7 / 104
EP1_1章
1章_4 台地の都へ
しおりを挟む
辺り一面の水たまりの他は、
荒野のような殺風景が広がった。
この台地の標高を考えると、
しっかりとした水場でもない限り、
植物が育つには厳しいのだろう。
物珍しそうに辺りを眺めるカムランを見て、
メリッサはこの台地の事を話してくれた。
「この円形で広大な台地は、
太古の火山の火口であったと言われているんです。
周囲を山に囲まれた土地ですから、
おそらくそうなのでしょう。
太古の昔に火口だったという土地柄、
台地の地中からは他では見られない特殊な鉱石も採れるんです。」
そう言って、メリッサは左腕から腕輪を外し、
カムランに差し出す。
その手のひらに乗せられた銀の腕輪には、
宝石のような石が埋め込まれている。
「お近づきの印に、差し上げます。」
メリッサはにっこりと笑った。
丁度、鉛玉と同じような大きさの石だ。
よく見ると群青色の石は透けていて、
中に金色の粒が散らばっており、少し光って見える。
それは、目を奪われるような美しい光だった。
「ありがとうございます。これは綺麗なものですね。よく売れそうだ。」
カムランの口からうっかり言葉が漏れた。
「そうかもしれません。他所ではそうなのでしょうね。」
ため息のような声がカムランに刺さる。
「この石は、星晶石といいます。
レフコーシャ近郊では豊富に採掘されるものですが、
この台地でしか産出されません。
見た目も綺麗なこの石を、なぜか迷い星は嫌います。
普通の迷い星はこの石には近寄りません。
それに、鉱石としても通常の金属鉱石を優に超える頑丈な物です。
さらにはこの星晶石で鍛えた武器であれば、
迷い星の身体を貫くこともできます。」
メリッサが持つ杖も、この鉱石が使われているという。
星晶石の難しい加工技術も、
レフコーシャ門外不出のものとして管理されているとメリッサは話した。
「それから、この腕輪はこの台地に住まう民には
護身用として無償で配られていますから、
売ってお金になるものではありませんし、
この国からの商用持ち出しは固く禁じられています。」
メリッサは少し口を尖らせて釘を刺した。
だんだんと日が高くなり、
昨日の天気とはうってかわって、太陽が照り付ける。
爽やかな風が道半ばの二人を元気づけた。
そして、太陽の日差しの下、歩くこと数刻。
メリッサの歩みが少しずつ遅くなっていた。
「向こうにちょっとした岩場が見えます。
そこで少し休みましょう」カムランの提案に、
メリッサは大きく頷いた。
「是非、そうしましょう。」
メリッサの額には玉の汗が光る。
二人は岩場までもう少しのところまで歩みを進めた。
前方の岩場をよく見ると、腰掛けるのに良さそうな岩がいくつかある。
そこで一時間ほど休んでから出発しても、到着はそう遅れない。
カムランは王都を発って以来の町での休息が待ち遠しくなっていた。
岩場が近づくにつれ、メリッサの足取りがいっそう重くなる。
こんなに歩き通すことなど彼女には滅多にないのだ。
きっと休むことで頭が一杯になっているのだろう。
そんなふらふら歩きのメリッサを、突如左腕が制した。
「今、岩陰に何か見えた」
怪訝な顔を岩場に向けているカムランの腕だ。
二人は岩場を見つめた。そこには蠢く影が三つ、いや四つあった。
「おそらくあれは、ランドウルフ。何処にでもいるのですね。」
歩き疲れていまいち焦点の定まらないメリッサとは違い、
カムランにはよく見えていた。
ランドウルフは、中型の狼だ。非常に好戦的で、
弱った獲物を集団で狙う厄介な存在である。
「やっと、多少の恩返しが出来そうです。」
怯えるメリッサの前に立ち、
カムランは背に備えた槍の包みを取った。
穂先の根元に小斧がついたような形の槍だ。
その一風変わった槍を見て、
おそらくこの国の武具ではないのだろうとメリッサは感じた。
カムランの戦意を読み取った四匹のランドウルフが、
じわじわと詰め寄ってくる。
ふいに、一番左にいたランドウルフが素早く飛びかかる。
二人を襲うべく開かれ大きな口を、素早く槍が薙ぎ払う。
ランドウルフの上あごから上が完全に切り離され、
あっけなく地面に転がった。
それを見て三匹が一斉にカムランを襲う。
しかしカムランは表情一つ変えることなく三匹を次々と叩き付け、
切り結び、貫き通した。
そのあっという間の出来事に、メリッサは言葉も出なかった。
「さあ、岩場で休むとしましょう。もうあと一息です。」
