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第3章 たまには勇者っぽいことしたいんですけど…
9話 苦労人ジャミー
しおりを挟む「何で家の中で剣抜いて戦ってるんですか?」
団長さんが風呂に入ってきた件の文句を言ってやろうと思い、風呂場を出て何やらドタバタと騒がしい部屋の方へ向かっていくと、ファルゴさんと丸眼鏡の女性が真剣でカンカンキンキンと戦ってるのが目に入った。
ジャミーさんは部屋に被害が出ないように器用に立ち回って飛び交う椅子をキャッチしたりと忙しそうにしている。
そんなジャミーさんが俺がやって来たのを見て声をかけてきた。
「おおフーマ。この馬鹿二人を止めるのを手伝ってくれ!」
「無茶言わないでくださいよ。猛獣の檻に飛び込んだらどうなるかなんて子供でも知ってますよ。」
「今日こそは貴女を殺して私が団長のお嫁さんになります!」
「うるせぇ!あいつは俺の嫁だ!死に晒せやぁ!」
ファルゴさんと眼鏡の人が互いに暴言を吐きながらそこまで広くない部屋の中を縦横無尽に駆け回っている。
すげぇ、二人とも当たり前のように壁と天井を足場にしてるよ。
今の俺はステータス的に壁キックくらいは出来るが、流石に壁と天井を交互に行き来するような芸当は出来ない。
それだけでもあの二人の実力がかなりのものであると推測できる。
「何でもいい!何でもいいからあの二人の注意を引いてくれ!そうすれば俺がこの二人を抑えるから!」
「んなこと言っても、二人とも目の前の敵しか目に入ってないじゃないですか。」
「そこを何とか頼む!後で金でも何でも好きなもんやるから!」
飛んで来た花瓶をキャッチしながら必死な顔でそう言うジャミーさん。
気を引けって言われても、あの中に切り込んで行ったら一瞬で細切れにされそうな気がするし、どうすればいいんだよ。
こういう時に呪術とか使えたら便利なんだろうけど。
呪術?
そういえば昨日舞とやった魔力操作の訓練が役立つんじゃないか?
俺は呪術が自分の魔力を媒介にするものだという事を思い出して、魔力をあの二人に当てれば気を引けるんじゃないかと考えた。
この二人は実力的に魔力感知くらいは出来そうな気がするし、もしかしたらいけるかもしれない。
「わかりました。少し試してみるから、報酬お願いしますね。」
「ああ。その話は後でゆっくりしよう。報酬は弾むから早くたのむ!」
ジャミーさんとの雇用契約を済ませた俺は、体の中の魔力を右手の平から放出して、魔力の操作を始めた。
形はアセイダルの時に散々見た触手のような枝をイメージしている。
俺はその魔力で出来た木の枝を途中で四本に分化させて部屋の四辺にすすすっと張り巡らせた。
結構消耗が激しくて、既に全体の三割ほどの魔力を消費しているが、多分上手くいくはずだ。
枝を部屋の隅にセットし終わった後、俺は魔力の枝を部屋の中心に向かって一気に引き寄せた
これで部屋の中を高速で動き回ってる二人にもどこかで木の枝が当たるだろう。
まぁ、魔力感知がなければ軽い悪寒のような感覚を感じるだけだが、この二人に限ってはそんな事ないはず。
そんな俺の目論見通りに、俺の魔力を感じ取った二人が枝の根本にいる俺の方をばっと向いた。
その隙にジャミーさんが持っていた椅子をファルゴさんの後頭部に投げつけて、もう一人の女性の横っ面を殴り飛ばす。
そうしてさっきまでドタバタガンガンと暴れていた二人は全く動かなくなった。
大丈夫かこれ?
二人とも白目向いてぶっ倒れてるけど、死んでないか?
