139 / 192

第58話 離婚専門弁護士の心当たり②

しおりを挟む
「⋯⋯あなたのことは気にしていましたよ。ヴィリバルト・トラウトマンと、先日図書館にいらしていましたよね。あなたは彼をとても頼っているようだった。声をかけるのが憚られて、遠目に見ておりましたが。」

「あの時図書館にいらしたのですか?」
「はい、私はあそこのカフェで休憩を取りつつ本を読んでいることが多いので。」

 確かに、先日図書館で助けていただいた際も、図書館のカフェで本を読んでいらしたわね。その時にご覧になられたということね。

「⋯⋯私もあなたに頼っていただきたいと思いました。なぜ、ヴィリバルト・トラウトマンなのかと⋯⋯。私では助けになれないのかと⋯⋯。でもこうして私を訪ねて来て下さった。私はそのことがとても嬉しいのです。」

 フィッツェンハーゲン侯爵令息の手が、カップをソーサーの上に置いた私の手に重ねられ、そのまま軽く握ってくる。
 思わずドキドキしてしまう。

 急に触れられたけれど、不思議と不快感はなかった。むしろ優しく包み込むその手が、私を本当に心配してくれていたのだ、ということを物語っているかのようだった。

「私はあなたの助けになりたい。あなたに1番に頼られる男でいたいのです。それだけは覚えておいていただければ嬉しく思います。」
「フィッツェンハーゲン侯爵令息⋯⋯。」

 じっと目の奥を覗き込んでくる、フィッツェンハーゲン侯爵令息の目から、目線を逸らすことが出来ない。まるでクモの巣にとらえられた蝶のような気持ちだった。

 フィッツェンハーゲン侯爵令息の甘い毒にとらわれて、そこから逃げ出せずにもがいているかのような。今すぐここから逃げ出したくなるような落ち着かなさを感じた。

 駄目だわ、しっかりしなくては。お願いしたいことがあってここまで来たのだもの。
「あの⋯⋯それでお願いなのですが⋯⋯。」
「はい。」

「離婚に強い弁護士をご紹介いただきたいのです。出来れば貴族の離婚に強い方を。」
「弁護士⋯⋯ですか?」

「はい。以前ちらっとお話したかと思いますが、私は今の夫と離婚を考えています。だいぶ準備は整いましたが、相手は貴族です。私1人で立ち向かうには心もとなくて⋯⋯。」
「それで貴族の離婚に強い弁護士を、と。」

「はい。お心あたりがありますでしょうか?貴族の女性とたくさん親しくしていらっしゃるフィッツェンハーゲン侯爵令息であれば、そういったご相談を受けることもあるのではないかと思ったのですが⋯⋯。」

「確かに、そういったご相談をいただくことはままありますね。それに、弁護士にも2、3心当たりがあります。希望する方に紹介することもありますよ。」

「本当ですか!?」
「ええ。私の頼みということであれば、必ず対応してくれる弁護士も1人知っています。その方をご紹介いたしましょうか?」

「ええ、ぜひお願いいたします!あとは弁護士だけだったんです。とてもありがたいですわ。やはりフィッツェンハーゲン侯爵令息に相談してみて良かったです。」

「あなたにそう言っていただけるのが、私にとっても1番嬉しいことですよ。⋯⋯私があなたのお役に立てることがあってよかった。私にしか出来ないことがあると言われて、本当に嬉しかったのですよ。」
 嬉しそうに目を細めて微笑んでくる。

 それがあまりにも愛おしそうな眼差しで、私は何を言われたわけでもないのに、思わず目を合わせていられなくなって視線を落とした。な、なぜだかとても恥ずかしいわ⋯⋯。

「でも、本当に助かりましたわ。一度ヴィリにお願いしたのですが、紹介いただいたお相手がお忙しかったとかで、断られてしまって困っていたのです。」

「──それです。」
「それ?」
 いったいなんのことかしら?

「あなたは図書館でも、ヴィリバルト・トラウトマンのことを、ヴィリと親しげに呼んでいらした。私のことはフィッツェンハーゲン侯爵令息と呼ばれるのに、です。」

「それは⋯⋯。貴族でいらっしゃいますし。ヴィリは周囲の方皆さまに、自分のことをヴィリと呼ぶようおっしゃっていたのです。」

────────────────────

少しでも面白いと思ったら、エピソードごとのイイネ、または応援するを押していただけたら幸いです。
しおりを挟む
感想 89

あなたにおすすめの小説

年に一度の旦那様

五十嵐
恋愛
愛人が二人もいるノアへ嫁いだレイチェルは、領地の外れにある小さな邸に追いやられるも幸せな毎日を過ごしていた。ところが、それがそろそろ夫であるノアの思惑で潰えようとして… しかし、ぞんざいな扱いをしてきたノアと夫婦になることを避けたいレイチェルは執事であるロイの力を借りてそれを回避しようと…

【完】夫から冷遇される伯爵夫人でしたが、身分を隠して踊り子として夜働いていたら、その夫に見初められました。

112
恋愛
伯爵家同士の結婚、申し分ない筈だった。 エッジワーズ家の娘、エリシアは踊り子の娘だったが為に嫁ぎ先の夫に冷遇され、虐げられ、屋敷を追い出される。 庭の片隅、掘っ立て小屋で生活していたエリシアは、街で祝祭が開かれることを耳にする。どうせ誰からも顧みられないからと、こっそり抜け出して街へ向かう。すると街の中心部で民衆が音楽に合わせて踊っていた。その輪の中にエリシアも入り一緒になって踊っていると──

