【完結】 契約が終わったら静かにお引き取りくださいと言ったのはあなたなのに執着しないでください

紬あおい

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25.ジェラールの想い




翌朝、ファニアは吐き気が少し治まったので、ジェラールに話をすることにした。

「牧場に送ってください。」

「分かった。」

意外にもあっさり承諾したジェラールに、ファニアは拍子抜けしたが、ジェラールは笑顔だった。

「ファニア、俺が引き止めると思ったか?」

「いえ、そういう訳では…」

「最初は面倒な奴を連れて来てしまったと思ったけど、ファニアとの暮らしは楽しかったぞ。
誰かと笑うのは久しぶりだったし、山羊と会話したのは初めてだった。
だから、もし!もしも、ファニアが離縁して行き場がなかったら、子どもを連れて戻って来い。」

「えっ…?」

ジェラールは、少しだけ耳を赤くし、そっぽを向いた。

「お前との暮らしは…悪くない。」

「ジェラール…」

「だが、分かっている。お前はきっと戻って来ない。今言ったことは、万が一の保険だと思えばいい。」

「そんな都合のいいこと…駄目ですよ。」

「俺がいいと言っているんだ。」

ジェラールはファニアを抱き締めた。

「本当は…ここに居て欲しい…だけど、身籠ったかもしれないと気付いた時のファニアの顔は、俺など見ていなかった。
お前は、旦那を心から愛しているのだろう。
だから、お前は帰れ。そして、ちゃんと話し合え。
大丈夫だ、お前はきっと愛されている。」

ジェラールの言葉は、まるで優しい呪文のようにファニアの心に響いた。

「ジェラール、ありがとう。…うぅっ…」

ジェラールの胸に額を押し付け、ファニアは泣いた。
クライスと結婚し、何があっても笑っていたファニアが、初めて感情を溢れさせたのはジェラールの腕の中だった。

「ファニア、泣きだけ泣いたら、送って行く。
今だけは、俺の胸で泣け。」

ジェラールのあたたかい手は、ファニアの頭を撫で、頬に触れた。

「なぁ、ファニア。一度だけ口付けていいか?
あの結婚は触れることすら許されなかった…
もう俺は恋も出来ない。子も作れない。
口付けも知らないまま年寄りになるのは嫌だ。
だからっ今だけ!!」

驚いて顔を上げたファニアの唇をジェラールは塞いだ。
それは熱く深く長く重なり、ジェラールの唇が離れるまで、ファニアは受け止めていた。
そこには愛ではなく、確かな親愛の情があった。

「弱った者に付け入るようで、すまない。この口付けは宿賃だ。」

ふざけて笑うジェラールの瞳は、いつもより金色に輝いていた。

「ジェラール、二度と会えないのは寂しいわ。本当の家族にはなれないけど、実の兄達よりもお兄ちゃんみたい。ふふ。」

「兄貴かぁ…お前、酷い奴だな。はははっ!
さて、牧場に行くか。山羊も連れて。」

「はい、お願いします。」

荒屋あばらやを出たジェラールとファニアは、清々しい気分で山道を歩き出した。
ポトは、そんな二人と並んで歩いて行く。

これは別れではなく、新たな関係へと続く道のようだった。


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