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31.ポペス侯爵夫人 ③
しおりを挟むその日、私は両親に応接室に呼ばれた。
そして、父の口から出た言葉に耳を疑った。
「お父様…今、何て?」
「お前とポペス侯爵令息の縁談を承諾した。あちらは、お前がヴァーミリアン侯爵令息に付き纏ったことをご存知ではなかった。ポペス侯爵家は、今時珍しく社交には疎いらしい。今のうちに、さっさと婚約しておかないと、結婚が難しくなるだろう。」
父は眉間に皺を寄せて話すが、その表情は決して異論は認めないという顔付きだ。
「待ってください!私には運命の人のディーゼル様がっ!!」
ーーーバシッ!!!ーーー
「いい加減にしなさい!あれだけ付き纏って、名前どころか、顔すら覚えてもらえなかったじゃない!!」
母はいきなり私の頬を打った。
「ヴァーミリアン侯爵令息は、エリザベス・オークウッド伯爵令嬢とご結婚されたわ。
あのお茶会で、あなたがヴァーミリアン侯爵令息を追い掛け回した時、エリザベス嬢が助けたそうよ。
その時、お互いに一目惚れだったって!
そういうのを運命って言うのよ。
この一年、あなたの付き纏いを警戒して、婚約を極秘にして、まだお二人とも十四歳なのに結婚も急いだそうよ!!
私はお茶会で恥をかかされて呼ばれなくなるし、お父様にもあちこちで恥をかかせたわ!
あなたは、一体どれだけこのコルトナ伯爵家に迷惑を掛けたら気が済むの!?」
父も母も、言い訳すら許さない雰囲気を漂わせる。
「…っ……分かりました……ポペス侯爵令息とのお話、お受けします。」
私の運命の人は、他の女を選んだ。
絶望というものは、こういう感情のことなのだろうか。
私は、この時、人を愛することを諦めた。
そして、ポペス侯爵令息と結婚した。
夫となる人が社交に疎いのなら、私が担えばいい。
地道に努力を重ねて、社交の場でも噂されることはなくなった。
こうして、私はポペス侯爵夫人として、ジェニファの母として生きる道を選んだ筈だった。
ジェニファが、リーチェ・ヴァーミリアン侯爵令嬢の婚約者を愛するようになるまでは。
ジェニファとテオナルド・チカプリオン伯爵令息との出会いは、在り来たりなパーティだった。
ハンカチを落としたジェニファ、それを拾ったテオナルド。
出会いは在り来たりだが、ジェニファは運命を感じたらしい。
そして、二人は直ぐに深い関係となり、テオナルドと結婚したいと私に相談してきた。
「テオの婚約者は、リーチェ・ヴァーミリアン侯爵令嬢なの。」
その瞬間、私の中でどろどろに沸き立つものを感じた。
あの人と、あの女の娘。
許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない
壊してやる壊してやる壊してやる壊してやる壊してやる壊してやる壊してやる壊してやる
そこからは、まるで盤上遊戯のようにジェニファを操った。
つまらない噂でも社交の場では真実のように扱われる。
ジェニファから聞くリーチェは、どんどん孤立していく。
ああ、楽しい!
今頃、リーチェのことで、エリザベスが悲しんだり苦しんだりしていると思うと、晴々とした気持ちになった。
そうしているうちに、ジェニファも私と同類になったのだろう。
テオナルドさえ、片想いを拗らせ、感覚が麻痺したようだ。
勝手に殺そうとして、バルコニーで盛って、ジェニファとテオナルドの不貞が、遂に露呈してしまった。
でも、大丈夫。
証拠なんかない、証人もどこの誰だか分からない。
ポペス侯爵家の名の下に潰してやる。
そう思って臨んだ話し合い。
証人として出て来たのは、まさかのクリストファー第三皇子殿下だった。
テオナルドはジェニファを裏切り、あっさりとリーチェに謝罪し、ジェニファは捕らえられた。
泣き叫ぶジェニファの声は、テオナルドどころか誰にも届かなかった。
実の母である私にも。
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