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第二章
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光太郎がハンドルを握り、陽菜が助手席で地図を見ながら道を案内する。目的地は新宿。
今、二人を乗せた車は関越自動車道を南下している。といっても、まだ運転に慣れていないので、スピードはせいぜい時速40キロというところだ。
「ゾンビもほとんどいないし、障害物も少ないし、かなり快適だな」
「うん。風が気持ちいい!」
陽菜は車の窓を開けて景色を眺めている。故障車や死体がときどき転がっているのを気にしなければ、快適なドライブだ。
朝食を食べた後、二人は本屋で地図を入手し、さらに別のコンビニで飲み物や食べ物、日用品などを追加で調達した。道路の状況、ゾンビの有無も分からないので、新宿に着くまで何日かかかっても大丈夫なように万全の準備を整えたのだ。
地図には新宿までのルートと、ここまでの通れない道にバツ印が書き込んである。
「次、藤岡ジャンクションだぞ」
「真っ直ぐでいいよ」
「了解」
藤岡を過ぎ、さらに関越を進んでいく。花園インターチェンジのそばまで順調に進んできたところでいったん休憩することにした。路肩に車を寄せてエンジンを切った。
「はー、疲れた。俺たちしかいないからいいけど、緊張して肩が凝るな」
「こーちゃん、お疲れさま」
陽菜が助手席からジュースやお菓子を手渡す。光太郎は礼を言って受け取り、一口飲む。
「大丈夫?」
「まあな。今、どのくらい進んだ?」
陽菜の膝の上の地図をのぞきこむ。
「たぶん三分の一くらいかな。この調子で行けば、休みながらでも夕方には着きそう」
「ホントか!? よっしゃ、このまま頑張るぞ」
「ねえ、こーちゃん、ちょっといい?」
陽菜は言いにくそうに上目遣いに尋ねる。
「なんだ?」
「あのね、私も、ちょっと運転してみたいなーって」
「じゃあ交代してみるか?」
「やったー!」
席を交代すると、陽菜は興奮したように目を輝かせた。
「エ、エンジンかけるよ!」
「だいぶ緊張してるな」
陽菜はSTARTのボタンを押してエンジンをかけた。エンジン音が上がると子供みたいにはしゃぐ。
「できたー! なんかもう楽しいんだけどっ!」
「実際、運転してみるともっと楽しいぞ」
「よおーし、発車するよ。いい?」
「シートベルトしてないぞ」
「忘れてた! 違反になっちゃうところだった」
「俺たち運転してること自体が違反だけどな」
「それは今は気にしない」
サイドブレーキを下ろし、シフトレバーをDに入れ、アクセルをゆっくりと踏み込んでいく。車が動き出した。
「わー、すごっ! 動いてる動いてる!」
のろのろと徐行のスピードで十メートルくらい進んでから、陽菜はブレーキを踏んで車を止めた。
「おおー! 止まったよ!」
「そりゃな」
「もうちょっとスピード上げるよ」
もう一度、アクセルを踏み、今度は時速30キロくらいで走る。
「すごい! 速い!」
「いや30キロしか出てねえぞ」
「嘘でしょ!? これで30キロだけ!? 怖っ! 速すぎ」
「俺の運転が下手とか言ってたくせに、この程度でビビってるのかよ」
光太郎は鼻で笑って挑発する。
「ハンドルも安定しねえし、まあ事故らないでくれよ」
「安全運転で行くもん」
陽菜は頬を膨らませる。
「日が暮れるぞ。さすがにもうちょっとスピード出さないか?」
「じゃあ40キロまで」
スピードを上げていく。40キロを超えた辺りでアクセルから足を離した。
「ダメ怖い! 速すぎ! 40キロ無理!」
「どんだけビビりだよ……」
そのうち陽菜は運転に慣れてきて、あれこれ試して遊び始めた。
「見てライトついた!」
「まだ要らないけどな」
「ねえ、いきなり水が出てきたんだけど! 自動で掃除してくれたんだけど! うけるっ!」
「それ便利だな!」
「こーちゃん見て! 今何キロ? 速い速い速ーい! あははははっ! なんか楽しーっ!」
「60キロ超えたぞ」
陽菜はアクセルから足を離さない。子どもの頃に戻ったみたいな笑い声が高らかに響く。
