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第一章
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青ざめた生気のない顔が、歯を剥き出しにして襲いかかってくる。紫色の唇、口端からだらしなく垂れるよだれ、にごり切った目――完全なゾンビだ。
心臓が跳ね、視界がぐらりと揺れた。身体中の血液が凍りつく。
「やめてくれ……! 頼む……!」
ゾンビに馬乗りになり、両手に全身全霊を込めて首を押さえつけたが、ゾンビは暴れ続けた。やらなければやられる。生き残るにはこのまま首をへし折るしかない。
絶対に死ぬわけにはいかないのだ。
――そんなあの日のことがいつまでも脳裏にへばりついて、胸を締めつける。
死のウイルスに感染した者は、だんだん体が腐っていき、最後には脳が侵され、168時間(七日)ほどで完全なゾンビになる。
死のウイルスが日常を破壊したあの日から二か月が経った。
北高校から車で十分ほど行ったところにスーパーがある。
食料調達班Cの四人はマスクをしてムカデみたいに一列に並び、お菓子コーナーの棚へと向かっていた。
「オエッ……暑いし臭いし、こいつらうざすぎる!」
列の先頭の光太郎(こうたろう)はイライラした様子で、鬱陶しいハエどもに殺虫スプレーを吹きかけまくっている。
「ああもう、気持ち悪い。どんだけいるんだよ」
「ごめん……」
光太郎の後ろで申し訳なさそうにつぶやいたのは陽菜(ひな)。
「謝らなくていいよ。暑いのも臭いのも陽菜のせいじゃないんだから」
光太郎は歩きながら振り返らず言った。
「でも、私が立候補したから、こーちゃんも来たんでしょ?」
「別にそういうわけじゃないけど、陽菜が一人で行くのは危なすぎるっていうか、陽菜が行くのに俺が行かないのもなんかおかしいだろ?」
「そうよ陽菜。こいつ陽菜が行くって言ったから来たのよ。素直に認めればいいのに面倒くさいヤツ」
陽菜の後ろから会話に入ってきたのは沙紀(さき)。
「うるさいんだよ! 沙紀こそ来なくてもよかったんだぞ」
「あたしは行くに決まってるじゃん。陽菜が行くんだから」
ね! と沙紀が陽菜の脇腹にちょっかいを出すと、陽菜は「ひゃん!」と変な声を漏らす。
「こんなところでやめてよ、もう……」
立ち止まって怒る陽菜も沙紀も、三重のマスクの下で笑っている。
と、不意にコトコトッという小さな音がして、沙紀と陽菜は短く引きつった悲鳴をあげた。沈黙。見ると、棚に破けたアメの大袋があり、そこからアメがいくつかこぼれ落ちたのだった。
一同は胸を撫で下ろす。
「沙紀が来たのは悠一(ゆういち)が来たからだろ?」
光太郎も止まって振り向き、ニヤニヤを浮かべて陽菜の頭越しに沙紀を見やった。
「はあ⁉︎ なんでそうなんのよ⁉︎」
「さあな、なんでだろな?」
「あんた殴られたいの?」
「おいおい、さっさと仕事を終わらせよう」
進みが遅いとばかりに最後尾から注意したのは、その悠一だ。マスクでメガネが曇って表情が見えないが、笑顔でないことは確かだ。
「こんなところに長居するのは勘弁だ」
その意見には全員賛成だった。
まだ六月なのに、すでに夏のように暑かった。放棄されたスーパーの冷房が使えるわけもなく、全開の自動ドアからは風もほとんど入ってこない。しかも肉や野菜や死体などのナマモノというナマモノが腐って強烈な悪臭を放ち、コバエもブンブン飛び回っている。想像していた以上にひどい有り様だ。
四人は時折落ちているウジ虫にまみれたナゾの物体を蹴飛ばさないように気をつけながら、のろのろと棚の間を進んでお菓子コーナーにたどり着いた。
「よーし、この辺はまだ残ってるぞ。早く終わらせて帰ろうぜ」
「よく言うわ」
