも聞いている。
「何か、微妙に弱気っスね。部長なら相手が誰でもふんぞり返って会いそうなのに」
圭斗はニヤニヤと笑っているが、爺が誰なのかはわかっていないだろう。
「そんなこと言ってちゃダメだって!」
「俺はあの男が大嫌いだ」
「部長でも子供みたいなこと言うんスね」
まるで十夜は駄々をこねているようでもある。それだけ嫌いということなのだろう。
一年間紗綾が見てきた限りでは、そこまで十夜に嫌われている人物はその一人だけだった。魔女とはまた別なのである。
十夜の口から大嫌いなどという言葉が出るのも非常に珍しい。
「まあ、ある意味、諸悪の根源だからねぇ」
嵐も立場上黙ってはいるが、苦手としていることは明らかだった。
彼の場合、十夜よりも厄介な立ち位置であるのは間違いない。
「ただの偽善家の狸だ」
あの人物について、ここまで言うのはおそらく十夜だけだと紗綾は思っていた。
紗綾は口が裂けても言えない。何でもない紗綾に言う資格もない。
あまり綺麗ではないが、何とか締めることができた。
苦しくはないかと紗綾は圭斗を見上げる。
「いやあ、いいっスね。新婚みたいで。毎日こうだと嬉しいんスけど」
なんてことを言い出すのだろうか。
圭斗との話を思い出して、紗綾は困惑した。
決して笑える状況ではないのだ。
これから先、この黒ネクタイを締めて、明日から正式な生贄として晒し者にならなければならないのだから。
「なんか、背中刺されそうな気分っスけど」
「まあ、君の周りには敵しかいないからね。夜道には気を付けた方がいいかもしれないよ」
紗綾にはどういうことなのかわからなかったが、嵐は笑っている。
「これ、緩めちゃダメなんスか? 苦しいって言うか、俺のキャラ的に」
はっきり言ってしまえば、きっちりと締められたネクタイは彼には似合わない。
初めて会った時は、そうしていたが、あの時は髪も黒かったし、アクセサリーの類もしていなかった。今とは違うのだ。
「ダメ。これから行くところ的にNG」
それでもまだダメなのではないかと紗綾は思う。
「どっか行くんスか?」
「本当はその頭もあんまりよろしくないんだけど、今更取り繕っても仕方がないし、どうせ知られてるし」
髪を染めてくるように言わなかったのは嵐だ。アクセサリーの類を外させるわけでもない。
いくら自由な校風だと言っても、抵抗を持つような場所に行かなければならない。
あの場所に着いてしまったら、彼はどう思うのだろうかと紗綾は何となく考えてみた。しかし、考えてみても仕方のないことだった。
「ささっ、十夜君、重い腰をあげるんだ! どうせ、やる意味があるのか怪しいほどあっさり終わるんだし」
圭斗の準備ができたら次は十夜だ。だが、彼は体を起こそうとはしなかった。
「……俺はあのジジイには会いたくない」
一年前から十夜は変わっていない、と紗綾は思う。
言っていることが全く同じなのだ。十夜らしからぬセリフだが、確かに一年前にも聞いている。
「何か、微妙に弱気っスね。部長なら相手が誰でもふんぞり返って会いそうなのに」
圭斗はニヤニヤと笑っているが、爺が誰なのかはわかっていないだろう。
「そんなこと言ってちゃダメだって!」
「俺はあの男が大嫌いだ」
「部長でも子供みたいなこと言うんスね」
まるで十夜は駄々をこねているようでもある。それだけ嫌いということなのだろう。
一年間紗綾が見てきた限りでは、そこまで十夜に嫌われている人物はその一人だけだった。魔女とはまた別なのである。
十夜の口から大嫌いなどという言葉が出るのも非常に珍しい。
「まあ、ある意味、諸悪の根源だからねぇ」
嵐も立場上黙ってはいるが、苦手としていることは明らかだった。
彼の場合、十夜よりも厄介な立ち位置であるのは間違いない。
「ただの偽善家の狸だ」
あの人物について、ここまで言うのはおそらく十夜だけだと紗綾は思っていた。
紗綾は口が裂けても言えない。何でもない紗綾に言う資格もない。
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