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29.味方
聞き覚えのあるその声に、ファニアが顔を上げると、義母のマリーナだった。
マリーナは、ファニアに駆け寄り、思い切り抱き締めた。
「ファニア、あの馬鹿がごめんなさい!」
「…お…かぁ…さま……ぅ、ううぅっ!」
「もう大丈夫だから!安心してお子を産んでちょうだい。」
ファニアの背中を摩り、マリーナは目に涙を溜めている。
「あんたは、あの旦那の母親か?」
ジェラールは未だ収まらない怒りを耐えて、マリーナに話し掛けた。
「そうです。あなたはジェラールさんですね?
この度は、嫁のファニアがお世話になりました。」
マリーナの顔付きで判断しかねたジェラールは、ファニアにもう一度尋ねた。
「ファニア、お前はどうしたい?お前がここに居たくないなら、俺と行こう。お前一人と山羊一匹位、俺が養ってやる。」
「…………分からない…どうしたらいいか…分からないの…」
涙の止まらないファニアは、混乱しながらひと言ひと言をやっと口にする。
「待ってください!ジェラールさんの言いたいことは分かるわ。でも、ファニアは我が家の大切な嫁で、お子も身籠っているの!!」
「しかし、その子を俺の子だと、あんたの息子が疑っているのだろう?
避妊薬まで飲んで、子作りを避けてたそうじゃないか。
俺は、ファニアの子なら受け入れる。」
「ジェラールさん…あなたは、ファニアを…?」
「あんたんとこの馬鹿息子よりは、ファニアを大事に思っている。
しかし、子の父親は俺ではない。ファニアは、そんな女じゃない。」
ジェラールの言葉は、ファニアに対する想いが前面に出ていた。
「分かっています。避妊薬は確実なものではありません。あの馬鹿は、私と夫が躾直します。だから、どうかファニアを私に任せてくださらないかしら?」
マリーナは、ジェラールの目を真っ直ぐに見つめた。
ファニアをしっかり抱き締める両手と、その顔付きを見て、ジェラールは安堵した。
「全く…こんな母さんが居るのに、何であんな馬鹿息子が…ククッ!」
「メェ~~~!」
「この山羊は、人の気持ちが分かるのか、ファニアの為に動くらしいな。
ファニアをここに送った翌日の夜、俺の家を訪ねてきたぞ?
なぁ、ファニア、お前には居場所がない訳じゃない。
この母さんと、俺や山羊が居る。
安心して、じっくり考えろ。
そして、旦那の言い訳とやらも聞いてやれ。
どうも、お前の旦那はつける薬がない程に頭が悪いらしい。
分かっているだろうと、口にしていないことがあり過ぎる。
ファニアもそうだ。
前にも言ったが、生きている人にしか伝えられない。
この際、この母さんを味方に付けて、思う存分旦那に悪態を吐いてやれ。」
「ジェラール…」
ファニアの瞳に光が宿る。
それは、一人ではなく味方が居るという安心感だった。
「クライス様と、ちゃんと話したい。」
「ファニア、私が居るわ。ジェラールさんも同席してちょうだい。こってりあの馬鹿を縛き上げましょう?」
「俺も!?あいつの顔を見ると腹が立ってくるんだが?」
「クライスには、そういう感情を打つけてくる人も必要でしょう。
甘やかして育ててしまったと反省しているわ。
兄位の気持ちで叱ってやってくれないかしら?」
「えっ…また兄貴扱いかよ…はぁぁ…」
「ということは…ファニアちゃんにもお兄様扱いを…?」
「メェ~!」
マリーナは、ジェラールが気の毒に思えてきたのだった。
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