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59.いつでも傍に居るから
しおりを挟む「クリストファー!お前、私を嵌めたな!?」
羊の毛と涎まみれになったミスリム陛下は、口調とは裏腹に楽しそうだった。
「陛下もたまには動物に癒された方がいいと思いまして。」
「あはははっ、陛下、やられちゃいましたね!」
しれっと答えるクリストファーに、私は大笑いだ。
「これじゃアイザックを抱っこ出来ん!リーチェ、湯浴みの用意をさせてくれないか?」
「はい!バウザー、お願い出来る?」
「光栄です!今直ぐ準備致します!!」
羊達の餌を準備したバウザーは、今度は湯浴みの準備だ。
しかし、働き者のバウザーは、陛下の湯浴みを自分が準備出来ると喜んで走って行った。
「クリストファー、良い領地だな。見渡せば、皆、働き者で気立ても良い。もうすっかり領主だな。」
ミスリム陛下は、父の顔でクリストファーを見つめている。
「母上にも見せたかったですね…でも、父上だけでも見ていただけて良かったです。この景色も、アイザックも。」
「本当に、すまない。クリストファーには不憫な想いをさせたな…
この姿をシルヴィアが見たら、きっと喜んだであろう。
でも、リーチェと巡り会えて、幸せなクリストファーが見られて良かったよ。
普段はなかなか会えないが、お前は私の自慢の息子だ。」
しんみりした雰囲気の中、バウザーが湯浴みの準備が出来たと手を振っている。
「さあ、陛下、湯浴みの後はアイザックを抱っこしてあげてくださいね!」
「ああ、楽しみだ。」
「父上、お背中流しましょうか?」
「それは遠慮しとく。」
即答過ぎて、また皆で笑った。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
湯浴み後、ミスリム陛下は直ぐにアイザックに会いに来た。
お忍びなのでローブの下はラフな格好で訪れたが、今は更に白シャツとスラックスである。
こうして見ると、若々しくて更にクリストファーとそっくりだ。
「おおっ、これは誰が見てもクリストファーの子だな。」
(いや、誰が見ても皇族の血筋だよ?クリストファーが歳を取ったら、こんな感じなんだなぁ…)
私は心の中で思っていた。
父に阿呆と言われ続けた私も、流石に大人になったのである。
ミスリム陛下は、愛おしげにアイザックを抱いて、頬擦りしている。
その表情は、皇帝陛下ではなく、ただの祖父の顔だ。
クリストファーの手を掴まなければ、皇帝陛下と碌に話すこともなかっただろうし、ましてやこんな優しい姿を見ることもなかっただろう。
人の縁とは不思議なものだ。
「リーチェ、クリストファー!アイザックが笑ったぞっ!!」
ミスリム陛下は、子どものように喜び、それを見ていたクリストファーは、少し羨ましそうだった。
「クリストファー様には私が居ますよ?アイザックが大きくなって、手が掛からなくなっても、阿呆で手の掛かる私が、あなたの傍にいつも居ます。」
「リーチェに隠し事は出来ないみたいだな。」
自分の子ども時代を思い出し、比較していただろうクリストファーは、私の手をぎゅっと握った。
「あら?隠し事、あるかもしれないわ。でも、私を思って隠していることまでは探らないわ。」
「ああ、そうしてくれ。」
握った手のあたたかさとクリストファーの微笑みに、私の心もあたたかくなった。
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