カムランは怖がらせないように、へたり込んだメリッサを優しく引き起こした。
「蠍の時は無様な姿を見せてしまいましたからね。
これで少しでも汚名返上になるとよいですが。」
小さな冗談も付け加えて彼は笑った。
カムランはすっかり気の抜けてしまったメリッサの腕を引き、
再び歩き始める。
そうして照り付ける太陽から逃げるように二人は岩陰に腰を下ろした。
「あなたは、旅の商人ではなかったの?」
あまりに戦い慣れた様子のカムランを目の当たりにして、
彼女は少し距離を置いてカムランに向き直った。
「どうか、怖がらないでください。賊や暴漢などではありません。
説明不足でしたね。今回は旅ついでの郵便屋ですが、
依頼さえあれば傭兵、討伐なんでもやります。」
そこまで言って、カムランはメリッサに水袋と果物を渡した。
狼に対峙した時の顔つきと、目が追い付かない程の槍捌きを目の当たりにして、
メリッサはすっかり驚いていた。
水袋を持ったまま固まってしまった彼女を見かねて、
カムランが水袋の栓をポンと抜いて再び手渡した。
「休憩は半刻です。お疲れのようですから、
しっかり休息をとってくださいね。」
そう言って、カムランはメリッサから少し離れた場所にある岩陰に腰を下ろした。
荒野のような殺風景が広がった。
この台地の標高を考えると、
しっかりとした水場でもない限り、
植物が育つには厳しいのだろう。
物珍しそうに辺りを眺めるカムランを見て、
メリッサはこの台地の事を話してくれた。
「この円形で広大な台地は、
太古の火山の火口であったと言われているんです。
周囲を山に囲まれた土地ですから、
おそらくそうなのでしょう。
太古の昔に火口だったという土地柄、
台地の地中からは他では見られない特殊な鉱石も採れるんです。」
そう言って、メリッサは左腕から腕輪を外し、
カムランに差し出す。
その手のひらに乗せられた銀の腕輪には、
宝石のような石が埋め込まれている。
「お近づきの印に、差し上げます。」
メリッサはにっこりと笑った。
丁度、鉛玉と同じような大きさの石だ。
よく見ると群青色の石は透けていて、
中に金色の粒が散らばっており、少し光って見える。
それは、目を奪われるような美しい光だった。
「ありがとうございます。これは綺麗なものですね。よく売れそうだ。」
カムランの口からうっかり言葉が漏れた。
「そうかもしれません。他所ではそうなのでしょうね。」
ため息のような声がカムランに刺さる。
「この石は、星晶石といいます。
レフコーシャ近郊では豊富に採掘されるものですが、
この台地でしか産出されません。
見た目も綺麗なこの石を、なぜか迷い星は嫌います。
普通の迷い星はこの石には近寄りません。
それに、鉱石としても通常の金属鉱石を優に超える頑丈な物です。
さらにはこの星晶石で鍛えた武器であれば、
迷い星の身体を貫くこともできます。」
メリッサが持つ杖も、この鉱石が使われているという。
星晶石の難しい加工技術も、
レフコーシャ門外不出のものとして管理されているとメリッサは話した。
「それから、この腕輪はこの台地に住まう民には
護身用として無償で配られていますから、
売ってお金になるものではありませんし、
この国からの商用持ち出しは固く禁じられています。」
メリッサは少し口を尖らせて釘を刺した。
だんだんと日が高くなり、
昨日の天気とはうってかわって、太陽が照り付ける。
爽やかな風が道半ばの二人を元気づけた。
そして、太陽の日差しの下、歩くこと数刻。
メリッサの歩みが少しずつ遅くなっていた。
「向こうにちょっとした岩場が見えます。
そこで少し休みましょう」カムランの提案に、
メリッサは大きく頷いた。
「是非、そうしましょう。」
メリッサの額には玉の汗が光る。
二人は岩場までもう少しのところまで歩みを進めた。
前方の岩場をよく見ると、腰掛けるのに良さそうな岩がいくつかある。
そこで一時間ほど休んでから出発しても、到着はそう遅れない。
カムランは王都を発って以来の町での休息が待ち遠しくなっていた。
岩場が近づくにつれ、メリッサの足取りがいっそう重くなる。
こんなに歩き通すことなど彼女には滅多にないのだ。
きっと休むことで頭が一杯になっているのだろう。
そんなふらふら歩きのメリッサを、突如左腕が制した。
「今、岩陰に何か見えた」
怪訝な顔を岩場に向けているカムランの腕だ。
二人は岩場を見つめた。そこには蠢く影が三つ、いや四つあった。
