14 / 43
14.在るべき姿
しおりを挟む口付けを交わしてから、レオン陛下は人目がある場所では揶揄ってこなくなった。
その代わり、二人で夕食を取りたがるようになった。
だからと言って、口付けより先に進むことはなく、一定の距離を保っている。
私は正直、自分の気持ちが分からなくなっていた。
初恋の人であるセドリックを夫とし、皇帝であるレオン陛下と親密になり、自分がどうしたいのか、酷く混乱した。
『女は、想うより想われた方が幸せよ』
昔、お母様が言っていた言葉が頭の中をぐるぐる回る。
そんな時、時間が空いたので皇宮の庭園をレオン陛下と散歩していたら、セドリックとクラリスを見つけた。
あちらも時間が空いたのか、四阿で話している。
レオン陛下は、私の腕を掴み、四阿近くの木の陰に連れて行った。
「ちょっと、陛下!」
小さな声で話し掛けると、レオン陛下は黙れという顔をした。
「セドリック、ノエル夫人とはどう?」
クラリスはセドリックに話し掛ける。
「どう…って。政略結婚だからな。どうってことないさ。クラリスは、兄上とどうなんだ?」
「キースハルトは…ミレイユ王女に夢中みたい…」
「兄上が!?何故…」
「顔を見たら分かるわ。あなたが私を見ていた時のように、熱い眼差しをしているわ…」
「クラリス…俺は…まだ、君を…」
「セドリック…私もあなたが好きだった…でも、結婚て、それだけじゃだめでしょう?キースハルトとファーガソン侯爵家を守っていこうと思っていたのに…私、どうしたらいいか分からない…」
「クラリスっ!!」
二人がしっかりと抱き合った。
もう、この先は見たくないと思ったら、レオン陛下が私の手を引いて、反対方向に歩き出した。
しばらく歩くと、温室があり、中のベンチに座った。
「ノエル、すまない。あんな場面を見せるつもりではなかったんだ…」
「大丈夫ですよ。あれが在るべき姿なのかもしれません。」
私はレオン陛下を見つめて微笑んだ。
「そんな偽物の笑顔なんか見せなくていい。つらかったら、泣いていい。」
レオン陛下の偽物の笑顔という言葉に、セドリックが言っていた言葉が腑に落ちた。
「あぁ、私、無理して笑ってたんですね…セドリック様には『俺には張り付いたような微笑みしか見せない』って言われました。逆に、陛下には『普段見たことのない表情ばかり見せる』と…」
「それは…俺は喜んでいいのか…?」
「分かりません…」
「そうか。ノエルは、セドリックとこのまま結婚生活を続けていきたいか?」
「それも…今は分かりません…結婚した時は、セドリック様の心までは求めないけど、隣で笑っていることは許して欲しいと言いました。家の為に、後継ぎとなる子どもを産むことも。でも、今は分からない…私は…どうしたいんだろう…」
「自分の気持ちに正直になれ。まずは、そこからだ。」
レオン陛下は私を抱き締めて、大きくあたたかい手で頭を撫でた。
溢れ出した涙が止まるまで、レオン陛下の胸の中に包まれていた。
352
あなたにおすすめの小説
遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。
沼野 花
恋愛
夫と子供たちに、選ばれなかったイネス。
すべてを愛人に奪われ、彼女は限界を迎え、屋敷を去る。
だが、その先に待っていたのは、救いではなかった。
イネスを襲った、取り返しのつかない出来事。
変わり果てた現実を前に、
夫はようやく、自分が何を失ったのかを思い知る。
深い後悔と悲しみに苛まれながら、
失ったイネスの心を取り戻そうとする夫。
しかし、彼女の心はすでに、外の世界へと向かっていた。
贖罪を背負いながらもイネスを求め続ける夫。
そして、母の心を知っていく子供たち。
イネスが求める愛とは、
そして、幸せとは――。
ネグレクトされていた四歳の末娘は、前世の経理知識で実家の横領を見抜き追放されました。これからはもふもふ聖獣と美食巡りの旅に出ます。
旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
アークライト子爵家の四歳の末娘リリアは、家族から存在しないものとして扱われていた。食事は厨房の残飯、衣服は兄姉のお下がりを更に継ぎ接ぎしたもの。冷たい床で眠る日々の中、彼女は高熱を出したことをきっかけに前世の記憶を取り戻す。
