私のバトルは見せられない〜清純派美少女が戦闘狂に豹変するわけがない〜

みやちゃき

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一章

答え合わせ

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「え。おい、オイオイオイ、なんだよ、これ…………!」


 兄が起き上がったせいで、さよは頭を地面にぶつけ目を覚ます。しばしの間、眠りについてしまっていた。低い位置から頭上で混乱している兄を見上げる。


「おい、さよ大丈夫か! お前も気絶してたぞ」
 眠っていた妹は体を起こし、眼をこする。

「一体なんだよこれは、オイオイ、俺には爆撃能力だけじゃなかったのかよ!」

 さよは漏れそうになるあくびを噛み締める。
 パンと自分の頬を叩き、スイッチをいれる。

「お兄ちゃん……落ち着いて聞いて。わ、私もよくわかんないんだけどね、えっと……」

 兄は固唾を飲んで言葉の続きを待つ。

 しまった。 
 眠ってしまったせいで「設定」を考え忘れてしまったのだ。
 急いで頭を動かし、途切れ途切れに話し出す。


「その、敵は強かったの。それに、とてもずる賢くて、む、無数の罠と、じゅっ、重量を操作する罪獣だったの……」
「おお! 言われてみればそうだった気がする!」


「……。な、なかなかの苦戦を強いられたの。そしてさよは思ったの、『もう、ダメなんじゃないか』って。だけどお兄ちゃんは諦めなかった。さ、さよが手も足も出ないなか、お兄ちゃんは一人で敵に立ち向かっていったの」
「ほんっとにさよはビビリだよな~あんなの俺の相手じゃないって」


「…………。そ、そして。お兄ちゃんは、えっと、か、風の魔法で」
「か、風!? 俺はまた新たな能力に目覚めたのかッ!」
「うぅぅぅ……ッ! あ、頭が……」
「どうしたさよ! しっかりしろ! 大丈夫か!」
「痛い、頭が、思い出そうとすると、締め付けられるように、頭がぁ……」


「なんだと! そ、そうか分かったぞ。どうやら俺の新たな力は、見たものの記憶にも干渉してしまうらしい。ちくしょう! なんてこった! そんな力を手にしてしまったなんて。……フゥ。まったく、自分で自分が怖いぜ……」


 レクは自分自身に辟易とする。
 一方、頭痛がする演技をしていたさよは、本当に痛みが走ってきた気がした。


 藤宮レクの能力は。
『不死身だが気絶する前後の記憶が抜け落ちる』。
 
 持つべきものが持てば、一見最強能力とも思える「不死身」。
 だが、その力が宿った人物は、あまりにも残念な勘違い少年であった。


「さよ~俺、自分で自分が末恐ろしいわ~今時こんな奴売れないラノベでも出てこないよな~」
「う、うん…………そうだね……」


 さよにとって兄の「記憶を喪失する」というものは自身の歪の性癖と覚醒した姿を隠すのにちょうど良かった。
 そして「極度な勘違い癖」という性格も。素直すぎるレクはさよの多少矛盾した話でも信じて疑わなかった。
 故にレクは、自身のことを「最強の能力者」と勘違いをして、そのイキリを増長させていくのであった。
 双方の利害が見事なまでに一致していた。


「よし! 一仕事終えたところだし、そろそろ帰るか」
「うん……」


 歩き出し、戦場を背にさよは思う。
 我が兄には絶対に。


 私のバトルは見せられない。



 そもそもなぜ二人は能力に目覚めたのか。
 話は一ヶ月前に遡る。


                    ☆   ☆   ☆


 四月。
 寒さも落ち着き、暖かくなってきた頃。

 夜、二二時。
 藤宮さよは二階の自室でファッション誌を眺めていた。
 ベッドに横になりながらページを捲る。

 雑誌の表紙を飾るのは彼女と同年代のファッションモデル。赤やピンクといった文字で見出しが書かれ、キラキラと輝いている。さよは「今春の流行アイテム」のページに目をつけ、次のお小遣いで何を買おうかと、考えていた。
 その時、廊下を歩く足音がした。


