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闇の幕開け編

楽観的な青年

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「てか何でここまで来れたんだ?悪魔の襲撃があったはずだろ。まさかゼロとは言うまい。」
「あぁ、あったよ。でも問題なかった。どいつも返り討ちにしてやったよ!」
 ベルクルは爽やかな表情でぐっと親指を立てた。
「…クソが。」
「アケロミ、口がニヤけてるよ。」
 ベルクルはアケロミを見て笑った。
「お前は来ちゃだめだ。」
「え?」
「お前にはこの外の世界は危険すぎる。早く帰れよ。お前の実力ならここから一人でも帰れるだろ、ここまで来れたんだし。」
「いやだよ~!!俺はアケロミと一緒に行きたいんだぁ!!」
「いや、俺は許さん!お前、家族の人とかに言ったのか?」
「…メモは残したけど。」
「他は??」
「ないよ。」
「え、メモだけ??」
「うん。メモだけ残した。それでいいかなーって思って。」
「それなら尚更帰れ!姉貴と爺さんが心配するだろ!!一人が嫌なら俺も一緒に行くから。」
「でもさ、一緒帰ったとしてもお前はもう一回どこかに行っちまうんだろ?そんなの嫌だよ。それに…ねーちゃんもじーちゃんも物分かりがいいし。だから大丈夫!!!」
「俺は旅に出るって決めたんだから。今更戻って地下に引っ込んでいるつもりはさらさらねぇな。」
「俺寂しいよ!!」
「お前はガキかよ。一人でもなんとかしやがれ。それにラヴェルとハーヴィもいるだろう。」
「えー、つまんないの!あの二人にもメモを残したから大丈夫だって!!!」
 ベルクルは一切動こうとしない。
「あ、アケロミ!後ろ!」
「っと!!」
 二人はいきなり出てきた巨大な悪魔の攻撃を慌ててよけた。
「なんだこのでっかいの!!こんなの見たことねぇよ!!」
「ほら見ろ!これが現実なんだよ!」
「ひえええ!!!!」
「実感しただろう!?あの生ぬるい実技テスト何て当てにならないんだよ!」

 アケロミはドラゴンのような姿をした悪魔をにらみつけた。悪魔はベルクルとアケロミを交互にチラチラと見ている。悪魔はベルクルに狙いを定めたようだ。それにいち早く気が付いたアケロミ。長年悪魔と戦っていると相手の目の動きで誰を狙っているのか分かるようになるのだ。
「ベンジャミン!!!あぶねぇ!!!」
「え?」
「何ボーっとしているんだ!お前、狙われているぞ!!」
 アケロミはベルクルを突き飛ばした。それと同時に悪魔の長いしっぽがアケロミの背中に直撃した。
「うぅ!!」
 アケロミはそのまましっぽに跳ね飛ばされて太い木に激突してしまった。バキィ!!!
「ぐう!!!」
 鈍い音がしてアケロミは地面にどさりと倒れた。
「あ、アケロミ!!」
 ベルクルはアケロミに駆け寄った。友人の体を乱暴に揺さぶる。
「アケロミ、アケロミ!!!起きてくれ!!!返事をしろ!!」
 しかし…反応がない。
「…気を失っている。…クソ!!よくもアケロミをやってくれたな!!」
 ベルクルは拳に力を込めた。
「よっしゃ!お前は俺の敵だ!!」
 悪魔はベルクルを見つめて攻撃するチャンスをうかがっているようだ。次の瞬間、ベルクルは自ら悪魔に飛び掛かった。俺がモタモタしているせいでアケロミは…!!!アケロミが攻撃をまともに受けちまったのは俺がぼーっとしていたからだ!!!俺のせいだ…。だからケリはちゃんと俺がつける!!!
「おらぁ!!」
 ベルクルは大きく振りかぶって拳を相手の頭に向かって振り下ろした。しかし、一発目はかわされてしまった。「…!!」
 くそ…。そう簡単にはいかねぇか…。ま、そんなもの…だよな!!!最初のうちは誰でも失敗するものだ。だからいちいちクヨクヨしている暇はない!!!そんな時間があるなら攻撃の準備をするんだ!!!ベルクルは足を踏ん張って次の攻撃に備える。
「これで決めるぞ!!覚悟しろ!!!」
 そう言ってベルクルは再び拳に力を籠める。
「この野郎!!ぶっ潰してやる!!」
 今度は彼の堅い拳が悪魔の頭に直撃した。
「キシャーーーーー!」
 悪魔は喚いてベルクルを振り払った。
「わわっ!!」
 ベルクルは背中から地面に激突したがすぐに起き上がった。これくらいの衝撃には慣れている。これ以上の衝撃を中国で味わったことがあるのだ。正直、あれはキツかった。なんせ中国は剣山が多いからな。荷物運びをしていて何回か剣山から転げ落ちたことがあった。だからこれくらいの衝撃なら耐えられる!!!
「ぐるるるる…!!」
 見れば悪魔はフラフラとしていた。頭は強い衝撃のためにカチ割れて体液が流れ出している。目もグルグルと回っていて焦点が合っていない。
「ざまーみろだぜ。俺のパンチを食らって起き上がった奴はいないんだ。」
 ついに悪魔は倒れた。そして……そのまま動かなくなった。
「…倒しちまった。」
 彼はそう言って自分の堅い拳をじっと見つめた。俺って…やればできるじゃん。そうだ。俺はもう…Sクラスなんだから。弱虫じゃないんだ。自分の身は自分で守れる…。そんな人になったんだ。ベルクルは相手が倒れて完全に動かなくなったのを確認するとすぐさま親友のもとに戻った。

