最後の勇者のレゾンデートル〜スキルなし判定された俺が隠しユニークスキル「ゲノムコントロール」で闇社会の覇王となるまで〜

陰陽@4作品商業化(コミカライズ他)

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第3章・血みどろの抗争編

第93話 死んだ筈の男②

「えっ?」
 アスタロト王子はそう言うと、自らも窓の外に出て、バルコニーの柵に乗ると、窓のひさしに指をかけて上に上がる。

「──早くしろよ、みつかるぞ!」
 声を潜めながら俺にそう言うアスタロト王子に、俺は慌ててあとについて上にのぼる。

「ここから城の屋根に上がれるんだ。」
 慣れた手付きでスイスイと登っていくアスタロト王子。アスタロト王子に腕を引っ張られて、チムチ城の屋根へと上がった。遠くに城を囲む城壁と見張り塔が見える。

「ダチか好きな奴が出来たらさ。
 ぜってーここに連れて来ようと思ってたんだよな。

 ここから一望出来るんだぜ、この国が。
 スゲーだろ?」

 この国で最も高い建物は王宮だ。
 その屋根から360度、チムチの国が見渡せる。確かに凄い眺望だった。連れて来られた理由が引っかかったけど。

「──おまえ、勇者って知ってるか?」
 アスタロト王子が突然言い出した言葉にギョッとする。どういう意味で聞いてきているのだろうか?

「イエルはさ。
 ……父上の寵妃になる前は、おじい様……先代のチムチ国王に、この国に召喚された勇者だったんだ。

 勇者ってのは名ばかりのもんで、魔族の国を人間が支配しようとして送り込んでんだ。
 送り込まれた奴らは、もれなくほとんど帰って来なかった。

 父上は、……イエルを死なせたくなかったんだ。
 この国にイエルを残す為には、寵妃にするしかなくて……。

 無理やりものにしたって言ってたけど、イエルは男に興味ねえからさ。この城での生活が辛いみたいで、小さい頃から時々話し相手になってたんだ。」

 城の屋根の上にあぐらをかきながら、目線を落としてアスタロトが話し始める。俺も並んで屋根に腰掛ける。

「おじい様が亡くなって、この国には今勇者召喚が出来る人間がいないから、母上は昼夜構わず父上の寝所に来ようとしててさ。

 父上はそのたびイエルのところに逃げて来てんだ。それでさっきも部屋に来たのさ。
 それか俺に嫁を取らせようとしてくんだ。

 父上は復活のスキルを持ってるから、最悪俺に国王の座を譲って、教会に逃げようかって思ってるらしくて、母上もそれに気付いててさ。

 そりゃ、いずれはそうしなきゃいけないのは分かってっけど、勇者召喚の力を持つ子どもなんて俺も父上も作りたくねんだ。

 俺も父上も、魔族の国を支配なんかしなくても、この国は豊かだし、そんなの必要ないと思ってる。」

 意外な話だった。勇者召喚を嫌がる王族がいるとは。

「──人の欲望って、望みだすと際限ねえもんだ。
 人がこの手につかめるもんなんて、限界があんだよ。

 たくさんを望んだって、掴みきれなくて指の間からこぼれちまう。

 俺はこの手に持てるだけの幸せが掴めりゃあ、それでじゅうぶんなんじゃねえかって思ってんだ。

 他の世界の奴らや、魔族の国を犠牲にしてまで、望んで得られるもんてなんだ?
 それは求めるべきもんなのか?

 ──俺は違うと思う。
 だからチムチじゃこの先、勇者召喚はしねえ。
 おじい様が亡くなられた時に、俺と父上で決めたことだ。

 けど、贅沢がしたくて嫁いできた母上に理解されなくてな。
 ……あんま仲良くねえのさ。」

 やっぱりアスタロト王子は恭司に似てる。考え方も、行動も。
 恭司がこの国の王子なら、きっと同じことを言ったであろう言葉を口にする。

 国王までもが同じ考え方だとは思わなかったけど。

「……だから、だからさ。
 俺はいずれどっかの女を嫁に迎えるけど、寵妃になって、俺と一緒にこの国をささえてくんねーか?

 俺はお前しか考えらんねーんだ。
 何でかわかんねーけど、はじめて会った時から、ずっと特別なんだ、お前が。」

 真剣な眼差しで俺を見つめるアスタロト王子。
 なら俺も、真剣に答えなくちゃならない。

「……俺、好きな子がいるんだ。
 結婚するなら、いつかその子とって思ってる。子どもの頃からずっと俺のことだけを好きでいてくれて、俺にはそいつ以外考えらんねーから。
 ……ごめん。」

「そうか……。」
 アスタロト王子は寂しそうな表情をしていたが、

「よっし!」
 そう言って立ち上がると、

「まあ、しゃあねえやな。
 他に好きな奴がいんなら。
 この国を離れるまで、まだ時間あんだろ?

