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第2章 やっぱり俺の仲間が優秀なんですけど…

30話 ねぎだくつゆぬきの頭の特盛肉下とろだく

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「こんちわー。」

「おい離せこの女騎士!まだお前は10回来店してないだろ!」
「そう硬い事を言うんじゃない。私はボタンさんに追加料金を払ってキキョウたそお触り権を手に入れたんだ。少しくらい良いではないか。」
「おいオバハン獣人、そんなの聞いてないぞ!私を助けろ!」

 ボタンさんにお礼を言う為に雲龍を訪ねてみると、シャーロットとこの前の紫っ娘がカウンター席の奥の方で騒いでいた。
 雲龍はボタンさんの策略、もとい経営方針の転換によって常連客をしっかりと入手できたようだ。
 良かったね。

「あらあらあら、フーマはん。おこしやす。久しぶりやね。今日はどうしたん?」
「ああ、五日ぶりだもんな。今日はお礼を言いに来たついでに朝ごはんも食べに来た。」
「あらあらそうやったんやね。別に気にせんでもええんよ、フーマはんとうちの仲なんやし。はい、お品書き。」

 俺がカウンターの方に歩いて行くとボタンさんがメニューを手渡してくれた。
 相変わらず知らない食材ばかりで、何がなんだかわからん。
 カイザーブロウフィッシュの煮ごこりって何だよ。

「さんきゅ。そうだな、…今日は牛丼を頼む。ああ、できればねぎだくつゆぬきの頭の特盛肉下とろだくで。」
「ねぎだくつゆぬきの頭の特盛肉下とろだくやね。今作るから待っててなぁ。」

 おお、まさか通じるとは思わなかったがいけるのか。
 流石ボタンさんだ。
 因みに注文したのはネギと脂身の多い肉が多めでご飯の下に肉があってツユがないやつ。
 この頼み方がカロリー消費の多い男子高校生的には一番いい気がする。多分。

 そんな腹ペコの俺が感心してボタンさんの鮮やかな料理の手際を眺めていると、紫っ娘が俺に助けを求めて来た。
 確かキキョウって呼ばれてたっけ。

「おいそこの人間!私を助けろ!私を助けてくれたら褒美をやるぞ!」
「褒美って何だよ。それと俺はフーマだ。」
「おい、糞虫。キキョウたそに馴れ馴れしく話しかけるな。キキョウたそにお前の臭い匂いが移ったらどうする。」
「フーマか。良い名前だな。よし、私を助けたらお前を私の子分にしてやろう!」

 却下だな。
 そんなんじゃあのシャーロットには関わりたくない。

「あ、そういえば剣を回収して来てくれてありがとな。」
「別にええんよ。大したことやあらへんし、うちも未調査領域に行ってみたかったしなぁ。」
「おい!私を無視するな!そうだ、今ならこの宝石をやろう!人間の金の事は分からないが、金貨5枚くらいの価値はあると思うぞ!」

 そう言ってキキョウがポッケから出した宝石を俺に差し出して来た。
 宝石か。
 今は金が欲しいし、もらえるなら貰っとこう。

「のった。」
「よし、取引成立だな!ほら、早く私を助けろ!」
「はぁ、面倒だがやるか。」

 俺は立ち上がって一番奥のカウンターら辺で騒いでいるシャーロットとキキョウの元に向かった。

「なぁ、シャーロット。」
「話しかけるな糞虫。私は今キキョウたそと遊ぶので忙しいのだ。」
「お前、ミレンはどうしたんだ。お前が別のちびっこに現を抜かしていると知ったらあいつは悲しむだろうな。」
「な、なな、なんだと!?」
「お前は幼女なら誰でもいい只の節操なしだったんだな。」
「わ、私は節操なしなどではない。しかし、キキョウたそとミレンたんのどちらかを選ぶ事など私には…。」

 シャーロットはそう言うとキキョウを下ろしてカウンターに両肘を乗せて何やらブツブツ言い出した。
 解放されたキキョウが自分の肩を揉みながら、てけてけとこちらに歩いてくる。

「ふぅ、良くやった。褒めてやるぞフーマ。これは褒美だ。」
「あい、どうも。」
「あらあらあら、フーマはんは子供をあやすのが上手やねぇ。はい、お待ちどぉさん。」

 ボタンさんがふんわりと笑いながら俺の前に牛丼を置いてくれた。
 おお、やっぱり凄い美味そうだな。

「ありがとう。ただ、せっかく子供に懐かれんなら大人しい子が良かったけどな。」
「おい!私は子供ではないぞ!」
「子供はそう言うもんなんだ。ミレンはそんな事言わないぞ。」
「そうやねぇ、ミレンはんはキキョウと同じくらいの背でもかなり大人やからなぁ。」

