旦那様は魔法使い

なかゆんきなこ

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第一章 二人の日常 1

使い魔達の協奏曲 セラフィとアクア編

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三毛猫セラフィと縞猫アクアのお話。
セラフィ視点。
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 私の名前はセラフィナイト。三毛猫だ。
 生まれはこの島から遠く離れた大陸である。紆余曲折があり、海を越えて渡ってきたこの島で土地の猫達と争い、傷ついた私は奥方様に拾われて、ご主人様の使い魔となった。
 拾われた時、死にかけていた私は奥方様とご主人様の介抱のおかけで一命をとりとめた。その時、ゆっくりと目を開けた私を見て、奥方様は、
「とっても綺麗な緑の眼ね。光の加減で銀色にも見えるわ」
 と仰った。
 それを聞いたご主人様が、
「『セラフィナイト(斜緑泥石)』の瞳だ」
 と言い、私と奥方様にセラフィナイトの結晶を見せてくれた。こんなに綺麗なモノが、私などの瞳だと、お二人は言う。そしてその日から、名無しだった私はセラフィナイトになった。長いので、皆は『セラフィ』と呼ぶが、私はこの名前が好きだ。
 私の他にも、ご主人様と奥方様に仕える猫達はいる。その中でも、一番の古株は黒猫のカルだ。カルは私より若いが、子猫の時分からご主人様に仕えており、真面目な良い猫である。
 私達使い魔猫は、ご主人様と奥方様の助けとなるためにある。
 作業しやすいよう、人の形になり、各々与えられた仕事場へ散っていく。
 人の姿の私は、他の猫より少し年長の少年の姿をしている。元の毛並みが三毛なので、髪の色は黒混じりの茶色だ。美意識の高いジェダなどは、私やブチ猫のキースの毛並みを「美しくない」と一笑するが、気にはならない。猫の価値は毛並みだけで決まるものではないのだ。


 今日、私に割り当てられた仕事は奥方様の菜園の世話である。水やりに、草むしりなど。簡単な仕事ではあるが、相棒が縞猫のアクアなので気は抜けない。
 アクア。その正式名をアクアマリンという縞猫は、その名の通り綺麗な水色の目をしている。まさしく『アクアマリン(藍玉)』の瞳だ。
 外見も少し小柄で、見掛けには可憐なのに、奴は私達の中で一番の暴れん坊である。
 今日も今日とて、菜園でさっそく小鳥を見かけると、一目散に飛び出していった。
「ふにゃー!!」
 水色の目が爛々と輝いている。
 このままでは奥方様が丹精込めて育てた野菜も踏みつぶすだろう。私は飛び出すアクアを追い掛けて、その首根っこを掴んだ。
「やめるにゃ」
「にゃっにゃにゃにゃー!!」
 襟首を掴まれてもなお暴れようとするアクア。私はやれやれとため息を吐いて、ぼそっと小さく囁く。
「…後で森鼠もりねずみの巣を教えてやるから」
「んにゃっ!」
 ぴたりと、アクアの動きが止まった。アクアは、何より鼠を狩るのが大好きなのだ。
 このアクアが居るから、自宅と奥方様のパン屋、そしてご主人様の店には鼠が一匹もいない。アクアが狩り尽くしてしまったのだ。
「本当にゃ?」
「ああ。だから大人しく、仕事をするにゃ」
「了解にゃ!!」
 しゅびっと敬礼し、アクアは揚々と菜園の水場へ向かう。
 手漕ぎのポンプ井戸のハンドルをがっちゃがっちゃと漕ぎ、如雨露に水を汲んでいく。
 やれやれにゃ。
 そうして私達は二人がかりで野菜に水をやっていく。キャベツとほうれん草は、もう食べごろだ。
 後は草むしりだけだ。この菜園は肥料が良いせいか、野菜だけでなく雑草の成長も早い。
 いつもならここでアクアが飽き、違うことをし始めるのだが今日は森鼠の効果もあってか真剣に草をむしっている。
 それを横目で見て、私もまたしゃがみ込み、草をむしる。
 青々とした匂いが、いっぱいに広がった。

 ああ、今日も平和だにゃあ。


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七匹の中で一番大人な三毛猫セラフィと一番やんちゃな暴れん坊・縞猫のアクア。
この二匹は保護者と被保護者みたいな関係です。
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