争いの跡に。

ひな菊

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争いの跡に1話

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この世界には、魔王がおさめている魔の国レインアールドともう一つの国女神がおさめている神の国アインドロールという二つの国があった。この二つの国の中間にある街、クラウディアには普通の人間から、魔法使いに、異能力者に、人間と魔物のハーフであるキメラが仲良く住んでいた。

 しかし、クラウディアが出来る少し前まで、レインアールドとアインドロールはとても仲が悪く戦争が耐えなかった。

 暫くして、戦争は終わり神の国アインドロールが勝利した。神の国の女神であるルシア女王は、魔王の国の王であるアーレンにこう命じた。

 『もう、民を傷つける事は許さない。これ以上、傷つけるようなら容赦はしない』と、戦争が終わって早くも十数年が経とうとしていた。クラウディアには、法律を護らせる騎士の軍が何個かあり、その中でもルシアが選んだ腕すぐりの軍である『アリソン』に、ルシアの一人娘で次期アインドロールの女王になるシェリル=ルーテルが隊長を務めていた。彼女は、母親譲りの治癒魔法が使えた。

 シェリルは、容姿端麗誰もが振り返るほどの愛らしさで小柄でありながら、剣の腕はアリソンの中で一番だ。

 何個かある騎士軍の一つに、魔の国レインアールドの王であるアーレンの一人娘で次期女王になるオリビア=リングが隊長をしている『ジェットブラック』との対立が酷かった。

 シェリルとは、あまり歳離れていいない外見も美しい気の強そうな女性だ。オリビアは、二丁拳銃の達人で父親譲りで左腕の銀色のブレスレットを外すと、風を自由自在に操る魔法を使えた。噂では、クラウディアにある学校の教師に惚れているとか・・・。

「ふぁああああっ」

 オリビア率いるジェットブラックのパトロール中に、彼女の隣で大欠伸をしたのはチェシャ猫と人間のハーフの男性の『チェイス』だ。ジェットブラックの副リーダーを務めていて、自由気ままな性格をしている。いつも、フードが付いているマントを被り顔が見えない。

「チェイス・・・貴様、パトロール中に欠伸とはいい度胸だな」

「別にいいじゃん。どーせ、今日も平和だろ?」

「そういう問題じゃない。気を引き締めろという意味だ」

 この男勝りの性格と、言葉遣いに説教が果てしなく長い。しかし、チェイスはこの説教の止め方を良く知っている。

「あ、先生だ」

「へっ!?」

 『先生』という、単語出た瞬間彼女の態度が急変する。頬をまるで熟した林檎の様に染めて、慌てて振り返る。が、そこには誰もいない。

「あははは。冗談じょうだっ・・・ぐるじい・・・・」

「気を引き締めろと言ってるだろ」

「コレは、首を締めてるっていうんだよ・・・」

 そこに。

「あーーっ!まぁた、オリビアがチェイスさんをいじめてる!!」

 シェリル率いるアリソンと、茶色いワイシャツにダラーとしたネクタイをして白衣を身に纏っている眼鏡の男性が現れた。

「せ、先生っ!!!?」

 驚きの余り、声が裏返るオリビア。

 この男こそ、彼女達がクラウディアの学校の生徒だった時の体術の教師だった。名をリアムという人間だ。しかし、体術、銃術、剣術については人間の中ではトップクラスを争う為、その実力をルシアに認められ今では教師とアリソンの副リーダーを掛け持ちしている。

「あ、リルちゃん!久々~」

 首を締め上げられながら、シェリルの方に手を振るチェイスである。

「こんにちは、オリビアちゃん。また、チェイスくんとじゃれあっているのですか?本当に仲良しなんですね」

「え!!いや・・・その・・・そんな事ないです」

 思わず、顔を下に向ける。恥ずかしさと反比例して、どんどんチェイスを締めている力が強くなる。彼の顔が、真っ青になっていく。

「オリビア・・・そろそろ、チェイスさん・・・死ぬよ」

 シェリルの言葉を聞いた瞬間思い出したかのように、彼の首から手を離した。

「あ、あの・・・先生」

「はい?」

「き、きききききききききき今日!!この後、お暇ですか?」

「えっと?そうですね、まぁ僕はいつも暇ですから」

 あはは。と、後頭部を押さえつけながら笑う。

「それなら!!!わ、私と!!!」

 『お茶でも!!』と、言おうとした瞬間周りの声が彼女の耳に届く。

『いやぁね。魔の国の次期女王さまがこんな街を闊歩してる何て・・・』

『また、戦争が起こらないといいけど・・・』

 思わず、黙ってしまうオリビアに、リアムが首を傾げる。

「稽古でもどうですか?」

 言い出したかった言葉をまた彼女は、殺した。

「稽古ですか?いいですよ」

「では、パトロールが終わり次第バラ園で待っております」

「はい。わかりました」

 そのまま、オリビアたちはその場を去った。小声で、チェイスが呟く。

「おい、良いのかよ。本当は、デートに誘おうとしてたんじゃ・・・」

「うるさい。いいんだよ、これで」

 叶わない。こんな恋してても仕方ない。


 オリビアと別れたあと、リアムはクスクスと笑っていた。

「先生?なにをそんな笑っているのです?」

 シェリルが、首を傾げて聞くとリアムは嬉しそうに答えた。

「いやぁ~・・・可愛いなって」

「うわぁ・・・先生本当に性格悪いですよ」

「よく言われます」

 てへ。と、ずれた眼鏡をくいっとあげた。

 温かい風が、彼女たちの頬を掠めた。嗚呼、春が近い。
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