 案内してやるよ。
 この国を覚えといてくれよ。
 ──そんで、忘れねーでくれ。」

 俺のこと。と言われているような気がした。
「……ああ。」

 俺はアスタロト王子に手を引かれて屋根から立ち上がった。

 アスタロト王子は普段から街に遊びに出ているらしく、街の人たちはみんなアスタロト王子のことを知っていた。

 次々に声をかけられては、食べ物を渡される。
 こんなに食い切れねーよ、と言いながら、2人でそれを頬張る。アスタロト王子とまわる観光は楽しかった。

 2人でイタズラをしては追いかけられて、まるで元の世界で恭司といた時のようだと思った。

 俺と恭司は、よく人からイチャイチャしてんなよ、と言われる。お互い性欲を感じないからそういう対象にならないだけで、日本人男性は、海外の人たちから見ると、男同士の距離感が近いのだそうだ。

 年配になるほど、特に人前では、男同士でしかイチャつかないのが、日本人男性の特性にも思う。

 俺と恭司がこの国に生まれてたら、初対面でいきなり親友になったように、初対面でいきなり付き合い始めてたのかも知れない。

 恭司によく似たアスタロト王子も、俺に性欲を感じなかったら、俺と親友になっていたのかも知れない。
 そんな風に思った。

「この先に、この国の聖樹って呼ばれてるデッカイ木があってさ。そこになってる実がマジうめーんだ。
 ここでしか食えないから絶対食おうぜ。」

「おう。」
 俺とアスタロト王子は小走りに舗装されてない道を走る。巨大な木は遠くからでも見えて、確かに何か赤っぽいオレンジ色の実がなっているのが見えた。

「──てか、聖樹の実って、食べても大丈夫なのか?なんか触れるのも禁止されてるようなイメージあんだけど。」

「駄目ってことにされてっけど、どーせ鳥が食うか落ちて腐っちまうんだ。
 毎年食ってっけど、別にどうってことねーぜ?
 ──けど、一応ナイショな。」

 イタズラするのが楽しくて仕方がない表情で笑いながら、口の前に指を立てるアスタロト王子に、俺も思わず笑いながら、おう、と言った。

 近付くにつれて、聖樹の下の木陰に誰かが寝そべっているのが見える。

「──珍しいな?人がいやがる。
 告げ口されっとめんどくせえんだけどな。この国の奴か?
 旅行者なら別にかまわねーけど。」

 アスタロト王子がそう言いながら、寝ている人の前に近付いて顔を覗き込む。俺も同じように覗き込んだ瞬間ギョッとした。

「ゆ、ゆ、ゆ、幽霊……?」
 その男は確かに、俺がニナンガ王国でユニフェイ──江野沢と再会した夜に、最初にスキルを奪った死体寸前の男だった。

 月明かりに照らされた、あの日の青白い表情とは違い、血色のいい肌をして、腹から血も流してはいなかったけれど、間違いなくその男だった。

 この世界には同じ見た目の人間は存在出来ない。その理屈からすると、目の前の男はあの日死にかけて、次の日死んでいた男そのものなのだ。

「どうしたんだよ、そんなに震えて。
 ──コイツのこと知ってんのか?」
「知ってるも何も──。」
「やっべ、待ってたら寝ちまった。」

「うわあああ!」
 俺たちが騒ぐ声で目を覚ましたのか、そう言いながら、男がムクリと起き上がって伸びをした。

「あ、ホントに来たよ。
 大したもんだな、予知ってのも。」
 ──予知?なんの話だ?

「どっちだ?
 スキルを大量に持っていやがる子どもってのは。」
 俺が思わずビクリとする。

「──お前か。」
 青ざめた顔の時はそこまで分からなかったけど、キレイな顔をした男は、俺を見ながら楽しそうに微笑んだ。

「なんだよ、お前。
 コイツになんか用か?」
 アスタロト王子が俺を庇うように、スッと前に出て男を睨む。

「へえ?お前もなかなか可愛いな?
 ──うん、決めた。
 お前の姿も貰う。

 なあ、賭けをしようぜ?
 俺とお前、──どっちが死ぬか。
 2分の1の勝負さ。」

「は?何言って──」
 男がアスタロト王子に触れた瞬間、

「お、俺!?」
 目の前の男の姿がふっとアスタロト王子に変わり、ニヤリと笑いながらアスタロト王子を見る。そして次の瞬間、

「──ぐはっ!!」
 アスタロト王子の腹が裂け、口から腹から血が吹き出す。

「はい、俺の勝ち。」
 男は楽しそうに無邪気に笑っていた。

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