ラッキースケベ★デススクール

吉田定理

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第一部 桃井さんとイチャイチャしたい編

8, 最後まで下の名前は思い出せなかったけど、おまえがいたってことは絶対に忘れない

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「お漏らしの小森さん! 無事だったんだな!」
 俺はB棟の端、女子トイレの前で小森さんを発見して近づいて行った。
「小森さん一人?」
「村越くんが……」
「ああ、村越もいたんだ。そうだ名前は村越だ」
 廊下の壁際に、名前を思い出せない男子生徒A……村越もいた。存在感がないから小森さんが指差して教えてくれるまで、そこにいることにも気づかなかった。まあ、苗字だけ思い出せたからOKとしよう。
「佐藤、みんなどこ行っちゃったんだろう?」
 村越が不安そうに俺を見る。
「分からないけど、今、伊集院慧と東山さんと俺で、手分けしてみんなに作戦を伝えてるんだ」
「作戦?」
 お漏らし小森さんが聞いてきた。小森さんの服装は上下とも制服ではなく長そでの体操服に変わっていた。
「うん。ところで小森さん、体操服めちゃくちゃいい! まさにそれを求めてたんだ。どこにあったの?」
 俺が尋ねると、小森さんは顔を赤らめてうつむいた。もじもじしている。
 代わりに村越が答える。
「濡れちゃったから、あのあと、僕が着替えの体操服を探してきてあげたんだ」
「どこから?」
「下の階の教室。誰のか知らないけど、こんな状況だから許してくれると思う。僕ら以外、誰もいないみたいだし」
 男子生徒Aに言われて、確かに俺たち以外の生徒や教師が見当たらないな、と気づいた。学校にいるのは俺たち……クラスの三十人だけなのかもしれない。
「この際、誰のでも構わない。みんなが体操服に着替えれば、死ぬ確率がかなり下げられるんだ。小森さんはもうかなり安全だ」
「あ、はい……」
 よく分かっていないのか、小森さんは曖昧に返事をした。なんだろう? なんだか、小森さんは落ち着きもないな。
「そうだ、作戦を教えるから、二人とも協力してくれないか?」
「僕にできることがあるなら」
「はい……」
 俺は二人に「パンチラでさえヒトは死ぬ説」「全員がズボンを履けば最強だ作戦」を話した。
「ラッキースケベで死ぬなんて、今でも信じられないけど、目の前でクラスメイトが死んだ以上、信じるしかないみたいだね」
 男子生徒Aは腕を組んで、うんうんとうなずいた。
「誰が何のために、こんなゲームを始めたのでしょうか?」
 小森さんはやはり落ち着かないのか、まだもじもじしていた。
 待てよ? 小森さんはお漏らしをしてしまった。そしてすでに体操着に着替えたから、つまり、……今はノーパン?
 小森さんの下半身をチラ見した。さすがにズボンの上からは履いているかいないかは判別できないし、何かが透けたりもしない。
 いやいや、俺は何をしているんだ。
 気を取り直して、小森さんの質問に答える。
「正直、主催者の目的はまったく分からないけど、俺は桃井さんのカタキを打ちたい。生き残って、主催者を殴ってから警察に突き出す」
「うん、僕も主催者は罪を償うべきだと思う。生き残るために、協力するよ」
「私も、手伝います」
 これで協力者が二人増えた。うまくいきそうな気がしてきた。
「ただし、いつどこでラッキースケベが発生するか分からないから、動き回ること自体が危険だと言っていい。二人とも、くれぐれも気をつけてほしい」
 二人が力強くうなずいた。
「じゃあ、二人はここB棟を頼む。俺はA棟にいる人に知らせてくるから。最終的には校庭でまた会おう」
「分かったよ」
「分かりました」
「じゃあ、俺は向こうに行くから」
 俺はA棟のほうを指差した。
「僕らはこっちだね」
 男子生徒Aと小森さんは反対……階段のほうを向いた。
「じゃあ、また後で」
 俺は二人と別れた。
 しかし、なぜか胸騒ぎがして、二人のほうを振り返る。二人の背中が階段を降りていくのが見える。
 と、小森さんの体操着のお尻のポケットから、何か黒い布のようなものがひらりと落ちた。
 すぐに男子生徒Aが気づいて止まった。
 俺はとんでもない思い違いをしていたことに気づき、
「ええと、名前なんだっけ! 出てこねえ! それはダメだ! 拾うなっ!!」
 大声で叫んだが、遅かった。
 男子生徒Aは落下物を拾ってしまったのだ。
 ピピピピッと不吉な音が鳴り響く。
「嘘だ……そんな……」
 手にした黒い布を見つめたまま、驚愕と恐怖で固まる男子生徒A。
 同じくその布を見つめたまま、りんごみたいに真っ赤になった小森さん。
「ええと村田ーっ! 小森さーんっ!」
 二人の頭が同時に吹き飛び、血しぶきが上がった。


1日目 11:07
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