「80キロだぞ、もうやめといたほうがいい」
「だいじょぶもうちょっと!」
「100キロ超えてる! おい陽菜っ!」
「あはははははっ!! 100キロだって! 速すぎ! やばーっ! あはははははっ!!」
そのうち速さにも慣れてきて、がんがんスピードを出して面白がっていた。まるで遊園地のアトラクションを楽しみ尽くそうというふうに。途中から頭のネジが外れたみたいに、何をしても何を言っても一人で爆笑する。そのうち事故るんじゃないかと光太郎は心配でヒヤヒヤした。
「さすがにこのスピードでゾンビにぶつかったらやばくないか? 大丈夫かこれ」
「大丈夫じゃない! やばい! 事故ったら絶対死んじゃう! あはははははっ!!」
「おい何か歩いてるぞ!?」
「ゾンビ!」
「避けろ! 陽菜!」
車は猛スピードでゾンビの数メートル横を通り過ぎた。
「あははははっ! 当たらないってば! よゆーよゆー! こーちゃんビビりすぎー!」
そんなハイな時間が三十分くらい続いた。光太郎はシートベルトをお守りのように握り締めていた。
やっと疲れてきたらしく、陽菜はスピードを落として「そろそろ休憩したいから交代しよ?」と言った。光太郎はようやく生きた心地がしたのだった。
鶴ヶ島ジャンクションの分岐を示す看板の手前で停車し、運転を交代した。
「あー、面白かった」
「俺は運転してないのにめちゃくちゃ疲れた……」
「なんでこーちゃんが疲れるの?」
「ずっとヒヤヒヤしてたんだよ。正直死ぬかと思った」
「私のこと、信頼してないでしょ」
「いやいや、もちろん信頼はしてるけど……」
陽菜のことは家族をのぞけば誰よりも知っているつもりでいたが、それは思い上がりなのかもしれない。
「……けど?」
「何でもない。それより鶴ヶ島からどっちに行くんだ?」
「練馬までだから、このまま真っ直ぐ」
話をそらして車を走らせる。しばらくハンドルは貸さないようにしようと思った。
「なんでかなー。悪いことしてるはずなのに、こんなに楽しいなんて不思議な気分」
陽菜はそうつぶやいて、ご機嫌で鼻歌なんて歌っている。光太郎は思わずニヤリとして尋ねる。
「たまには悪人になるのも悪くない?」
陽菜もニヤリと笑みを返し、
「かもね」
今、二人を乗せた車は関越自動車道を南下している。といっても、まだ運転に慣れていないので、スピードはせいぜい時速40キロというところだ。
「ゾンビもほとんどいないし、障害物も少ないし、かなり快適だな」
「うん。風が気持ちいい!」
陽菜は車の窓を開けて景色を眺めている。故障車や死体がときどき転がっているのを気にしなければ、快適なドライブだ。
朝食を食べた後、二人は本屋で地図を入手し、さらに別のコンビニで飲み物や食べ物、日用品などを追加で調達した。道路の状況、ゾンビの有無も分からないので、新宿に着くまで何日かかかっても大丈夫なように万全の準備を整えたのだ。
地図には新宿までのルートと、ここまでの通れない道にバツ印が書き込んである。
「次、藤岡ジャンクションだぞ」
「真っ直ぐでいいよ」
「了解」
藤岡を過ぎ、さらに関越を進んでいく。花園インターチェンジのそばまで順調に進んできたところでいったん休憩することにした。路肩に車を寄せてエンジンを切った。
「はー、疲れた。俺たちしかいないからいいけど、緊張して肩が凝るな」
「こーちゃん、お疲れさま」
陽菜が助手席からジュースやお菓子を手渡す。光太郎は礼を言って受け取り、一口飲む。
「大丈夫?」
「まあな。今、どのくらい進んだ?」
陽菜の膝の上の地図をのぞきこむ。
「たぶん三分の一くらいかな。この調子で行けば、休みながらでも夕方には着きそう」
「ホントか!? よっしゃ、このまま頑張るぞ」
「ねえ、こーちゃん、ちょっといい?」
陽菜は言いにくそうに上目遣いに尋ねる。
「なんだ?」
「あのね、私も、ちょっと運転してみたいなーって」
「じゃあ交代してみるか?」
「やったー!」
席を交代すると、陽菜は興奮したように目を輝かせた。
「エ、エンジンかけるよ!」
「だいぶ緊張してるな」
陽菜はSTARTのボタンを押してエンジンをかけた。エンジン音が上がると子供みたいにはしゃぐ。