調子のいい光太郎に、あきれる沙紀。悠一は持ってきた買い物カゴを皆に配る。
光太郎はポテトチップスのコンソメ味をポイポイとカゴに放り込む。
沙紀と悠一は隣のクッキーコーナーに移動していく。陽菜は光太郎の横で明太子味のスナックの袋に手を伸ばす。
「こーちゃん、食料調達に来なくてもよかったのに」
陽菜は光太郎にだけ聞こえる声で言った。
「もうみんな来ちゃったんだからいいじゃねーか」
光太郎も陽菜にだけ聞こえる声で返す。
チラッと沙紀のほうを見ると、悠一と何か話していた。
「だって店長のゾンビが奥さん探してうろついてるって、沢辺さんが」
「冗談だろそんなの」
「そうなの?」
「俺たちをからかってるんだよ」
光太郎は話しながら、ポテチ回収ミッションを続ける。
「……こーちゃん、一緒に来てくれてありがとう」
陽菜がこちらを見ていた。
まともに目が合い、光太郎は気恥ずかしくなってやたらと乱暴にポテチをカゴに投げ込んだ。
「ああそうだよ。陽菜が来たから来たんだよ。文句あるか?」
「ない」
ふっと陽菜が微笑んだのは、見なくても分かった。
陽菜は俺が守らなきゃいけない。絶対に陽菜を守り抜く。あの日、暗くて狭い物置の中で、震えながら嗚咽をあげている陽菜の手を握り、誓ったのだ。
その記憶を思い出したとき、しかしすぐに現実に引き戻された。
視界で何かが動いたのだ。息が止まる。棚と床との隙間。一瞬で体温が3℃も下がったような気がした。
何かがいる。
ネズミが顔を出し、また引っ込んでいった。
空気が緩み、光太郎は胸に手を当てて、ふーっと息を吐いた。
「あ、こーちゃんのカゴ、コンソメ味ばっかりになってるよ。塩味とのりしお味も入れなきゃ」
何も気づかなかった陽菜はのんきに言う。
だからお前は心配なんだ、と光太郎は内心でつぶやいた。
「味なんて何でもいいだろ? タダで食えるだけありがたいと思うんだが」
「でもコンソメばっかりだと飽きちゃうし、他の味がいい人もいるでしょ? 私たち、せっかく担当として来たんだから、バランスを考えたほうがいいと思う」
「へいへい、分かった分かった」
光太郎は面倒くさいなと思いながらも、入れ過ぎたコンソメ味を棚に少し戻す。
「私はのりしおが好き」
「じゃあコンソメと塩を半々にしておこう」
「ひどっ! 生きてるうちに食べれる最後のポテチかもしれないのに」
「嘘だって。のりしおも入れるから怒んな」
「私は明太子とチーズと、こーちゃんこのサワークリームっていうの好き?」
「いや、食ったことないから分からん」
「私も。せっかくだから入れとくね」
「不味かったときは沢辺さんに『それ陽菜が選んだ』って報告するからな」
「えー、ひどっ。じゃあやめよっかな……」
「二人とも真面目にやってくれるか?」
いつの間にかそばに戻ってきた悠一がメガネ越しに鋭い視線を向けていた。
「今は死ぬか生きるかなんだぞ。こうしている間にも、いつゾンビに襲われるか分からない。おしゃべりする暇があるなら、手を動かしてくれ」
「そうよ。あんたたち、緊張感なさすぎ」
沙紀の顔には「光太郎が怒られて嬉しい」と書いてあった。
お前たちも話してただろうが、と反論しかけてやめた。
悠一のカゴも、その後ろに立つ沙紀のカゴも、すでにお菓子でいっぱいだ。一方、光太郎と陽菜のカゴはまだもう少し入る。これでは反論した瞬間負ける。
「ご、ごめん。真面目にやるね」
陽菜はすぐに謝った。
光太郎も「緊張感がなくてすまなかったな。これからは真面目に生きる」と少々投げやりに謝った。
「あっちにあった死体、見た?」
沙紀は怯えと興奮とで早口だった。
「見てない」
光太郎はそっけなく答えた。
「別に見たくもない」
今さら死体の一つや二つで驚くことはない。この二か月、もっとたくさんの死体を見てきたのだから。
「早く入れちゃおう?」