「おそらくあれは、ランドウルフ。何処にでもいるのですね。」
歩き疲れていまいち焦点の定まらないメリッサとは違い、
カムランにはよく見えていた。
ランドウルフは、中型の狼だ。非常に好戦的で、
弱った獲物を集団で狙う厄介な存在である。
「やっと、多少の恩返しが出来そうです。」
怯えるメリッサの前に立ち、
カムランは背に備えた槍の包みを取った。
穂先の根元に小斧がついたような形の槍だ。
その一風変わった槍を見て、
おそらくこの国の武具ではないのだろうとメリッサは感じた。
カムランの戦意を読み取った四匹のランドウルフが、
じわじわと詰め寄ってくる。
ふいに、一番左にいたランドウルフが素早く飛びかかる。
二人を襲うべく開かれ大きな口を、素早く槍が薙ぎ払う。
ランドウルフの上あごから上が完全に切り離され、
あっけなく地面に転がった。
それを見て三匹が一斉にカムランを襲う。
しかしカムランは表情一つ変えることなく三匹を次々と叩き付け、
切り結び、貫き通した。
そのあっという間の出来事に、メリッサは言葉も出なかった。
「さあ、岩場で休むとしましょう。もうあと一息です。」
カムランは怖がらせないように、へたり込んだメリッサを優しく引き起こした。
「蠍の時は無様な姿を見せてしまいましたからね。
これで少しでも汚名返上になるとよいですが。」
小さな冗談も付け加えて彼は笑った。
カムランはすっかり気の抜けてしまったメリッサの腕を引き、
再び歩き始める。
そうして照り付ける太陽から逃げるように二人は岩陰に腰を下ろした。
「あなたは、旅の商人ではなかったの?」
あまりに戦い慣れた様子のカムランを目の当たりにして、
彼女は少し距離を置いてカムランに向き直った。
「どうか、怖がらないでください。賊や暴漢などではありません。
説明不足でしたね。今回は旅ついでの郵便屋ですが、
依頼さえあれば傭兵、討伐なんでもやります。」
そこまで言って、カムランはメリッサに水袋と果物を渡した。
狼に対峙した時の顔つきと、目が追い付かない程の槍捌きを目の当たりにして、
メリッサはすっかり驚いていた。
水袋を持ったまま固まってしまった彼女を見かねて、
カムランが水袋の栓をポンと抜いて再び手渡した。
「休憩は半刻です。お疲れのようですから、
しっかり休息をとってくださいね。」
そう言って、カムランはメリッサから少し離れた場所にある岩陰に腰を下ろした。
0
あなたにおすすめの小説
犬の散歩中に異世界召喚されました
おばあ
ファンタジー
そろそろ定年後とか終活とか考えなきゃいけないというくらいの歳になって飼い犬と一緒に異世界とやらへ飛ばされました。
何勝手なことをしてくれてんだいと腹が立ちましたので好き勝手やらせてもらいます。
カミサマの許可はもらいました。
三年目の離婚から始まる二度目の人生
あい
恋愛
三年子ができなければ、無条件で離婚できる――王国の制度。
三年目の夜、オーレリアは自らその条文を使い、公爵ルートヴィッヒに離婚を告げた。
理由はただ一つ。
“飾り”として生きるのをやめ、自分の手で商いをしたいから。
女性が公の場で立てる服を作るため、彼女は屋敷を去り、仕立て屋〈オーレリア・テイラーズ〉を開く。
店は順調に軌道に乗り、ついに王女の式典衣装を任されることに。
だが、その夜――激しい雨の中、彼女は馬車事故に遭い命を落とす。
(あと少し早く始めていたら、もっと夢を叶えられたのに……)
そう思った瞬間、目を覚ますと――三年前、ルートヴィッヒと結婚する前の世界に戻っていた。
これは、“三年目の離婚”から始まる、二度目の人生。
今度こそ、自分の人生を選び取るために。
ーーー
不定期更新になります。
全45話前後で完結予定です、よろしくお願いします🙇
聖女召喚に巻き込まれたけど、僕は聖者で彼女よりも優れた能力を持っていた。
アノマロカリス
ファンタジー
僕の名前は、凱旋寺聖(がいせんじひじり)という厳つい苗字の高校2人生だ。
名前から分かる通り、僕の家は300年続く御寺の一族だ。
その所為か、子供の頃から躾は厳しく育てられた…が、別に跡を継ぐという話は出た事がない。
それもその筈…上に、二人の兄と姉がいるからだ。
なので、兄や姉が後継を拒まない限り、跡目争いに巻き込まれるわけではないのだ。
そんなわけで、厳しく育てられては来たが…抜け道を探しては良く遊んでいた。
…という、日頃の行いが悪い事をしていた所為か…
まさか、あんな事に巻き込まれるなんてなぁ?
この物語はフィクションです。
実在の人物や団体とは一切関係がありません。
『まて』をやめました【完結】
かみい
恋愛
私、クラウディアという名前らしい。
朧気にある記憶は、ニホンジンという意識だけ。でも名前もな~んにも憶えていない。でもここはニホンじゃないよね。記憶がない私に周りは優しく、なくなった記憶なら新しく作ればいい。なんてポジティブな家族。そ~ねそ~よねと過ごしているうちに見たクラウディアが以前に付けていた日記。
時代錯誤な傲慢な婚約者に我慢ばかりを強いられていた生活。え~っ、そんな最低男のどこがよかったの?顔?顔なの?
超絶美形婚約者からの『まて』はもう嫌!
恋心も忘れてしまった私は、新しい人生を歩みます。
貴方以上の美人と出会って、私の今、充実、幸せです。
だから、もう縋って来ないでね。
本編、番外編含め完結しました。ありがとうございます
※小説になろうさんにも、別名で載せています
ワケあり公子は諦めない
豊口楽々亭
ファンタジー
精霊の加護により平和が守られている、エスメラルダ公国。
この国の公爵家の娘、ローゼリンド公女がある日行方不明になった。
大公子であるヘリオスとの婚約式を控えた妹のために、双子で瓜二つの兄である公子ジークヴァルトが身代わりになることに!?
妹になり代わったまま、幼馴染みのフロレンスと過ごすうち、彼女に惹かれていくジークヴァルト。
そんなある日、ローゼリンドが亡骸となって発見されて……───最愛の妹の死から始まる、死に戻りの物語!!
※なろう、カクヨムでも掲載しております。
処刑された勇者は二度目の人生で復讐を選ぶ
シロタカズキ
ファンタジー
──勇者は、すべてを裏切られ、処刑された。
だが、彼の魂は復讐の炎と共に蘇る──。
かつて魔王を討ち、人類を救った勇者 レオン・アルヴァレス。
だが、彼を待っていたのは称賛ではなく、 王族・貴族・元仲間たちによる裏切りと処刑だった。
「力が強すぎる」という理由で異端者として断罪され、広場で公開処刑されるレオン。
国民は歓喜し、王は満足げに笑い、かつての仲間たちは目を背ける。
そして、勇者は 死んだ。
──はずだった。
十年後。
王国は繁栄の影で腐敗し、裏切り者たちは安穏とした日々を送っていた。
しかし、そんな彼らの前に死んだはずの勇者が現れる。
「よくもまあ、のうのうと生きていられたものだな」
これは、英雄ではなくなった男の復讐譚。
彼を裏切った王族、貴族、そしてかつての仲間たちを絶望の淵に叩き落とすための第二の人生が、いま始まる──。
半竜皇女〜父は竜人族の皇帝でした!?〜
侑子
恋愛
小さな村のはずれにあるボロ小屋で、母と二人、貧しく暮らすキアラ。
父がいなくても以前はそこそこ幸せに暮らしていたのだが、横暴な領主から愛人になれと迫られた美しい母がそれを拒否したため、仕事をクビになり、家も追い出されてしまったのだ。
まだ九歳だけれど、人一倍力持ちで頑丈なキアラは、体の弱い母を支えるために森で狩りや採集に励む中、不思議で可愛い魔獣に出会う。
クロと名付けてともに暮らしを良くするために奮闘するが、まるで言葉がわかるかのような行動を見せるクロには、なんだか秘密があるようだ。
その上キアラ自身にも、なにやら出生に秘密があったようで……?
※二章からは、十四歳になった皇女キアラのお話です。
真実の愛は水晶の中に
立木
恋愛
学園の卒業を祝うパーティーの最中、レイシア・マレーニ侯爵令嬢は第三王子とピンク髪の女、その取り巻きたちによって断罪されようとしていた。
しかし断罪劇は思わぬ方向へ進んでいく。
※「なろう」にも重複投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる