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第62話 1人きりの夜⑤

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「では、防御魔法を施す為に、まずは1度魔塔に来て欲しい。君の魔力の波長の登録も、急がせないとならないしな。」

「わかりました。……我がままを言って申し訳ありません。ありがとうございます。」
 そして、フェルディナンドさまの手を握り返した後、ゆっくりと頷いた。

「明日は村の人の絵を描く約束をしていたので、1度村に戻って、そのことを伝えて来たいのですが、よろしいでしょうか?」

 私がフェルディナンドさまに尋ねると、
「それは私のほうでヨハンに使いを出して、ヨハンから村人に伝えてもらおう。防御魔法を施すのは、少しでも急いだほうがいい。今村に戻るのは正直危険だ。」

「わかったわ……。じゃあお願いします。」
 結局アルベルトの家には、イザークづてにヨハンに行ってもらうことになった。

 私はフェルディナンドさまとそのまま魔塔に向かうことになったのだった。魔塔に到着すると、フェルディナンドさまは自身の執務室に案内してくれた。例によってエイダさんが、私たちを2人きりにさせないよう、お茶を持って来てそのままその場に残っている。

「エイダ、これからロイエンタール伯爵夫人のプライベートに関わる話をするから、盗聴防止の魔道具を使用する。君がここにいるわけだから、下手なことは出来ないとわかっているし、それで問題はないな?」

「はい、かしこまりました。」
 エイダさんがそう言ってうなずいた。
 フェルディナンドさまは私に盗聴防止の魔術具を渡すと、話を始めた。

「まずご主人の側にいる限り君は安全だ。」
「はい。」
「けれどね……それはあくまで命の危険という意味でだけだ。ご主人が君に対して、……その、性的な感情を抱いている以上、君はご主人の庇護下に入るべきではない。」

「それは……。」
 イザークが家に行った私に、何かすると考えているのだろうか?確かに私たちはまだ離婚していないから、夫婦の義務というものも存在するけれど……。

 今のイザークがそれを要求してくるとは、私には思えなかった。……私、イザークを信用し始めているのだろうか?他人から見たらイザークは信用出来ない夫ということ?

 私は自分自身の心がわからなくて、思わず首を傾げる。だけど心の霧は晴れなかった。
「ああ。彼は君を愛しているわけではない。ただ、自分のものにしたいだけだ。」

「そうでしょうか……。」
 フェルディナンドさまが、そんな風にイザークを思っているとは知らなかった。

「そもそも君はご主人を愛していないのだろう?それなのに、彼は離婚を拒んでいる。」
「……はい……。」
 私は頷く。確かにそうだけれど……。

「それなら、尚更だ。君は今、ご主人を庇護者として少し慕っているようだ。けれど、それは恋ではないし、愛でもないはずだ。」
「そう……ですね……。」

 私は今までイザークに恋をしていたわけではない。ただ、いつか夫婦として親しくなれる、愛情と信頼を築いていけると信じていたから……。だから私は頑張っていたのだ。

「だから君がご主人の側にいる必要はない。正直すぐにでも防御魔法がかけられるのであればそうしたかったし、今でも魔塔に引きこもってほしいというのが私の本音だ。」

「……はい。」
「それに、彼は君を自分のものにしたいだけだと言っただろう?なら、君が彼のものになれば、彼は満足する。つまり、君を手に入れれば他はどうでも良いんだよ。」

「そう……なのでしょうか……。」
 私は俯いてしまう。今のイザークは私を尊重しようとしてくれている気もする。だけど第三者視点から見ているフェルディナンドさまが言うのならそうなのだろうとも思えた。

「……だから、君が問題なく正式に離婚出来るよう、私も精一杯協力させてもらう。私はご主人に君を譲るつもりはないからね。」

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