魅了魔法…?それで相思相愛ならいいんじゃないんですか。

iBuKi
恋愛
サフィリーン・ル・オルペウスである私がこの世界に誕生した瞬間から決まっていた既定路線。 クロード・レイ・インフェリア、大国インフェリア皇国の第一皇子といずれ婚約が結ばれること。 皇妃で将来の皇后でなんて、めっちゃくちゃ荷が重い。 こういう幼い頃に結ばれた物語にありがちなトラブル……ありそう。 私のこと気に入らないとか……ありそう? ところが、完璧な皇子様に婚約者に決定した瞬間から溺愛され続け、蜂蜜漬けにされていたけれど―― 絆されていたのに。 ミイラ取りはミイラなの? 気付いたら、皇子の隣には子爵令嬢が居て。 ――魅了魔法ですか…。 国家転覆とか、王権強奪とか、大変な事は絡んでないんですよね? いろいろ探ってましたけど、どうなったのでしょう。 ――考えることに、何だか疲れちゃったサフィリーン。 第一皇子とその方が相思相愛なら、魅了でも何でもいいんじゃないんですか? サクッと婚約解消のち、私はしばらく領地で静養しておきますね。 ✂---------------------------- 不定期更新です。 他サイトさまでも投稿しています。 10/09 あらすじを書き直し、付け足し?しました。

侯爵令嬢ソフィアの結婚

今野綾
恋愛
ソフィアは希少なグリーンアイを持つヴィンセントと結婚したが、これは金が欲しいソフィアの父の思惑と高い爵位が欲しいヴィンセントの思惑が一致したからに過ぎない そもそもヴィンセントには美しい恋人がいる 美男美女と名高いヴィンセントとその恋人は身分に大きな差があるために結婚することは叶わないのだ その事をソフィアも耳にしており、この結婚が形ばかりのものであることを知っていた 結婚して早々、ソフィアは実家から連れてきた侍女夫婦とあばら家に住むように言われて… 表紙はかなさんです✨ ありがとうございます😊 2024.07.05

【完】王妃の座を愛人に奪われたので娼婦になって出直します

112
恋愛
伯爵令嬢エレオノールは、皇太子ジョンと結婚した。 三年に及ぶ結婚生活では一度も床を共にせず、ジョンは愛人ココットにうつつを抜かす。 やがて王が亡くなり、ジョンに王冠が回ってくる。 するとエレオノールの王妃は剥奪され、ココットが王妃となる。 王宮からも伯爵家からも追い出されたエレオノールは、娼婦となる道を選ぶ。

3歳で捨てられた件

玲羅
恋愛
前世の記憶を持つ者が1000人に1人は居る時代。 それゆえに変わった子供扱いをされ、疎まれて捨てられた少女、キャプシーヌ。拾ったのは宰相を務めるフェルナー侯爵。 キャプシーヌの運命が再度変わったのは貴族学院入学後だった。

【完結】旦那は堂々と不倫行為をするようになったのですが離婚もさせてくれないので、王子とお父様を味方につけました

よどら文鳥
恋愛
 ルーンブレイス国の国家予算に匹敵するほどの資産を持つハイマーネ家のソフィア令嬢は、サーヴィン=アウトロ男爵と恋愛結婚をした。  ソフィアは幸せな人生を送っていけると思っていたのだが、とある日サーヴィンの不倫行為が発覚した。それも一度や二度ではなかった。  ソフィアの気持ちは既に冷めていたため離婚を切り出すも、サーヴィンは立場を理由に認めようとしない。  更にサーヴィンは第二夫妻候補としてラランカという愛人を連れてくる。  再度離婚を申し立てようとするが、ソフィアの財閥と金だけを理由にして一向に離婚を認めようとしなかった。  ソフィアは家から飛び出しピンチになるが、救世主が現れる。  後に全ての成り行きを話し、ロミオ=ルーンブレイス第一王子を味方につけ、更にソフィアの父をも味方につけた。  ソフィアが想定していなかったほどの制裁が始まる。

誤解は解きません。悪女で結構です。

砂礫レキ
恋愛
オルソン家の伯爵令嬢エリカ。彼女は亡き母がメイドだった為に異母姉ローズとその母によって長年虐げられていた。 二人から男好きの悪女の噂を流布され、それを真に受けた結婚相手に乱暴に扱われそうになる。 その瞬間エリカは前世の記憶を思い出した。そして今の自分が「一輪の花は氷を溶かす」という漫画のドアマットヒロインに転生していることに気付く。 漫画の内容は氷の公爵ケビン・アベニウスが政略結婚相手のエリカを悪女と思い込み冷遇するが、優しさに徐々に惹かれていくという長編ストーリーだ。 しかし記憶を取り戻した彼女は呟く。「そんな噂を鵜呑みにするアホ男なんてどうでもいいわ」 夫からの愛を求めない新生エリカは悪女と呼ばれようと自分らしく生きることを決意するのだった。

処理中です...