前世の彼女は、ブラック企業で過労死した経理担当のOLだった。
ある日、父の書斎に忍び込んだリリアは、ずさんな管理の家計簿を発見する。前世の知識でそれを読み解くと、父による悪質な横領と、家の財産がすでに破綻寸前であることが判明した。
「この家は、もうすぐ潰れます」
家族会議の場で、リリアはたった四歳とは思えぬ明瞭な口調で破産の事実を突きつける。激昂した父に「疫病神め!」と罵られ家を追い出されたリリアだったが、それは彼女の望むところだった。
手切れ金代わりの銅貨数枚を握りしめ、自由を手に入れたリリア。これからは誰にも縛られず、前世で夢見た美味しいものをたくさん食べる生活を目指す。
白い結婚の行方
宵森みなと
恋愛
「この結婚は、形式だけ。三年経ったら、離縁して養子縁組みをして欲しい。」
そう告げられたのは、まだ十二歳だった。
名門マイラス侯爵家の跡取りと、書面上だけの「夫婦」になるという取り決め。
愛もなく、未来も誓わず、ただ家と家の都合で交わされた契約だが、彼女にも目的はあった。
この白い結婚の意味を誰より彼女は、知っていた。自らの運命をどう選択するのか、彼女自身に委ねられていた。
冷静で、理知的で、どこか人を寄せつけない彼女。
誰もが「大人びている」と評した少女の胸の奥には、小さな祈りが宿っていた。
結婚に興味などなかったはずの青年も、少女との出会いと別れ、後悔を経て、再び運命を掴もうと足掻く。
これは、名ばかりの「夫婦」から始まった二人の物語。
偽りの契りが、やがて確かな絆へと変わるまで。
交差する記憶、巻き戻る時間、二度目の選択――。
真実の愛とは何かを、問いかける静かなる運命の物語。
──三年後、彼女の選択は、彼らは本当に“夫婦”になれるのだろうか?
老聖女の政略結婚
那珂田かな
ファンタジー
エルダリス前国王の長女として生まれ、半世紀ものあいだ「聖女」として太陽神ソレイユに仕えてきたセラ。
六十歳となり、ついに若き姪へと聖女の座を譲り、静かな余生を送るはずだった。
しかし式典後、甥である皇太子から持ち込まれたのは――二十歳の隣国王との政略結婚の話。
相手は内乱終結直後のカルディア王、エドモンド。王家の威信回復と政権安定のため、彼には強力な後ろ盾が必要だという。
子も産めない年齢の自分がなぜ王妃に? 迷いと不安、そして少しの笑いを胸に、セラは決断する。
穏やかな余生か、嵐の老後か――
四十歳差の政略婚から始まる、波乱の日々が幕を開ける。
私が行方不明の皇女です~生死を彷徨って帰国したら信じていた初恋の従者は婚約していました~
marumi
恋愛
「あら アルヴェイン公爵がドゥーカス令嬢をエスコートされていますわ」
「ご婚約されたと噂を聞きましたが、まさか本当だとは!」
私は五年前までこの国の皇女エリシアだった。
暗殺事件に巻き込まれ、幼なじみで初恋の相手だった従者――アルヴェイン公子と共に命からがら隣国、エルダールへ亡命した。
彼の「必ず迎えに来る」その言葉を信じて、隣国の地で彼を待ち続けた……。
それなのに……。
やっとの思いで帰国した帝国の華やかなパーティー会場で、一際目立っているのは、彼と、社交界の華と言われる令嬢だった――。
※校正にAIを使用していますが、自身で考案したオリジナル小説です。
※イメージが伝わればと思い、表紙画像をAI生成してみました。
【完結】転生したら悪役継母でした
入魚ひえん@発売中◆巻き戻り冤罪令嬢◆
恋愛
聖女を優先する夫に避けられていたアルージュ。
その夜、夫が初めて寝室にやってきて命じたのは「聖女の隠し子を匿え」という理不尽なものだった。
しかも隠し子は、夫と同じ髪の色。
絶望するアルージュはよろめいて鏡にぶつかり、前世に読んだウェブ小説の悪妻に転生していることを思い出す。
記憶を取り戻すと、七年間も苦しんだ夫への愛は綺麗さっぱり消えた。
夫に奪われていたもの、不正の事実を着々と精算していく。
◆愛されない悪妻が前世を思い出して転身したら、可愛い継子や最強の旦那様ができて、転生前の知識でスイーツやグルメ、家電を再現していく、異世界転生ファンタジー!◆
*旧題:転生したら悪妻でした
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる