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赤いずきんとコリウスの花
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むかしむかしあるところに、エイミーというとても可愛らしい女の子がいました。
エイミーはみんなに愛されれる人気者です。いつも着ている白いポンチョの裾はふわふわと楽しげに揺れています。今日も村のみんなに見守られながらにこにこと笑っているのでした。
そんなエイミーには誰にも言えない秘密があります。
とある晴れた日の朝早くにエイミーは森の奥の湖に向かいました。
誰にも見つからないようにこっそりと隠れながら。
森の中は薄暗く直ぐに迷子になってしまいそうな程木々が入り組み辺りを見渡しても同じ景色です。
しかしエイミーは迷うことなく一方向へ進んでいきます。
鬱蒼とした葉が生い茂る森を抜けると開けた場所にでます。そこには思いっきりジャンプしても向こう岸見えないほど大きな水たまりがありました。
青々とした葉の隙間から降り注いだ太陽の光は、水面に反射されキラキラと輝いていました。他の場所では決して見ることのできない幻想的な風景です。
ですが、彼女の目的はそれではありません。
水たまりの近くの木の下でいつも寝ている彼に会いにきたのです。
会いに来たと言ってもエイミーには彼を影からこっそり様子を見るか、寝ている時に会いに来ることしかできません。
けれど良いのです。エイミーは彼を見ることができるだけで満足でした。
ーーーけれど本当はちょっぴり寂しいため、毎回お土産を置いて帰るのです。それはお花の時もあれば食べ物の時もありました。
「私のことが少しでも彼の記憶に残りますように」
と気持ちを込めて。
彼は街のみんなに嫌われています。しかし心根は優しいことをエイミーは知っていました。たまに彼がエイミーが近くにいる間に起きてしまったとしても、必ず寝たふりをしてエイミーを側にいさせてくれます。彼自身もエイミーを受け入れてくれている。そう思っています。
本当は彼に会ってはいけないとお母さんに言われています。しかし、エイミーは彼に会いに来るのをやめることはしませんでした。エイミーが最初で最後に破ったお母さんとの約束でした
季節がいくつも巡り、彼に会いに行くようになってから5回目の春を迎えてもエイミーは彼に会いに行っていました。
街の友達たちはエイミーが毎日森で何をしているのか不思議に思いながらも、彼との関係については気づかれることはありませんでした。
エイミーはいい子でしたから。
エイミーがいつものように友達と遊んでいた時に、ある女の子から物騒な噂を聞きました。「狼男が森に出るらしい」と。エイミーはその瞬間踵を返し走っていきます。誰もいたエイミーに声をかける暇などありませんでした。
森の木々に服や髪を引っ掛けながらもエイミーは森を駆けていきます。彼が見つかってはいけない。彼をどこかに連れて逃げないと。
湖についたエイミーの目に映ったのは10人もの狩人が、彼を囲み銃を向けている姿でした。そこには身じろぎひとつしてはいけない張り詰めた空気が漂っています。
エイミーは咄嗟に木の陰に隠れます。彼とエイミーの距離はわずか数m。エイミーに気づいたのは彼だけです。狩人たちは彼から目を離しません。
パチリ
エイミーと彼の目がありました。人生で2度目です。ずっとずっと望んでたそれは決してロマンチックではなくーー
彼が首を小さく振りました。
それはエイミーに向けたものであり、諦めでもありました。
そのほんの小さな動きはなだらかだった水面に小石を落としたようなーー全てが動き始めたようなーー大きな波紋となって広がっていきます。
狩人達は動きを見せた彼に、さらに警戒を強め銃口を彼の頭や喉、心臓などの急所に合わせ始めます。
このままでは彼が殺されてしまう!エイミーは思わず隠れていた木の陰から彼の前に飛び出ました。
それは偶然にも狩人達が引き金を引いたタイミングと同じでした。
あ、と誰の声が聞こえました。それは狩人の声かもしれませんし、エイミーの声だったかもしれません。しかしエイミーにはそれが彼の声に聞こえました。昔、何度も聞いていた声は懐かしく、こんな時ですがエイミーは嬉しくなりました。
エイミーは彼に向かって思いっきり手を伸ばします。彼は一瞬躊躇したもののエイミーの手に、自分の手を伸ばし重ねます。
エイミーが彼の手を握りしめた瞬間エイミーの視界には真っ赤に染った水たまりと彼の姿しか見えませんでした。
銃に撃たれた勢いで水たまりにまで飛ばされたようです。
狩人は10人もいます。エイミー1人では彼を守りきることができるはずもありませんでした。
2人の体から止まることなく真っ赤な液体が流れ周囲を赤く染めていきます。
エイミーの真っ白なポンチョもゆっくりと、けれどしっかりと赤く、赤く染まっていきます。
2人の体が冷たくなっても手は決して離れることはありませんでした。
【コリウス】
英名:coleus
