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絆編

もういっちょうクロノ死す

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 半同居人もとい梟が生活の輪に加わった。ハゲにムリを言って早めに帰宅して、さっそく生活スペースを作ってやらねば……。


「で、希望ある? セキュリティ住宅以外なら頑張って作るぜ」

「ほー(スノーウッドで作ってくれたら何でも。あぁ、止まり木は作ってね)」


 オーダー入りました。スノーウッドの温かくも幻想的なプチホォォム!


 鳥は神経質だと聞く。巣箱ほどではないが、引き込もれる感じの薄暗さが必要だろう。よって箱型と、鑑賞も出来る開放感のあるスペースも作ろう。


『だから段取りが良すぎるっ!!』

「昔、犬小屋作ったことあるんだよね。台形だったけど」

『大失敗じゃないか……』

「誰にでも失敗はある。そんじゃ、相棒はスノーウッド取ってきて。俺は道具用意するからさ」

『ボクに頼るのかい? だが断る――』

「おいおい、誰のせいで梟を飼うことになったと思ってるんだ? 生き物を飼うなら、ちゃんと面倒を見ないとな?」

『はい喜んでー』


 勝った! 第三部完!! この日、俺は初めてナイトメアに勝利した。


 道具を用意し、材料もバッチリ。日曜大工のプロが、釘に狙いを定めてトンカチを振り下ろした――。


「……えっ、釘が刺さらない」

『とっくの昔に乾燥しちゃってるからね』


 乾燥すれば硬くなるとは聞いていた。だが、釘がひん曲がるほどぶっ叩いても凹みひとつ付かないとは思わなかった。鋼より硬いぞこれ。


「まだ慌てる時間じゃない。はめ込み式なら釘は不要だ!」

『どうやって加工するんだい?』

「ノコギリはぶっ壊れちまったが、俺には剣がある。ルーティンソードを信じろ」


 ダメでした。傷一つ付かない。最悪、ジェルスライムの接着剤でくっつけるとしても、加工ができないと始まらない。


 かつてない困難である。そこで俺は閃いた。いついかなる時も、俺はダークネスで乗り切って来たのだ!


「【エンチャント・ダークネス】」


 愛剣ルーティンソードが黒く染まる。恐る恐るスノーウッドに当てると、黒い稲妻が走りながら、刃が通った!


「おぉ、さすが俺の最強スキルだ。30分で加工してやる」


 切るというよりは、溶接に近い。バチバチと音を立てながら、少しずつ切り取っていく。凹凸を作り、接着剤を流す。あとははめ込むだけで、見事な箱が出来上がった。


 リクエストの止まり木は、丸みが必要だ。桂剥きの要領で、少しずつ削っていき、見事に円柱を作り出した。これを2本作れば、パーツは揃った。


 あとはただの箱に近いくつろぎ空間と、観賞用の開放感バッチリの箱をくっつける。梟のリクエストを元に、それぞれに止まり木をはめ込んで、完成だ!


「か、完璧だ。自分の才能が怖いぜ」

『なんだ、つまらないの』

「失敗を願ってんじゃねぇぞ。俺だってたまには成功するんだよ」

「ほー(なかなかね。トイレは家の外でするの?)」


 はい来た。その質問を待っていたのだ。ちゃんとトイレも用意してある。


「開放ゾーンの下に、普通の木の板を設置した。くつろぎ&トイレルームだと思ってくれ」


 別にフンをする様子を見たいわけではない。むしろ見たくない。だが、飼育するからには出るものの処理は避けて通れない道だ。だから、ひと目で分かり、取替えが簡単な仕組みになっているのだ。


