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23.愛の形
あれからひと月、クリストファー殿下は私との結婚式に向けて、精力的に動いていた。
それはもう目紛しい程に状況が変化し、私は一人着いて行けていない気がしていた。
(本当に結婚するのかな…いや、結婚自体はもう承認を得ているんだよな…)
「リーチェ、ここに居たの?もうすぐ殿下がいらっしゃる筈よ?」
侯爵家の庭園のガゼボで、ぼんやりとしていたら、母のエリザベスが顔を出した。
「お母様…」
「あら、どうしたの?そんな頼りなさげな顔をして…」
「本当に殿下と結婚するのかなぁと…
何で、殿下はこんなによくしてくれるんだろう…
私、まだちゃんと殿下に気持ちを話したことがないのに、どんどん話が進んでしまって…
書類上は、もう夫婦みたいだし…
私、大丈夫かなぁ…」
俯く私の肩を母は抱き締める。
「リーチェ、殿下のこと、好き?」
「好きよ。お顔も、優しいところも。思い遣りもあるし、行動力があるようで見守ってくださる懐の広さもあるわ。私には勿体ない位に。」
「お顔って!ふふふ。お顔は大事ね、一生ものだから。それに、お人柄も良いしね。じゃあ、殿下はリーチェの何が好きか、言ってくださった?」
「うん。愛らしくて、奇想天外なのにナイーヴで、不思議な人だって。
もう私に夢中で、今直ぐ、全てを奪ってしまいたいけど、結婚式や初夜への憧れは叶えてあげたいから、我慢するって言ってたわ。
尊重してくださるのは凄く嬉しいけど、言い方がストレートで、思い出しても恥ずかしい…」
「何それ!?リーチェにぞっこんじゃない。ふふ。」
母は笑いながら言った。
「ねぇ、リーチェ。
前にもお父様と一緒に話したけど、私達はリーチェの幸せだけを願っているの。
幸せの形は人それぞれで、愛って常にお互いが与え合うものではないの。
チカプリオン伯爵令息に執着したジェニファ嬢は、一方通行の最たるものだったでしょう?
あそこまでではなくても、貴族の政略結婚は概ね一方通行だったり、お互いに愛のない結婚と言えなくもないわ。
我が家みたいに、お父様が未だに劇重な愛を捧げてくれる方が稀なの。」
「お父様の愛は劇重なの?」
「そうよ!あんな人珍しいわ。」
「お母様とお父様との出会いは、どんな感じでしたの?」
「確か…私とお父様が十三歳の時だったかしら…
私が、このヴァーミリアン侯爵家のお茶会に招待された時、お父様を助けたの。
それは、毎年開かれていて、お父様の婚約者を決めるお茶会だったのよ。
なかなか侯爵様や夫人と、お父様が気に入る令嬢が見付からなくて、私が参加した時は四回目だったかしら。
子どもの頃から顔見知りとかいう令嬢に追い回されていて、ちょうどこのガゼボの辺りをお父様が『お前なんか知らない』って、必死な顔で逃げていて。
そのお顔が、本当に必死で可哀想に見えたの。
だから、あの百合がたくさん咲く迷路みたいな場所に、お父様の手を掴んで引っ張ったの。
それで、おかしな令嬢から助けた、みたいな話になって、凄く感謝されて。
その場で、お父様と恋に落ちたの。
ありがとうって笑ったお父様にきゅんとしちゃってね。」
「お母様も手を掴んだのね……?」
母は、心底驚いたような顔をした。
「あらやだ!リーチェと一緒だわ!!」
「母娘で男性の手を掴むなんて。あははは!」
母と笑い合って、私の中でもやもやしていたものが吹っ切れた。
「お母様も私も、掴んだのは手だけじゃなくて運命かもしれませんね。」
「リーチェ、上手いこと言うわね。ふふ。」
「私、殿下にちゃんと気持ちを伝えます。」
「そうしてあげなさい。きっと殿下は喜ぶわよ。」
このやり取りをクリストファー殿下がこっそり聞いていたと知ったのは、それから随分後である。
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