「できたー! なんかもう楽しいんだけどっ!」
「実際、運転してみるともっと楽しいぞ」
「よおーし、発車するよ。いい?」
「シートベルトしてないぞ」
「忘れてた! 違反になっちゃうところだった」
「俺たち運転してること自体が違反だけどな」
「それは今は気にしない」
サイドブレーキを下ろし、シフトレバーをDに入れ、アクセルをゆっくりと踏み込んでいく。車が動き出した。
「わー、すごっ! 動いてる動いてる!」
のろのろと徐行のスピードで十メートルくらい進んでから、陽菜はブレーキを踏んで車を止めた。
「おおー! 止まったよ!」
「そりゃな」
「もうちょっとスピード上げるよ」
もう一度、アクセルを踏み、今度は時速30キロくらいで走る。
「すごい! 速い!」
「いや30キロしか出てねえぞ」
「嘘でしょ!? これで30キロだけ!? 怖っ! 速すぎ」
「俺の運転が下手とか言ってたくせに、この程度でビビってるのかよ」
光太郎は鼻で笑って挑発する。
「ハンドルも安定しねえし、まあ事故らないでくれよ」
「安全運転で行くもん」
陽菜は頬を膨らませる。
「日が暮れるぞ。さすがにもうちょっとスピード出さないか?」
「じゃあ40キロまで」
スピードを上げていく。40キロを超えた辺りでアクセルから足を離した。
「ダメ怖い! 速すぎ! 40キロ無理!」
「どんだけビビりだよ……」
そのうち陽菜は運転に慣れてきて、あれこれ試して遊び始めた。
「見てライトついた!」
「まだ要らないけどな」
「ねえ、いきなり水が出てきたんだけど! 自動で掃除してくれたんだけど! うけるっ!」
「それ便利だな!」
「こーちゃん見て! 今何キロ? 速い速い速ーい! あははははっ! なんか楽しーっ!」
「60キロ超えたぞ」
陽菜はアクセルから足を離さない。子どもの頃に戻ったみたいな笑い声が高らかに響く。
「80キロだぞ、もうやめといたほうがいい」
「だいじょぶもうちょっと!」
「100キロ超えてる! おい陽菜っ!」
「あはははははっ!! 100キロだって! 速すぎ! やばーっ! あはははははっ!!」
そのうち速さにも慣れてきて、がんがんスピードを出して面白がっていた。まるで遊園地のアトラクションを楽しみ尽くそうというふうに。途中から頭のネジが外れたみたいに、何をしても何を言っても一人で爆笑する。そのうち事故るんじゃないかと光太郎は心配でヒヤヒヤした。
「さすがにこのスピードでゾンビにぶつかったらやばくないか? 大丈夫かこれ」
「大丈夫じゃない! やばい! 事故ったら絶対死んじゃう! あはははははっ!!」
「おい何か歩いてるぞ!?」
「ゾンビ!」
「避けろ! 陽菜!」
車は猛スピードでゾンビの数メートル横を通り過ぎた。
「あははははっ! 当たらないってば! よゆーよゆー! こーちゃんビビりすぎー!」
そんなハイな時間が三十分くらい続いた。光太郎はシートベルトをお守りのように握り締めていた。
やっと疲れてきたらしく、陽菜はスピードを落として「そろそろ休憩したいから交代しよ?」と言った。光太郎はようやく生きた心地がしたのだった。
鶴ヶ島ジャンクションの分岐を示す看板の手前で停車し、運転を交代した。
「あー、面白かった」
「俺は運転してないのにめちゃくちゃ疲れた……」
「なんでこーちゃんが疲れるの?」
「ずっとヒヤヒヤしてたんだよ。正直死ぬかと思った」
「私のこと、信頼してないでしょ」
「いやいや、もちろん信頼はしてるけど……」
陽菜のことは家族をのぞけば誰よりも知っているつもりでいたが、それは思い上がりなのかもしれない。
「……けど?」
「何でもない。それより鶴ヶ島からどっちに行くんだ?」
「練馬までだから、このまま真っ直ぐ」
話をそらして車を走らせる。しばらくハンドルは貸さないようにしようと思った。
「なんでかなー。悪いことしてるはずなのに、こんなに楽しいなんて不思議な気分」
陽菜はそうつぶやいて、ご機嫌で鼻歌なんて歌っている。光太郎は思わずニヤリとして尋ねる。
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