陽菜が話題をそらすように言った。
「ああ、仕事だ仕事」
陽菜と光太郎は仕事の仕上げにかかった。カゴからこぼれ落ちない程度にポテチを押し込む。
「光太郎。そんなふうにヘラヘラしていると、そのうち食われるぞ。僕は助ける価値のないヤツはリスクを負ってまで助けるつもりはないからな」
急に悠一がそんなことを言い出したので、光太郎はさすがにカチンと来た。たぶんみんな暑さや臭さやハエにイライラしていたのだ。
「ヘラヘラはしてないだろ。っていうか価値がないってなんだよ」
「言葉のままだ」
「じゃあ見捨てたければ見捨てろよ。どうせ俺たち全員、助からないかもしれない。そこら中ゾンビであふれてるし、警察も自衛隊も来ないし、テレビもケータイも役に立たない。今やってることも全部無駄かもしれないぞ」
「お前、よく皆の前でそういうことが言えるな。皆、必死で一日一日を生きてるのに」
「俺だけ必死じゃないって言いたいのか?」
「やめなよ二人とも」
沙紀が不安そうに割って入る。陽菜はもっと不安そうに押し黙っている。
いつ自分や友だちが死ぬかも分からない不安は、どんなに考えないようにしても、ふとしたときに頭をよぎってしまう。明るい未来を想像できるような要素は、現状、何もない。この世界的な大混乱の最初のニか月をなんとか乗り切ったものの、みんな失ったものが多すぎた。家族や友人を亡くしたショックからもまだ立ち直ったとは言えない。
飛んでいるハエが感電して落ちそうなほどピリピリとした空気が四人を包んでいる。
沙紀がその空気を壊した。
「ねえ、もう戻ろう? こんなところにいつまでも居たくない。匂いが染み付きそうで嫌」
「そ、そうだね! いっぱいになったカゴ、入り口に持っていくね」
陽菜もすかさず沙紀に賛同した。左右の手で自分のと光太郎のカゴを持ち上げて歩き出す。
「ほら光太郎、早く陽菜を手伝いなさい」
べしん、と汗ばんだシャツの背中を叩かれた。
「いってぇ! 骨折れた」
「折れない折れない」
光太郎は沙紀に急かされ、陽菜に追いつきカゴを一つ奪い取った。
心臓が跳ね、視界がぐらりと揺れた。身体中の血液が凍りつく。
「やめてくれ……! 頼む……!」
ゾンビに馬乗りになり、両手に全身全霊を込めて首を押さえつけたが、ゾンビは暴れ続けた。やらなければやられる。生き残るにはこのまま首をへし折るしかない。
絶対に死ぬわけにはいかないのだ。
――そんなあの日のことがいつまでも脳裏にへばりついて、胸を締めつける。
死のウイルスに感染した者は、だんだん体が腐っていき、最後には脳が侵され、168時間(七日)ほどで完全なゾンビになる。
死のウイルスが日常を破壊したあの日から二か月が経った。
北高校から車で十分ほど行ったところにスーパーがある。
食料調達班Cの四人はマスクをしてムカデみたいに一列に並び、お菓子コーナーの棚へと向かっていた。
「オエッ……暑いし臭いし、こいつらうざすぎる!」
列の先頭の光太郎(こうたろう)はイライラした様子で、鬱陶しいハエどもに殺虫スプレーを吹きかけまくっている。
「ああもう、気持ち悪い。どんだけいるんだよ」
「ごめん……」
光太郎の後ろで申し訳なさそうにつぶやいたのは陽菜(ひな)。
「謝らなくていいよ。暑いのも臭いのも陽菜のせいじゃないんだから」
光太郎は歩きながら振り返らず言った。
「でも、私が立候補したから、こーちゃんも来たんでしょ?」
「別にそういうわけじゃないけど、陽菜が一人で行くのは危なすぎるっていうか、陽菜が行くのに俺が行かないのもなんかおかしいだろ?」
「そうよ陽菜。こいつ陽菜が行くって言ったから来たのよ。素直に認めればいいのに面倒くさいヤツ」
陽菜の後ろから会話に入ってきたのは沙紀(さき)。
「うるさいんだよ! 沙紀こそ来なくてもよかったんだぞ」