 藤宮家は四人家族。父と母と兄のレク、妹のさよ。
 両親の部屋は一階で、明日も早い二人は既に就寝している。
 そうなると必然的に、足音の人物は特定される。


「どっか行くの?」

 さよは扉を開け、階段を降りかかっているレクの背中に尋ねる。

「んーちょっと散歩」


 ジャージ姿のレクは振り返ることなく、玄関へ向かう。
 さよは「ちょっと待って」と言うと急いで部屋に戻り、「私も行くから」と声をあげる。ギンガムチェックのパジャマから、春の色味のフレアブラウスとコクーンスカートにわざわざ着替え、その姿を鏡で確認すると廊下へ飛び出る。
 玄関で扉を開けて出て行く兄の後ろ姿が見えた。さよはクリーム色のストラップサンダルを履き、早足でその後を追う。


「待ってって言ったじゃん」
「お前なんだよそのカッコ。遠出するわけじゃねーんだぞ」
「いーの!」


 さよは頬を膨らませ、レクの半歩後ろを歩く。
 レクはポケットに手を突っ込み、春の夜風を気持ち良さそうに浴びる。飲食店や呉服店が並ぶ大通りを越えて学校とは反対側に進む。これといった兄妹の会話はなく、レクは三度あくびをし、さよはたまに兄の顔を伺うだけ。広い駐車場があるコンビニに入る兄妹。店内は他に二組ほど客がいるだけだった。レジに立つ髪を染めた大学生風の店員も、暇そうな様子だった。


 炭酸のジュースとアイスを買ったレクと、まだ商品を物色しているさよ。

「さよ、お前財布持ってんの?」

 彼女は首を横に振る。黒いボブカットがふわふわ揺れた。
 レクは一瞬嫌そうな顔を浮かべ「何か欲しいもんあるか?」と尋ねる。


 「うーん」と唇に人差し指を添えて辺りを見るさよ。
 ちょうどレジの方では仕事帰りのサラリーマンが棚にあるタバコを注文していた。
 大量のタバコが並んだ棚の横に、二駅離れた街に先月オープンした遊園地のポスターが貼ってある。


「あれ」


 さよはポスターを指差し「さよは思うの。今度の休日あそこに行きたい!」
 屈託のない笑みを浮かべ、期待に満ちた眼差しで兄を見上げる。するとレクは「あーあれな。今度トクとヤマちゃんと行くわ」と返した。


 トクとヤマちゃんはレクの中学校のクラスメイトで、その名前はさよも聞いたことがあった。どちらとも兄と仲の良い男友達だ。


「じゃあいい」


 さよは拗ねて出口まで向かった。自動ドアの反応が鈍く、一瞬、開閉が遅れたことさえ気に障った。

 二人はまっすぐ家に帰らず、寄り道をした。
 レクが来た道とは反対に歩き出し、それにさよが付いて行っただけなのだが。
 レクは買ったばかりの炭酸飲料に口をつけながら、昔よく遊んだ空き地へと向かっていた。


 家と家の間に挟まれた場所には草が生い茂り、ゴミが落ちている。レクは中学生の時、ファミレスに行く金も惜しんで、この空き地に集まり友達とゲームをしたり駄弁ったりしていた。
 さよも小学生の時に何度か兄と薫子と来たことがあり、知らない場所ではなかった。


 空き地の入り口に差し掛かり、レクが先ほど買ったアイスのビニール袋を破こうとした時だった。


 兄妹は目に映る光景を疑った。
 奥に生えている一際背の高い木。

 その下に男女が二人倒れていた。

 苦しそうな呻き声を上げて悶えている。レクは足がすくんで動くことができなかった。ほんの数秒の間で彼は様々なことを考えた。

 しまった。

 いくら馴染んだ場所とはいえこんな時間だ。人目もつかない場所で、誰かが喧嘩に巻き込まれている。
 もしかして襲った犯人がまだ近くにいるかもしれない。だとしたらここは危険だ。急いで逃げなければ。

 レクが妹の手を引こうとした時だった。
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