「ここまで用意してやったんだ。家にフンしたら唐揚げにするからな」

「ほー(分かったわ。これからよろしくね)」


 さっそく開放ゾーンの止り木に立ち、じっとしてくれている。こうして見ると、なかなか可愛いじゃないか。


 羽は真っ白で雪のようだし、青い目も悪くない。頭からぴこっと生えた羽角がキュートだぜ。そしてモフモフだ。これ大事。もっと触ろう。


「ほれほれ、ここがええんか? ええんやろ?」

「ほー(いやん、そうやってどれだけのメスを泣かせてきたのかしら)」


 訂正しよう。喋らなければ、可愛い。


 翌朝、支度を済ませて家を出ようとすると、梟が肩に乗ってきた。防具を付けている今は痛くないけど、何のつもりだろう。


「おい、俺は今からギルドに行くんだ。夜行性はおとなしく寝とけ」

「ほー(あなたのライフスタイルに合わせるわ。さぁ、行きましょう)」

「合わせてくれるのは助かるが、別にギルドまで同伴しなくても……」

「ほー(あたし見た目通り、モテるの。攫われても困るから、自己紹介しておこうと思って)」


 確かに、見た目だけは良い。俺の所有物だと知って貰えば、盗まれることはないだろう。


 梟と一緒に出勤すると、ハゲが二度見して指を差してくる。


「おい、肩に鳥が止まってんぞ?」

「ひょんなことから飼うことになった」

「ひょんなことって!?」


 ひょんなことは、ひょんなことだ。仕方なくハゲに説明していると、ギルド長がご出勤である。


「……おや、これは珍しい。スノウオウルじゃないか」

「さすがは博識なギルド長。こいつをご存知でしたか」

「うむ。その梟は有名だよ。知性が高く、人懐っこい。ペットとして貴族から人気がある。羽も高級寝具の材料になるから、密猟などですっかり個体数が減ってしまったけどね」

「へー、だったら俺も今日から貴族ですね。マイペットだし」

「ん……? 飼うのか?」

「ダメですかね? あっ、密猟はしてませんよ」

「いや……その、タイミングが悪いなと思ってね。私が王都から出した手紙に、交渉していることがあると書いていただろう? それが、実は……君のレスキューバードを用意していたのだがね……少し待ちたまえ」


 レスキューバード!? 青い羽がきれいで、小さくて可愛くて、伝言を頼めるあの鳥か! 俺もとうとう一人前のギルド職員になったんだなぁ。


 ギルド長が二階から鳥かごを持って降りてくる。中に鳥が居る。だが、俺の想像とぜんぜん違う鳥だ。


 真っ黒だし、なんかデカい。こいつ見覚えあるぞ。どう見ても、カラスじゃん……?


「それカラスですよね?」

「レイヴンクロウという種族のカラスだよ。少し魔物の血が入っているが、凶暴ではない」

「じゃなくて。レスキューバードって、レスキューバードという種族なのでは?」

「うむ。その通りだ。しかし、この子は特別でね。なんと、レスキューバードと遜色のない働きをしてくれるんだ」

「嘘だぁ。いくらカラスが賢くても、レスキューバードとは違うっしょ」

「この子は、冒険者が採取した卵から孵化してね。人間を仲間だと思っている」

「そんなこと言われても……喋れるんですか?」

「もちろんだ。レイヴンクロウは、他人の声真似をして、強力な魔物の巣まで導く特性があってね」

「えぇ……何を食べるんですか?」

「死肉が好物だ」


 うわっ、いらない。喋れるのは分かったけど、こいつ絶対ろくでもない鳥だろ。


「図鑑更新が完了したら、ご褒美に渡そうと思っていたのだけどね。さぁ、受け取ってくれたまえ」

「いやいや、いらないですよ。そんな物騒な鳥」

「そう言わずに。ほら、よく見ると可愛いじゃないか」


 真っ黒の羽に、赤い目。ちっとも可愛くない。お断りします。


「俺にはもうこの梟が居ますから」

「一羽飼ったなら、もう一羽増えたところで構わないんじゃないかな?」

「いやいや、飼うのも大変なんですよ。ほら、見てくださいよ。こいつが肩に止まってるもんだから、肩こりが酷いんですよ」

「肩こりは目に見えるものではないような? それに、昔から言うじゃないか。右肩がこったら、左肩もこりなさいって」

「言わねぇよ!? とにかく、他の人にお願いします」

「他に引き取り手が居ないんだ。型破りな君に託すしかないじゃないか」


 鳥かごを押し付けあっていると、カラスが泣いた。赤い目から、血の涙を流している……怖すぎる。



「あーあ、君が酷いことを言うから、カラスくんが泣いてしまったじゃないか」


 俺のせいにされた。ギルド長が大人げないぞ。この流れだと押し付けられそうだし、カラスの適正を試してみるか……。


「なぁ、カラス。お前、誰からも必要とされないのか? 鼻つまみ者なのか?」

「こら、言い方ってものがあるだろうに……」


 かごの中のカラスは、縮こまって血の涙を流す。どうやら、本当に俺の言ってることが分かるようだ。


「しょうがないなぁ。俺が引き取ります。それでいいんでしょ」


 鳥かごを開けて、指先でくすぐってやる。噛みつかないから無害だろう。手を離そうとすると、腕に乗ってきて、そのままトントンと登って肩に止まった。


「これにて一件落着だね。大事にしてくれたまえ」


 一件落着だって? とんでもない。両肩に止まった鳥たちが、俺の頭越しに喧嘩を始めたぞ……。


「ほー!」

「カァァッ!」

「耳元で鳴くな!! うるせぇぇぇぇっ!!」


 こいつら、仲良くできるのかな。うん、ムリだろうな……。



 あとがき

今日はさむおの誕生日なんだ。盛大にブクマおなしゃす!
次回、クロノの秘密がバレる……!?
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