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30.後悔
「取り敢えず、家の中に入りましょう。ジェラールさん、ファニアを抱えて行ってくださるかしら?」
「分かりました。ファニア、失礼する。」
ジェラールがファニアを横抱きにし、マリーナの後に続くと、ポトが着いて来る。
「山羊、お前は待っていろ。」
「メッ…」
ジェラールの声に不服そうなポトに、マリーナがくすりと笑った。
「山羊ちゃんもいらっしゃい。あなたも当事者、というかファニアの味方ですものね?」
「メェ~!!!」
「ふふふ、ポトちゃんたら。」
ポトはしゃきんと顎を上げ、それを見てファニアが漸く微笑みを見せた。
「では、ポトちゃんは私と行きましょう。」
マリーナの隣を跳ねるように歩くポトは、ジェラールとファニアを先導するかのように歩いた。
部屋に入ると、クライスが沈んだ顔付きで、下を向いて椅子に座っていた。
目には光がなく、更に窶れていたのは顔だけではなく体もだった。
そして、静かに部屋に入ったジェラールは、ソファにファニアを下ろし、ポトを足元に座らせ、部屋の隅の椅子に腰掛けた。
マリーナはファニアの隣に座り、大丈夫よというように手を握り、アンネも傍で見守っている。
「クライス、話し合いをするわよ?ここに至るまでの経緯は、ギルやアンネから手紙ももらっていたし、直接聞いたわ。」
「そうですか…」
「何故ファニアともっと話さなかったの?避妊薬を飲んでいた理由や、自分の気持ちを、クライスは自分の口から話すべきよ?
ジュリエットとのことも、きちんと説明しなさい。」
クライスは、俯いたまま、掠れた声で話し出した。
「ウィンストン侯爵には、ジュリエットと結婚する意思はないと伝えたし、文書にも残した。
ジュリエットは…俺の妻ではなく公爵夫人という地位が目当てだった。
執務はしたくない、子も命の危険があるし、体型も崩れるから産みたくないと言った。
だから、ジュリエットとの結婚は有り得ない。
そもそもファニアと結婚し、ファニアに惹かれて、ジュリエットのことなど忘れていた。
避妊薬を飲んでいたのは、子を産んだらファニアが居なくなってしまうようで怖かったからだ。
ファニア…俺は君を愛している。
君と過ごす毎日が楽しくて、つい、なあなあにしてしまった。すまない。」
「じゃあ、何で子の父親が自分だと信じてやらない?避妊薬なんて確実なものではないということを知らぬ訳ではないだろう?」
その声で、初めて顔を上げたクライスは、その場にジェラールやポトが居たことに驚いた。
「何でジェラールが…!?ポトまで?」
「山羊が訪ねて来たんだよ、俺の家まで。
ファニアに何かあったんだと思って来てみれば、このざまだ。
お前はファニアの旦那だろう?何故、ファニアを信じない?愛しているのだろう?」
「確かに避妊薬は確実ではない。でも、男と暮らしていたファニアが、戻った途端に妊娠していると聞いて…」
マリーナは、アンネを見て尋ねた。
「アンネ、お医者様はファニアを診察して、お子の状態は言ってた?」
「はい、恐らく四ヶ月に入っただろうと仰っておられました。」
「ファニアが留守にしたのは?」
「二ヶ月位です。」
マリーナはぴりりと眉を吊り上げて、クライスを叱責した。
「クライス!妊娠四ヶ月なら、絶対にあなたの子じゃない!!
ファニアが家を出た時は気付かなかったかもしれないけど、あなたがファニアを追い詰めて危険に晒したのよ?
ジェラールが居なかったら、ファニアとお子はどうなっていたか、考えただけでも恐ろしいわ!」
クライスは、後悔の中、言葉を発せられずに項垂れていた。
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