「あたしは行くに決まってるじゃん。陽菜が行くんだから」
ね! と沙紀が陽菜の脇腹にちょっかいを出すと、陽菜は「ひゃん!」と変な声を漏らす。
「こんなところでやめてよ、もう……」
立ち止まって怒る陽菜も沙紀も、三重のマスクの下で笑っている。
と、不意にコトコトッという小さな音がして、沙紀と陽菜は短く引きつった悲鳴をあげた。沈黙。見ると、棚に破けたアメの大袋があり、そこからアメがいくつかこぼれ落ちたのだった。
一同は胸を撫で下ろす。
「沙紀が来たのは悠一(ゆういち)が来たからだろ?」
光太郎も止まって振り向き、ニヤニヤを浮かべて陽菜の頭越しに沙紀を見やった。
「はあ⁉︎ なんでそうなんのよ⁉︎」
「さあな、なんでだろな?」
「あんた殴られたいの?」
「おいおい、さっさと仕事を終わらせよう」
進みが遅いとばかりに最後尾から注意したのは、その悠一だ。マスクでメガネが曇って表情が見えないが、笑顔でないことは確かだ。
「こんなところに長居するのは勘弁だ」
その意見には全員賛成だった。
まだ六月なのに、すでに夏のように暑かった。放棄されたスーパーの冷房が使えるわけもなく、全開の自動ドアからは風もほとんど入ってこない。しかも肉や野菜や死体などのナマモノというナマモノが腐って強烈な悪臭を放ち、コバエもブンブン飛び回っている。想像していた以上にひどい有り様だ。
四人は時折落ちているウジ虫にまみれたナゾの物体を蹴飛ばさないように気をつけながら、のろのろと棚の間を進んでお菓子コーナーにたどり着いた。
「よーし、この辺はまだ残ってるぞ。早く終わらせて帰ろうぜ」
「よく言うわ」
調子のいい光太郎に、あきれる沙紀。悠一は持ってきた買い物カゴを皆に配る。
光太郎はポテトチップスのコンソメ味をポイポイとカゴに放り込む。
沙紀と悠一は隣のクッキーコーナーに移動していく。陽菜は光太郎の横で明太子味のスナックの袋に手を伸ばす。
「こーちゃん、食料調達に来なくてもよかったのに」
陽菜は光太郎にだけ聞こえる声で言った。
「もうみんな来ちゃったんだからいいじゃねーか」
光太郎も陽菜にだけ聞こえる声で返す。
チラッと沙紀のほうを見ると、悠一と何か話していた。
「だって店長のゾンビが奥さん探してうろついてるって、沢辺さんが」
「冗談だろそんなの」
「そうなの?」
「俺たちをからかってるんだよ」
光太郎は話しながら、ポテチ回収ミッションを続ける。
「……こーちゃん、一緒に来てくれてありがとう」
陽菜がこちらを見ていた。
まともに目が合い、光太郎は気恥ずかしくなってやたらと乱暴にポテチをカゴに投げ込んだ。
「ああそうだよ。陽菜が来たから来たんだよ。文句あるか?」
「ない」
ふっと陽菜が微笑んだのは、見なくても分かった。
陽菜は俺が守らなきゃいけない。絶対に陽菜を守り抜く。あの日、暗くて狭い物置の中で、震えながら嗚咽をあげている陽菜の手を握り、誓ったのだ。
その記憶を思い出したとき、しかしすぐに現実に引き戻された。
視界で何かが動いたのだ。息が止まる。棚と床との隙間。一瞬で体温が3℃も下がったような気がした。
何かがいる。
ネズミが顔を出し、また引っ込んでいった。
空気が緩み、光太郎は胸に手を当てて、ふーっと息を吐いた。
「あ、こーちゃんのカゴ、コンソメ味ばっかりになってるよ。塩味とのりしお味も入れなきゃ」
何も気づかなかった陽菜はのんきに言う。
だからお前は心配なんだ、と光太郎は内心でつぶやいた。
「味なんて何でもいいだろ? タダで食えるだけありがたいと思うんだが」
「でもコンソメばっかりだと飽きちゃうし、他の味がいい人もいるでしょ? 私たち、せっかく担当として来たんだから、バランスを考えたほうがいいと思う」
「へいへい、分かった分かった」
光太郎は面倒くさいなと思いながらも、入れ過ぎたコンソメ味を棚に少し戻す。