「アケロミ!!アケロミ!!」
 アケロミの体を揺さぶるが彼は一向に目を覚まさない。どうしよう…。俺がぼーっとしていたからだ。もうちょっと神経を尖らせていたら…。その時、ベルクルは何かの物音に気が付いて音のした方を振り返った。
「!!!!」
 そこには先ほどと変わらずベルクルが倒した悪魔がいた。しかし、その死体の周りにはおびただしい程の数の悪魔が群がっていたのだ。
「な、何をしているんだ…??」
 ベルクルは少しだけ姿勢をそらして奴らの様子を伺う。……奴らは死んだ悪魔の体を貪り食っている。まさに共食いだった。
「…聞いたことがある。悪魔は死んだ仲間の体を食べちまうって…。あんまり深く考えたことはなかったけどこんなに残酷なものなんだな。」
 ベルクルはその残酷さに思わず口を押えた。…こんなに外が厳しい世界だったなんて…。アケロミが言っていた以上にむごい所だ、外は…。確かにアケロミはダイアナや自分たちに外の世界のことについて散々語っていた。しかし、その話を聞いて誰も真剣に外の世界のことを考えるような人物はいなかったのだ。アケロミがダイアナ達に話していたのはだいぶオブラートに包んで言っていた、ということに気が付いたベルクル。あいつは…言おうと思えば現実のことを、残酷な現状をリアルに伝えることができたはずだ。でも…それをあいつはやらなかった。あいつは俺たちに配慮していたんだ。そんな感じは一切しなかったけどきっと…そうなんだ。くぅ…俺、やっていけるのかな…。しかしモタモタしている暇はないのだ。あいつらがこちらに気が付く前に移動しなければ。ベルクルはぐったりとしたアケロミを担いでその場を移動した。

「ぐ、ぐううう!!」
 アケロミはとても重かった。でも…!これくらいは何のその!俺は中国でもっと重い荷物を持って剣山を昇ったことがあるぞ!それに比べたらアケロミ何てまだ軽い!!!彼は一生懸命にアケロミを運んだ。そしてベルクルは大きな木の陰にアケロミをおろした。そして自分も木の下に座り込んで一息つく。正直なめていた。外は思った以上に厳しいところだった。…アケロミがこっそり出て行ったのは知っていた。その日はあいつの様子がいつもとは違うということに気が付いていたんだ。俺は普段からアケロミのことをよく見ているし、ちょっと様子が違えばすぐに気が付く。あいつは昨日、めっちゃソワソワしていたんだ。だから何かあるんだろうなって思って…。あいつと別れた後こっそり後をつけてみた。するとユーズ先生とアケロミの会話が聞こえてきて…。一瞬で分かった。アケロミは出て行くつもりなんだって。しかも今日中に。これはとんでもないことだ。自分の付いていかなくては!直観的にそう思ったのだ。そして、あまり深く考えることなくアケロミについていくことを決めた。アケロミが止めるのもよくわかるし、出てきてもたいした活躍はできないのは分かっている。昨日の時点でそれを嫌というほど思い知らされた。悪魔は後から後から襲ってくる。息をつく暇もない。アケロミは元々プロキオンにいたわけではないって言っていた。プロキオンに来る前は外で生活していたって…。すごいよな、こいつ。ベルクルはアケロミを見下ろした。こんな世界で一人暮らしていたなんて。本当に尊敬する。
「ははは…。学習所の実技試験と全然違うや…。アケロミの言っていたことが今良く分かったよ。」
 そうつぶやくベルクル。アケロミはよくベルクルに言い聞かせていた。あの実技試験は無意味だ、と…。安全な所でテストをしたって無駄。実際に外に出て戦ってみないと本当の実力は分からない。今思えば外に出て活動しているアケロミがかなりの実力を持っていることは当然のことだったのだ。
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