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27.誤解
ジェラールが完全に見えなくなると、ポトは山羊の群れに帰って行った。
その後ろ姿は、時折振り返り、その場で軽くジャンプをし、何故かファニアを励ましているように見えた。
一方で、地面に手をついたままのクライスは、やっと泣き止んで顔を上げた。
青白く無精髭の生えたクライスは、見るも無惨な程に窶れていた。
「クライス様…」
「ファニア、取り敢えず家に入ろう。」
よろよろと立ち上がり、歩き出したクライスの背中に手を掛けようとしたが、ファニアは後ろを着いて行くことにした。
無表情のクライスに、男と暮らしていたのかと聞かれた時の顔が目に焼き付いていて、躊躇ってしまったのだ。
(ふしだらな女と思われたのだろうか…クライス様の話とは何だったのだろうか…ジュリエット様は…)
ファニアは混乱しているうちに、また悪阻が襲ってきて、家に入る寸前で蹌踉けて膝をついた。
「ファニア?」
クライスが物音で振り返ると、ファニアが倒れそうになっていた。
「体調が悪いのか?」
意識まで朦朧としてきたファニアは、そのまま倒れ込んだ。
「ファニア!!」
クライスはファニアを抱え、急いで寝室のベッドに寝かせ、ギルとアンネを呼びに行った。
「ここには年老いた医者が一人居たよな?」
「はい、至急呼んできます!」
ギルが駆け出し、アンネはファニアの元へと向かった。
真っ白な顔色のファニアは、医者が来ても目を覚まさなかった。
翌日、目を覚ましたファニアの傍には、クライスが付き添っていた。
その顔は、昨日にも増して窶れており、瞳は暗く曇っていた。
「クライス様…」
「ファニア、目が覚めたのか。」
「はい…ご迷惑をお掛けして申し訳ありません。」
ファニアが体を起こそうとすると、クライスはそのままでいいと言うように首を振った。
そして、しばらく俯いていたが、ファニアから目を逸らしたまま言った。
「ファニア……君は身籠っているそうだ…あの男の子か?」
クライスの静かに呟く声は、ファニアの胸に抉るような鋭さを放った。
(っ……!?ジェラールとのお子だと思っているのね…)
「言い訳はしないのか?あの男が好きなのか?」
「ち、違います!私はそんなんじゃ!!」
「だって身籠るなんて可笑しいだろう?俺は避妊薬を飲んでいたのに!」
「っ!?」
クライスは、ファニアに秘密にしていたことを、つい口にしてしまった。
そして、ファニアはその言葉に絶望した。
「……私との契約は…もう…成り立ちませんね…
執務も完璧とは言えませんから、名前だけの公爵夫人にもなれませんし…
私とのお子なんて…要らないということだったのでしょうか…
閨事は、欲求を吐き出す為だったのですね…」
「違うっ!欲求を吐き出す為だけではない!!」
「何が違うと仰るの!?私のような女とは、お子を為したくないから、避妊薬をお飲みになったのでしょう?
ジュリエット様の仰る通りだったのですね!?
私と離縁してください。
ジュリエット様のお体が心配でしたら、クライス様とのお子を産んでくださる令嬢は、すぐにでも見つかるでしょう!!」
朗らかな筈のファニアが瞳に怒りを宿らせ、クライスを真っ直ぐに見つめた。
「何でこんなことに…今は…お互い冷静になれないだろうから、また話そう。今夜はアンネを付ける。」
クライスは、掠れた声で呟くと部屋を出て行った。
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