「私はのりしおが好き」
「じゃあコンソメと塩を半々にしておこう」
「ひどっ! 生きてるうちに食べれる最後のポテチかもしれないのに」
「嘘だって。のりしおも入れるから怒んな」
「私は明太子とチーズと、こーちゃんこのサワークリームっていうの好き?」
「いや、食ったことないから分からん」
「私も。せっかくだから入れとくね」
「不味かったときは沢辺さんに『それ陽菜が選んだ』って報告するからな」
「えー、ひどっ。じゃあやめよっかな……」
「二人とも真面目にやってくれるか?」
いつの間にかそばに戻ってきた悠一がメガネ越しに鋭い視線を向けていた。
「今は死ぬか生きるかなんだぞ。こうしている間にも、いつゾンビに襲われるか分からない。おしゃべりする暇があるなら、手を動かしてくれ」
「そうよ。あんたたち、緊張感なさすぎ」
沙紀の顔には「光太郎が怒られて嬉しい」と書いてあった。
お前たちも話してただろうが、と反論しかけてやめた。
悠一のカゴも、その後ろに立つ沙紀のカゴも、すでにお菓子でいっぱいだ。一方、光太郎と陽菜のカゴはまだもう少し入る。これでは反論した瞬間負ける。
「ご、ごめん。真面目にやるね」
陽菜はすぐに謝った。
光太郎も「緊張感がなくてすまなかったな。これからは真面目に生きる」と少々投げやりに謝った。
「あっちにあった死体、見た?」
沙紀は怯えと興奮とで早口だった。
「見てない」
光太郎はそっけなく答えた。
「別に見たくもない」
今さら死体の一つや二つで驚くことはない。この二か月、もっとたくさんの死体を見てきたのだから。
「早く入れちゃおう?」
陽菜が話題をそらすように言った。
「ああ、仕事だ仕事」
陽菜と光太郎は仕事の仕上げにかかった。カゴからこぼれ落ちない程度にポテチを押し込む。
「光太郎。そんなふうにヘラヘラしていると、そのうち食われるぞ。僕は助ける価値のないヤツはリスクを負ってまで助けるつもりはないからな」
急に悠一がそんなことを言い出したので、光太郎はさすがにカチンと来た。たぶんみんな暑さや臭さやハエにイライラしていたのだ。
「ヘラヘラはしてないだろ。っていうか価値がないってなんだよ」
「言葉のままだ」
「じゃあ見捨てたければ見捨てろよ。どうせ俺たち全員、助からないかもしれない。そこら中ゾンビであふれてるし、警察も自衛隊も来ないし、テレビもケータイも役に立たない。今やってることも全部無駄かもしれないぞ」
「お前、よく皆の前でそういうことが言えるな。皆、必死で一日一日を生きてるのに」
「俺だけ必死じゃないって言いたいのか?」
「やめなよ二人とも」
沙紀が不安そうに割って入る。陽菜はもっと不安そうに押し黙っている。
いつ自分や友だちが死ぬかも分からない不安は、どんなに考えないようにしても、ふとしたときに頭をよぎってしまう。明るい未来を想像できるような要素は、現状、何もない。この世界的な大混乱の最初のニか月をなんとか乗り切ったものの、みんな失ったものが多すぎた。家族や友人を亡くしたショックからもまだ立ち直ったとは言えない。
飛んでいるハエが感電して落ちそうなほどピリピリとした空気が四人を包んでいる。
沙紀がその空気を壊した。
「ねえ、もう戻ろう? こんなところにいつまでも居たくない。匂いが染み付きそうで嫌」
「そ、そうだね! いっぱいになったカゴ、入り口に持っていくね」
陽菜もすかさず沙紀に賛同した。左右の手で自分のと光太郎のカゴを持ち上げて歩き出す。
「ほら光太郎、早く陽菜を手伝いなさい」
べしん、と汗ばんだシャツの背中を叩かれた。
「いってぇ! 骨折れた」
「折れない折れない」
光太郎は沙紀に急かされ、陽菜に追いつきカゴを一つ奪い取った。
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