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その男の名は
しおりを挟む「まったく、お前は王女なんだぞ! こんな大会に出るなんてどういうことだ!」
ここはメーティルス城王座の間。武闘大会の優勝セレモニーのために訪れたけれども、まさか私が優勝者とは思わなかったお父様に今、しこたま叱られている。
「だって、私聞いてしまったのよ。『隣国の妾の子』の話を。私はこの国の王女よ。国民を守りたいの。お願い! 私はこの国で一番強いと証明できたわ。私に『隣国の妾の子』を倒させてほしいの。これができるのは私しかいないわ」
「ステラ……お前の気持ちはよく分かった。だが、結婚相手を探す話はどうなっておる」
「うっ……それは、まだ……」
目をキョロキョロさせ、返答に詰まる。城を出る時には王城に帰る時は結婚相手を連れていくって約束していたにもかかわらず、未だ相手がいないまま。自分よりも強い相手を探すと言っていたのに国で一番強くなってしまった。
これは、もしかして私の理想の結婚相手探しは詰んだのでは……?
「ところでアルバートはどこにいる? ステラに帯同するよう命じたはずだが」
「陛下、私はここにおります」
私の後ろに控えていたアルバートが一歩前に出て礼をする。
「お主がアルバートか!? 随分とまぁ成長しよって。これなら大丈夫そうだな。わかった。『隣国の妾の子』についての捕縛命令を下そう」
「お父様! ありがとう」
「ただし、結婚相手探しについて期間の変更は認めない。約束の日までに相手を連れて来られなければ決められた相手と結婚をしてもらうぞ」
「わかったわ」
「では『隣国の妾の子』について話そう」
事の始まりは現キルティ国王が王太子時代だったときまで遡る。
王太子には現王妃である婚約者がいた。しかし、王太子には婚約者とは別に恋仲になった女がいた。その女は地位が低く、学もない。見た目が美しいことだけが取り柄だった。王太子はその女と共謀して、婚約者にありもしない罪を被せ婚約を破棄させようとしたが、賢明な婚約者によりその企みは阻止された。国家反逆罪にも捉えかねない罪であったが、二度と王家に関わらないことを条件に命は助けられたそうだ。
そして、キルティ国王となった彼は王妃との間に二男一女の子をもうけた。仲の良い夫婦だと思われていたが、その裏で王は王太子時代から恋仲であった女との関係が続いていたという。なぜそれが判明したかというと、ある日突然女が「王の子だ」と言って男の子を連れ城にやって来たからだ。
約束を守らなかった女は処刑された。王は女が処刑されるまでに王らしくもなく泣きわめいていたが、処刑執行後になると人が変わったかのように落ち着きを取り戻した。王曰く、女には「魅惑」スキルがあり半分洗脳状態にあったが女が亡くなったことで解放されたということらしい。
女が連れて来た子を調べた結果、王の子で間違いはないらしい。王の血を引く子なので処刑は回避され、王城内で生活をするようになったそうだが、王城に来た経緯を考えると良くない扱いだったということは想像に難くない。
酷い扱いを受けていた彼は夜な夜な王城を抜け出し町へ出るようになった。町には悪い大人がたくさんいた。しかし彼は持ち前の話術、武術などあらゆる力で悪人をまとめ上げ、気が付けば裏世界を牛耳る者となっていた。
彼は待った。自分が王となるタイミングを。
計画通り、手下に第二王子の食事に少しずつ毒を混ぜさせ毒殺を成功させた。第一王子も地方への視察へ向かう馬車を襲わせ、意識不明にさせた。王女はすでに他国へ嫁いで国にはいない。自分が王になり、今まで馬鹿にしてきたものたちに仕返しができるとそう思っていた。
ところが、第一王子が懸命の治療のかいがあって意識が回復し、その場で何が起きたかを語った。実行犯はすぐに捕まり、そして男の計画が公になった。
キルティ国には王家の血を引く者に対する処刑は認められていない。そのため国家追放しかできなかった。
「その男の名は、ライオネル・キルティ。年は25歳。長身黒髪。フィジカルは強いことはわかっているが、それとは別に特殊スキルを持っていると言われている。ただ、それが何なのかは不明。ステラ、捕まえられそうか」
「はい。しかしメーティルス国で罪を犯していなければ捕らえることはできないのでは?」
「メーティルス国に来てもなお、悪事に手を染め、自分が王になることを諦めず反逆のチャンスを狙っているとのことだ。事実、男が来たという情報が入ってから、誘拐事件が多発するなど治安が急速に悪化している。ステラにも心当たりがあるんじゃないか?」
「!! まさか、花屋でのあの事件」
「わしから与えられる情報は以上だ。気を付けて任務に当たるように。アルバートもステラを頼む」
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