私のバトルは見せられない〜清純派美少女が戦闘狂に豹変するわけがない〜

みやちゃき

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一章

バトルは夜の校舎で

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「あれはゼッッッテー俺に惚れてるわ~」
「ふーん」

 太陽は一日の仕事を終えると西へ沈んだ。
 闇に包まれた街をレクとさよは走っていた。
 辺りに二人以外の姿は見えない。


 藤宮さよは、兄から安西樹梨の話を聞かされていた。
 転校生だということ、一ヶ月前に事故にあい遅れてクラスにやってきたということ、可愛いということ、自分に好意を向けてくるということ、可愛いということ。
 ところどころにレクの主観的見解が混じっていた。


「さよ、どうやら俺には人知を超えたユーモアの才があるらしい」
「人知を超えた勘違いっぷりじゃなくて?」
「いやあれはゼッタイ俺に気があるって! お前嫌いな人間の肩に触るか?」
「それでずっと着替えてないの……?」


 レクは帰宅してからもその制服を脱がずにいた。そんな兄をさよは呆れた眼差しで見つめる。
 浮かれるレクとは対照的な表情のさよ。
 彼女は昨晩と同じく、体型に合っていないブカブカのTシャツを着ている。それは、男子高校生のレクでも袖が余るサイズだった。なんとも動くには邪魔そうな格好だが、それでもさよは夜の道を駆ける。


「……こっち」


 交差点に差し掛かったところ、さよが左を指差しレクがそれに従う。
 兄妹には急ぐ理由があった。
 人に害を為す異世界位から出現したバケモノ、罪獣。


 兄妹は能力を手にしてから毎晩、いち早くその気配を察知して罪獣退治を行っていた。本日も人々に実害が出る前に退治するため、兄妹は急いでいた。
 罪獣の気配が感じ取れない兄を妹が導く。
 

 数週間前、レクは妹に尋ねた。


 ―なぁさよ、罪獣の気配がわかるっていうのはどういう感覚なんだ。
 兄の疑問に、「うーん。なんだろう、直感にほぼ近いんだけど分かるの。見えるっていうか。細い糸みたいなものが繋がっててそれを追ってる感覚……?」、と妹は自分でもうまく言葉にできない様子で話した。
 レクは不承不承しながらも「あれか『エナジー』ってやつか?」と聞くと「そう」と一言で返した。


 時は戻り現在。


 罪獣の気配を感じ取り、兄妹が走り始めてから十分が経とうとしていた。
 するとさよがいきなり立ち止まる。
 どうした。とレクは声に出す代わりに彼女の顔を覗く。
 正面を見ていたさよは四十五度回転して、兄の方に体を向けると背伸びをして彼の肩に鼻を近づける。
それはちょうど今朝、安西樹梨が手を置いた場所だ。


「なんだ~さよ。女の匂いがするのか? ははーん、お前もしや嫉妬してんのか~」


 茶化す兄を無視して、さよは眉をひそめる。


「もしかして、お兄ちゃん……」


 さよはその先に続く言葉を探し、慎重に選んだ。
 二人の間を風が吹き抜ける。空には星が輝き、その隙間を縫うように飛行機が飛んでいた。


「……また、強くなった?」


 どこかの家から子供の泣き声と、シチューの甘い匂いがした。


        ☆   ☆   ☆


 二人は罪獣がいると思われる現場に到着した。


「ここか……」


 目の前には夜の暗さに包まれた横に長い建造物。
 正門と思われるところには「市立丸井第一小学校」と彫られていた。


「さよ、いいか。危なくなったら逃げろ。お前は無力なんだから何かあったらすぐに俺を呼べ」
「…………わかった」


 胸を張るレクに対し、伏し目がちにさよは答える。
 兄妹はブロック塀とその上に設置された、ひし形の金網が無数に並ぶフェンスを登り、夜の校内に侵入する。右手には玄関があり、反対には池があり、その先には林が見える。整理されたアスファルトの道はグラウンドへと続いていた。
 そこをまっすぐと先に進む。


「いたっ!」


 さよが口にするのが早いか、二人は闇の中に動く影を捉える。
 敵も兄妹に気がつくと、その場から駆け出し、校舎裏へと逃げていった。
 後を追うが、あまりの速さに追いつけない。


「二手に分かれるぞ!」
 レクが妹に指示をする。


「え」
「さよは右手から頼む」
「でっ、でも!」
「大丈夫、ピンチになったらお兄ちゃんが助けてやるから!」
レクは返事も待たずに走り出した。


「ちょ、待って!」
 さよの声はレクに届かず、暗闇にかき消される。


        ☆   ☆   ☆


 レクが足を踏み入れた場所は、ちょうど体育館の裏だった。後方には裏門があり、付近の自動販売機が怪しげに発光していた。塀に沿って木々が生えており、道路から校内を隠すように並んでいる。狭く舗装もされていない地面は歩きづらかった。
 枝を何本か踏みつけたところ、目の前に野球ボールが落ちていた。もうずっとそこにあるのだろう、忘れられた白球は土で汚れ縫い目がほつれている。


 次の瞬間、そのボールがコロリと転がった。緊張が走る。呼吸が止まり、身構える。


 レクが目をこらした先には、爪を立てた前足でボールと戯れる―子犬がいた。


「んだよ~ビックリさせんなよ~」


 レクの全身が弛緩する。
 深く息を吐き出すと、犬の方も彼に気がついたようだ。
 潤んだ黒目でレクを見上げ、小さな尻尾を懸命にふり、桜色の舌を覗かせ呼吸をする。


「ま、ビ、ビビってなんかないけどな!」

 イヌ科イヌ属に分類される哺乳類に日本語で言い訳をする。
 子犬はクゥ~ンと、甘えるように鳴くと、前足で器用にボールを転がす。


「なんだ。遊んで欲しいのか?」


 すると返事をするかのように後ろ足で全体重を支えて立ち上がり、チンチンのポーズをする。
 レクはしゃがみこみ、片手を差し出した。


 そのときだ。


 ―かぷり。


 一瞬の出来事だった。子犬の小さかった口がいきなり膨らみ、牙を立ててレクの右手を丸かじりした。
 痛みは、神経を通じて彼の脳に伝わる。


「――――――ッ!」

 刺さった牙は動脈まで到達し、血液が激しく吹き出す。抵抗しようともう片方の手を振りかざした瞬間。今度は子犬の爪が鋭く伸び、レクの胸を貫通した。


「うわああああああッッッッ!」


 断末魔が響きわたり、罪獣は、ものの数秒で彼の命を奪う。


 藤宮レクは絶命した。
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