「ふぅ、助かったぞフーマ。今のは何かのスキルか?」
「ああ、はい。とは言っても、ただの魔力操作なんですけど。」
「なに?今のが魔力操作な訳ないだろ。確かに魔力量的にはLV3程度だろうが、あそこまで形を保って魔力を操作したら消耗がかなり激しいじゃないか。」
「まぁ、俺は魔力量が多い所が取り柄みたいなとこあるんで。」
魔力操作はLVが上がるごとに操作できる魔力量が増えるが、今回みたいな使い方をすれば、動かす魔力とは別に体内での魔力消費が多くなってしまう。
そのため、大量の魔力を使ってまで今回俺がやったみたいな事をする人は少ない気がする。
あれなら普通に魔法打った方が楽で速いし。
ていうか、俺の魔力操作はLV3まで上がってたのか。
ステータスカードを見れないから知らなかった。
「ん?よく分からんが、本当に助かった。礼を言わせてくれ。」
「俺は二人の気を引いただけですし、そんな大層な事はしてませんよ。それにしても、この人がさっき言ってた団長さんの追っかけの人なんですね。」
俺はファルゴさんと一緒に転がっている、金髪を三編みにして丸眼鏡をかけた女性を見ながらそう言った。
さっきこの人がファルゴさんを殺して団長のお嫁さんになるとか言っていたし、ジャミーさんの日々の苦労の原因になっているのはこの人で間違いないだろう。
「ああ。そこで転がっている女はネーシャという名前で、昔団長に助けられてからつきまとう様になったらしい。」
「らしい?」
「ネーシャと団長がこの村に来たのは6年前なんだからな。俺もその話を団長から聞いただけで、実際に見たわけではないんだ。」
「ああ。なるほど。」
それじゃあ、ファルゴさんよりもネーシャさんの方が団長さんとの付き合いは長いのか。
ファルゴさんとネーシャさんの仲がややこしい事になっている原因の1つがそこにあるのかもしれない。
「それで、フーマは何か欲しい物とかあるか?さっき礼をするって言っただろ。」
「ああ、それなんですけど、鎧のお下がりとかありませんか?俺が最近まで使ってた鎧はちょっと色々あって、着れなくなってしまって。」
俺のブラックオークの鎧はアイテムボックスに入ったままなので、現在は取り出せないのである。
それに、ゴブリンキングに開けられた穴がそのままだし。
「鎧か。昔の鎧は鋳潰して今の鎧の材料にしてもらってるし、フーマにやれそうなもんは無いな。すまない。」
「そうですか。それじゃあ仕方ないですね。」
「ああ、本当に悪かったな。いや、待てよ。ケイの所になら使ってない鎧あるかもしれないぞ。」
「もしかして、ケイさんって幼なじみの家事職人の人ですか?それって売り物なんじゃないですか?」
「いや。あれはあいつが金物屋の合間に趣味で作ったもんだから、店で売ってる訳じゃないんだ。この村に金属鎧を着るような人はいないし、あいつは定期的に鎧を作っても邪魔だからって数週間したら溶かしてしまうからな。」
「それじゃあ、もしかしたら作ったばかりの物があるかもしれないって事ですか?」
「ああ。偶々フーマのサイズに近いものを作ってたら、もしかすると譲ってくれるかもしれないぞ。後で俺も金物屋に行く用があるから、連れてってやるよ。」
「おお!助かります。」
そんな感じでジャミーさんに後で金物屋のケイさんを紹介してもらうことになった。
これで、もしかすると自分の鎧をゲットできるかもしれない。
少し楽しみだ。
そんな期待に胸を膨らませた後、また起きたら喧嘩を始めそうなファルゴさんとネーシャさんをそれぞれ別室に移動させ、俺達は二人が争った部屋の後片付けをしていた。
「片付けまで手伝わせて悪いな。」
「いえ。どうせ風呂にはまだ入れませんし、する事もないですから構いませんよ。」
「そういえば、フーマ達は三人で風呂に入るんじゃなかったのか?さっき満面の笑みのマイムがそう言って馬車から下ろした荷物をあさってるのを見たぞ。」
「ああ、そのつもりだったんてすけど、俺がミレンの髪を洗ってたら団長さんが急に入って来たんですよ。」
「はぁ。お客さんが風呂に入ってるから待ってくれって言ったのにあの人は話を聞いてなかったな。」
目頭を抑えながらため息をつくジャミーさん。
その後ジャミーさんに話を聞いてみたところ、帰って来てすぐに風呂に入ろうとする団長さんにお客さんがきてるから後にしてくれと言ったが、すぐにファルゴさんとネーシャさんの喧嘩が始まってしまったため誰も団長さんの様子を見ていなかったらしい。
因みに団長さんは人里離れて山の中で長年野生と化して暮らしていたため、全裸を見られても何も感じないらしい。
何でも服に違和感があるとか言って団長さんが外で服を脱ぎ出そうとする度にファルゴさんとジャミーさんで、必死に止めているとかなんとか。
「なんて言うか、大変ですね。」
「わかってくれるか。本当にうちの者達がすまないな。」
ジャミーさんがげっそりした顔でそう言った。
まぁ、俺にはどうすることもできないできないし、強く生きてくれ。
俺は心の中でジャミーさんに精一杯のエールを送った。
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