 まぁ、千年以上生きてるしな。
 こんなちびっこと比べるのは酷かもしれない。

「なんだよ、私は300年以上生きる悪魔なんだぞ!子供子供言うな!」
「え、マジで?」
「ああ、そういえばそれを禁止するの忘れてたなぁ。はいっと。」
「うぐっ!?」

 ボタンさんがキキョウに片手を向けて軽く振ると、キキョウの首のあたりに紫色の光の首輪が一瞬現れてすっと消えた。

「今のは?」
「あぁ、従業員契約みたいなもんやね。その子は悪魔やから野放しにして置くのもどうかと思って付けといたんよ。」
「へぇ、悪魔なんていつ拾ったんだ?」
「この前通信魔道具を借りてフーマはん達と別行動しとった時やね。悪魔の叡智はまだ他の国にいるみたいやし、諜報員にちょうど良いと思ってなぁ。」
「あー、あん時か。」

 それでダンジョンの外でボタンさんに治療してもらった時に初めてキキョウを見かけたのか。
 どうやら最近雇ったという俺の予想は的外れとは言うわけではなかったらしい。

 しかし、この子は悪魔の叡智のメンバーなんだな。
 とてもそうは見えないが、割と危ないやつなのかもしれない。
 まぁ、今はボタンさんの管理下にあるみたいだし問題はなさそうだけど。

「おい!また制限を増やしたなこのオバハン獣人!いくら温厚な私でも怒るぞ!」
「はいはい。少し静かにしとってなぁ。」
「むぐ。むぅむむむむむー!」

 キキョウが口を閉じてむぐむぐ言ってる。
 ボタンさんに口を閉じさせられたのだろう。
 悪魔よりも怖い女がここにいた。

「で、ソレイドがどうなったか知ってるか?」
「うちは大した事は知らないんやけど、続々と悪魔の叡智の残党が捕まってるみたいやね。うちの読みやとあと一週間くらいで問題は解決するやろうな。」
「へぇ、それじゃあ特に心配する事もなさそうだな。よかったよかった。」

 これでソレイドも平和になるだろうし一件落着と言えるだろう。
 一時的な働き手不足に陥っているようだが、冒険者ギルドの方も人員の補充がされるらしいしその内元通りになるんだろうな。
 そんな事を考えながらもボタンさんとどうでもいい話をしながら牛丼を完食した俺はそろそろお暇する事にした。

 俺は横の椅子に置いてあった片手剣とキキョウに貰った宝石を持って立ち上がる。
 シャーロットは変わらず一番奥の席でブツブツ言ってた。
 あの感じじゃ俺達の話は一切聞こえてなさそうだな。
 まぁ、ボタンさんがキキョウの正体とか普通に話してたし、特に問題ないのだろう。

「ふぅ、ご馳走さま。腹もいっぱいになったし帰るわ。」
「お粗末さま。それじゃあまた今晩やね。」
「ああ、打ち上げの事か。…あれ?」

 俺がボタンさんもやっぱり打ち上げに参加してくれんだなぁとか思いつつ、アイテムボックスから財布を出そうとしたその時、今までに感じた事がない違和感に苛さいなまれた。
 冷や汗がブワっと出て来るのを感じる。

「ん?どうしたん?」
「あ、ああ。アイテムボックスが使えない。」
「魔力がないん?」
「いや、なんて言うか使い方が思い出せないって感じだ。」
「ちょっとごめんなぁ。」

 ボタンさんがカウンターから出て来て俺の額に手を当てた。
 どうやら触診をしてくれるらしい。
 ボタンさんが目を瞑りながら俺の額に手を当てて数秒後、ボタンさんが目を開きながら話を始めた。

「へぇ、フーマはんは面白い人を自分の中に住まわせてるんやね。」
「あぁ、記憶も読んだのか。それで、どうだ?なんか判ったか?」
「確かな事は言えんけど、ギフトの代償なんやない?フーマはんの中の人も言ってたやろ?」
「あぁ、そういえばそうだったな。しかし、まさか魔法が使えなくなるとは。」

 フレンダさんがギフトの花弁を無理矢理剥がした影響がそのうち来るとは言ってたが、魔法が使えなくなるとは思わなかった。
 アイテムボックスだけじゃなく、テレポートや火魔法も使えないみたいだし間違いないだろう。
 まさか俺の唯一の取り柄である転移魔法が使えなくなるなんて。
 これから先どうやって生きていけば良いんだ。

「スキルの方はどうなん?」
「あ、ああ。お、こっちは使えそうだな。」

 持ってた片手剣を抜いて構えてみた感じ、剣術は使えそうな気がする。
 俺のギフトは魔法関係っぽいし、魔法だけに影響があるようだ。

「それなら一先ずは安心やね。でも、魔法の使い方がわからなくなるなんて聞いたことないんやけど、治るんやろか。」
「ぼ、ボタンさんでも分からないのか?」
「そ、そうやね。力になれなくて悪いなぁ。」
「あぁ、いや、ボタンさんが謝る事じゃない。そうだ、会計をしなくちゃだったな。この宝石で頼む。お釣りは借金をその分差し引いといてくれ。」
「それはええけど、フーマはんは大丈夫なん?」
「ああ、俺は大丈夫だぞ。そうだ、帰ったら剣の手入れをしなくちゃだな。」
「フーマはんが左手に持ってるのはうちの店のホウキやよ?本当に大丈夫なん?」
「あ、ああ。悪い。俺の剣はこっちだったな。」
「いや、だから今置いた方がフーマはんの剣やよ?」
「そうか。じゃあこれで良いや。それじゃあ、また夜にな。」

 ボタンさんが何か言っていた気がしたが、俺は自分の愛剣であるホウキを手に持って雲龍を後にした。

 はぁ、これからどうやって転移魔法なしでこの世界で生きていけば良いんだ。
 転移魔法大先生は俺を見捨てたのだろうか。

「おいフーマ!おい!」
「ん?紫っ娘じゃないか。どうしたんだ?」
「お前の剣はこっちだ。そのホウキは私の仕事道具だから返せ!」
「ああ、そうだったのか。悪いな。」
「ああ、返してくれるなら別に良い。まぁ、よくわかんないけど元気出せよ。生きてれば良い事あるって。」
「なんだ、俺を慰めてくれてんのか?」
「別にお前の事なんかどうでもいいけど、あの変態女騎士から助けてくれたからな。それに私も自慢の角を無くしたからお前の気持ちも少し分かるんだ。辛いだろうけど、割り切って生きてこうぜ!」

 俺を追って来てくれたキキョウがそう言って親指を立てながらニッと笑った。
 俺は生まれて初めて幼女天使を見つけた。

「ありがとうキキョウ。俺、お前の言う通り頑張って生きていくよ。お前の事ちびっこでアホなガキだと思ってて悪かったな。」
「おい!いきなり抱きつくな!それにお前そんな事思ってたのか、おい!私に顔を擦り付けるな!鼻水と涙が汚い!」

 そうだ。
 俺はもともと日本にいた頃は魔法なしで生きていたじゃないか。
 それに魔法がもう一生使えないと決まった訳ではない。
 きっといつの日か転移魔法大先生も帰って来てくれる事だろう。

 そう思ったらなんだか気分が落ち着いて来た。
 さて、そろそろキキョウを離してやるか。
 このままじゃシャーロットと同類になりかねないからな。
 そう思ったその時、俺の後ろから聞き覚えのある声がかかった。

「ふ、フーマ様?一体何をしていらっしゃるのですか?」
「い、いやこれは。」
「聞いてくれシルビア!こいつ、私が剣を届けてやったのに私の服に汁をかけて抱きついてきたんだ。」

 へぇ、シルビアさんとキキョウはもう知り合いだったのか。
 ってそうじゃなくて。

「おいこら、クソガキ!なんでわざわざそんな語弊がある言い方をするんだ!」
「いいのですフーマ様。私はたとえフーマ様が子供相手に欲情するシャーロットさんと同類の変態でも受け入れてみせます。」
「ちょっと、シャーロットと同類だけはマジでやめて!」
「ただ、私に少し心を整理する時間をください。し、失礼します。」
「だから誤解だって。ちょっと待て、って速!?」

 シルビアさんは俺にお辞儀をするとくるりと回り物凄い速さで街を駆け抜けて行った。
 元気になったみたいで俺は嬉しいよ。
 俺がそんな感じで微妙な現実逃避をしていたら、キキョウに背中をポンポンと叩かれたので振り返ってみると両手を使って変顔をしたクソガキがそこに立っていた。

「ブァーカ!私の恐ろしさを思い知ったか!」
「こんのクソガキ!お前覚悟は出来てるんだろうな!」

 俺が変顔をしておちょくってくるキキョウを懲らしめてやろうとしたその時、すれ違った冒険者の男女がヒソヒソと話しているのが聞こえた。

「おい見ろよ。ルーキーが小さい女の子を脅してるぞ。」
「本当だわ。酒と肉と女さえあれば生きていけるって聞いたけど、あんなに幼い女の子にまで手を出すなんて変態ね。」
「ああ、それに見てみろよ。あの女の子の服になんかヌルヌルしたものがついてるぞ。」
「昼間から天下の往来でそんな事をするなんてとんだ最低野郎ね。早く行きましょう。変態がうつるわ。」
「そうだな。ここにいたらお前までルーキーの餌食にされそうだ。」
「もう、頼りにしてるわダーリン!」

 そうして二人の冒険者はイチャイチャしながら去って行った。

「プププ。変態ルーキー。」
「おまっ、マジで覚えてろよ!」

 俺はそんな三下みたいなセリフを残してキキョウの元から逃げ出した。
 ちくしょう!
 やっぱりあいつは幼女天使んかじゃなくてクソガキ悪魔だ。
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