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24.想いと笑顔
しおりを挟む今日は、珍しくのんびりしている。
結婚式を半年後に控え、未だにウェディングドレスのデザインを決め兼ねている私は、一人で焦っていたからだ。
そんな様子を生温く観察しながら、たまには何もしない一日があっていいと、クリストファー殿下に言われ、客間のソファで寛いでいる。
「このところ忙しかったから、リーチェに癒されたい。リーチェもいろいろ悩まず、久々にぼーっとしようよ。」
ヴァーミリアン侯爵家の客間は、今となっては、クリストファー殿下の私室のようになっている。
泊まることは少ないが、日中の空き時間は二人で過ごすことが多くなった。
「リーチェ、膝枕して?」
ソファで膝枕をすると、うとうと始めるクリストファー殿下。
(手続き関係を一手に引き受けてくれたし、殿下は忙しかったよね…)
起こさないように、クリストファー殿下の髪を指で梳いてみる。
「さらさらだわ…綺麗…髪だけじゃなく、お顔も…こんなに綺麗な人が私を好きって…夢かしら…」
不意に愛おしさが溢れて、クリストファー殿下の唇に口付ける。
薄いのにふっくらとしていて、その柔らかさに感動する。
そっと下唇を噛んで舌先で突いたら、ぴくっと動いた。
「…ん……リーチェ…誘惑するのはやめてくれ。」
目を閉じたまま、クリストファー殿下は真っ赤になっていた。
(目を閉じている今なら…言えそう…)
私は想いを口にする。
「クリストファー殿下、いろいろ私の為に動いてくださって、ありがとうございます。きっかけはあんなでしたが、殿下を愛しています。こんな私を好きになってくれて、ありがとうございます。私も殿下と笑い合って生きていきたい。よろしくお願いします。」
クリストファー殿下に茶化されると思っていたのに、まだ目を開かない。
「殿下…?」
つつつと目尻から涙が流れ、私のドレスを濡らす。
やっと開いた赤い瞳から、止め処なく涙が溢れてきた。
「リーチェ…本当に俺でいいのか?無理をしていないか?リーチェに求婚した時、本当は承諾したんじゃないって気付いてた。でも、強引に話を進めて、リーチェの逃げ場を塞いだ。俺は、自分の我儘を通しているだけではないのか?」
クリストファー殿下は、いつもの強気な顔ではなく、不安で仕方ないという顔をしている。
「こんな傷物を丸ごと愛してくださるのは、殿下しか居ませんよ。出会ってから、いつもいつも私のことを大事にしてくれて、私の話を聞いてくれて、両親以外にそんな人、居なかったし。今は、私が殿下に夢中です。」
再び口付けると、クリストファー殿下も舌を絡めてくる。
もう驚いて引いたりしない。
私も精一杯の想いを伝えよう。
角度を変えた口付けを交わし、お互いに抱き締め合う。
「リーチェ、ありがとう。俺、良い夫で婿になるからな。」
「既に良い家族ですよ。父も母も殿下が好きみたいだし。」
「俺も、ヴァーミリアン侯爵や夫人が好きだよ。あったかく面白くて、流石リーチェの両親だ。はははっ!」
「もう、殿下ったら、いつもいつも面白いって!そんな殿下もお父様みたいに面白いんですよ?」
私はいつかやってやろうと思っていたことを、今この場ですることにした。
「あひゃっ、うっ、うひょっっっ!リ、リーチェ、や、やめろっ!!く、くすぐったい!やめてったらーーー、あふっ!!ひぃーーー!やめろって、んああっ、ほんとにっ、わ、脇腹は弱いんだーーーっ!!あっ、ふんっ!んほっ!!あぁあんっ!」
ーーーーどすんっっっーーー
「リーチェ、何事だっっっ!?」
大音量の叫びにも似た笑い声と、ソファから落ちた音で、父のディーゼルが客間に飛び込んで来た。
「リーチェ、お前は殿下に何をしてるんだっ!こんのド阿呆がぁぁぁーーー!!!」
父は青筋を立てて怒鳴っている。
遂に、阿呆に『ド』が付いた。
いつもは庇ってくれる筈のクリストファー殿下は、まだひぃひぃと息も絶え絶えで、今は使い物にならない。
「だって、ターナーがこういうのがお父様には癒しと解放になるって言ってたんだもの。」
「はあ!?ターナーが?」
すると、父の後ろからそっと誰かが顔を出した。
「そなたがリーチェ嬢か?急にすまないな。息子に頼まれていた書類を持って来たのだが。」
「……息子……書類……んっ…!?えぇーーーっ!陛下っ!!」
そこには、我がエドヴァルド帝国のミスリム皇帝陛下が立っていた。
「突然来たのだから、楽にしてくれ。ところでクリストファーは何を?」
「あっ…陛下…ご無沙汰しておりました。」
やっと立ち上がったクリストファー殿下は、努めて平静を装っているが、額に汗している。
「ちょ、ちょっと殿下に癒しの時間を過ごしていただいておりましたっ!」
「そうか、クリストファーに大笑いさせる令嬢は初めてだ。しかし、派手に笑って転んだな、クリストファー!あはははははっ!!」
「い、いつも、こんなことをしている訳では!た、たまたま、ですっ!!」
流石のクリストファー殿下も上手い言い訳が見つからないらしく、私はによによしてしまう。
(殿下のこんな焦ったお顔も、凄く素敵!)
「リーチェ、殿下のお顔に見惚れている場合じゃなくてよ?陛下、応接間にお茶を用意させましたので、是非お召し上がりくださいませ。」
母のエリザベスは、しれっとここから陛下を連れ出す気だ。
「あまり時間はないのだが、ヴァーミリアン侯爵家自慢の茶をいただこうか。侯爵、夫人、案内を頼む。クリストファーはその乱れた服と髪を直してから来るがよい。」
格好だけ見たら激しい情事の後のようなクリストファー殿下に、私も青くなる。
それを察した陛下は、大丈夫と目を細めて微笑んだ。
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