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6.公爵家は学舎
しおりを挟む翌日からファニアは意欲的に執務に取り掛かっていた。
離縁までの二年という月日を、一日たりとも無駄にしたくなかったからだ。
公爵邸内のことは、執事のマーラーと侍女長のターニャが都度ファニアの質問に答えてくれたし、執務はクライスが指導した。
別に執務室を設ける程ではないと、クライスと同じ部屋で執務を学ぶファニアは、いろいろな知識をどんどん吸収し、三ヶ月経つ頃には立派に公爵家の夫人として機能していた。
そんなある日、離れた領地を視察する為に、クライスと出掛けることとなった。
その地は、山々に囲まれ山羊がたくさん育てられている牧場があった。
収入源は、山羊のミルクとチーズで、村人は年寄りばかりの穏やかな領地だった。
馬車で二日程走ると緑鮮やかな山々が見え、小さな別荘に到着した。
「あの別荘に滞在する。管理人の老夫婦は、ギルとアンネだ。気の良い奴らだから安心してくれ。」
クライスに手を借り馬車を降りると、ギルとアンネが頭を下げて待っていた。
「この者はファニアだ。久しぶりに視察に来たのだが変わりはないか?」
「ご無沙汰しておりました。相変わらず、ここは穏やかな地です。少し前に山羊が仔を産みまして、今は五十頭を超えていますが、皆元気に育っています。」
ファニアが振り返ると、仔山羊が楽しそうに跳ねていた。
「可愛いですね!」
「ファニアは動物が好きなのか?」
「ええ、大好きです。あの純粋な瞳を見ていると癒されます。」
(そう言えば、この人も小動物みたいだな。クククッ。)
クライスはファニアがリスっぽいなと、思わず笑みが溢れた。
「ギル、アンネ、荷物を頼む。あと食事や湯浴みの準備もだ。俺とファニアは、山羊達を見てくるよ。ファニアの目が釘付けだから、近くで見せてやろう。」
ファニアの目がきらきらしたのを見て、クライスだけでなく、ギルやアンネも微笑んでいた。
山羊達に近付くと、人慣れしているのか、あっという間にファニアとクライスは囲まれた。
「まあ!仔山羊ちゃん達ったら、何て可愛らしいのかしら!!」
初めて対面するのに、仔山羊達はファニアに頬擦りし、周りで撫でて欲しそうに順番待ちをしている。
「動物好きなのが分かるのか?俺には寄り付かないな…」
ファニアと戯れる仔山羊達に、少し嫉妬のような気持ちが芽生え、クライスは動揺した。
(相手は山羊だぞ?はあ…何だろうか、このもやもやした気持ちは…)
「皆でお散歩しましょうか!」
山羊達と歩き出すファニアに置いて行かれた気がして、クライスは少し苛々した。
(夫を置いて、さっさと山羊達と散歩か?変な女だ…)
それでも、視線が逸らせないクライスは、山羊まみれになって白詰草の花冠を編み出したファニアに、いつしか微笑みを向けていた。
そして、ファニアは山羊達に癒されながらも、ギルやアンネに『妻』として紹介してもらえなかったことを考えていた。
(二年間…契約だものね…二年後、ここに住みたいな。)
どんなに楽しくても、幸せだと感じても、決して忘れてはいけないことがあると、ファニアは心に刻んだ。
そして、初めての領地の視察は、滞りなく終わり、たくさんの山羊のチーズを土産に、二人は帰路に着いた。
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