【完結・外伝更新】 「貴様との婚約は破棄する」から始まった私達

紬あおい

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25.親心


「こら、リーチェ!陛下の前で大恥かいたぞ?」

クリストファー殿下は、言葉と裏腹に笑っている。

「だって、ポペス侯爵家の夜会で殿下の弱味を見つけたから、やってみたかったんですもの!」

「あの脇腹を突いた一瞬で!?」

「そうです。んっ!て変な声出てました!」

「はぁぁぁ…リーチェには敵わないな。誤魔化せたと思っていたのに…」

「怒ってない?」

「少し怒ってるけど、リーチェから口付けてくれたら機嫌が治るかもなー!」

「へ、陛下をお待たせしてるじゃないですか!」

「ちょっとだけ!それで俺の機嫌が治るんだぞ?」

クリストファー殿下は、隣に立ち、目を閉じた。

(んもう、こんな時にぃー!寧ろ、ご機嫌さんなのに、何でこんなことにーー!!早く行かなきゃいけないから、さっきの口付けを思い出して、っと。)

クリストファー殿下よりもかなり小さい私は、背伸びする。

(恥ずかしいから…目を瞑っちゃおう!)

ちゅっ、ちゅっ、ちゅっ

(舌を入れて………ん?唇が開かない!?何かじょりって舌触り…?)

「く、くくくっ、ふっ、ふ、はははははっ!!」

クリストファー殿下の笑い声に、恐る恐る目を開ける。

「リ、リーチェ、そ、そこは顎だっ、くすぐったい!あははは!!」

「……………応接間に行きましょう…」

(また一つ、弱い所を見つけたわ!ふんっ!!)

私は真顔で、笑い転げそうなクリストファー殿下の手を掴んで歩き出した。
応接間に入ると、父は相変わらず青筋を立てており、母はやれやれといった顔をしていた。

「クリストファー、そなたはここに居ると笑ってばかりなのだな。」

ミスリム陛下は、クリストファー殿下を愛おしげに見つめた。

「はい、リーチェと一緒だとこうなります。俺には稀有な存在です。そして、何よりも愛おしい女性です。」

クリストファー殿下は、良いお顔で言い放つが少し顎が涎で光っている。

(これは言えないわ…皆、気付かないでー!かみさまー、お願いっ!!)

私は久々に神に祈った。

「よく分かった。一度、この目で確かめたかったのだ。クリストファーが幸せを掴めるかどうかをな。リーチェ嬢、変わった奴だがクリストファーを頼んだぞ。生涯笑わせてやってくれ。」

陛下でなく父の顔をするその人は、決してクリストファー殿下を蔑ろにしてきたのではないと、私は感じた。

「その皇命、しかと受け取りました。私、リーチェ・ヴァーミリアンは、生涯クリストファー・ヴァーミリアンを敬い、愛し、笑わせます!」

「あははは、皇命ときたか!そうだった、ちょうど書類も持参したから、クリストファーもヴァーミリアン侯爵家の一員だな。リーチェ嬢、今のその言葉、忘れないように、一生クリストファーの傍に居てやってくれ。」

陛下は、立ち上がり、私の手を取る。

「リーチェ、そなたはもう私の娘でもある。父譲りの面白さと母譲りの賢さ。これにクリストファーのしたたかな頭脳が加われば、孫が楽しみだ。」

「は、はい!」

初めて間近で話す陛下の笑顔は、クリストファー殿下に似ていた。
皇命陛下でなかったら、きっと普通の優しいおじいちゃんになるだろう。

それを許されない立場の陛下が、ふらっとこの邸に来ること自体が大変だろうに。
クリストファー殿下は、確かに愛されていると思った瞬間だった。

「陛下、そろそろリーチェの手を離していただきたい。」

真顔のクリストファー殿下に、陛下が吹き出す。

「そなたは、皇帝にも嫉妬するのか!?何も望んでこなかったそなたが随分と狭量な!ククッ。」

「何も望まなかったから、では?陛下のお立場も、親としてのお気持ちも充分理解して、殿下は生きてきたのだと思います。我が家にひと騒動あったのですが、貴族の在り方や存続の可否まで、殿下は心を砕いていらっしゃいました。こんな孝行息子は、なかなか居ないと思います。」

割って入る父がまともなことを言っている。

「そうか。ポペス侯爵家を残してくれたんだったな。あの者は、なかなかの忠誠心を持っている。きっと、これからも助けになるだろう。良い仕事をしたな、クリストファー。」

「当然のことをしたまでです。これからは、陛下の臣下として、ヴァーミリアン侯爵家の者として、帝国に仕えていきます。リーチェとなら、楽しい人生になるでしょう。」

「それは頼もしいな。ヴァーミリアン侯爵、息子を宜しくな。」

「はい、もう息子同然に思っております。リーチェの相手が出来るのは、クリストファーしか居ないかもしれませんから。」

義父ちちうえ…」

優しい雰囲気に包まれる応接間。

「私の相手が出来るのは殿下だけって、またおとしめられてるのは、気の所為かしら…」

「こら、リーチェ、この阿呆がっ!黙っとけ!!」

ぼんやり見ていたら、また口から出ていたらしく、父がキレた。

「あっ…ごめんなさい…」

「陛下、いや、父上。リーチェのこんなところも、俺は可愛くて仕方ないのです。皇宮で近寄って来た、欲にまみれた令嬢達に辟易していましたが、リーチェだけは損得勘定が一切出来ない素直な子なんですよ。斬新、且つ繊細なリーチェ。俺は生涯退屈しない気がします。」

「それは何よりだ。今度、皇宮にも遊びにおいで。ヴァーミリアン侯爵家の皆を晩餐会に招待しよう。皆が噂する程、皇后も皇子達もクリストファーを嫌ってはいないのだ。寧ろ、この結婚を祝っている。是非、会ってやってくれ。」

ミスリム陛下は微笑んで、護衛騎士と侯爵邸を後にした。
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