別名:キンランジソ(金襴紫蘇)
誕生花:10月11日
花言葉:「健康」「叶わぬ恋」「恋の終わり」
エイミーはみんなに愛されれる人気者です。いつも着ている白いポンチョの裾はふわふわと楽しげに揺れています。今日も村のみんなに見守られながらにこにこと笑っているのでした。
そんなエイミーには誰にも言えない秘密があります。
とある晴れた日の朝早くにエイミーは森の奥の湖に向かいました。
誰にも見つからないようにこっそりと隠れながら。
森の中は薄暗く直ぐに迷子になってしまいそうな程木々が入り組み辺りを見渡しても同じ景色です。
しかしエイミーは迷うことなく一方向へ進んでいきます。
鬱蒼とした葉が生い茂る森を抜けると開けた場所にでます。そこには思いっきりジャンプしても向こう岸見えないほど大きな水たまりがありました。
青々とした葉の隙間から降り注いだ太陽の光は、水面に反射されキラキラと輝いていました。他の場所では決して見ることのできない幻想的な風景です。
ですが、彼女の目的はそれではありません。
水たまりの近くの木の下でいつも寝ている彼に会いにきたのです。
会いに来たと言ってもエイミーには彼を影からこっそり様子を見るか、寝ている時に会いに来ることしかできません。
けれど良いのです。エイミーは彼を見ることができるだけで満足でした。
ーーーけれど本当はちょっぴり寂しいため、毎回お土産を置いて帰るのです。それはお花の時もあれば食べ物の時もありました。
「私のことが少しでも彼の記憶に残りますように」
と気持ちを込めて。
彼は街のみんなに嫌われています。しかし心根は優しいことをエイミーは知っていました。たまに彼がエイミーが近くにいる間に起きてしまったとしても、必ず寝たふりをしてエイミーを側にいさせてくれます。彼自身もエイミーを受け入れてくれている。そう思っています。
本当は彼に会ってはいけないとお母さんに言われています。しかし、エイミーは彼に会いに来るのをやめることはしませんでした。エイミーが最初で最後に破ったお母さんとの約束でした
季節がいくつも巡り、彼に会いに行くようになってから5回目の春を迎えてもエイミーは彼に会いに行っていました。
街の友達たちはエイミーが毎日森で何をしているのか不思議に思いながらも、彼との関係については気づかれることはありませんでした。
エイミーはいい子でしたから。
エイミーがいつものように友達と遊んでいた時に、ある女の子から物騒な噂を聞きました。「狼男が森に出るらしい」と。エイミーはその瞬間踵を返し走っていきます。誰もいたエイミーに声をかける暇などありませんでした。
森の木々に服や髪を引っ掛けながらもエイミーは森を駆けていきます。彼が見つかってはいけない。彼をどこかに連れて逃げないと。
湖についたエイミーの目に映ったのは10人もの狩人が、彼を囲み銃を向けている姿でした。そこには身じろぎひとつしてはいけない張り詰めた空気が漂っています。
エイミーは咄嗟に木の陰に隠れます。彼とエイミーの距離はわずか数m。エイミーに気づいたのは彼だけです。狩人たちは彼から目を離しません。
パチリ
エイミーと彼の目がありました。人生で2度目です。ずっとずっと望んでたそれは決してロマンチックではなくーー
彼が首を小さく振りました。
それはエイミーに向けたものであり、諦めでもありました。
そのほんの小さな動きはなだらかだった水面に小石を落としたようなーー全てが動き始めたようなーー大きな波紋となって広がっていきます。
狩人達は動きを見せた彼に、さらに警戒を強め銃口を彼の頭や喉、心臓などの急所に合わせ始めます。
このままでは彼が殺されてしまう!エイミーは思わず隠れていた木の陰から彼の前に飛び出ました。
それは偶然にも狩人達が引き金を引いたタイミングと同じでした。
あ、と誰の声が聞こえました。それは狩人の声かもしれませんし、エイミーの声だったかもしれません。しかしエイミーにはそれが彼の声に聞こえました。昔、何度も聞いていた声は懐かしく、こんな時ですがエイミーは嬉しくなりました。
エイミーは彼に向かって思いっきり手を伸ばします。彼は一瞬躊躇したもののエイミーの手に、自分の手を伸ばし重ねます。
エイミーが彼の手を握りしめた瞬間エイミーの視界には真っ赤に染った水たまりと彼の姿しか見えませんでした。
銃に撃たれた勢いで水たまりにまで飛ばされたようです。
狩人は10人もいます。エイミー1人では彼を守りきることができるはずもありませんでした。
2人の体から止まることなく真っ赤な液体が流れ周囲を赤く染めていきます。
エイミーの真っ白なポンチョもゆっくりと、けれどしっかりと赤く、赤く染まっていきます。
2人の体が冷たくなっても手は決して離れることはありませんでした。
【コリウス】
英名:coleus
別名:キンランジソ(金襴紫蘇)
誕生花:10月11日
花言葉:「健康」「叶わぬ恋」「恋の終わり」
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